重ねあわせの原理(続き)

先週は

非斉次方程式の解$+$斉次方程式の解$=$非斉次方程式の解

非斉次方程式
\begin{equation} \left( A_n({x})\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^n +A_{n-1}({x})\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^{n-1} +\cdots +A_{1}({x}){\mathrm d\over\mathrm dx} +A_0({x}) \right){y}=C({x})\label{hiseijirei} \end{equation}
と、上の式で$C({x})=0$とした斉次方程式
\begin{equation} \left( A_n({x})\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^n +A_{n-1}({x})\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^{n-1} +\cdots +A_{1}({x}){\mathrm d\over\mathrm dx} +A_0({x}) \right){y} =0 \end{equation}
を考える。非斉次方程式の解として$y_1({x})$を1つ、斉次方程式の解をとして$y_0({x})$を1つ、それぞれ見つけたとする。${y_0}({x})+y_1({x})$もまた、非斉次方程式の解である。

というところまでやったので、今週はまず、これの簡単な例をやってみよう。

\begin{equation} {\mathrm d\over \mathrm dx} {y}= {x}+{y} \end{equation}

という非斉次線型微分方程式を解きたい。これは「変数分離できる形」にはなってない。

まずは試行錯誤で解を探す。たとえば${y}=a{x}+b$が解になるだろうか、ということを考えてみる。代入してみると、

\begin{equation} \begin{array}{rl} \underbrace{a}_{\tiny {\mathrm d\over \mathrm dx} {y}}=& {x}+\underbrace{a{x}+b}_{{y}} \\ 0=&(1+a){x}+b-a \end{array} \end{equation}

となるから、$a=-1,b=-1$が解となる。これで${y}=-{x}-1$という解が見つかったわけである。ここで「バンザイ、解が見つかった」と終わってはいけない。なぜならこの解は「特別なある1つの解」であって、全ての解を求めていないのである。

関数${y}=-{x}-1$は上のグラフであり、この線の上という(全$x$-$y$平面から見たらほんとに狭い)範囲の上での「解」を求めたに過ぎない。前に述べたように、このような解を「特解」と呼ぶ。我々が求めたいのは全$x$-$y$平面を埋め尽くす、「一般解」である。

非斉次になっているのは${x}$という項のせいだから、これを消して

\begin{equation} {\mathrm d\over \mathrm dx} {y}= {y} \end{equation}

という斉次方程式を作ってみると、この解は

\begin{equation} {y}=C {\mathrm e}^{{x}} \end{equation}

である。非斉次方程式の解は特解にこの「斉次方程式の一般解」を足せば作ることができる。すなわち、

\begin{equation} {y}=-{x}-1 + C{\mathrm e}^{{x}} \end{equation}

が「一般解」なのである。

それで「一般解」としてOKなのはどうしてですか?
前に話した、「$n$階微分方程式の階はちょうど$n$個の未定パラメータを含む」というのが効いてきます。つまりここでCという未定のパラメータ(積分定数ですが)があるので、これで全ての解が表せてます。「全て」というところを納得するには、$x=0$の時に$y=C-1$になる、ということを考えるといいです。特解$y=-x-1$の方は$x=0$の時$y=-1$と固定されていまっているけど、「一般解」の方は$y=C-1$で$C$は任意なので、どのような$y$の値に対しても対応する解がちゃんとあります。
下のグラフで言うと、$y=-x-1+C\mathrm e^x$は、グラフの全平面を覆い尽くすことができる、ということです。

グラフを上の図に示した。グラフは$C$を$0.5$ずつ変えた線を示しているが、もちろん線と線の隙間にもちゃんと線があり、全平面を埋め尽くしている。どのような初期値$(x_0,y_0)$から出発しても、この微分方程式に従うその後の変化がわかることになる。

重ねあわせの原理のおかげで

(斉次方程式の一般解)+(非斉次方程式の特解)=(斉次方程式の一般解)

という関係が成立するおかげで、このような計算ができる。

ここでやったことは以下のように考えてもよい。まず特解${y}=-{x}-1$を見つけたから、「実際の解は特解に近い形をしているだろう」と推測し、「とりあえず特解に未知の関数${Y}$を足したものが解だろう」とあたりをつけて、${y}=-{x}-1+{Y}$と置いてみる。これを元の微分方程式に代入すれば、

\begin{equation} \begin{array}{rl} {\mathrm d\over \mathrm dx} \left( -{x}-1+{Y} \right)=&{x}\underbrace{-{x}-1+{Y}}_{{y}}\\ {-1} + {\mathrm d\over \mathrm dx} {Y}=& {-1} + {Y} \end{array} \end{equation}

