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自然科学のための数学2014年度第14講

4.6 置換積分

4.6.1 置換積分の手順

xを独立変数としたある積分f(x)dxという積分を考える。ここで、x=g(t)という別の変数へと独立変数を変えた時に、積分という量がどう変わるかを考えてみる。まず、f(x)という関数はf(g(t))というtの関数へと変えなくてはいけない。と同時に、積分要素も変わることになるが、この時、dx=dxdtdtという関係を使って変換する。具体的にはこうなる。

置換積分の公式

f(x)dx=f(x(t))dxdtdt

この式は合成関数の微分則(chain rule)の逆をやっていると思えばよい。f(x)の原始関数をF(x)とする。ところでこのxtの関数なので、x(t)と書くことにする(F(x(t)))。この式をtで微分すると、

ddt(F(x(t)))=(ddxF(x)|x=x(t))f(x)(ddtx(t))

であるが、これをもう一回tで不定積分すれば、

F(x(t))=f(x)(ddtx(t))dt

となり、公式が出てくることになる。

FAQdx=dxdtdtなんてやっていいのか?

いい。\mathrm d x や\mathrm dt がどのような意味を持つかを考えよう。dxdtとは微小変化\mathrm d x と\mathrm dt の比と考えることができるのだから、まさにこの式が成り立つ(ただし、積分変数が変わったということは定積分の積分区間も一緒に変わることには注意)。積分の式f(x)dxというのは単なる記号ではなく、f(x)に微小変化\mathrm d x を掛けて``足し算''するという意味を持っている。置換積分はその足し算のやり方を変えている。次の節で詳しく説明しよう。

たとえば

xsinx2dx

において、x2=tとおくと、2xdx=dtとなるから、

xsinx2dx=12sintdt=12cost+C=12cosx2+C

と書きなおしてよい。

ここで、被積分関数の中にxがあったら計算できたが、もしなかったらどうなるだろう?---sinx2dxまたはcosx2dxは計算できるだろうか??---試してみるとよいが、置換積分や部分積分などのテクニックを駆使しても、この積分は遂行できない。

このような積分は「フレネル(Fresnel)積分」と呼ばれるのだが、知られている関数の形で積分結果を表現することはできない。まずsinx2またはcosx2をテイラー展開してxnの形にしてから積分するという方法で解を求めるしかない。

4.6.2 置換積分でやっていること

まず、置換積分を使うとできる積分の例として、101x2dx=π4という計算を取り上げる。

この計算がどのような意味を持つかを上のグラフに示した。これは高さ1x2で横幅が\mathrm d x である微小な長方形をx=0からx=1まで変化させながら足していった結果である。グラフを見ればわかるように、それは4分の1円の面積である。そう考えれば答えがπ4なのは当然と言える。ではこれをどうやって計算するかであるが、置換積分という計算テクニックとしては、以下のように行う。

まず、x=cosθと置いてみる。このような「置き換え」の方法は多くの場合、試行錯誤1x2は0から1の範囲で変化する関数だから、cosとかどうかな?」のようにいろいろやってみる。の末に得られる。しかし、ここで考えているように、グラフを描いて図形的に考えてみると、どういう変換を行っているのかが見えてきて、計算の見通しがよくなることもある。実際、θには右に描いたような意味がちゃんとある。x=cosθなのだから、1x2=sinθであるcos2θ+sin2θ=1という式で考えると1x2=±sinθとなるが、図でわかるようにθは0からπまでだから、sinθの前に符号は必要ない。が、それは図に示した長方形の高さである。

x=cosθを微分して、dx=sinθdθである。すると、1x2dx=sin2θdθと置換される。積分範囲はx=0のときθ=π2x=1のときθ=0としよう。つまり、積分変数をxθと変える時に100π2=π20と置き換わる。計算すべきはπ20sin2θdθである。sin2θ=1cos2θ2と置き換えると、

π201cos2θ2dθ=[θ12sin2θ2]π20=π212sinπ2012sin02=π4

と積分できる。

なお、この積分は上のように真面目に計算してもよいが、

のようにグラフを描いて考えると、被積分関数のうちcos2θ2の部分は「谷→山」へと振動する関数で、この部分は結果に寄与しないだろう(図で塗りつぶした部分がちょうど消える)、と考えることで「横幅π2で高さが12の長方形の面積だと同じだと考えて、π4という答えを出してもよい。

さて、以上の手順を図解しておこう。

1x2dxというのは、右の図の長方形の面積であり、積分とはこの長方形を足していくということである。x=cosθと置くということは、図のように角度θを設定しているということであり、dθという量は、図の弧の部分の長さでもある(単位円であることに注意)。

