$x\times x={x}^2,x\times x\times x={x}^3$などと、同じ数を複数回掛ける計算を右肩に小さい字で回数を示して表すが、この${x}^2,{x}^3,{x}^4,\cdots$などの右肩の数字を「指数(expornent)」、冪乗されている方の数を「底(base)」と呼ぶ。$x^n$と書いた時、$n$が指数で$x$が底である(つまり、$底^{指数}$)。底は正の定数としておこう負になった場合は定義の仕方に注意が必要である。。
関数${y}={x}^n$の時は底xが独立変数であって指数$n$が関数の形を決めるパラメータとなっている。つまり$(従属変数)=(独立変数)^{(パラメータ)}$であった。
「指数関数」というのはこの指数の方が独立変数になっている関数である。指数関数を${y}=a^{{x}}$と表現すると、指数xが独立変数で、底$a$がパラメータである。つまり$(従属変数)=(パラメータ)^{(独立変数)}$である(式の形は同じでも「何を変化させた時の変化が見たいのか」が違う)一般的には、${y}=C a^{{x}}$のように、指数関数に更に定数$C$が掛かった関数を考えることが多い。。
こういう関数が必要になる例は自然科学でも日常生活でもある。たとえば年10%の利子がつく借金があったとすると、最初10000円借りても、1年ほっておくと$10000\times 1.1=11000$円になる。そして2年ほっておくと、12000円になるのではなく、$11000\times 1.1=12100$円になる(3年だと$12100\times 1.1=13310$円である)。この場合はx年経った時、借金は${y}=10000\times 1.1^{{x}}$になっている(ちなみに10年だと25937.42460100002円である)。指数関数はこんなふうに「毎回同じ割合で増えていく(あるいは減っていく)」時に使われる。
例として、${y}=2^{{x}}$という関数を考えて、まずはxが0以上の整数である場合(負の場合についてはすぐ後で考える)の表を作ってみると、
x | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | … |
$2^x$ | 1 | 2 | 4 | 8 | 16 | … |
上の表で$x=0$の時${y}=1$であること($2^0=1$)を不思議に思う人は多いかもしれない。
しかし上の表およびグラフを見ると、この関数は「xが1増えると2倍になる」「xが1減ると半分になる」という変化をしている。だから、$x=1$から1減って$x=0$になれば、$x=1$の時の値である2の半分になる(つまり1になる)方が筋が通っている。
それに、$2^0=0$にしてしまうと
同じ底の冪の掛算は、指数の足算
\begin{equation} a^{x_1}\times a^{x_2}=a^{x_1+x_2}\label{sisuukakezan} \end{equation}という関係が、$x_1$もしくは$x_2$が0の時に成り立たなくなってしまう。$x_1$と$x_2$が自然数である時は、この式は「$a$を$x_1$回掛けたものと$a$を$x_2$回掛けたものの掛算は$a$を$x_1+x_2$回掛けたものだ」と主張している。$x_1=0$にするとこの式は
\begin{equation} a^{x_1} \times a^{0}=a^{x_1+0} \end{equation}となるから、$a^0$は($a$が0でない、どんな数であろうが!)1でなくてはいけない。
たとえばどっかの偉い人がと決めてしまったりすると、$a^{x_1}\times a^{x_2}=a^{x_1+x_2}$という計算ルールは、指数が0の時を例外とする、としなくてはいない。なるべくなら例外のないルールの方がいいので、世間ではそうしていないのである。
別の言い方をすれば、以下のようにも考えられる。掛算における「なにもしない」という計算は「1を掛ける」ことである。掛算を指数を使った計算に直すと足算になるが、足算における「なにもしない」という計算は「0を足す」である。よって、「1を掛ける」と「指数に0を足す」が同じ計算になるためには、$a^0=1$でなくてはいけない。
以下で、この$x_1$や$x_2$を自然数および0以外の数にも拡張していこう。
まず、$x_1$もしくは$x_2$が負の整数である場合はどうだろう?---グラフをxが負の領域まで伸ばしてみたのが右の図で、これから、$2^{-1}={1\over 2},2^{-2}={1\over 4}$と半分にしていけばよいのではないかと思われる。
これが上の計算ルールに即していることを確認しよう。
\begin{equation} \underbrace{2^{4}}_{16}\times 2^{-1}=2^{4-1}=2^3=8 \end{equation}という式が成立するためにも、$2^{-1}={1\over 2}$であればよいことがわかる。こうして、
と気づくだろう。これから、
同じ底の冪の割算は、指数の引算
\begin{equation} {a^{x_1}\over a^{x_2}}=a^{x_1-x_2} \end{equation}ということもわかる。$2^{x}\times 2^{-x}=2^{x-x}=2^0$という式を書いてみれば、$2^0=1$が妥当な選択だということが再び確認された。