となるから、後は${\mathrm d\over \mathrm dx} {Y}={Y}$という微分方程式を解けばよい。

定数係数の斉次線型微分方程式

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定数係数の斉次線型微分方程式

一般的な線型微分方程式の解き方を考える前に、まずは簡単な例を考えよう。

というわけでここでは線型斉次で、かつ係数$A_i({x})$が定数$A_i$である場合、すなわち

\begin{equation} \left( A_n\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^n +A_{n-1}\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^{n-1} +\cdots +A_{1}{{\mathrm d\over \mathrm dx}} +A_0 \right){y} =0\label{teisuusenkeiseiji} \end{equation}

を解く一般的な方法を示そう。

特性方程式

まず、この微分方程式には、${\mathrm e}^{\lambda {x}}$という形で表せる解がある($\lambda$はこの後決める定数である)。これが解になるかどうかを確認するために代入してみると、

\begin{equation} {{\mathrm d\over \mathrm dx} }{\mathrm e}^{\lambda{x}}=\lambda{\mathrm e}^{\lambda{x}},~~ \left({{\mathrm d\over \mathrm dx} }\right)^2{\mathrm e}^{\lambda{x}}=\lambda^2{\mathrm e}^{\lambda{x}},\cdots, \left({{\mathrm d\over \mathrm dx} }\right)^2{\mathrm e}^{\lambda{x}}=\lambda^n{\mathrm e}^{\lambda{x}} \end{equation}
プリントでは上の式の右辺で$\mathrm e^{x}$のようになってましたが、$\lambda$を補って$\mathrm e^{\lambda x}$に訂正しておいてください。

となることを使うと、微分方程式は

\begin{equation} \left( A_n\lambda^n +A_{n-1}\lambda^{n-1} +\cdots A_1 \lambda + A_0 \right){\mathrm e}^{\lambda{x}}=0 \end{equation}

という式に変わる。よって、

\begin{equation} A_n\lambda^n +A_{n-1}\lambda^{n-1}+\cdots A_1 \lambda + A_0=0\label{tokusei} \end{equation}

となるような$\lambda$が存在していれば、その$\lambda$を代入した${\mathrm e}^{\lambda {x}}$が解である。$\lambda$が満たすべき方程式と「特性方程式」と呼ぶ。

簡単な例として、特性方程式が二次になる場合をやってみよう。

\begin{equation} \left( \left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2 -{\mathrm d\over \mathrm dx} -2 \right)f({x})=0\label{nijiex} \end{equation}

という微分方程式の解が${\mathrm e}^{\lambda{x}}$だと仮定し代入すると、${\mathrm d\over \mathrm dx}{\mathrm e}^{\lambda{x}}=\lambda{\mathrm e}^{\lambda{x}},\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2{\mathrm e}^{\lambda{x}}=\lambda^2{\mathrm e}^{\lambda{x}}$を使って、

\begin{equation} \begin{array}{rcccccl} \biggl(& \left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2 & -&{\mathrm d\over \mathrm dx}&-2& \biggr){\mathrm e}^{\lambda{x}}=0 \\ & ↓ & &↓ & & \\ \biggl(& \lambda^2& -&\lambda&-2& \biggr){\mathrm e}^{\lambda{x}}=0 \end{array} \end{equation}

という式が導かれ、特性方程式$\lambda^2-\lambda-2=0$が満たされれば${\mathrm e}^{\lambda{x}}$が解になることがわかる。特性方程式は$(\lambda-2)(\lambda+1)=0$と因数分解できるので、$\lambda=2,\lambda=-1$の二つの解があり、${\mathrm e}^{2{x}}$と${\mathrm e}^{-{x}}$が解となる。一般解は

\begin{equation} f({x})=C{\mathrm e}^{2{x}}+D{\mathrm e}^{-{x}} \end{equation}

ということになる。二階微分方程式は二つの未定パラメータを持つ筈なので、これで解は求まっていると考えていいだろう。

もう少し詳細に解がこれで全て求まったということを確認しておこう。二階微分方程式を解いているから、ある点${x}=x_0$での関数の値$f(x_0)$と一階微分の値$f'(x_0)$が求まれば、その後のこの関数の値はすべて求まることになる。簡単のために${x}=0$での場合を考えると、$f(0)=C+D,f'(0)=2C-D$である。$f(0),f'(0)$がどのような値でもそれに応じて$C,D$を決めてやれば、その後の関数の形は全て決まる。よってこれで一般解が求められたことになる。

