「ある流行(服でも靴でもいい)がどのように時間的に流行していくかを方程式で示す」を微分方程式として考えてみよう。全人口の${y}$倍がすでにその流行に乗っている(つまり服を着るなり靴を履くなりしている)としよう。変数${y}$の意味は、${y}=0$なら「誰も着てない」、${y}=1$なら「全員が着ている」という状態である実際には女性用の服なら男性が着ることはあまりないから、その場合は${y}$を全人口ではなく女性人口の割合にする、などの修正は必要である。。単純に考えると「回りの人が着ていたら自分も着たくなるだろう」と考えると、
\begin{equation} {{\mathrm d}y\over \mathrm dt}= k{y} \end{equation}という「回りにいる人が着ている率に比例して着る人が増えていく」という式にしたくなる。ところがこれだと${y}$はどんどん上昇して1を超えてしまう(全人口より着ている人の方が多い??)。なぜこうなったかというと、「すでに着ている人は影響を受けない」ということを考えてなかったからである。つまり、「今から着よう」と決断することができるのは、まだ着ていない人(全体の$1-{y}$倍の人)だけである。そう考えると微分方程式は
\begin{equation} {{\mathrm d}y\over \mathrm dt}= k{y}(1-{y})\label{ryukouone} \end{equation}となる。これを解くには、
\begin{equation} {{\mathrm d}y\over {y}(1-{y})}= k\mathrm dt \label{ryukoutwo} \end{equation}のように変数分離する(ここで、${y}(1-{y})\neq0$を仮定したことに注意)。この積分は
\begin{equation} {1\over {y}(1-{y})} = {1\overbrace{-{y}+{y}}^0\over {y}(1-{y})} ={1\over {y}}+{1\over 1-{y}} \end{equation}と分数を書き直すことで
\begin{equation} \begin{array}{rl} {{\mathrm d}y\over {y}}+{{\mathrm d}y\over 1-{y}} =&k\mathrm dt \\ \log |{y}|-\log|1-{y}|=&k {t}+C \\ \end{array} \end{equation}と積分できる($C$は積分定数)。この段階では$0\leq {y}\leq 1$という状況で考えているので、本来は絶対値を取るという操作は不要である前にも書いたが、$C$が複素数であってよければ、そもそもこの絶対値は必要ない。が、後で使うので今はつけてある。
これを整理すると
\begin{equation} \begin{array}{rl} \log \left|{{y}\over 1-{y}}\right|=&k {t}+C \\ {{y}\over 1-{y}}=&\pm\mathrm e^{k {t}+C} ~~(絶対値外しで\pm が付く) \\[3mm] {y} =&\pm(1-{y})\mathrm e^{k {t}+C} \\[3mm] {y}\left( 1\pm\mathrm e^{k {t}+C} \right) =&\pm\mathrm e^{k {t}+C} \\ {y} =& {\pm\mathrm e^{k {t}+C}\over 1\pm\mathrm e^{k {t}+C} } ={1\over 1\pm\mathrm e^{-k {t}-C} } \end{array} \end{equation}となる。この結果をグラフにすると次のようになる(下のスライダで$k$と$C$を調節できる)。
k=
C=
途中で複号$\pm$をつけたが、これは${{y}\over 1-{y}}$が正のとき$+$、負のとき$-$である。よって本来解こうとしていた問題においては$+$をとっておけばよい(グラフもそうしている)。
ここでは、${y}=0$から${y}=1$までの範囲だけを考えた(もともとの${y}$という変数の意味からするとそれで十分である)。少し話を一般的にすることにして、${{\mathrm d}y\over \mathrm dt}= k{y}(1-{y})$という微分方程式の解が一般的にどのような形を取るかを考察しておこう。
傾き${{\mathrm d}y\over \mathrm dt}$は${y}=0$と${y}=1$で0となり、その間の範囲で正、それ以外の場所で負である。よって時間経過した時の変化を考えると、$0<{y}<1$では増加し、それ以外では減少する。結果として${y}$の値は${y}=1$へと集まっていく(そして、${y}$からは離れていく)という傾向を示す。
ここでもう一つ注意しておこう。今求まった${y}={1\over 1-\mathrm e^{\pm k {t}-C}}$という解には実は厳密には「抜け」がある。${y}=0$と${y}=1$(定数で、このままずっと変化しない)というのも、もともとの微分方程式の解であるが、それは今求めた解の複号$\pm$と積分定数$C$の値をどう決めても出てこない。つまり、今求めた解は非常に微妙なところで「一般解」になり損なっている。
${y}={1\over 1-\mathrm e^{\pm k {t}-C}}$で$C=\pm\infty$とすれば${y}=1$や${y}=0$になる---ように見えるかもしれないが、これは正しい計算ではない。というのは、そもそも$\infty$というのは代入できる数ではない。「$C$をどんどん大きくしていく極限」として定義される量である。$C$をどんどん大きくすると分母の$\mathrm e^{\pm k {t}-C}$が0に近づくかと思われるが、定数である$C$がいくら大きくとも、前にある$\pm k{t}$の項が$C$を打ち消すほどに小さくなることができる(この項は変数${t}$を含んでいることに注意)から、$\mathrm e^{\pm k {t}-C}=0$とは言えないのである(逆に$C$がどんどん小さくなる場合も同様)。よって${y}={1\over 1-\mathrm e^{\pm k {t}-C}}$は${y}=0$と${y}=1$を含まない。
