先週は
というところまでやったので、今週はまず、これの簡単な例をやってみよう。
\begin{equation} {\mathrm d\over \mathrm dx} {y}= {x}+{y} \end{equation}という非斉次線型微分方程式を解きたい。これは「変数分離できる形」にはなってない。
まずは試行錯誤で解を探す。たとえば${y}=a{x}+b$が解になるだろうか、ということを考えてみる。代入してみると、
\begin{equation} \begin{array}{rl} \underbrace{a}_{\tiny {\mathrm d\over \mathrm dx} {y}}=& {x}+\underbrace{a{x}+b}_{{y}} \\ 0=&(1+a){x}+b-a \end{array} \end{equation}となるから、$a=-1,b=-1$が解となる。これで${y}=-{x}-1$という解が見つかったわけである。ここで「バンザイ、解が見つかった」と終わってはいけない。なぜならこの解は「特別なある1つの解」であって、全ての解を求めていないのである。
関数${y}=-{x}-1$は上のグラフであり、この線の上という(全$x$-$y$平面から見たらほんとに狭い)範囲の上での「解」を求めたに過ぎない。前に述べたように、このような解を「特解」と呼ぶ。我々が求めたいのは全$x$-$y$平面を埋め尽くす、「一般解」である。
非斉次になっているのは${x}$という項のせいだから、これを消して
\begin{equation} {\mathrm d\over \mathrm dx} {y}= {y} \end{equation}という斉次方程式を作ってみると、この解は
\begin{equation} {y}=C {\mathrm e}^{{x}} \end{equation}である。非斉次方程式の解は特解にこの「斉次方程式の一般解」を足せば作ることができる。すなわち、
\begin{equation} {y}=-{x}-1 + C{\mathrm e}^{{x}} \end{equation}が「一般解」なのである。
グラフを上の図に示した。グラフは$C$を$0.5$ずつ変えた線を示しているが、もちろん線と線の隙間にもちゃんと線があり、全平面を埋め尽くしている。どのような初期値$(x_0,y_0)$から出発しても、この微分方程式に従うその後の変化がわかることになる。
重ねあわせの原理のおかげで
という関係が成立するおかげで、このような計算ができる。
ここでやったことは以下のように考えてもよい。まず特解${y}=-{x}-1$を見つけたから、「実際の解は特解に近い形をしているだろう」と推測し、「とりあえず特解に未知の関数${Y}$を足したものが解だろう」とあたりをつけて、${y}=-{x}-1+{Y}$と置いてみる。これを元の微分方程式に代入すれば、
\begin{equation} \begin{array}{rl} {\mathrm d\over \mathrm dx} \left( -{x}-1+{Y} \right)=&{x}\underbrace{-{x}-1+{Y}}_{{y}}\\ {-1} + {\mathrm d\over \mathrm dx} {Y}=& {-1} + {Y} \end{array} \end{equation}となるから、後は${\mathrm d\over \mathrm dx} {Y}={Y}$という微分方程式を解けばよい。
一般的な線型微分方程式の解き方を考える前に、まずは簡単な例を考えよう。
というわけでここでは線型斉次で、かつ係数$A_i({x})$が定数$A_i$である場合、すなわち
\begin{equation} \left( A_n\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^n +A_{n-1}\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^{n-1} +\cdots +A_{1}{{\mathrm d\over \mathrm dx}} +A_0 \right){y} =0\label{teisuusenkeiseiji} \end{equation}を解く一般的な方法を示そう。
まず、この微分方程式には、${\mathrm e}^{\lambda {x}}$という形で表せる解がある($\lambda$はこの後決める定数である)。これが解になるかどうかを確認するために代入してみると、
\begin{equation} {{\mathrm d\over \mathrm dx} }{\mathrm e}^{\lambda{x}}=\lambda{\mathrm e}^{\lambda{x}},~~ \left({{\mathrm d\over \mathrm dx} }\right)^2{\mathrm e}^{\lambda{x}}=\lambda^2{\mathrm e}^{\lambda{x}},\cdots, \left({{\mathrm d\over \mathrm dx} }\right)^2{\mathrm e}^{\lambda{x}}=\lambda^n{\mathrm e}^{\lambda{x}} \end{equation}となることを使うと、微分方程式は
\begin{equation} \left( A_n\lambda^n +A_{n-1}\lambda^{n-1} +\cdots A_1 \lambda + A_0 \right){\mathrm e}^{\lambda{x}}=0 \end{equation}という式に変わる。よって、
\begin{equation} A_n\lambda^n +A_{n-1}\lambda^{n-1}+\cdots A_1 \lambda + A_0=0\label{tokusei} \end{equation}となるような$\lambda$が存在していれば、その$\lambda$を代入した${\mathrm e}^{\lambda {x}}$が解である。$\lambda$が満たすべき方程式と「特性方程式」と呼ぶ。
