上で述べたように、微分方程式には、微分方程式だけでは決まらないパラメータが必ず含まれる。それは微分方程式が局所的情報を表す式であることから必然的なのである。微分方程式を解く時にもこの点は大事なので、そのパラメータの数について考察しておこう。
\begin{equation} {{\mathrm d}y\over \mathrm d x} ={y}の解は~~~~~{y}=A\mathrm e^{{x}}\label{AEx} \end{equation}を例として考えよう。このときのパラメータ$A$は
\begin{equation} \begin{array}{rll} {{\mathrm d}y \over \mathrm d x}=&{y}&({左辺に{y}を、右辺に{x}を集める}) \\ {{\mathrm d}y \over {y}}=&\mathrm d x&({両辺を積分})\\ \log{y}=&{x}+C \end{array}\label{solexbun} \end{equation}の計算過程において${{\mathrm d}y\over {y}}=\mathrm d x$を積分するときの積分定数から現れたここで「両辺を${y}$で割る」という計算をやっているが${y}=0$の場合、これは許されない。ここでは暗黙のうちに${y}\neq0$を仮定している。と考えてよい。さらに、$\log{y}={x}+C$は
\begin{equation} {y}=\mathrm e^{{x}+C}=\mathrm e^C \mathrm e^{{x}} \end{equation}となるから、$A=\mathrm e^C$とすれば上の式と同じになる「この形だと$A$は負になれないのでは?」と心配する人もいるかもしれないが、$C$が$\mathrm i\pi$という虚部を持っていれば、$A$は負にもなるので気にしなくてよい。。注釈に書いたように、ここまでの計算では${y}\neq0$が仮定されていたが、幸いなことに${y}=0$はこの一般解${y}=A\mathrm e^{{x}}$の、$A=0$の場合に含まれているので、${y}\neq0$の条件は外してよいことになる。
左辺に積分定数をつけても、結果は同じなのである。もし左辺に積分定数をつけたとすれば、左辺の積分定数と右辺の積分定数は別の定数なのでそれをそれぞれ$A,B$として時々、積分定数をどっちも$C$にして$ \log{y}+C={{x}}+C$として両辺で打ち消してしまう、という計算をする人がいる(←ここは驚くか笑うかするところ)が、積分定数は左辺と右辺それぞれにおいて「任意の数」だから、両辺で一致する理由はない。
\begin{equation} \begin{array}{rl} \log{y}+A=&{{x}}+B\\[3mm] \log{y}=&{{x}}+B-A \end{array} \end{equation}となるが、$A$も$B$もまだ決まっていない数であり、しかも結果には$B-A$という組み合わせでしか出てこない。つまり、答えを出すためには$A,B$それぞれを求める必要はなく、$B-A$だけを求めればよいから、$C=B-A$とおいて1つの積分定数と思えばよい。
非常に簡単な二階微分方程式$\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^2f({x})={\mathrm d\over\mathrm dx} f({x})$を同様に解いてみよう。
\begin{equation} \begin{array}{rll} \left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^2f({x})=&{\mathrm d\over\mathrm dx} f({x}) &({両辺を不定積分}) \\ {\mathrm d\over\mathrm dx} f({x})=&f({x})+C&({f({x})+C={y}と置く})\\ {\mathrm d\over\mathrm dx} ({y}-C)=& {y}&({{\mathrm d\over\mathrm dx}(-C)=0を使って、さらに変数分離})\\ {{\mathrm d}y\over {y}}=& \mathrm d x&({もう一度積分})\\ \log {y}=& {x}+D&({\mathrm e の肩に乗せて})\\ {y}=&\mathrm e^{{x}+D}&({f({x})に戻して})\\ f({x})=& -C + \mathrm e^{{x}+D} \end{array} \end{equation}積分を二度やったため、積分定数$C,D$の二つが結果に現れる(パラメータの数は2)。