この部分の拡大図を見ると、(上ではx=cosθを微分して出した)dx=sinθdθが図の関係として表現されていることがわかる。特に、dxdθの符号が逆(xが増えればθが減る)であることに注目しよう。

θを変化させていった時のそれぞれの微小長方形を描いたのが右の図である。「高さsinθ、幅dθsinθの長方形」を足していくという計算になっている(xの積分の時は「高さ1x2で幅dx」だった)。これが1x2dx=sin2θdθという置き換えの意味なのである(マイナス符号の意味は先で説明した通り)。

置換積分を行う場合のすべてに、このような図形的対応があるわけではない。しかしこのような図形的解釈ができる積分は数多い。もちろんこういう図形的解釈ができなくても積分は手順どおりにやっていけばできる(それが数式というものの有り難さだとも言える)が、図形的解釈ができれば理解しやすくなる面はある。

次に、011+x2dxという積分を考えよう。この積分は、x=tanθと置き換えることにより、

π2011+tan2θdθcos2θdx=π20dθ=π2

のように計算できる(1+tanθ2=1cos2θに注意)。積分区間は「x=0からx=」が「θ=0からθ=π2」と変わる。

図を見てxを0からまで動かしたらθがどう変化するかをみればよればこれがわかる。

ではどうして11+x2dxという「微小部分」の和が角度積分になるのだろうか。

上の図に、底辺1、高さxの直角三角形の高さをdxだけ大きくしたときの変化を示した。この時、図に示した角度θの微小変化\mathrm d\theta を考えると、11+x2dxになるのである。この角度を知るにはどうすればよいかというと、図に示したように扇型の弧の部分の長さdx1+x2である」ことがわかる。「半径1+x2の円の一部である扇型の弧の長さがdx1+x2ということは、角度はdx1+x2÷1+x2=dx1+x2である」と考えればこの置換が何をやっているのかがわかる。

こうして答えが角度になることがわかると、積分範囲を変えることで、

a011+x2dx=arctana

という式が出て、たとえば1011+x2dx=π413011+x2dx=π6がわかる。ところで、11+x2|x|<1なら

11+x2=1x2+x4x6+x8+

と展開できるから、

a011+x2dx=[xx33+x55x77+x99+]a0

と考えることで、

arctana=aa33+a55a77+a99+

とわかる。このaに1を代入するとarctan1=π4になる、というのがライプニッツも発見したというπの計算方法であるただし、実際計算してみると右辺がπ4になかなか近づかず、計算には根気がいる。a=13の時に左辺がπ6になるという計算の方が少し収束が早い。他にもいろいろな計算方法が知られている。

上でdx=dθcos2θと置き換える部分の説明は、図で描くよりも「微分」という計算をした方がわかりやすい人も多いだろう。そう思った人は式の計算で理解しておけばよい。どっちであろうと、自分にわかりやすい方で理解すればよいのはもちろんである。
問題により、そして(思考方法は人それぞれなので)個人により、「どう考えれば理解しやすいか」は違う。では「式で計算できればそれでよい」(または「図解できればそれでよい」)かというと、次に現れる問題があなたにとってどちらで理解しやすいかはわからないわけだから、いろんな方法で理解するということを(少なくとも``数学修行''をしている間は)心がけておいた方がいいだろう。立ち向かう相手(自然科学)は強大なのだから持っている武器は多い方がよい。
ときどき「たくさん教えられてもわかんなくなるから、教える方法は一つにしてください」という人がいるのだが、一つしか武器がない状態では太刀打ちできない強敵に出会う時のために、修行はしておこう。
ここに広義積分に関する節がありましたが、飛ばしました。

4.8 積分計算の例

4.8.1 基本的な積分

ここまでで出てきた基本的な積分の公式を整理してみよう。

   xαdx={xα+1α+1+Cα1logx+Cα=1  eαxdx=1αeαx+C  logxdx=xlogxx+C  sinxdx=cosx+C     cosxdx=sinx+C     tanxdx=log(cosx)+C

以上の式においてα,Cは定数である。これに置換積分と部分積分という方法を使うと、さまざまな関数を積分することができる。ただし、「積分できない」関数もたくさんあるということは心に留めておくべきだ。

4.8.2 三角関数を使った置換積分

置換積分を使うと、上の表にないような積分を実行することができる。

たとえば、x=cosθと置くとdx=sinθ±1x2dθとして置換積分できた。これを整理するとdx1x2=±dθとなる複号±sinθcosθがどのような値を取っている領域で考えているのかを見て決めるべきである。dxdθの正負の関係は、角度によって違う。ので、1x2を含むような複雑な式が出てきた時は、これを使って積分をθの積分に変えるということができる。たとえば

