「微分方程式(differential equation)」とは、関数とその微分によって表現された式である。まず微分方程式の一般的な形と性質について整理し、その後にこれを解く方法を考えていこう。
微分方程式は、独立変数${x}$、従属変数${y}$と、その微分${\mathrm d\over \mathrm dx} {y},{\mathrm d^2\over \mathrm dx^2} {y},\cdots$の間にある
\begin{equation} \Phi({x},{y},{\mathrm d\over \mathrm dx} {y},{\mathrm d^2\over \mathrm dx^2} {y},\cdots)=0 \end{equation}のような形で書ける関係式($\Phi$は任意の関数)であり、この式を満たす${y}$と${x}$という関係を(${y}=f({x})$などのような形で)求める、というのがその目的である。グラフで考えると一階微分${\mathrm d\over \mathrm dx} {y}$は傾きを、二階微分${\mathrm d^2\over \mathrm dx^2} {y}$は曲がり具合を表現している。つまり微分方程式は「ある場所$({x},{y})$での局所的(local)情報」の間の関係式である。一方関数${y}=f({x})$を与えるということは、二つの変数の間の関係を大域的(global)に与えるということになる。微分方程式を解くというのは局所的情報から大域的情報を導くことであるとも言える(逆に微分は、大域的情報から局所的情報を得る)。
微分方程式を解くテクニックは解くべき微分方程式により様々なので、後のために微分方程式の形を分類しておこう(ここでは分類だけで、実際の解き方はこの後でじっくり考える)。
微分方程式を分類する方法の一つが「何階微分を含むか」という点での分類である。$n$階以下の導関数を含む微分方程式を「$n$階微分方程式」と呼ぶ。
\begin{equation} \Phi\left({x},{y},{\mathrm d\over \mathrm dx}{y}\right)=0 \end{equation}となるのが一階微分方程式である。同様に、
\begin{equation} \Phi\left({x},{y},{\mathrm d\over \mathrm dx}{y},{\mathrm d^2\over \mathrm dx^2} {y}\right)=0 \end{equation}は二階微分方程式である。後で具体的な計算をやってみせるが、$n$階の微分方程式を解くということは不定積分を$n$回やることと同じなので、不定積分のたびに積分定数が出て来る。結果、微分方程式の解である${y}$は$n$個の「未定のパラメータ」を含む。つまり$n$階微分方程式の解は$n$個の(微分方程式だけでは決まらない)パラメータを含むと考えてよい(ただし、微分が不連続性を持つ関数では、積分定数が領域によって違うということもあるので、その場合パラメータの数は増える)。
微分方程式を使って求めたい関数を${y}$とした時、微分方程式が${y}$に対して線型(つまり定数と${y}$の1次式しか含んでいない場合)を「線型微分方程式」と呼ぶ。そうでない場合を「非線型微分方程式」と呼ぶが、線型か非線型かで微分方程式の解き方は大きく違う。
線型の微分方程式は
\begin{equation} A({x}){\mathrm d ^2 \over \mathrm dx^2}{y}+B({x}) {\mathrm d\over \mathrm dx} {y} +C({x}) {y}+D({x})=0\label{senkeiy} \end{equation}のような形をしている(${y}$の微分についても線型であることに注意)。この式は${y}$の線型二階微分方程式ということになる(一階もしくは三階以上の微分方程式も同様に考えられる)。
この式は$D({x})$という「定数項」を含んでいるが、これを含まない場合(つまり$D({x})=0$の場合)は(次数がそろっているという意味で)「斉次線型微分方程式」と呼ぶ($D({x})\neq0$の時は「非斉次線型微分方程式」である)。
一階微分方程式を適当に変形することで、
\begin{equation} {{\mathrm d\over \mathrm dx}}{y}=F({x},{y}) \end{equation}の形にできた時、この式は正規形である、と言う。右辺が定まらない場合は非正規形である。一例を挙げると
\begin{equation} \left({{\mathrm d\over \mathrm dx}}{y}\right)^2+{y}^2 = 1 \end{equation}で、これを変形しても、
\begin{equation} {{\mathrm d\over \mathrm dx}}{y}=\pm\sqrt{1-{y}^2} \end{equation}となってしまって${{\mathrm d\over \mathrm dx}}{y}$が一つに決まらない。
微分方程式が