「抜け」が生じてしまった理由は明白で、その原因は式変形の途中において両辺を${y}(1-{y})$で割ったところにある。割算する時には、割る数が「0でないかどうか」を確認しなくてはいけない。つまり${y}(1-{y})$で割ったことにより、そこから後の式は${y}(1-{y})\neq0$の場合に限る話になっているのである。よって、${y}(1-{y})=0$の場合を別に考慮しなくてはいけない(もちろん、それが解になってないならその可能性を捨てればよい)。
この場合、${y}=0$と${y}=1$と一定になる場合は右辺も左辺(${{\mathrm d}y\over \mathrm d x}$)も0になるから、これも解となる。この二つは今求めた解${y}={1\over 1-\mathrm e^{\pm k {t}-C}}$に含まれない解となっていた。このような解を「特異解」と呼ぶこともある。
今の場合の(文字通りの)一般解は、
\begin{equation} {y}={1\over 1-\mathrm e^{\pm k {t}-C}}(Cは任意定数)~~または~~{y}=0~~または~~{y}=1 \end{equation}ということになる。
↑ちなみに私はこれを聞いた時は「CMなどの広告」という答を予想していた。
連立の場合はまだやってないので、ここでは式を立てるだけにする。
↑この問題を今日の小テストにしました。
ヒントとして、口コミの場合の$ky(1-y)$のうち$y$の微分は「周りが持っている割合」だけど、CMで見る場合は周りが持っているかどうかは無関係だとして、この$y$がなくなると考えればよい。一方、「すでに買ってしまった人は買わない」というのは本当だろうから、$(1-y)$はこの場合でもあるだろう、というところまでは説明しました(ヒント出しすぎたかもしれない)。
前の章では「変数分離できる」という意味で解きやすい方程式を考えた。この章では、別の区分であるがやはり微分方程式の中では解きやすい部類と言ってよい「線形微分方程式」の解き方について述べる。単に『解きやすい』というだけでなく、線型な微分方程式は自然法則の中でも非常によく現れるので、これがちゃんと解けることは重要である。
線型微分方程式を解くときに助けとなり、非常に多くの自然現象で使えるのが「重ねあわせの原理」である。まず斉次の場合を考えよう。
まず「線型結合(linear combination)(「1次結合」ということもある)」という用語を説明しよう。
単純に言えば「線型結合」とは「定数倍と足算によって作られる量」ということになる$-1$倍して足すという計算も含まれるので、引算も含まれていることに注意。。${X}$と${Y}$を掛けたり割ったりしてはいけない(自乗もダメ)。
他の量${X},{Y},\cdots$の線型結合で表される${Z}=a{X}+b{Y}+\cdots$のような量があったとすると、「${Z}$は${X},{Y},\cdots$と線型独立(linearly independent)ではない」「線形独立ではない」ことを「線型従属」と表現することもある。これらの用語も「1次独立」「1次従属」という言い方もある。という言い方をする。
ここで「量」と表現したものは数でもいいし、ベクトルでもよいし、関数でもよい。関数に対して「線形独立か線型従属か」を考えるとき気をつけておきたいのは、${Z}=a{X}+b{Y}+\cdots$という「線型従属の場合に成り立つ式」は、「考えている関数の定義域全てに対して成立しなくれはいけない」ということである。たとえば$f_1({x})={x},f_2({x})={x}^2$に対し$f_3({x})=2{x}^3$とすると、$f_3({x})=f_1({x})+f_2({x})$は、${x}=0$と${x}=1$という二つの点においては成立するが、他の場所ではまったく成立しないから、$f_3({x})$は$f_1({x}),f_2({x})$と線形独立である。
一方、$f_1({x})=\cos{x},f_2({{x}})=\sin{x},f_3({x})=\sqrt{2}\sin\left({x}+{\pi\over 4}\right)$はどのような${x}$の値についても成立するから、$f_3({x})$は$f_1({x}),f_2({x})$に線型従属である。
線型斉次微分方程式は以下に示すような非常にありがたい性質を持っている。
ということが成立する。このように「(線型斉次微分方程式の場合)解の線型結合がやはり解であること」を「重ねあわせの原理」と呼ぶ。
重ねあわせの原理の証明は簡単で、