ここでは特性方程式を出してから因数分解を行って$\lambda$を求めたが、もともとの微分方程式を、

\begin{equation} \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} -2 \right) \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} +1 \right) f({x})=0\label{factorDE} \end{equation}

と書き換えてもよい(いわば`微分演算子の因数分解')この逆に$ \left({\mathrm d\over \mathrm dx} -2\right) \left({\mathrm d\over \mathrm dx} +1\right)f(x)=0$が元の式に戻ることを確認するのは容易である。。この式の左辺が0になるためには、

\begin{equation} \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} -2 \right)f({x})=0~~~または~~~ \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} +1 \right) f({x})=0 \end{equation}

のどちらかが成り立てばよい、と考えてもただし、こう考えてもよいのは$ \left({\mathrm d\over \mathrm dx} -2\right) \left({\mathrm d\over \mathrm dx} +1\right)$を掛けることと、$\left({\mathrm d\over \mathrm dx} +1\right) \left({\mathrm d\over \mathrm dx} -2\right)$を掛けることが同じ効果を産む場合、つまりこの二つの微分演算子が「交換する」場合である。定数係数の場合ならもちろん大丈夫だが、一般にそうとは限らない。、$C{\mathrm e}^{2{x}}+D{\mathrm e}^{-{x}}$という解が出てくる。

さて、これで二つの解が求められた、と安心してよいかというと、一般の特性方程式$A_2\lambda^2+A_1\lambda+A_0=0$が二つの実数解を持つとは限らないので、

  1. $A_2\lambda^2+A_1\lambda+A_0=0$が重解を持つ場合
  2. $A_2\lambda^2+A_1\lambda+A_0=0$が複素数解を保つ場合

にどうするかを考えていかなくてはいけない(特性方程式が3次以上になる場合も同様である)。

特性方程式が重解を持つ場合

(2)の複素数解を持つ場合については次の\節{fukusokai}で扱うことにして、ここでは重解の場合を考えよう。

一般論を考える手がかりとして、もっとも単純な「重解になる二次方程式」である$\lambda^2=0$(解は$\lambda=0$しかない)を考えてみよう。特性方程式が$\lambda^2=0$になるような微分方程式は

\begin{equation} \left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2 f({x})=0 \end{equation}

である。特性方程式の解は$\lambda=0$しかないから、前節の手順の通りに計算すると解として$C{\mathrm e}^0=C$という「定数解」だけが出て来る。

しかし、前節でやったことを忘れて素直に$ \left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2 f({x})=0$という式を見れば、解が

\begin{equation} f({x})= D{x}+C \end{equation}

なのはすぐにわかる(実際代入してみれば確かに二階微分すると0になる)。これは二つのパラメータを含んでいるから、立派な一般解である。

次に一般的に特性方程式が重解になる微分方程式として、

\begin{equation} \left( \left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2 -2A{\mathrm d\over \mathrm dx} +A^2 \right)f({x})=0~~~すなわち~~~ \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} - A \right)^2 f({x})=0 \end{equation}

を考えてみよう。これを見て、{$ \left({\mathrm d\over \mathrm dx} - A\right) f({x})=0$}になる関数を求めればよいと考えると、$f({x})=C{\mathrm e}^{A{x}}$という解があることはすぐにわかる。しかし、解はこれで終わりではない。なぜなら我々が求めたいのは$ \left({\mathrm d\over \mathrm dx} - A\right)$を二回掛けると0になる関数なのである。よって、$ \left({\mathrm d\over \mathrm dx} - A\right)$を掛けると$(定数)\times{\mathrm e}^{A{x}}$になる関数があればそれも解なのである。

実はそうなる関数はすぐに見つかり、${x}{\mathrm e}^{A{x}}$である。確認しよう。

\begin{equation} \left({\mathrm d\over \mathrm dx} - A\right)\left( {x}{\mathrm e}^{A{x}} \right)={\mathrm d\over \mathrm dx}\left({x}{\mathrm e}^{A{x}} \right)-A{x}{\mathrm e}^{A{x}} ={\mathrm e}^{A{x}}+\underbrace{ A{x}{\mathrm e}^{A{x}}-A{x}{\mathrm e}^{A{x}} }_{相殺} \end{equation}