微分方程式を解くとは積分すること、と考えると「$n$階微分方程式なら不定積分を$n$回繰り返せば解ける」と言えて、結果は$n$個の積分変数を含む。上の具体例を見ると、確かに一階微分方程式の解は1個の、二階微分方程式の解は2個の積分定数を含んでいる。
結論として、$n$階微分方程式の解は常に$n$個の「微分方程式だけでは決まらないパラメータ」を含んでいることになるただし、${1\over {x}}$の積分のところで示したように、途中で関数が定義できない点(この例の場合${x}=0$)があると積分一つに対して二個の積分定数が出て来ることもあるので、そのような場合には注意が必要である。。
こういう考え方もできる。解析的な関数(つまり、テイラー展開できる関数)に限って考えると、「関数を決める」というのは、
\begin{equation} f({x})=\sum_{n=0}^\infty {1\over n!}f^{(n)}(x_0)({x}-x_0)^n \end{equation}の係数$f^{(n)}(x_0)$を全て決めることである(少なくともテイラー展開の収束半径の内側ではこれで十分である)。
$m$階微分方程式は(適切な変更を行った後)
\begin{equation} f^{(m)}({x})= \biggl(f^{(m-1)}({x}),f^{(m-2)}({x}),\cdots,f^{(1)}({x}),f^{(0)}({x})\biggr)の式 \end{equation}のように書くことができる。さらにこれをどんどん微分することで、
\begin{equation} \begin{array}{rll} f^{(m+1)}({x})=& \biggl(\underbrace{f^{(m)}({x})}_{微分方程式を代入},f^{(m-1)}({x}),f^{(m-2)}({x}),\cdots,f^{(1)}({x}),f^{(0)}({x})\biggr)の式\\ =& \biggl(f^{(m-1)}({x}),f^{(m-2)}({x}),\cdots,f^{(1)}({x}),f^{(0)}({x})\biggr)の式\\ \end{array} \end{equation}のように$m$階より高い階数の微係数も求めることができる。これらを使って$f^{(m)}(x_0)$をそれより微分階数の低い係数と使って書き直すことができるから、$f({x})$の表現には、$m$より低い階数の微係数$\left(f^{(m-1)}(x_0),f^{(m-2)}(x_0),\cdots,f^{(1)}(x_0),f^{(0)}(x_0)\right)$だけが「決まらずに」残る。
たとえば一階微分方程式を満足する関数であれば$f(x_0)$のみが、二階微分方程式を満足する関数であれば$f(x_0)$と$f'(x_0)$の二つだけが微分方程式だけでは決まらないパラメータとなる。
一階微分方程式で正規形の場合で、「決まらないパラメータ」の意味を考えておこう。
${{\mathrm d}y\over \mathrm d x}=f({x},{y})$という式が与えられていると、${x}$-${y}$平面上である点$({x},{y})$を指定すると、その点における関数のグラフの傾き${{\mathrm d}y\over \mathrm d x}$がわかる、という式になっている。つまり、${{\mathrm d}y\over \mathrm d x}=f({x},{y})$という式は、各点各点において「グラフの線はどちらに伸ばすべきか」を与えている。
たとえば最初に考えた微分方程式は${{\mathrm d}y\over \mathrm d x}={y}$と書けるが、その解のグラフは、各場所において${y}$座標と同じ傾きを持っている曲線である。
そういう曲線を次々と描いていくと、上のグラフにあるように全平面を埋め尽くしていく。
たとえば${x}=0$の時${y}=1$というふうに「出発点」を決めると、この場合は${y}=\mathrm e^{{x}}$という線(グラフでは1本だけ太い線で表現した)の上を進んでいくことになる。
一階微分方程式が指定するのは傾きのみであるから、出発点(上の例では${x}=0$から始めたが、実はどの場所でもよい)を指定すれば曲線は一つ決まる。別の点を出発点にすれば(たまたま同じ線上の2点を選ばない限り)また別の線が引ける。こうして、微分方程式だけからは決まらないパラメータが解には入っていることになる(後で、それを「初期条件」などで決めていく方法について述べる)。