\begin{equation} \left( A_n({x})\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^n +A_{n-1}({x})\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^{n-1} +\cdots +A_{1}({x}){\mathrm d\over\mathrm dx} +A_0({x}) \right)y_1({x}) =0 \end{equation} と \begin{equation} \left( A_n({x})\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^n +A_{n-1}({x})\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^{n-1} +\cdots +A_{1}({x}){\mathrm d\over\mathrm dx} +A_0({x}) \right)y_2({x}) =0 \end{equation} の二つをそれぞれ$a_1$倍、$a_2$倍して足せば、以下のような式ができる。 \begin{equation} \left( A_n({x})\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^n +A_{n-1}({x})\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^{n-1} +\cdots +A_{1}({x}){\mathrm d\over\mathrm dx} +A_0({x}) \right)(a_1 y_1({x})+a_2y_2({x}))=0 \end{equation}もちろんこれはこの微分方程式が線型斉次(${y}$の1次式しかない)だからこそ成り立つ。たとえば${\mathrm d\over\mathrm dx} {y}+{y}^2=0$という非線型微分方程式では、あきらかに重ねあわせはできない。
\begin{equation} \begin{array}{rlll} &{\mathrm d\over\mathrm dx} y_1({x})&+(y_1({x}))^2=&0 \\[3mm] + &{\mathrm d\over\mathrm dx} y_2({x})&+(y_2({x}))^2=&0 \\[3mm] \hline &{\mathrm d\over\mathrm dx} (y_1({x})+y_2({x}))&+(y_1({x}))^2+(y_2({x}))^2=&0 \end{array} \end{equation}となって、${\mathrm d\over\mathrm dx} {y}+{y}^2=0$に${y}=y_1({x})+y_2({x})$を代入した結果である${\mathrm d\over\mathrm dx} (y_1({x})+y_2({x}))+(y_1({x})+y_2({x}))^2=0 $とは違う式になるわけである。
非斉次の場合、つまり${y}$の1次のみではなく${y}$の0次の項がある線型微分方程式
\begin{equation} \left( A_n({x})\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^n +A_{n-1}({x})\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^{n-1} +\cdots +A_{1}({x}){\mathrm d\over\mathrm dx} +A_0({x}) \right){y} =C({x}) \end{equation}の解を考えてみる。0次の項$C({x})$(${y}$を含んではいけないが、${x}$の関数であってもよい)は右辺に置いたが、この項(線型非斉次微分方程式の0次の項)のことを「源(ソース)項(ターム)(source term)」あるいは単に「源(ソース)」と呼ぶソースとか源とか呼ぶ理由は、このような方程式が「$C({x})$という量が${y}({x})$を作り出す」という法則を表現することが多いからである。たとえば「ストーブがあるとまわりは温度が高い」「質量があるとまわりに重力場ができる」「電荷があるとまわりに電場ができる」などの場合「ストーブ」「質量」「電荷」が源である。。
この式の応用として面白いのは、
という現象である。
まず数式で確認しよう。
\begin{equation} \small\begin{array}{rlll} & \left( A_n({x})\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^n +\cdots +A_{1}({x}){\mathrm d\over\mathrm dx} +A_0({x}) \right)y_1({x}) &=C_1({x})\\ & \left( A_n({x})\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^n +\cdots +A_1({x}){\mathrm d\over\mathrm dx} +A_0({x}) \right)y_2({x}) &=C_2({x})\\[3mm] \hline & \left( A_n({x})\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^n +\cdots +A_{1}({x}){\mathrm d\over\mathrm dx} +A_0({x}) \right)(y_1({x})+y_2({x}))&=C_1({x})+C_2({x})\\ \end{array}\label{ConeCtwo} \end{equation}となることからわかる。
同様に、次のようなことも言える。
これは上で考えたことの$C_2({x})=0$の場合にあたるから、証明は不要だろう。わざわざこんな(言わば、「あたりまえ」の)ことをここに書いたのは、この事実は応用範囲が広いからである。というのは、斉次方程式と非斉次方程式では当然斉次方程式の方が解きやすい。非斉次方程式の方の解は一つだけ求めておいて、斉次方程式の解を見つけられる限り見つけておけば、重ねあわせによって非斉次方程式の解をたくさん(見つかられる限り)見つけることができるようになるからである。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。