こうして、重解である場合はもう一つの解$D{x}{\mathrm e}^{A{x}}$が出ることがわかったので、

二階線型微分方程式の特性方程式が重解を持つ場合の解

\begin{equation} \left({\mathrm d\over \mathrm dx} - A\right)^2 f({x})=0~~~の解は~~~ \left(D{x}+C\right){\mathrm e}^{A{x}} \end{equation}

がわかる。

この答えを出す方法として、

任意の関数$F({x})$に対し、
\begin{equation} \left({\mathrm d\over \mathrm dx}-A\right)\left( {\mathrm e}^{A{x}}F({x})\right) = {\mathrm e}^{A{x}}{\mathrm d\over \mathrm dx} F({x})\label{ddxA} \end{equation}
が成り立つ。

ということを先に証明しておくというのも良い方法である(後で応用が効く)。

つまり、${\mathrm d\over \mathrm dx}-A$という微分演算子の後にあった${\mathrm e}^{A{x}}$という数を微分演算子より前に出すと、${\mathrm d\over \mathrm dx}-A$の$-A$が消えて${\mathrm d\over \mathrm dx}$になる。

\begin{equation} \left({\mathrm d\over \mathrm dx}-A\right)\left({\mathrm e}^{A{x}}\fbox{なんとか}\right)\to {\mathrm e}^{A{x}}{\mathrm d\over \mathrm dx}\fbox{なんとか} \end{equation}

という置き換えができるのである省略形として$\left({\mathrm d\over \mathrm dx}-A\right){\mathrm e}^{A{x}}={\mathrm e}^{A{x}}{\mathrm d\over \mathrm dx}$などと書く場合もあるが、この式はそれだけでは(後に微分される関数がいなくては)意味が無い。こういう式はあくまで「記号」としての式であることに注意しよう。。この置き換えを使うと、

\begin{equation} 0= \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} - A \right)^2 \left({\mathrm e}^{A{x}}F({x})\right)={\mathrm e}^{A{x}}\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2 F({x}) \end{equation}

となるから、後は$\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2 F({x})=0$という解き易い微分方程式を解けばよい(この答えが$D{x}+C$であることはもう知っている)。

微分の階数が高くなっても同様に

\begin{equation} \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} - A \right)^k f({x})=0~~~の解は~~~ \left( C_{k-1}{x}^{k-1}+ C_{k-2}{x}^{k-2}+ \cdots+C_1{x}+C_0\right){\mathrm e}^{A{x}} \end{equation}

となる(これを証明するには、実際に代入してもよいし、上で考えた置き換えを使って考えてもよい)。

以上の結果をまとめておこう。

定数係数の線型同次微分方程式 $$ \left( A_n\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^n +A_{n-1}\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^{n-1} +\cdots +A_{1}{{\mathrm d\over \mathrm dx}} +A_0 \right){y} =0 $$ を解くには、微分演算子$\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^n$を$\lambda^n$という数に置き換えて、 $$ A_n\lambda^n +A_{n-1}\lambda^{n-1} +\cdots +A_{1}\lambda +A_0 =0 $$ という特性方程式を作る。この方程式が$n$個の相異なる解$\lambda_1,\lambda_2,\cdots,\lambda_n$を持っていたならば、 \begin{equation} C_1{\mathrm e}^{\lambda_1{x}} + C_2{\mathrm e}^{\lambda_2{x}} + C_3{\mathrm e}^{\lambda_3{x}} +\cdots + C_n{\mathrm e}^{\lambda_n{x}} \end{equation} が解である。解が$m$重解を含んでいた場合、重解である$\lambda_k$に対しては上の式の$C_k{\mathrm e}^{\lambda_k{x}}$を \begin{equation} \left( C_{k,m-1}{x}^{m-1} +C_{k,m-2}{x}^{m-2} +\cdots +C_{k,1}{x} +C_{k,0} \right){\mathrm e}^{\lambda_k{x}} \end{equation} と置き換える。

ここで「$\lambda$が複素数解を持っていた場合はどうするのか?」という点が気になる人もいるかもしれない。それについては次の節で考えよう。

重ねあわせの原理(続き) 複素数を使って解く微分方程式

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複素数を使って解く微分方程式

ここでは、複素数を使うことで微分方程式がどのように解きやすくなるのかを解説しよう微積における複素数の使い途という意味では「複素積分」という非常に有効なテクニックがあるのだが、本書ではその部分は解説しない。

