xを独立変数としたある積分∫f(x)dxという積分を考える。ここで、x=g(t)という別の変数へと独立変数を変えた時に、積分という量がどう変わるかを考えてみる。まず、f(x)という関数はf(g(t))というtの関数へと変えなくてはいけない。と同時に、積分要素も変わることになるが、この時、dx=dxdtdtという関係を使って変換する。具体的にはこうなる。
置換積分の公式
∫f(x)dx=∫f(x(t))dxdtdtこの式は合成関数の微分則(chain rule)の逆をやっていると思えばよい。f(x)の原始関数をF(x)とする。ところでこのxはtの関数なので、x(t)と書くことにする(F(x(t)))。この式をtで微分すると、
ddt(F(x(t)))=(ddxF(x)|x=x(t))⏟f(x)(ddtx(t))であるが、これをもう一回tで不定積分すれば、
F(x(t))=∫f(x)(ddtx(t))dtとなり、公式が出てくることになる。
FAQdx=dxdtdtなんてやっていいのか?
いい。\mathrm d x や\mathrm dt がどのような意味を持つかを考えよう。dxdtとは微小変化\mathrm d x と\mathrm dt の比と考えることができるのだから、まさにこの式が成り立つ(ただし、積分変数が変わったということは定積分の積分区間も一緒に変わることには注意)。積分の式∫f(x)dxというのは単なる記号ではなく、f(x)に微小変化\mathrm d x を掛けて``足し算''するという意味を持っている。置換積分はその足し算のやり方を変えている。次の節で詳しく説明しよう。
たとえば
∫xsinx2dxにおいて、x2=tとおくと、2xdx=dtとなるから、
∫xsinx2dx=12∫sintdt=−12cost+C=−12cosx2+Cと書きなおしてよい。
ここで、被積分関数の中にxがあったら計算できたが、もしなかったらどうなるだろう?---∫sinx2dxまたは∫cosx2dxは計算できるだろうか??---試してみるとよいが、置換積分や部分積分などのテクニックを駆使しても、この積分は遂行できない。
このような積分は「フレネル(Fresnel)積分」と呼ばれるのだが、知られている関数の形で積分結果を表現することはできない。まずsinx2またはcosx2をテイラー展開してxnの形にしてから積分するという方法で解を求めるしかない。まず、x=cosθと置いてみる。このような「置き換え」の方法は多くの場合、試行錯誤「√1−x2は0から1の範囲で変化する関数だから、cosとかどうかな?」のようにいろいろやってみる。の末に得られる。しかし、ここで考えているように、グラフを描いて図形的に考えてみると、どういう変換を行っているのかが見えてきて、計算の見通しがよくなることもある。実際、θには右に描いたような意味がちゃんとある。x=cosθなのだから、√1−x2=sinθであるcos2θ+sin2θ=1という式で考えると√1−x2=±sinθとなるが、図でわかるようにθは0からπまでだから、sinθの前に符号は必要ない。が、それは図に示した長方形の高さである。
x=cosθを微分して、dx=−sinθdθである。すると、√1−x2dx=−sin2θdθと置換される。積分範囲はx=0のときθ=π2、x=1のときθ=0としよう。つまり、積分変数をx→θと変える時に∫10は∫0π2=−∫π20と置き換わる。計算すべきは∫π20sin2θdθである。sin2θ=1−cos2θ2と置き換えると、
∫π201−cos2θ2dθ=[θ−12sin2θ2]π20=π2−12sinπ2−0−12sin02=π4と積分できる。
なお、この積分は上のように真面目に計算してもよいが、
のようにグラフを描いて考えると、被積分関数のうち−cos2θ2の部分は「谷→山」へと振動する関数で、この部分は結果に寄与しないだろう(図で塗りつぶした部分がちょうど消える)、と考えることで「横幅π2で高さが12の長方形の面積だと同じだと考えて、π4という答えを出してもよい。
さて、以上の手順を図解しておこう。