二階微分方程式では、傾きではなく「曲がり具合」が微分方程式によって指定され、「場所」と「傾き」が微分方程式では決まらない量になる。
まず微分方程式がどういうものかに慣れることが必要だと思うので、以下では、微分方程式の中でも比較的簡単(でも応用範囲は広い)な「変数分離できる一階微分方程式」の具体例を考えていこう。
変数分離はいつでもできるとは限らないことに注意しよう。たとえば${\mathrm dy\over \mathrm dx}({x})={x}+{y}$という簡単な場合でも左辺に${y}$だけを集めることはできない(この微分方程式は解ける。つまり変数分離できなくても解ける時は解ける)。
以下この節では「変数分離できる場合」に限って話をする。
例として上げた${{\mathrm d}y\over \mathrm d x}={y}$は変数分離できる微分方程式の例でもある。上でやったように、「変数分離した後で積分」という方法で解くことができた。
もう一つ、簡単な例を示そう。
\begin{equation} {{\mathrm d}y\over \mathrm d x}=-{{x}\over {y}} \end{equation}という式(前に図で考えた微分方程式で、答は円であった)は書き直すと$ {y}{\mathrm d}y = -{x} \mathrm d x $と変数分離できる。これを積分すると、
\begin{equation} \begin{array}{rl} \int {y}{\mathrm d}y =& -\int{x} \mathrm d x\\[3mm] {{y}^2\over 2}=&-{{x}^2\over 2}+C \end{array} \end{equation}となる。$C$は積分定数である。結果を整理すると、
\begin{equation} {x}^2 +{y}^2 = 2C \end{equation}という円の式が出てくる(半径は$\sqrt{2C}$である)。
次に${{\mathrm d}y\over \mathrm d x}={{y}\over {x}}$を同様に解いてみよう(図で考えた時、この解は「原点を通る直線」であった)。まず変数分離して、
\begin{equation} \begin{array}{rll} {{\mathrm d}y\over {y}}=&{\mathrm d x\over {x}}&({積分})\\ \log {y} =& \log {x} +C&({両辺を\mathrm e の肩へ})\\ {y}=& {x}\mathrm e^C \end{array} \end{equation}となり、確かに(傾き$\mathrm e^C$の)直線が解である(図を描いて考える方がすっとわかる)。
燃料を噴射して飛ぶロケットの噴射した燃料の量と到達速度の関係は微分方程式から求めることができる。もし、我々が微分方程式というものを知らずにいいかげんな考え方をすると、
のように、間違った考え方をしてしまう。運動量の保存外部から力が加わらない時は運動量すなわち質量$\times$速度が保存されるという物理法則がある。この【間違い】ではこの法則を使ってロケットの速度を計算している(法則自体は間違ってない)。から、
\begin{equation} 0=(m_0-m')V +m'\times (-w) \end{equation}が成り立つ。結果として、$V={m'\over m_0-m'}w$でなるが、これは「大間違い」なのだ。
噴射した量は、ロケット本体の何倍か?を、↓のスライダで決定する。
右のボタンを押すと噴射が行われる→ 右のボタンを押すと最初に戻る→
上の「大間違い」は何が間違いなのかというと、ロケットの質量も速度も連続的に少しずつ変化していく量なのに、まるで一気に変わったかのように考えてしまったことである。連続的に少しずつ変化していく量は微分や積分を使って表現しなくてはいけない。特に重要なのは、すぐ後で述べるように推進剤の速さ$w$というのは一定にならない(最初は$w$でも、ロケットが加速するに従って変化していく)ので、上の図はそもそも間違っている。
噴射した量は、ロケット本体の何倍か?を、↓のスライダで決定する。
右のボタンを押すと噴射が行われる→ 右のボタンを押すと最初に戻る→
しばらく隣近所で話し合って考えてもらってから聞いてみた。
理由としてはもう一つある。
そこで、(全体の変化を一気に考えるのではなくそのうちの一部を取り出して)微小変化について絵を描くと以下のようになる。