複素数を使うことで微分方程式が解ける例として非常によく出てくる、

\begin{equation}\left( {\mathrm d\over \mathrm dx} \right)^2{y}= -{y} \end{equation}

という方程式を考えよう。

「こうなる関数を探す」という方法でこの微分方程式を解いておこう。要は「二階微分したら元の関数の$-1$倍になる関数」である。我々はそういう関数を二つ知っている。$\sin {x}{\to }\cos {x}{\to}-\sin {x}$と$\cos {x}{\to }-\sin {x}{\to}-\cos {x}$である。よって、解は${y}=A\cos{x}+B\sin{x}$である。

ここまでやってきた定数係数の線形微分方程式の一般論からすると、${y}={{\mathrm e}^{\lambda x}}$としたくなるところだが、代入すると

\begin{equation} \lambda^2{{\mathrm e}^{\lambda {x}}}= -{{\mathrm e}^{\lambda {x}}} \end{equation}

となり、$\lambda^2=-1$という「{\bf 実数の範囲で考えれば解なし}」の方程式が出てくる。虚数を知らない人は、ここで

ああ、この微分方程式はこの方法では解けない。

と諦めてしまうことになる。しかしすでに虚数を知っている我々は、$\lambda=\pm{\mathrm i}$という「とりあえずの答え」を出して、

$\lambda^2{{\mathrm e}^{\lambda {x}}}= -{{\mathrm e}^{\lambda {x}}}$の解は、${\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}$と${\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}$である。

と考えて先に進むことができる。

ここで出てきた二つの解${\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}$と${\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}$が互いに複素共役であることに注意。実数の係数の方程式の解が複素数になる時は、その複素共役も解のペアとして必ず現れる。その理由は、$$\left(実数係数のみを持つ微分演算子\right)f({x})=0~~~例:\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2{y}=-{y}$$という方程式の複素共役をとれば$$\left(実数係数のみを持つ微分演算子\right)f^*({x})=0~~~例:\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2{y^*}=-{y^*}$$となる、ということを考えればわかる。

FAQ:答えが実数じゃなくていいんですか?

それが上で「とりあえずの答え」と書いた理由である。実数ではなくてはならないのは最終的に求められる解であって、計算の途中で現れる量は複素数でもよい。最後に実数であるべきものが実数であるように、以下で調節する。

先に進んでみよう。一般解は

\begin{equation} {y}=A{\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}+ B{\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}\label{Csindou} \end{equation}

となる。$A$と$B$は今から選ぶ定数(しかも、複素数の定数)である。

方針

この答えは一見複素数に見えるが、実際に欲しいのは実数解である。そこで、以下の二つの考え方のどちらかで実数解を得ることができる。
  1. この解が実数になるように任意パラメータの$A,B$を調整する。
  2. この解のうち実数部分を取り出せばそれが欲しい解である。

まず(1)の方法で考えよう。この解が実数になれということは、複素共役である

\begin{equation} {y}^*= A^* {\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}} +B^* {\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}\label{Csindoustar} \end{equation}

が元の${y}$と同じであれ、ということである。そうなるためには、$A^*=B$であればよい。こうすると自動的に$B^*=A$であることになり、二つの式が同じ式になる。こうして$A$と$B$に関係がついたから、以後は$B$を$A^*$と書くことにして、

\begin{equation} {y}=A {\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}} +A^* {\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}} \end{equation}

を解とすればよい。ここで、複素数である$A$を極表示して$A=|A|{\mathrm e}^{{\mathrm i}\alpha}$とする($\alpha$は実数)複素数を$R{\mathrm e}^{{\mathrm i}\theta}$のように表示するのを「極表示」と言う。。すると、

\begin{equation} {y}= |A|\left( {\mathrm e}^{{\mathrm i}({x}+\alpha)} +{\mathrm e}^{-{\mathrm i}({x}+\alpha)}\right) \end{equation}