√1−x2dxというのは、右の図の長方形の面積であり、積分とはこの長方形を足していくということである。x=cosθと置くということは、図のように角度θを設定しているということであり、dθという量は、図の弧の部分の長さでもある(単位円であることに注意)。
この部分の拡大図を見ると、(上ではx=cosθを微分して出した)dx=−sinθdθが図の関係として表現されていることがわかる。特に、dxとdθの符号が逆(xが増えればθが減る)であることに注目しよう。
θを変化させていった時のそれぞれの微小長方形を描いたのが右の図である。「高さsinθ、幅dθsinθの長方形」を足していくという計算になっている(xの積分の時は「高さ√1−x2で幅dx」だった)。これが√1−x2dx=−sin2θdθという置き換えの意味なのである(マイナス符号の意味は先で説明した通り)。
次に、∫∞011+x2dxという積分を考えよう。この積分は、x=tanθと置き換えることにより、
∫π2011+tan2θdθcos2θ⏟dx=∫π20dθ=π2のように計算できる(1+tanθ2=1cos2θに注意)。積分区間は「x=0からx=∞」が「θ=0からθ=π2」と変わる。
図を見てxを0から∞まで動かしたらθがどう変化するかをみればよればこれがわかる。
ではどうして11+x2dxという「微小部分」の和が角度積分になるのだろうか。
上の図に、底辺1、高さxの直角三角形の高さをdxだけ大きくしたときの変化を示した。この時、図に示した角度θの微小変化\mathrm d\theta を考えると、11+x2dxになるのである。この角度を知るにはどうすればよいかというと、図に示したように扇型の弧の部分の長さdx√1+x2である」ことがわかる。「半径√1+x2の円の一部である扇型の弧の長さがdx√1+x2ということは、角度はdx√1+x2÷√1+x2=dx1+x2である」と考えればこの置換が何をやっているのかがわかる。
こうして答えが角度になることがわかると、積分範囲を変えることで、
∫a011+x2dx=arctanaという式が出て、たとえば∫1011+x2dx=π4や∫1√3011+x2dx=π6がわかる。ところで、11+x2は|x|<1なら
11+x2=1−x2+x4−x6+x8+⋯と展開できるから、
∫a011+x2dx=[x−x33+x55−x77+x99+⋯]a0と考えることで、
arctana=a−a33+a55−a77+a99+⋯とわかる。このaに1を代入するとarctan1=π4になる、というのがライプニッツも発見したというπの計算方法であるただし、実際計算してみると右辺がπ4になかなか近づかず、計算には根気がいる。a=1√3の時に左辺がπ6になるという計算の方が少し収束が早い。他にもいろいろな計算方法が知られている。。
ここまでで出てきた基本的な積分の公式を整理してみよう。
冪 :∫xαdx={xα+1α+1+Cα≠−1logx+Cα=−1指数関数: ∫eαxdx=1αeαx+C対数関数: ∫logxdx=xlogx−x+C三角関数: ∫sinxdx=−cosx+C〃 : ∫cosxdx=sinx+C〃 : ∫tanxdx=−log(cosx)+C以上の式においてα,Cは定数である。これに置換積分と部分積分という方法を使うと、さまざまな関数を積分することができる。ただし、「積分できない」関数もたくさんあるということは心に留めておくべきだ。
置換積分を使うと、上の表にないような積分を実行することができる。
たとえば、x=cosθと置くとdx=−sinθ⏟±√1−x2dθとして置換積分できた。これを整理するとdx√1−x2=±dθとなる複号±今sinθやcosθがどのような値を取っている領域で考えているのかを見て決めるべきである。dxとdθの正負の関係は、角度によって違う。ので、√1−x2を含むような複雑な式が出てきた時は、これを使って積分をθの積分に変えるということができる。たとえば
∫10√1−x2dx=∫10(1−x2)dx√1−x2=∫π20sin2θdθという変形を行ったこの時は1√1−x2dx=−sinθdθのように符号を選んだ(考えている領域ではxが増えるとθが減ったから)うえで積分の範囲をひっくり返した時にもう一度符号が出た。。同様に、