「$a^{x_1}\times a^{x_2}=a^{x_1+x_2}$という計算ルールを尊重する」という立場に立てば、$a^{1\over 2}$や$a^{1\over 3}$(あるいは$a^{1\over 100}$だろうと)をどのように定義すべきかわかる。$a^{1\over 2}\times a^{1\over 2}=a$となるためには$a^{1\over 2}=\sqrt{a}$となるわけである。同様に、$a^{1\over 3}=\sqrt[3]{a}$であり、$a^{1\over 100}=\sqrt[100]{a}$である$\sqrt[n]{a}$は「$n$乗すると$a$になる正の数字」という定義だから、これは定義を別の書き方で書きなおしているだけのことだ。。こうしてたとえば$a^{3.42}$という量を計算する方法を我々は知ることができる(たとえば100回掛けたら$a^{342}$になる数だと思えばよい---計算で求めるのはたいへんそうだが!しかしそんなたいへんな計算も、後で出てくる対数関数や、微分やテイラー展開の助けを借りて楽に計算できるようになる。)。こうして$a^{{x}}$という関数をxが小数、分数などで表現される有理数である場合について計算できるようになる。
ではxが無理数である場合(たとえば$2^{\sqrt{2}}$は?---あるいは$5^\pi$は?)はどう考えようか。
たとえば、$\sqrt{2}\fallingdotseq1.41421356237\cdots$であるから、
$2^1$ | =2 |
$2^{1.4}$ | ≒ 2.63901582… |
$2^{1.41}$ | ≒ 2.65737162… |
$2^{1.414}$ | ≒ 2.66474965… |
$2^{1.4143}$ | ≒ 2.66530382… |
$2^{1.41435}$ | ≒ 2.66539620… |
$2^{1.414356}$ | ≒ 2.66540728… |
のようにどんどん精度を上げつつ計算していけば、$2^{\sqrt{2}}$の値が計算できる実際には我々は後で説明する微積分の応用であるテイラー展開という方法を使ってこの値を計算する。。もちろん有限桁の小数では$\sqrt{2}$は絶対に表せない($\sqrt{2}$は有理数ではない)から、値そのものが計算できるとはいえない。しかし、「$2^{\sqrt{2}}$の値が必要な精度(有効数字)に達するまで、いくらでも$\sqrt{2}$の近似値の精度を挙げて、その精度で$2^{\sqrt{2}}$に近い数字を計算することが可能である」ということであるこの「必要な精度になるまでいくらでも桁数を上げていける」という考え方は重要である。。
図は$2^{{x}},3^{{x}},4^{{x}},5^{{x}},6^{{x}}$のグラフである。グラフの形状は、xが増加するに従って急速に(グラフの傾きが大きくなりながら)増大していく関数である。そのため「指数関数的に増大する」という言葉はしばしば「手に負えないほど非常に速く増える」を意味するものとして使われる。
底が大きくなると指数関数は増加の度合いが大きくなる。$a$が1より小さい場合は、むしろ減少する関数となる。
本講義ではここまででも何度か強調しているが、「関数のある点の近傍でのふるまい」を考えることは重要である。そこで指数関数の原点付近でのふるまいを見ておこう。
グラフにも示されているように、$x=0$でのグラフの傾きは、底$a$が大きいほど大きい。そこで、この傾きがちょうど1になるところの$a$を探す。そのときの$a$を e と書いて「ネイピア数(Napier's constant)」もしくは「自然対数の底」と呼ぶ。シンプルに e (いー)と呼んでいることも多い変数$e$と区別するために、 e は立体で書く(イタリックにしない)ことにする。。
e の値を知る方法について考えよう。下の図は$y=2^{x}$と$y=3^{x}$と、傾き1で$(0,1)$を通る直線$y=x+1$のグラフである。
これを見ると、$x=0$で傾き1になるためには、2よりは大きく3よりは小さい数を底にしなくてはいけない。数字をどんどん細かくしていきながら考えていく。たとえば次の段階では、$y=2.7^{x}$と$y=2.8^{x}$のグラフの間に直線$y=x+1$があることから、 e が2.7より大きく2.8より小さいことがわかる。この手続を繰り返すことで、 e の値を精密にしていくことができるだろう(グラフは重なってしまってわかりにくいが)。
こうやって求めた e の大きさは e=2.718281828459045… である。この e は無理数であることが証明されていて、無限に続く小数である。この値をどうやって計算するのかについては、ここでは「いろんな値を入れてグラフを描いていき、傾きが1になるところを探せば e は計算できるだろう」という程度の大雑把な理解にとどめておこう。実際にはこんな面倒なことはやらない。実際的で、かつ大雑把でない理解のために微分という計算が必要になる。
なぜ傾き1がそんなに大事なのかについては後でわかるが、ここでは「傾きはすなわち微分であり、微分を知ることが自然法則を知る手がかりになる」ということを思い出しておこう。
電卓でeを計算する方法