と答えをまとめることができる(この形の方が実数であることが明白である)。さらに${{\mathrm e}^{{\mathrm i}\theta}+{\mathrm e}^{-{\mathrm i}\theta}\over 2}=\cos\theta$を使うと、

\begin{equation} {y}=2|A|\cos({x}+\alpha) \end{equation}

となる。

同じ考え方なのだが、以下のようにしてもよい。

${\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}$と${\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}$を使って実数となる組み合わせを作ると、${\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}+{\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}$か$I({\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}-{\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}})$か、どちらか(もしくはこの二つの線型結合)である。つまり、上の式を

\begin{equation} {y}=C\underbrace{\left({\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}+{\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}\right)}_{2\cos {x}}+{\mathrm i} D\underbrace{\left({\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}-{\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}\right)}_{2{\mathrm i} \sin {x}} =2C \cos {x} -2D \sin {x} \end{equation}

と書きなおしてもよい($A=C+{\mathrm i} D,B=C-{\mathrm i} D$)。

(2)の方法を取る時は、まず$A=|A|{\mathrm e}^{{\mathrm i}\alpha},B=|B|{\mathrm e}^{{\mathrm i}\beta}$と極表示して、

\begin{equation} {y}= |A|{\mathrm e}^{{\mathrm i}({x}+\alpha)} +|B|{\mathrm e}^{-{\mathrm i}({x}-\beta)} \end{equation}

となり、この実数部分を取り出せば、

\begin{equation} {y}=|A|\cos ({x}+\alpha) +|B|\cos ({x}-\beta) \end{equation}

となる。ここで、実数を取った結果であるこの式を見ると、実は第1項だけで十分であったことがわかる(実際この解だけで2個の未定パラメータを含んだ解になっている)。

よって、(2)の方法を取るとき、つまり「後で実数部分だけを取り出すことにしよう」と計算するときは、

\begin{equation} {y}=|A|\cos ({x}+\alpha) \end{equation}

を解として考えれば十分なのである。

ここでは生真面目に${\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}$と${\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}$の二つを解としたのだが、よく考えてみると、元々の方程式は実数係数のものであったから、${\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}$が解であったなら、その複素共役である${\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}$が解であることは「計算するまでもなくあたりまえ」である。よって「微分方程式に現れる数が全て実数である場合」には、複素共役の両方を解にする必要はなく、どちらか一方のみを解として考えればよい(もちろん「これの複素共役も解だぞ」ということを覚えておく)。もちろん、元々の微分方程式が${\mathrm i}$を含んでいる場合はこうはいかない。

複素数導入の意義

こんなふうに複素数を導入したことによって微分方程式が解けるようになる理由---あるいは逆に言えば複素数がなかったら解けない方程式がある理由は、複素数がなかったら(虚数がなかったら)、$-1$を掛けるという操作の「微小変化」が作れないからである。たとえば2倍するという操作は微小変化として、$1.000001$倍するを考えてこれを約693148回行えばよい($1.000001^{693148}\fallingdotseq 2$)。ところが$-1$倍についてはこれができない。

数直線の上を掛算を繰り返しながら「1から2までの旅」をするとすると、それは1.000001を掛けるという動作を約693148回やればよい。ところが「1から-1までの旅」をしようとすると途中で0を通るが、0は何を掛けても0なので、そこを超えられない。平面的な広がりがあって始めて「0をよける」ことができる。

微分とは「微小な変化を考える」という計算であり、積分はその逆に「微小な変化を積み重ねる」という計算であった。しかし「$-1$倍する」という計算は(複素数の助けが無ければ)「微小変化を考える」のには不向きなのである。

ところが、複素数の範囲で考えるならば「微小な回転」を考えられる。たとえば、「${\mathrm e}^{0.0001{\mathrm i}\pi}$を掛ける」という計算を10000回行えば

\begin{equation} \left({\mathrm e}^{0.0001{\mathrm i}\pi}\right)^{10000}={\mathrm e}^{{\mathrm i}\pi}=-1 \end{equation}

となるのである。

プリントでは10000が1000になってました。訂正して下さい。

これをもう少し細かく見ておこう。複素平面において${\mathrm i}$を掛けるというのは、実は「90度(${\pi\over 2}$)回転させる」のと同じ計算である。$(a,b)$というベクトルは複素平面上では複素数$a+b{\mathrm i}$で表現されるが、これに${\mathrm i}$を掛けた結果は${\mathrm i} a -b$であり、ベクトルで表現すると$(-b,a)$となり、これはまさに直角回転なのである。