簡単な例として、特性方程式が二次になる場合をやってみよう。
\begin{equation} \left( \left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2 -{\mathrm d\over \mathrm dx} -2 \right)f({x})=0\label{nijiex} \end{equation}という微分方程式の解が${\mathrm e}^{\lambda{x}}$だと仮定し代入すると、${\mathrm d\over \mathrm dx}{\mathrm e}^{\lambda{x}}=\lambda{\mathrm e}^{\lambda{x}},\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2{\mathrm e}^{\lambda{x}}=\lambda^2{\mathrm e}^{\lambda{x}}$を使って、
\begin{equation} \begin{array}{rcccccl} \biggl(& \left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2 & -&{\mathrm d\over \mathrm dx}&-2& \biggr){\mathrm e}^{\lambda{x}}=0 \\ & ↓ & &↓ & & \\ \biggl(& \lambda^2& -&\lambda&-2& \biggr){\mathrm e}^{\lambda{x}}=0 \end{array} \end{equation}という式が導かれ、特性方程式$\lambda^2-\lambda-2=0$が満たされれば${\mathrm e}^{\lambda{x}}$が解になることがわかる。特性方程式は$(\lambda-2)(\lambda+1)=0$と因数分解できるので、$\lambda=2,\lambda=-1$の二つの解があり、${\mathrm e}^{2{x}}$と${\mathrm e}^{-{x}}$が解となる。一般解は
\begin{equation} f({x})=C{\mathrm e}^{2{x}}+D{\mathrm e}^{-{x}} \end{equation}ということになる。二階微分方程式は二つの未定パラメータを持つ筈なので、これで解は求まっていると考えていいだろう。
もう少し詳細に解がこれで全て求まったということを確認しておこう。二階微分方程式を解いているから、ある点${x}=x_0$での関数の値$f(x_0)$と一階微分の値$f'(x_0)$が求まれば、その後のこの関数の値はすべて求まることになる。簡単のために${x}=0$での場合を考えると、$f(0)=C+D,f'(0)=2C-D$である。$f(0),f'(0)$がどのような値でもそれに応じて$C,D$を決めてやれば、その後の関数の形は全て決まる。よってこれで一般解が求められたことになる。
ここでは特性方程式を出してから因数分解を行って$\lambda$を求めたが、もともとの微分方程式を、
\begin{equation} \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} -2 \right) \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} +1 \right) f({x})=0\label{factorDE} \end{equation}と書き換えてもよい(いわば`微分演算子の因数分解')この逆に$ \left({\mathrm d\over \mathrm dx} -2\right) \left({\mathrm d\over \mathrm dx} +1\right)f(x)=0$が元の式に戻ることを確認するのは容易である。。この式の左辺が0になるためには、
\begin{equation} \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} -2 \right)f({x})=0~~~または~~~ \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} +1 \right) f({x})=0 \end{equation}のどちらかが成り立てばよい、と考えてもただし、こう考えてもよいのは$ \left({\mathrm d\over \mathrm dx} -2\right) \left({\mathrm d\over \mathrm dx} +1\right)$を掛けることと、$\left({\mathrm d\over \mathrm dx} +1\right) \left({\mathrm d\over \mathrm dx} -2\right)$を掛けることが同じ効果を産む場合、つまりこの二つの微分演算子が「交換する」場合である。定数係数の場合ならもちろん大丈夫だが、一般にそうとは限らない。、$C{\mathrm e}^{2{x}}+D{\mathrm e}^{-{x}}$という解が出てくる。
さて、これで二つの解が求められた、と安心してよいかというと、一般の特性方程式$A_2\lambda^2+A_1\lambda+A_0=0$が二つの実数解を持つとは限らないので、
にどうするかを考えていかなくてはいけない(特性方程式が3次以上になる場合も同様である)。
(2)の複素数解を持つ場合については次の\節{fukusokai}で扱うことにして、ここでは重解の場合を考えよう。
一般論を考える手がかりとして、もっとも単純な「重解になる二次方程式」である$\lambda^2=0$(解は$\lambda=0$しかない)を考えてみよう。特性方程式が$\lambda^2=0$になるような微分方程式は