上の図はすでにある程度噴射した途中の状態で、すでに速度$V$を持っている。この時の質量は最初の$m_0$に比べて少ない$m$になっている。その微小時間後に、ロケットは質量$m+\mathrm d m $で速度$V+\mathrm dV$になっている。噴射された推進剤は「大間違い」の図のように$w$の速度で後方へ進むのではなく、$V-w$という速度で前方へ進む($w>V$ならば$w-V$の速さで後方へ進む)。既に速度$V$を持っているロケットから、「ロケットから見て$w$の速さ」で後方に噴射されたのだから、$w$ではなく速さ$w-V$になる、と考えればよい。
運動量保存則を考えると、
\begin{equation} m V = (m+\mathrm d m )(V+\mathrm dV) -\mathrm d m (V-w) \end{equation}となる。この式を整理すると、
\begin{equation} \begin{array}{rl} \underbrace{mV}_{相殺→}=&\underbrace{mV}_{←相殺} + \underbrace{\mathrm d m V}_{相殺→}+ m\mathrm dV +\underbrace{\mathrm d m \mathrm dV}_{高次の微小量} \underbrace{-\mathrm d m V}_{←相殺}+ \mathrm d m w \\ -m\mathrm dV=& \mathrm d m w \\ \mathrm dV=& -w {\mathrm d m \over m} \end{array} \end{equation}となる。この積分結果は$V=-w\log m +C$である。$m=m_0$(初期値)の時に$V=0$という初期条件を使うと、$C=w\log m_0$となるので、
\begin{equation} V= -w\log m+w\log m_0= w\log\left({m_0\over m}\right) \end{equation}が成立する式となる。$\delta=\left({m_0\over m}\right)$という量この$\delta$は変化量を表す$\delta$ではなく、「$\delta$」1文字で一つの数。}は「質量比」と呼ばれる(文字通り、噴射前と噴射後の質量の比である)。グラフで分かるように、$\delta$を大きくしても$V$はどんどん増えるというわけにはいかない($\log x$という関数は傾き${1\over x}$だから、傾きがどんどん緩くなっていく)。ロケットの性能を上げるには$w$を大きくすることが大事であることがわかる。
二つの軍隊が戦争をしている。それぞれの兵力を${A},{B}$とする。時間が経つと、${A}$は${B}$に比例して減り、${B}$は${A}$に比例して減るから、
\begin{eqnarray} {\mathrm d A} &=& -\alpha {B} \mathrm dt,~~ {\mathrm d B}=-\alpha {A} \mathrm dt \end{eqnarray}という式が成立する。これはいわば「連立微分方程式」になっているのだが、$(第1式)\times {A}-(第2式)\times {B}$という計算をすると、
\begin{equation} \begin{array}{rl} {A}{\mathrm d A} - {B}{\mathrm d B}=&-\alpha {A}{B}\mathrm dt +\alpha {A}{B}\mathrm dt \\ \mathrm d ({A}^2-{B}^2)=&0\\ {A}^2 -{B}^2 =& 一定 \end{array} \end{equation}という式が導かれる。これは「兵力自乗の法則」(またはランチェスターの第2法則)として知られる。たとえば${B}=B_0,{A}=2B_0$(${A}$の方が2倍の兵力を持っていた)場合、この式の右辺は$3(B_0)^2$となるから、${A}=\sqrt{3}B_0$になったところで${B}=0$となる。${B}$の兵力が文字通り全滅軍事用語で「全滅」は「全兵力が死んだ」という意味ではなく、兵力として機能しなくなった状態を意味していて、${B}\simeq 0.7B_0$ぐらいでもう「全滅」と判定する。ここで「文字通り全滅」と書いたのは${B}=0$という意味。した時、${A}$は($2{B_0}\to\sqrt{3}B_0$と変化したので)最初の${\sqrt{3}\over 2}$倍が残っている。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。