ということは、$1+{\mathrm i}{\mathrm d\theta}$を掛けるという計算は、図に示したように、元のベクトル($1$を掛けた部分)に元のベクトルを${\pi\over 2}$倒して長さを${\mathrm d\theta}$倍したベクトル(${\mathrm i}{\mathrm d\theta}$を掛けた部分)を足せ、という計算となる。これはつまり「微小角度の回転」なのである。この微小回転を何回も(どころか、無限回)繰り返すことで有限角度の回転ができる。たとえば角度$\theta$の回転を行いたいならば、まず${\theta\over N}$という微小な角度の回転を行なって、次にそれを$N$回行えばよい。

それを表現する式は

\begin{equation} \left(1+{\mathrm i}{\theta\over N}\right)^N \end{equation}

である。これを$N\to\infty$極限を取れば正しい有限角度の回転が出る。ここで指数関数の定義の一つである、

\begin{equation} \lim_{N\to\infty} \left(1+{x\over N}\right)^N = \exp x \end{equation}

を思い出せば、

\begin{equation} \lim_{N\to\infty} \left(1+{\mathrm i}{\theta\over N}\right)^N=\exp\left({\mathrm i}\theta\right) \end{equation}

となる。つまり複素数を使うことで「回転」を表現できる。

回転するからには、元の方向の成分は短くならなくてはいけないのでは?

微小角度の回転を考えるときは、${\cal O}({\mathrm d\theta})$の話をしている(つまり、${\cal O}({\mathrm d\theta}^2)$は無視している)ので元の方向の成分が短くならないように見える。たとえば微小回転を2回して${\cal O}({\mathrm d\theta}^2)$を考えれば、
\begin{equation} \left(1+{\mathrm i}{\mathrm d\theta}\right)^2=1+2{\mathrm i}{\mathrm d\theta} -{\mathrm d\theta}^2 \end{equation}
となってちゃんと元の方向の成分は$1-{\mathrm d\theta}^2$倍に短くなっている。
定数係数の斉次線型微分方程式 受講者の感想・コメント

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受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

言葉にまどわされないようがんばります。
一つ一つの内容は決して難しいものではないので、じっくり理解していってください。

虚数の便利さが少し分かりました。
虚数は使い途がたくさんあります。

物理学基礎演習でも複素数やりましたが、あらためて虚数のありがたみを感じました。
そうなんです、虚数は役に立つのです。

前半は授業についていけたが、後半になると、自然科学のための数学Iを受けてないとわからない内容らしいと感じてしまい、授業についていけなかった。まとまった勉強時間が必要だと感じた。
後半というのは、複素数のところかな?(別にIを受けてなくても複素数を知ってれば大丈夫なはず)複素数を使った計算もいろんなところで使うので、マスターしておいた方がいいですよ。

斉次線型微分方程式の解をしっかり理解し、できるようにしたい。
次回から実例を練習していきましょう。

いろいろふくざつで難しく感じました。
悪いけど、ここは「一番単純な所」です。じっくり読みなおしてみてください。ここで難しく感じてたら後々全部困りますよ。

2つに分けるというやり方が少し難しかった。虚数の存在する意味を聞いたがいまいちパッとなるほど!とならなかった。1.00001を693148回かけると2をかけるのと一緒というのはびっくりした。
「2つに分ける」ってどこだろう?。斉次の一般解と非斉次の特解を別に求めるところかな。「どういう必要性があってそうしているか」というところを理解すれば、難しい話ではないと思います。

線型は一見簡単そうに見えると授業に入ったけど、後半難しかった。もう一度復習して考え直してみようと思う。
じっくりと考えてみてください。

微分方程式が面白く感じられる内容だった。
解けていくと面白いですよ。

一般解と特解から一般解作れるという話は不思議だった。パラメータが自由に動けるということがポイントだと知った。虚数が(-1)倍の微小変化に必要としった(0をよけるため)。
一般であるための性質(未定のパラメータを持つこと)は斉次の一般解が持ってくれているおかげですね。

今日は内容が多く、頭でまとまらず理解が足りなかった。復習と予習がより一層必要になったのを感じた。
では予習復習(特に復習)をやっておきましょう。

なぜ虚数というものがあるかというと、これによって微小変化に広がりができるから。インターネットなどで調べて復習したいと思います。
虚数があるおかげで計算ができるようになる、という事例はたくさんあります。

複素数がでてきて、これから新しい話が始まりそうなので、頑張りたい。
ここからもお楽しみに。

今回はとても難しいやつをしていると思っていたら、高校の時の範囲とかの部分が出てきて分かりやすかったです。忘れないよう復習します。
いろいろやってみてください。

少しだけ虚数と仲良くなれた気がする…。
仲良くなっておいた方がいいですよ、今後のためにも。

複素数は嫌いだったけど、やりやすくなるってわかって、ちょっと頑張ってものにしようと思いました。
とても役に立つ奴なので、嫌わないで使ってやってください。

「複素数」の必要性を知ることがができた!!
大事です!