\begin{equation} \mathrm d \left(f({x},{y})\right)=0 \end{equation}という形に直せるとき、この形の微分方程式を「完全形の微分方程式」と呼ぶ。この形に直せれば、
\begin{equation} f({x},{y})=一定 \end{equation}が解なので、非常に簡単に答えが求められることになる。たとえば
\begin{equation} m{x}^{m-1}{y}^n \mathrm dx + n{x}^m{y}^{n-1}\mathrm dy=0 \end{equation}は
\begin{equation} \mathrm d \left({x}^m{y}^n\right)=0 \end{equation}と直せるから完全形である。
「変数分離」とは、「微分方程式を
\begin{equation} f({y})\mathrm dy = g({x})\mathrm dx\label{hensuubunri} \end{equation}の形に変形する」ということである。変数分離される前は、$ {\mathrm dy\over \mathrm dx}={g({x})\over f({y})} $という形である。つまりは${x}$と${y}$という二つの変数が左辺と右辺に分離できるということ。これができる場合の方が解きやすい。
最も単純な微分方程式は
$${\mathrm dy\over \mathrm dx}=0$$である。これは計算するまでもなく「微分して0になるのは定数」と判断して、
$$y=C$$が解となる。これは上の式を積分した結果が下の式だと考えても同じことである。
右辺が0でなく
$${\mathrm dy\over\mathrm dx}=a$$のような定数の場合、傾きが一定であるということを示している。解はもちろん、
$$y=ax+C$$となる。
どのような線が引かれるか見たかったら、ボタン→を押すこと。消したい時はこっち→を押す。
この本当に簡単な例からでも、${\mathrm dy\over \mathrm dx}=$なんとかの形の微分方程式を解く方法として、
の三つの方法があることがわかる。この後様々な微分方程式を解くテクニックを説明していくが、だいたいはこの3つの組み合わせである。
これまでもでてきた
\begin{equation} {\mathrm dy\over \mathrm dx}={y} \end{equation}も微分方程式である。
この解の、少なくとも一つ、つまり「微分すると${y}$に戻る関数」を、我々はとっくに知っていて、
\begin{equation} {y}=\mathrm e^{{x}}\label{solex} \end{equation}がその答えである。ただし、これは「一つの解」ではあるが「全ての解」ではない(上に書いたように微分方程式の解は、微分方程式だけでは決まらないのである)。
この式がグラフの傾きを決めている、という立場に立って考えてみると、上のような「傾きの図」が描けるが、${y}=\mathrm e^{{x}}$という一本の線では、「このような傾きを持った線」の全てが表現されていない、ということはわかるだろう。
数式の側面から「複数の解がある」ということを見てみよう。この微分方程式をよく見ると、$\mathrm e^{{x}}$に定数$A$を掛けた${y}=A\mathrm e^{{x}}$もまた、微分方程式を満たすことがわかる。それは、式の両辺が$f({x})$の1次式であることからもわかる。一般に、微分方程式が求めるべき関数$f({x})$に関して同次(1次なら1次ばかり、2次なら2次ばかりを含んでいる)ならば、定数倍しても解である。ということは、
\begin{equation} {y}=A\mathrm e^{{x}} \end{equation}がこの方程式の解である。
ここで注意しておいて欲しいのは、${x}$が負の場合。この点を気にして右辺を$\log|{x}|+C$のように絶対値をつけて表現することもある。しかし$\log(-1)=\mathrm i\pi$と考えれば${x}$が負の時は${x}=-|{x}|$とすれば、
\begin{equation} \log {x}= \log(-|{x}|)=\log|{x}|+ \log(-1)=\log|{x}|+\mathrm i \pi \end{equation}となり、絶対値があるかないかは定数$\mathrm i\pi$がつくかつかないかの差だということになる。よってこの$\mathrm i\pi$も含めて積分定数$C$にすると思えば、これで問題ない。
もう一つ注意しておくと、${1\over {x}}$は${x}=0$で不連続であり、実は${x}>0$と${x}<0$の関数はつながっていない。よって積分結果も正の領域と負の領域では別物である。したがって不定積分は厳密には、
\begin{equation} \int\!\mathrm dx~ {1\over {x}} = \begin{cases} \log{x}+C_1& {x}<0のとき\\ \log{x}+C_2& {x}>0のとき \end{cases} \end{equation}のように領域により別の積分定数をもってよい(微分すればちゃんと${1\over {x}}$に戻る)。これは他の不連続な点を持つ関数でも同様である。