この特別な数字 e を使った指数関数$y={\mathrm e}^{x}$は、「微分方程式を解く」という作業において頻出する。そこでこれを特に、$y=\exp(x)$のように書くこともある。$\exp$は「イクスポーネンシャル」と読む${\mathrm e}^{x}$を「イクスポーネンシャルエックス」のように読むこともある。。
10は2の何乗か?という疑問を考えた。より一般的に${x}$は${a}$の何乗か?という問題を考えることにしよう。つまり、${x}=a^{y}$という式が成り立つときに、${y}\to{x}$という対応関係を知りたい。つまり今考えたい関数は指数関数${y}=a^{x}$の逆関数であり、これを「対数関数」と呼ぶ。対数関数を表現するには、$\log$という記号を使う。一般的定義は
対数関数
$\log_a$の$a$のことを指数関数の時と同様、「底(てい)」と呼ぶ。底が$2,{\mathrm e},10$およびその逆数${1\over 2},{1\over {\mathrm e}},{1\over 10}$の場合の指数関数(実線)と対数関数(破線)のグラフを下に示した(互いに逆関数になっていることを確認せよ)。
左右を見比べると、指数関数の性質$a^{-{x}} = \left({1\over a}\right)^{{x}}$ということが(${x}\to-{{x}}$という変化がグラフ上では左右反転となって)見て取れる。対数関数はこれの逆関数(${x}$と${y}$の立場が入れ替わる)だから、
\begin{equation} \log_a {x} = -\log_{1\over a}{x} \end{equation}という関係がわかる(グラフでは上下反転として読み取れる)。
指数関数が持っていた「$\mathrm e^{{x}}$の肩の${x}$の足算は掛算になる」という性質は、対数においては逆になり、以下の式が成り立つ。
$\log$の引数の${掛算\atop 割算}$は$\log$の${足算\atop 引算}$になる
上の式が確かに成り立つことは、$a^{\log_a(x_1x_2)}=x_1x_2$という式に$x_1=a^{\log_a x_1}$と$x_2=a^{\log_a x_2}$を代入してみれば、
\begin{equation} a^{\log_a(x_1x_2)}=a^{\log_a x_1}\times a^{\log_a x_2} \end{equation}となるからわかる。
また、$(a^{x_1})^{x_2}=a^{x_1x_2}$となることから逆に、
冪の対数は底の対数の指数倍
もわかる。
なかなか対数関数($\log$)の「気持ち」がわからない、という人のために$10^{x}$を例にして説明しよう。
$10^2=100$は0が2桁、$10^3=1000$は0が3桁、$10^4=10000$は0が4桁、と増えていくことを考えると、${y}=10^{{x}}$という関数は
$n$を入れると「1の後ろに0が$n$個並んだ数」が出てくる関数この関数が定義できるためには「$n$は0以上の整数」ということになるから、任意の実数を定義域とする${y}=10^{{x}}$より定義域が狭くなってしまっている。
であるとも言える。ここで逆関数である${x}=\log_{10}{y}$は
「1の後ろに0が$n$個並んだ数」を入れると$n$が出てくる関数
という関数になる。すなわち、$10\to1,100\to2,1000\to3,\cdots,100000000\to8,\cdots$のような対応関係(言わば、「桁数$-1$を求める関数」である)が、${x}=\log_{10}{y}$という関数が表現する対応関係の「一部」である(実際には${x}=\log_{10}{y}$の${y}$には正の実数負だとどうなるのかは、またこの先で。なら何を入れてもよいから、もっと広い範囲で使える)。
「車の修理代が6桁もかかったわ〜」「え〜っ」のように、数字の大きさを「○桁」で表現することはないだろうか。あれが$\log$の考え方なのである。
対数関数は「掛算の簡略化」にも使える。たとえば$1000\times 1000=1000000$だが、これを「0が3桁ある数字と0が3桁ある数字を掛けたから、0が6桁ある数字になる」という計算をすることができる。こう考えると、積の対数関数を対数関数の和に直す式を、
\begin{equation} \log_{10} \underbrace{1000000}_{0が6つ}=\log_{10}\underbrace{1000}_{0が3つ}+\log_{10}\underbrace{1000}_{0が3つ} \end{equation}のように理解できる。
このやり方は$10^n$($n$が整数)の場合しかできないが、そうでない場合に拡張することはできる。なお、$\log_{10}{x}$のように底を10にした対数関数を「常用対数(common logarithm)」と呼ぶ。$\mathrm e$を底にした対数関数$\log_{\mathrm e}{x}$は「自然対数(natural logatithm)」である。以後、$\log{x}$のように底を省略した場合は自然対数である「自然(natural)」のnを取って、$\log_{\mathrm e} {x}=\ln {x}$のように書くこともある。。