101x2dx=10(1x2)dx1x2=π20sin2θdθ

という変形を行ったこの時は11x2dx=sinθdθのように符号を選んだ(考えている領域ではxが増えるとθが減ったから)うえで積分の範囲をひっくり返した時にもう一度符号が出た。。同様に、

dx 11x2=dθ=θ+C=arccosx+C

のような積分が可能である。ただし最後でx=cosθと置いたことから、θ=arccosxとした。実はこうできるかどうかはθの範囲による。arccosの値域を0からπとしていたならば、ここでのθがその範囲に収まるように調整が必要となる。

ここで、x=sinθとおいても同様のことができるので、 dx 11x2=arcsinx+C という式を作ることができて、これも正しい。「sinでもcosでも正しいなんて変ではないか」と思うかもしれないが、sin(θ+π2)=cosθのような式があるから、角度を平行移動すればsincosになる(逆も同様)。つまり積分定数の違いでどちらになってもよい(同様に、sin(θ+π)=sinθのような式もあるので、 dx 11x2=arcsinx+C という式も、正しい(もちろん、正しく積分定数を調整するという前提のもとでである)。

11+x2が出てくる積分はx=tanθと置くことで簡単化できる。というのは、dx=1cos2θdθ=(1+tan2)dθという変形から、11+x2dx=dθと変形していくことができるからである。これから、

11+x2dx=dθ=θ+C=arctanx+Cx1+x2dx=tanθdθ=log(cosθ)+C=12log(11+tan2θ)cos2θ+C=12log(1+x2)+C

のように積分をしていくことができる下の式は1+x2=tという置換積分でも計算可能。。こういうのはいちいち公式を覚えるより、「11x2dxがでてきたらx=sinθではどうか?」「11+x2が出てきたらx=tanθと置いてはどうか?」と考えていくのがよい。

4.8.3 双曲線関数を使った置換積分

では、たとえば11+x2dxが出てきたらどうしよう??---この形の積分が簡単になるような関数はあるだろうか?---そもそも、「11x2dxがでてきたらx=sinθ」という考えがうまく言ったのは、x=sinθの微分がdx=cosθdθで、dx1x2=dθとなったからであった。そこで、x=f(θ)と置いたとき、f(θ)=1x2になるような関数があればこの積分ができる。そういう関数として知られているのが、「双曲線関数」と呼ばれる関数群の一つであるsinhθである三角関数に似ているところがあるのでθという文字で変数を表しておくが、このθには「角度」という意味は全くない。sin,cosのテイラー展開では次数が上がるごとに符号が反転するが、符号が反転しないような関数

sinhθ=θ+θ33!+θ55!+=n=0θ2n+1(2n+1)!coshθ=1+θ22!+θ44!+=n=0θ2n(2n)!

が双曲線関数(sinhcosh)である三角関数のsinθcosθ=tanθと同様に、sinhθcoshθ=tanhθという関数もある。。正確な読み方はsinhは「ハイパボリックサイン」(または「サインハイパボリック」)、coshは「ハイパボリックコサイン」(または「コサインハイパボリック」)であるsinhを「しんち」、coshを「こっしゅ」などと読むこともある。。すぐにわかるように、

ddθcoshθ=sinhθddθsinhθ=coshθ

である(ここでも、三角関数にはあるマイナス符号がない)。

また、coshsinhは足したり引いたりすることで指数関数になる。

coshθ+sinhθ=1+θ+θ22!+θ33!+θ44!+=n=0θnn!=eθcoshθsinhθ=1θ+θ22!θ33!+θ44!+=n=0(θ)nn!=eθ

である(これはオイラーの式eiθ=cosθ+isinθiがなくなった式である)。これから

cosh2θsinh2θ=(coshθ+sinhθ)eθ(coshθsinhθ)eθ=1

がわかる(cos2θ+sin2θ=1に似た式である)。また、逆に解くとcoshθ=eθ+eθ2,sinhθ=eθeθ2となる。x=coshθ,y=sinhθとしてグラフを描くと下のようになる(これが「双曲線関数」という名前の由来である)。

「双曲線」と言われると思い出すのはy=1x(いわゆる「反比例の式」)の方かもしれない。y=1xX2Y=1は、45度(π4ラジアン)回転させた関係にある。それはX+Y=x,XY=yとを代入することでこの二つの式が入れ替わる(y=1xX2Y2=1)ということを見るとわかるだろう。

さて、x=sinhθと置換した場合どうなるかを考えよう。微分してdx=coshθdθであるが、\式{coshsinh}によりcoshθ=1+sinh2θである(coshθは定義からして正にしかならないので、 の前に±はいらない)。よって、dx1+x2=dθという置き換えができて、11+x2の積分が可能になる。たとえば、

dx 11+x2=arcsinh x+C

である(arcsinhsinhの逆関数)。


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