問題ボール投げの問題の説明が終わったところで、生徒の一人が、
と言ってきたとします。
この問いに答えてあげてください。なお「十兆年も生きられるか、ボケ!」というツッコミは無しでお願いします。
という問題を出してました。みなさんの解答(一部)と、それに対するコメントを書いておきます。
を考えなくてはいけない。このときボールは地面(つまりは地球)を左に押す。ボールを投げるときに人間が地面(つまり地球)を右に押したのと逆向きである。そして、ちゃんと考えると、この二つの段階で人間とボールが地球に与えた力積は同じ大きさで向きが逆である、ということ。何兆年やろうが、ボールがそのたびに止まっているなら地球に与える運動量は0なので、地球は動かない。
運動量保存則が「保存則」であることがわかっていれば「何兆年やったせいで最初0だった運動量が0でなくなる」という現象が起こるはずはい、とわかるはず。
前回の授業の「感想・コメント」の欄に書かれたことと、それに対する返答は、
にあります。
教科書の冊子が完成してます。まだの人は前野の部屋(A307号室)まで取りに来てください。
ファイルのPDF版はこちらです。ダウンロードして使ってくれて構いません。
今日はテキスト第4章の「熱力学」です。テキストの方もよく読んでおいてください。まず「熱とは何か?」を説明するビデオです↓。
先週までの力学では、
という関係があった。あるいは「仕事をしたらその分エネルギーが減る」ということを強調して書くと
となる。この式はエネルギーというstock(貯蔵量)に対するflow(流れ込み・流れ出し)が仕事であるという話をしたが、現実世界を見ていると、それ以外の「エネルギーの流れ込み・流れ出し」があるように思われる。よって上の式を
と直す。力学的エネルギーが「内部エネルギー」に変わったが、これは「物が熱い/冷たい」の差に対応するエネルギーも含めたエネルギーである。
最初にこのような考え方が出てきたときは「内部エネルギー」の正体は完全にはわかってなかった(当時は原子や分子の存在についても懐疑的な人もいた)が、今の時代ではそれは「分子運動のエネルギーだった」とわかっている。次のページで分子運動のエネルギーと温度との関係について説明しよう。
ビデオ内で使ったシミュレーションは以下のボタンから実行できるので、自分でも実行してみて、分子の運動の様子をじっくりと眺めて欲しい(眺め終わったら、ブラウザの「戻る」ボタンで帰ってきてください)。
まず、分子運動の様子を眺める↓
熱い気体と冷たい気体で、分子運動はどう違うのかを見る↓
壁を「熱を通す壁」にすると何が起こるのかのシミュレーション↓
壁を外してしまうと何が起こるのかのシミュレーション↓
気体を押したり引いたりすることで「エネルギーを与えたり、奪ったり」することができる。その現象のシミュレーション説明ビデオが以下にある↓
このシミュレーションは↓のボタンで実行できる(いろいろ変数を変えたりもできる)ので、自分でやってみよう。
この断熱圧縮の実験として、圧縮発火器というのがある。YouTubeに動画があるの興味ある人は見ておいてください(下は例で、いろいろ見つかるはず)。
前に永久機関について考えた。あのときに考えた永久機関は
【第1種永久機関】
外部からエネルギーの補給を受けることなく仕事をし続けることのできる機関
である。実は永久機関には第2種もある。
【第2種永久機関】
一定温度の外部から熱を吸収してすべて仕事に変えることのできる機関
というものである。第2種永久機関はエネルギーは(熱の形で)補給されるので、エネルギー保存則は破らない。
第2種永久機関は、高温状態を低温状態に変えて、その分のエネルギーを人間が取り出して使えるようにする、というものだ。
内部エネルギーという「目に見えないエネルギー」があるのなら、それを取り出して使えばいいじゃないか、というのは人間の欲望としては自然な発想である。
実在する「仕事をする機械」はモーターやガソリンエンジンなどのように、外部からエネルギーを供給される(第1種永久機関ではない)か、「一定温度でない外部(温度差のある外部)」から熱を吸収して仕事に変えている(第2種永久機関ではない
第2種永久機関が存在しないのは、熱力学第2法則がそれを禁じるからなのだが、この熱力学第2法則にはいろんな表現があるが、高校物理の範囲では次の二つの表現がよく使われている。
熱力学第2法則の二つの表現
1.はつまり第2種永久機関が存在しないということ。
2.は実は1と等価なのだが、それは少しわかりにくいかもしれない。また、この「自然には」という表現が「いったい何が自然なのか(どうなったら不自然なのか)」をちゃんと定義し理解しておかないと法則の意味が理解できない。
「自然に」はより明確には、「それ以外には何の影響も及ぼさずに」と表現される。熱が低温から高温に流れるという現象の例はクーラー(低温の室内から高温の室外へ熱を移動させる)であるが、それは電力を投入するという「外部の影響」があるがゆえに起こっている(上の図でも、永久機関そのものの状態が変化してないことに注意)。