下に、${y}=\log_{10}{x}$の、${x}=1$から${x}=20$までのグラフを示した。
図を見て、たとえば$\log_{10}2+\log_{10}3=\log_{10}6,\log_{10}2+\log_{10}5=1$あるいは$\log_{10}9=2\log_{10}3$などのように、「掛算が足算に翻訳されること」を確認しようこんなふうに具体的な数で「対数」というものの勘所をつかむことも重要。この図を見てしばらく「遊ぶ」ぐらいに対数に親しんで欲しい。。
$\log_{10}$の値を前もって調べておくことができると、例えば$5343342\times234234234$という計算を
\begin{equation} \log_{10} \left(5343342\times234234234\right) =\underbrace{\log_{10} 5343342}_{6.7278\cdots} + \underbrace{\log_{10} 234234234}_{8.3696\cdots} \fallingdotseq15.0974\label{daitailog} \end{equation}のように、対数を介することで足算を使って実行できる。逆に$10^{15.0974}$を計算すれば、1251411091802385を得る。この値は、真面目に計算した結果の1251593620370028と比べて、4桁めまで正しい足算の結果を15.0974と小数点以下4桁までしか計算していないので、この程度の精度なのは仕方ない。}。今なら電卓なりコンピュータなりで計算するが、昔はいろんな数とその対数の表(「対数表」)が作ってあって、それを使って掛算をしていた対数で目盛を打った物差しのようなもの(計算尺)を使って計算したりもしていた。。
対数関数は「桁数で比較する」という感覚で使われるわけだが、これは概算しているというわけではなく、大きさの変化があまりに大きい物を比較する時に便利な方法であるとも言える。たとえば地球の質量は$5.97\times 10^{24}$ kg、太陽の質量は$1.99\times 10^{30}$ kgである。これを普通の数字で書けば
\begin{equation} \begin{array}{rr} 地球の質量:&約5970000000000000000000000 {\rm ~kg} \\ 太陽の質量:&約1990000000000000000000000000000 {\rm ~kg} \end{array} \end{equation}なのだが、こう書かれるよりむしろ$10^?$の形で書いて肩に乗った24や30を見た方が「ああ約$10^6$倍程度違うんだな」ということが実感しやすい(というより、そういう感覚を持てるようにならないと、大きさの違いが甚だしい量を比較できるようになれない)。
指数関数同様、対数関数も底を変換したいことがよくある。
指数関数の底は$a=b^c$の時、$a^{x}=b^{c{x}}$のように変換したから、${y}=a^{x}=b^{c{x}}$とおいて、$\log_a{y}$と$\log_b{y}$を計算すると、
\begin{equation} \log_a {y}= {x}, ~~~\log_b {y}= c{x} \end{equation}という式が出て、$c \log_a {y}= \log_b {y}$とわかる。ここで${y}=a$とすると、$c=\log_b a$である(この式は$a=b^c$からもわかるし、$c \log_a {y}= \log_b {y}$に${y}=a$を代入しても出てくる)から、
\begin{equation} \log_b a \log_a {y}= \log_b {y} \end{equation}となり、
対数関数の底の変換
という公式を得る(最後の形では分母分子とも自然対数にしている)。
なお、以上で使った計算で$a=b^c$の時$c=\log_b a$だったので、$b={\mathrm e}$を代入してできる式$a={\mathrm e}^{\log a}$をさらに${x}$乗して、
\begin{equation} a^{{x}}={\mathrm e}^{(\log a){x} } \end{equation}という式を作ることができる。つまり全ての指数関数は($2^{x}$だろうが、$1991^{{x}}$だろうが)適切な係数をつけた${\mathrm e}$を底とする指数関数(${\mathrm e}^{k{x}}$)の形で表現できることになる。実は${\mathrm e}^{なんとか}$の形の関数が一番扱いやすいことが後でわかるので、どんな指数関数でもこの形で考えられるというのは朗報なのである。
残りの時間で微分の導入をやったが、今日はとりあえず、ここにあるアニメーション「微分ってなあに?」と同じ内容のandroidアプリで、微分が「関数のグラフの傾きを計算する」ものであることと、そのイメージを感じてもらうところまでを行った。
特に、その4のところで見せた「ややこしそうに見える関数も十分拡大すれば(つまり、Δxが小さい場合を考えれば)直線とみなせる」というところが大事である。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。