\begin{equation} \left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2 f({x})=0 \end{equation}である。特性方程式の解は$\lambda=0$しかないから、前節の手順の通りに計算すると解として$C{\mathrm e}^0=C$という「定数解」だけが出て来る。
しかし、前節でやったことを忘れて素直に$ \left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2 f({x})=0$という式を見れば、解が
\begin{equation} f({x})= D{x}+C \end{equation}なのはすぐにわかる(実際代入してみれば確かに二階微分すると0になる)。これは二つのパラメータを含んでいるから、立派な一般解である。
次に一般的に特性方程式が重解になる微分方程式として、
\begin{equation} \left( \left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2 -2A{\mathrm d\over \mathrm dx} +A^2 \right)f({x})=0~~~すなわち~~~ \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} - A \right)^2 f({x})=0 \end{equation}を考えてみよう。これを見て、{$ \left({\mathrm d\over \mathrm dx} - A\right) f({x})=0$}になる関数を求めればよいと考えると、$f({x})=C{\mathrm e}^{A{x}}$という解があることはすぐにわかる。しかし、解はこれで終わりではない。なぜなら我々が求めたいのは$ \left({\mathrm d\over \mathrm dx} - A\right)$を二回掛けると0になる関数なのである。よって、$ \left({\mathrm d\over \mathrm dx} - A\right)$を掛けると$(定数)\times{\mathrm e}^{A{x}}$になる関数があればそれも解なのである。
実はそうなる関数はすぐに見つかり、${x}{\mathrm e}^{A{x}}$である。確認しよう。
\begin{equation} \left({\mathrm d\over \mathrm dx} - A\right)\left( {x}{\mathrm e}^{A{x}} \right)={\mathrm d\over \mathrm dx}\left({x}{\mathrm e}^{A{x}} \right)-A{x}{\mathrm e}^{A{x}} ={\mathrm e}^{A{x}}+\underbrace{ A{x}{\mathrm e}^{A{x}}-A{x}{\mathrm e}^{A{x}} }_{相殺} \end{equation}こうして、重解である場合はもう一つの解$D{x}{\mathrm e}^{A{x}}$が出ることがわかったので、
がわかる。
この答えを出す方法として、
ということを先に証明しておくというのも良い方法である(後で応用が効く)。
つまり、${\mathrm d\over \mathrm dx}-A$という微分演算子の後にあった${\mathrm e}^{A{x}}$という数を微分演算子より前に出すと、${\mathrm d\over \mathrm dx}-A$の$-A$が消えて${\mathrm d\over \mathrm dx}$になる。
\begin{equation} \left({\mathrm d\over \mathrm dx}-A\right)\left({\mathrm e}^{A{x}}\fbox{なんとか}\right)\to {\mathrm e}^{A{x}}{\mathrm d\over \mathrm dx}\fbox{なんとか} \end{equation}という置き換えができるのである省略形として$\left({\mathrm d\over \mathrm dx}-A\right){\mathrm e}^{A{x}}={\mathrm e}^{A{x}}{\mathrm d\over \mathrm dx}$などと書く場合もあるが、この式はそれだけでは(後に微分される関数がいなくては)意味が無い。こういう式はあくまで「記号」としての式であることに注意しよう。。この置き換えを使うと、
\begin{equation} 0= \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} - A \right)^2 \left({\mathrm e}^{A{x}}F({x})\right)={\mathrm e}^{A{x}}\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2 F({x}) \end{equation}となるから、後は$\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2 F({x})=0$という解き易い微分方程式を解けばよい(この答えが$D{x}+C$であることはもう知っている)。
微分の階数が高くなっても同様に
\begin{equation} \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} - A \right)^k f({x})=0~~~の解は~~~ \left( C_{k-1}{x}^{k-1}+ C_{k-2}{x}^{k-2}+ \cdots+C_1{x}+C_0\right){\mathrm e}^{A{x}} \end{equation}となる(これを証明するには、実際に代入してもよいし、上で考えた置き換えを使って考えてもよい)。
