動力学の変分原理のモデル

となる静力学の問題

 この文書は「よくわかる解析力学」【東京図書】の3.6.1節(73ページ)の「動力学の変分原理のモデルとなる静力学の問題」で扱っている系を動く図で表現したもの。これ単独でも読むことができる。

 13本の串にささった13個の球があり、球は摩擦なく上下にのみ移動することができる。球はとなりの球とゴムひもで結ばれている。どのような形になるだろうか?(↓の初期位置はもちろん正しくない)

直線にする ゴチャゴチャにする

 ↑のエネルギーは、下の式において$mg=1$、$k=8$、$L=0.5$として計算されている。また定数である${1\over2}kL^2$の項は抜いてある。

 この球がどのように配置されていれば

(重力の位置エネルギー)(ゴムひもの弾性エネルギー)

が最小になるか、ということを考えよう(もちろんそれが安定なつりあい状態である)。ただし、両端の球は動かせない(動かせるなら、全部下に落とすのがエネルギー最小)。下の図の球はつかんで動かすことができるので、実際に試してほしい。

 重力の位置エネルギーのことを考えるとどんどん下に持っていけばよいように思うが、その結果としてゴムひもが伸びすぎると弾性エネルギーが大きくなってむしろエネルギーが大きくなってしまう。

 重力の位置エネルギーは串の位置に立った棒グラフで、弾性エネルギーは串と串の間に立った棒グラフで表現されている。それぞれ、およびその和の数値は図の下に数字で表示されている。

 エネルギー最小となるのはどんな時かを実際に操作してみてほしい。

 さて、では次に計算で求めよう。

 この一連の物体が静止状態にある時のエネルギーを計算する。重力の位置エネルギーは

$U_重=\sum_{i=1}^N mgy_i$

である。$i$番目と$i+1$番目の物体をつなぐゴムひもの長さが$\sqrt{(y_i-y_{i+1})^2+L^2}$である。簡単のためゴムひもは自然長が0であるとして考えると、ゴムひもの弾性力の位置エネルギーは

$U_弾= \sum_{i=1}^{N-1} {1\over 2}k\left((y_{i}-y_{i+1})^2+L^2\right)$

である。ただし、$y_1$は左の壁に固定されたゴムひもの位置、$y_{N}$は右の壁に固定されたゴムひもの位置である。

 このエネルギーが最低値を取っていたとすると、 \begin{equation} \underbrace{ mg}_{{\partial U_重\over \partial y_j}}\underbrace{ -k(y_{j+1}-y_j) + k(y_{j}-y_{j-1})}_{{\partial U_弾\over \partial y_j}}=0\label{UUbibun} \end{equation} が$2$から$N-1$までの全ての$j$に対し成り立つ(両端である$i=1$と$i=N$に関しては、ゴムひもが1本しかつながっていないことと手の力が働いていることで違う式になる)。

\begin{equation} y_j-{y_{j+1}+y_{j-1}\over 2}=-{mg\over 2k} \end{equation} と書き直すことができ、どの物体を見ても「両隣の中点より${mg\over 2k}$だけ下がっている」という式になっている。重力がなければどの物体も両隣の中点にくる。これはゴムひもがなるべく短くなろうとする(まして今は自然長が0のゴムひもである)ということを考えると納得できる状況である。そして、重力があればそれに比例する分だけ、下がる。

 実は$y_i=a(i-b)^2$のような二次式の形をしていると、
\begin{equation} a^2(j-b)^2-{a^2(j+1-b)^2+a^2(j-1-b)^2\over 2} =-a^2 \end{equation} となり、$a=\sqrt{mg\over 2k}$とすればこの性質を満たす。つまりつりあいの結果、物体の列は下に凸な放物線を描く。重力の関係する問題で上下逆とはいえ、重力場中の運動で出てくる放物線が出てきたのだが、これにはもちろん大きな意味がある。

 こんなふうにして「放物線」という「動力学の解」が出せるということは、「動力学に対するポテンシャル」を定義して、それに変分原理を適用することで動力学を解くという方法も有り得ることを示唆しているのである。
 「では動力学とどのように関係しているのか?」を知りたい人はこちらのページに移動しよう。

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