∫dx 1√1−x2=∫dθ=θ+C=arccosx+Cのような積分が可能である。ただし最後でx=cosθと置いたことから、θ=arccosxとした。実はこうできるかどうかはθの範囲による。arccosの値域を0からπとしていたならば、ここでのθがその範囲に収まるように調整が必要となる。
11+x2が出てくる積分はx=tanθと置くことで簡単化できる。というのは、dx=1cos2θdθ=(1+tan2)dθという変形から、11+x2dx=dθと変形していくことができるからである。これから、
∫11+x2dx=∫dθ=θ+C=arctanx+C∫x1+x2dx=∫tanθdθ=−log(cosθ)+C=−12log(11+tan2θ)⏟cos2θ+C=12log(1+x2)+Cのように積分をしていくことができる下の式は1+x2=tという置換積分でも計算可能。。こういうのはいちいち公式を覚えるより、「1√1−x2dxがでてきたらx=sinθではどうか?」「11+x2が出てきたらx=tanθと置いてはどうか?」と考えていくのがよい。
では、たとえば1√1+x2dxが出てきたらどうしよう??---この形の積分が簡単になるような関数はあるだろうか?---そもそも、「1√1−x2dxがでてきたらx=sinθ」という考えがうまく言ったのは、x=sinθの微分がdx=cosθdθで、dx√1−x2=dθとなったからであった。そこで、x=f(θ)と置いたとき、f′(θ)=√1−x2になるような関数があればこの積分ができる。そういう関数として知られているのが、「双曲線関数」と呼ばれる関数群の一つであるsinhθである三角関数に似ているところがあるのでθという文字で変数を表しておくが、このθには「角度」という意味は全くない。。sin,cosのテイラー展開では次数が上がるごとに符号が反転するが、符号が反転しないような関数
sinhθ=θ+θ33!+θ55!+⋯=∞∑n=0θ2n+1(2n+1)!coshθ=1+θ22!+θ44!+⋯=∞∑n=0θ2n(2n)!が双曲線関数(sinhとcosh)である三角関数のsinθcosθ=tanθと同様に、sinhθcoshθ=tanhθという関数もある。。正確な読み方はsinhは「ハイパボリックサイン」(または「サインハイパボリック」)、coshは「ハイパボリックコサイン」(または「コサインハイパボリック」)であるsinhを「しんち」、coshを「こっしゅ」などと読むこともある。。すぐにわかるように、
ddθcoshθ=sinhθddθsinhθ=coshθである(ここでも、三角関数にはあるマイナス符号がない)。
また、coshとsinhは足したり引いたりすることで指数関数になる。
coshθ+sinhθ=1+θ+θ22!+θ33!+θ44!+⋯=∑n=0θnn!=eθcoshθ−sinhθ=1−θ+θ22!−θ33!+θ44!+⋯=∑n=0(−θ)nn!=e−θである(これはオイラーの式eiθ=cosθ+isinθのiがなくなった式である)。これから
cosh2θ−sinh2θ=(coshθ+sinhθ)⏟eθ(coshθ−sinhθ)⏟e−θ=1がわかる(cos2θ+sin2θ=1に似た式である)。また、逆に解くとcoshθ=eθ+e−θ2,sinhθ=eθ−e−θ2となる。x=coshθ,y=sinhθとしてグラフを描くと下のようになる(これが「双曲線関数」という名前の由来である)。
「双曲線」と言われると思い出すのはy=1x(いわゆる「反比例の式」)の方かもしれない。y=1xとX2−Y=1は、45度(π4ラジアン)回転させた関係にある。それはX+Y=x,X−Y=yとを代入することでこの二つの式が入れ替わる(y=1x↔X2−Y2=1)ということを見るとわかるだろう。
さて、x=sinhθと置換した場合どうなるかを考えよう。微分してdx=coshθdθであるが、\式{coshsinh}によりcoshθ=√1+sinh2θである(coshθは定義からして正にしかならないので、√ の前に±はいらない)。よって、dx√1+x2=dθという置き換えができて、1√1+x2の積分が可能になる。たとえば、
∫dx 1√1+x2=arcsinh x+Cである(arcsinhはsinhの逆関数)。