「一つの解」である${y}=\mathrm e^{{x}}$を「特別な解」という意味で「特解」と呼ぶのに比べ、${y}=A\mathrm e^{{x}}$という解を「一般解(general solution)」(これで微分方程式のすべての解を表現している、という意味で「一般」をつける「一般解」という用語の意味は少し混乱がある。後で述べる。)である、と言う。
一般解はたくさんある(上の場合、$A$が変われば解が変わるから、無限個の解がある)。つまり微分方程式だけでは、解を一つに定めることはできない。解を一つに定める時には、たとえば「${x}=0$で${y}=1$とする(この場合$A=1$)」のようになんらかの付加的な条件を置く。
このような条件は状況に応じて「境界条件(boundary condition)」あるいは「初期条件(initial condition)」などと呼ばれる条件を定める場所が時間的な「最初」である時は「初期条件」という言葉がよく選ばれる。。
このような方程式に従う自然現象の例としては、放射性物質の崩壊がある。放射性物質は、「半減期」と呼ばれる一定期間(以下$T$とする)を経過すると元の量のうち半分が崩壊注意すべきは「半減期の2倍」の時間が経過すると全部なくなるのではなく、元の量の${1\over 4}$になる、ということ。し、別の物質に変化する。よって、時刻$t$における放射性物質の量${N}(t)$は
\begin{equation} \begin{array}{rll} {N}({t})=&{N}(0)\left({1\over 2}\right)^{{t}\over T} &({1\over 2}=\mathrm e^{-\log 2})\\ =&{N}(0)\mathrm e^{-{\log 2\over T}{t}} \end{array}\label{hangenki} \end{equation}という式で表すことができる。これは言わば大局的な情報としての式である(そして、実験的にもよく確認された式であると言える)。では、この式にはどのような自然法則が隠れているだろうか。「微分」という作業によりこの現象の局所的情報を取り出すことでそれがわかる。
この式を微分してみると、
\begin{equation} {\mathrm d \over \mathrm dt}{N}({t})=-{\log2\over T} {N}({t}) ~~または~~ dN=-{\log2\over T}{N} \mathrm dt\label{hangenDE} \end{equation}のように、${\mathrm dy\over\mathrm dx}={y}$に似た式が出てくる(違いは${x}\to{t},{y}\to {N}({t})$という変数の違いと、右辺に定数係数$-{\log2\over T}$がついていること)。
この式$dN=-{\log2\over T}{N} \mathrm dt$の意味は、微小時間$\mathrm dt$の間に放射性物質の量が${\log 2\over T}{N}\mathrm dt$だけ減るということである。${N},\mathrm dt$以外の量は定数なので、「今ある量に比例して減る」という法則を示している。これは、ある一個の放射性物質の原子を取り出して考えると、その原子はまわりの状況や物質の状態とは無関係に一定確率で崩壊するということを示しているまわりの状況によって変化する確率が違ってくる場合は、また別の形の微分方程式が出てくることになる。。これが生物の死であれば「年老いた個体は死にやすい」「密集した環境では食料が確保できず死にやすい」などの理由で確率が変わる。放射性物質原子には「年齢」のような個性がないということがわかる。逆にいえば、そういう性質を持っている物が起こす現象は、これと同様の微分方程式で記述できるだろう。
【問い1】
放射性物質が単に崩壊している時の微分方程式は上の式であるが、ここで、一定時間ごとに放射性物質の「補給」が行われたとしよう。単位時間ごとに定数$A$ずつ外部から追加されるとすると、微小時間$\mathrm dt$ごとに$A\mathrm dt$ずつ増えることになる。この時の微分方程式を作り、解がどうなるかを考えよ。
このように、微分方程式はある狭い範囲(空間的な範囲であることもあるし、時間的な範囲であることもある)で成り立つ法則を記述している。微分方程式を解くということ(つまり積分するということは)、「狭い範囲で成り立つ法則」から「広い範囲で成り立つ式」を作っていくことである。自然現象は複雑なものであり、それを一気に理解することが人間の思考の範疇を超えている場合がある。そのような時に狭い範囲だけを見てまず「微小領域で成り立つ法則」を導き出すという方法をとることで理解していこうというのが微分方程式を作り解いていくときの考え方である。
自然科学を深く勉強していけば、この「まずは微小領域で考える」という考え方が、多くの場面で有効であることに驚くに違いない。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。