なぜ虚数を使うのか、少しわかった。重ねあわせの原理も問題をやって理解する。
いろいろ問題やってみてください。

複素数も微分方程式で解けることが始めてわかった。
というか、微分方程式を解いていくと、複素数が自然に出てきてしまうんですね。

線型微分方程式、複素数の話でしたが、数学の考え方がまた一つ自分の中で広がったのでよかったです。
まだまだ広い世界が待ってます。

虚数は便利な奴であるということが分かった。
はい、とても便利な奴です。

休日の間に頭の中を整理したいと思いました。
プリントよく読んで、練習してみてください。

前回までの内容に比べ、計算考え方が少し難しくなったように感じた。一回一回しっかり理解して次の内容に進んでいきたいなと思った。
じっくりと一歩一歩見ていけばそんなに難しくないはずです。復習を!

今回の授業では解の求め方を教わったが、少し難しかった。
復習し、練習してみてください。

基礎演習で少し前に複素数をやったが、より分かりやすかったです。
複素数はこの後もずっとお世話になりますよ。

線型微分方程式の解き方を使えるようにしていきたいです。
練習をしてみましょう。

iはすごいと思った。
まだまだ、他にも虚数のおかげで助かることはたくさんあります。

非斉次・斉次の意味がわかりました! 難しく考えすぎていました!!
そうそう、中身が分かれば全然怖くない。

難しく感じる言葉も記号も、簡単な言葉になおして考えることで、もっと理解しやすくなりました。言葉だけにびびらずにやっていきたいです!
最初難しそうに感じる言葉も、使っていくうちに「おなじみ」になっていくと思います。

斉次/非斉次の説明を詳しくしてくれたので、よくわかりました。また、虚数の意義は今まで全然わかってなかったので、よくわかりました。
虚数はいろんなところで使えますよ。

重解の時の解の出し方が仕組みはなんとなくわかったけど自力で解けるか難しいです。
一回やっておけば、すぐできるようになります。

虚数は実際にはない数字なのでイメージしにくかったですが、今日でなんとなくつかめた気がしました。
複素数の掛算のイメージ(iを掛けるのが90度回転とか)はなかなかおもしろいですよ。

iの存在意義をしれてよかった。
これだけでなく、いろんなところで役に立ちます。

$({\mathrm d\over \mathrm dx}-A)(\mathrm e^{Ax}?)=A\mathrm e^{Ax}?+\mathrm e^{Ax}{\mathrm d\over \mathrm dx}?-A\mathrm e^{Ax}?=\mathrm e^{Ax}{\mathrm d\over\mathrm dx}?$
理解しましたが、すぐに結果が出せるよう覚えたい。
これからも何度か使っていく式です。

特性方程式が重解を持つ場合の計算過程が少し難しいと感じました。
たぶん、最初だけです。計算何度かやって慣れれば、全然難しくないです。

虚数が何故必要か少しわかった。
いろいろ理由がありますが、微分方程式を解くという観点からすると今日のお話になります。

微分方程式が少しずつ複雑になってきたけど、講義を受けて少し理解できてきた。
複雑になっても、これが解けるようにならないとね。

大学に入って微分方程式が出てきたけど、とても面白いと思う。
物理などで使えるものなので、使いこなしていってください。

今日は特性方程式などのことがわかってよかった。
使いこなしていきましょう。

今日のは本当に難しかったです。自分でもどこがわからないのかわからなかった。
かなり深刻な状況ですね。たぶん今日のところというよりは、その前あたりから何か理解が抜けていると思われます。前に戻って復習してください。

虚数を使うことで平面上に負の数を表すことができるのはいいと思った。
この複素平面という考え方は、今後、とても役に立ちます。

何か物理関係の本でおもしろいものはありますか?
仮面ライダーは何が好きですか?
「おもしろい」本はいろいろあるけど、どういうおもしろさを求めているのかな??
平成ものでも最初の方のがいいかな、仮面ライダーは。

定数係数の二階線型微分方程式の例

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