この1.と2.が同じ法則だというのは最初はびっくりするかもしれないが、どのように同じ法則であるかが納得できるのかという点については、テキストの71ページを読んでおいて欲しい。
熱が高温から低温へ移動するというのは「高温物体と低温物体が接触すると、高温物体の温度が下がり低温物体の温度が上がる」ということでもある。それは自然に起こるが、逆が起こらないということは日常経験からしても納得できるはずだし、今日使ったシミュレーション
をやってみると、高温から低温へと熱が流れる(エネルギーが移動する)現象は「起こりそうだ」と納得できても、逆はなさそだということが納得できる。
同じく「元に戻らない」現象のシミュレーション(これも前にやってもらったものだが)がこれ↓
この第2法則は、数ある物理法則の中で唯一「時間反転」ができない法則である(力学における動摩擦力は、熱が発生するという意味で熱力学第2法則が関与する現象である)。
熱力学第2法則は、大学レベルの物理では、エントロピーという名前の状態量を考えて、
熱力学第2法則のエントロピーを使った表現
周囲から断熱された系のエントロピーが減少することはない。
と表現されることもある。エントロピーの意味についてはここでは説明しないが、テキストの72ページ以降にある程度説明してあるので、そちらを読んでおいて欲しい。
力学的エネルギーが内部エネルギーになってしまうと、元に戻すのは難しい、というのが熱力学第2法則である。そこで、「力学的エネルギー→内部エネルギー」と変化している様子のアニメーションが↓である。
摩擦で摩擦熱が発生するのも、上と同様の現象である。
永久機関はできないが、温度差があればそこからエネルギーを取り出して動く熱機関がある。例としては、スターリングエンジンや、平和鳥がある。
スターリングエンジンは下のような仕組みになってます。
部屋の中にディスプレーサーという断熱材が入れてあります。ディスプレーサーが上にあると下にある熱い物体(お湯とか)の影響が強く出て、部屋内の気体が膨張し、ピストンは上がります。ディスプレーサーが下にあると上にある冷たい物体の影響が強くでて、部屋内の気体が収縮し、ピストンが下がります。ピストンが下がりきってしまったらディスプレーサーを上げてやり、ピストンが上がりきってしまったらディスプレーサーを下げてやる(←このあたりはカムなどを使ったメカニズムで実現する)とピストンが往復運動を繰り返します。
↓スターリングエンジンが動いているところ。熱湯で下の部分を温めてあげると、反時計回りに回る。
↓同じスターリングエンジンで、下の部分を冷やしてあげると、働く力が逆になるので、さっきとは逆の、時計回りに回る。
もちろん、スターリングエンジンは(平和鳥も)第2種永久機関ではありません。温度差がないと動かず、もし誰かが温度差を作ってあげなければ、温度は一様になってしまうので止まってしまいます。
正解は、5番が(4)、6番が(1)である(皆さんの解答はどうだったろうか?)。
大学入試センターが公表している、この問題(箱番号5,6)の正答率は6.6%という悲惨なものである。残念ながらどういう間違いをした人が多かったのかまではわからないが、とにかく(以下に示すような)正しい理解に達しなかった人が多いのである。
熱力学第1法則$\Delta U=Q-W$を正しく理解している人ならば、
のように考えて温度が上がる、と判断する。
間違える可能性として
のような「パターンマッチング」を行ってしまったという例がありそうである。
ちゃんと理解している人なら「断熱膨張では温度は下がる」のは「気体が正の仕事をする場合」だからであり、「真空への膨張(自由膨張)では温度は変化しない」のは「気体が仕事をしない場合」だからだと理解できているので、上のような失敗はしない。
なお、「温度が上がる」と判断するもう一つの方法は、「ピストンが下に落ちている→ピストンの位置エネルギーが減っている→ということは何か別のもののエネルギーが増えるはず→それは気体の内部エネルギーだろう→温度は上昇する」という流れである。
こういう思考ができないのは、「力学で習ったエネルギー」と「熱力学で出てくる内部エネルギー」が同じものだということ(上で書いた流れにしたがって導入されたものだということ)が頭に入ってない状態だからであろう。「力学のときはこれを使って問題を解く」「熱力学のときはこれを〜」「電磁気学ではこれを〜」のような「科目別に使えるツールが違う」のような捉え方をしているようなのである。こういう人はいわゆる「融合問題」に弱い。
物理を理解させるということは「物理法則というのは広く応用できるものだ」という概念を獲得させることでもあるので、こうならないような教え方を考えていく必要がある。
以上で第7回の授業は終わりです。各自のwebclassへ行って、と「第7回授業感想・コメントシート」に答えてください。
webclassでのアンケートによる、感想・コメントなどをここに記します。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。
主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。