以上の結果をまとめておこう。
ここで「$\lambda$が複素数解を持っていた場合はどうするのか?」という点が気になる人もいるかもしれない。それについては次の節で考えよう。
ここでは、複素数を使うことで微分方程式がどのように解きやすくなるのかを解説しよう微積における複素数の使い途という意味では「複素積分」という非常に有効なテクニックがあるのだが、本書ではその部分は解説しない。。
複素数を使うことで微分方程式が解ける例として非常によく出てくる、
\begin{equation}\left( {\mathrm d\over \mathrm dx} \right)^2{y}= -{y} \end{equation}という方程式を考えよう。
「こうなる関数を探す」という方法でこの微分方程式を解いておこう。要は「二階微分したら元の関数の$-1$倍になる関数」である。我々はそういう関数を二つ知っている。$\sin {x}{\to }\cos {x}{\to}-\sin {x}$と$\cos {x}{\to }-\sin {x}{\to}-\cos {x}$である。よって、解は${y}=A\cos{x}+B\sin{x}$である。
ここまでやってきた定数係数の線形微分方程式の一般論からすると、${y}={{\mathrm e}^{\lambda x}}$としたくなるところだが、代入すると
\begin{equation} \lambda^2{{\mathrm e}^{\lambda {x}}}= -{{\mathrm e}^{\lambda {x}}} \end{equation}となり、$\lambda^2=-1$という「{\bf 実数の範囲で考えれば解なし}」の方程式が出てくる。虚数を知らない人は、ここで
と諦めてしまうことになる。しかしすでに虚数を知っている我々は、$\lambda=\pm{\mathrm i}$という「とりあえずの答え」を出して、
と考えて先に進むことができる。
ここで出てきた二つの解${\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}$と${\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}$が互いに複素共役であることに注意。実数の係数の方程式の解が複素数になる時は、その複素共役も解のペアとして必ず現れる。その理由は、$$\left(実数係数のみを持つ微分演算子\right)f({x})=0~~~例:\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2{y}=-{y}$$という方程式の複素共役をとれば$$\left(実数係数のみを持つ微分演算子\right)f^*({x})=0~~~例:\left({\mathrm d\over \mathrm dx}\right)^2{y^*}=-{y^*}$$となる、ということを考えればわかる。
先に進んでみよう。一般解は
\begin{equation} {y}=A{\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}+ B{\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}\label{Csindou} \end{equation}となる。$A$と$B$は今から選ぶ定数(しかも、複素数の定数)である。
まず(1)の方法で考えよう。この解が実数になれということは、複素共役である
\begin{equation} {y}^*= A^* {\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}} +B^* {\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}\label{Csindoustar} \end{equation}が元の${y}$と同じであれ、ということである。そうなるためには、$A^*=B$であればよい。こうすると自動的に$B^*=A$であることになり、二つの式が同じ式になる。こうして$A$と$B$に関係がついたから、以後は$B$を$A^*$と書くことにして、
\begin{equation} {y}=A {\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}} +A^* {\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}} \end{equation}を解とすればよい。ここで、複素数である$A$を極表示して$A=|A|{\mathrm e}^{{\mathrm i}\alpha}$とする($\alpha$は実数)複素数を$R{\mathrm e}^{{\mathrm i}\theta}$のように表示するのを「極表示」と言う。。すると、
\begin{equation} {y}= |A|\left( {\mathrm e}^{{\mathrm i}({x}+\alpha)} +{\mathrm e}^{-{\mathrm i}({x}+\alpha)}\right) \end{equation}と答えをまとめることができる(この形の方が実数であることが明白である)。さらに${{\mathrm e}^{{\mathrm i}\theta}+{\mathrm e}^{-{\mathrm i}\theta}\over 2}=\cos\theta$を使うと、
\begin{equation} {y}=2|A|\cos({x}+\alpha) \end{equation}となる。
同じ考え方なのだが、以下のようにしてもよい。
${\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}$と${\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}$を使って実数となる組み合わせを作ると、${\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}+{\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}$か$I({\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}-{\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}})$か、どちらか(もしくはこの二つの線型結合)である。つまり、上の式を
\begin{equation} {y}=C\underbrace{\left({\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}+{\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}\right)}_{2\cos {x}}+{\mathrm i} D\underbrace{\left({\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}-{\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}\right)}_{2{\mathrm i} \sin {x}} =2C \cos {x} -2D \sin {x} \end{equation}と書きなおしてもよい($A=C+{\mathrm i} D,B=C-{\mathrm i} D$)。
(2)の方法を取る時は、まず$A=|A|{\mathrm e}^{{\mathrm i}\alpha},B=|B|{\mathrm e}^{{\mathrm i}\beta}$と極表示して、
\begin{equation} {y}= |A|{\mathrm e}^{{\mathrm i}({x}+\alpha)} +|B|{\mathrm e}^{-{\mathrm i}({x}-\beta)} \end{equation}となり、この実数部分を取り出せば、
\begin{equation} {y}=|A|\cos ({x}+\alpha) +|B|\cos ({x}-\beta) \end{equation}となる。ここで、実数を取った結果であるこの式を見ると、実は第1項だけで十分であったことがわかる(実際この解だけで2個の未定パラメータを含んだ解になっている)。
よって、(2)の方法を取るとき、つまり「後で実数部分だけを取り出すことにしよう」と計算するときは、
\begin{equation} {y}=|A|\cos ({x}+\alpha) \end{equation}を解として考えれば十分なのである。
ここでは生真面目に${\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}$と${\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}$の二つを解としたのだが、よく考えてみると、元々の方程式は実数係数のものであったから、${\mathrm e}^{{\mathrm i} {x}}$が解であったなら、その複素共役である${\mathrm e}^{-{\mathrm i} {x}}$が解であることは「計算するまでもなくあたりまえ」である。よって「微分方程式に現れる数が全て実数である場合」には、複素共役の両方を解にする必要はなく、どちらか一方のみを解として考えればよい(もちろん「これの複素共役も解だぞ」ということを覚えておく)。もちろん、元々の微分方程式が${\mathrm i}$を含んでいる場合はこうはいかない。
こんなふうに複素数を導入したことによって微分方程式が解けるようになる理由---あるいは逆に言えば複素数がなかったら解けない方程式がある理由は、複素数がなかったら(虚数がなかったら)、$-1$を掛けるという操作の「微小変化」が作れないからである。たとえば2倍するという操作は微小変化として、$1.000001$倍するを考えてこれを約693148回行えばよい($1.000001^{693148}\fallingdotseq 2$)。ところが$-1$倍についてはこれができない。
微分とは「微小な変化を考える」という計算であり、積分はその逆に「微小な変化を積み重ねる」という計算であった。しかし「$-1$倍する」という計算は(複素数の助けが無ければ)「微小変化を考える」のには不向きなのである。
ところが、複素数の範囲で考えるならば「微小な回転」を考えられる。たとえば、「${\mathrm e}^{0.0001{\mathrm i}\pi}$を掛ける」という計算を10000回行えば
\begin{equation} \left({\mathrm e}^{0.0001{\mathrm i}\pi}\right)^{10000}={\mathrm e}^{{\mathrm i}\pi}=-1 \end{equation}となるのである。
これをもう少し細かく見ておこう。複素平面において${\mathrm i}$を掛けるというのは、実は「90度(${\pi\over 2}$)回転させる」のと同じ計算である。$(a,b)$というベクトルは複素平面上では複素数$a+b{\mathrm i}$で表現されるが、これに${\mathrm i}$を掛けた結果は${\mathrm i} a -b$であり、ベクトルで表現すると$(-b,a)$となり、これはまさに直角回転なのである。
ということは、$1+{\mathrm i}{\mathrm d\theta}$を掛けるという計算は、図に示したように、元のベクトル($1$を掛けた部分)に元のベクトルを${\pi\over 2}$倒して長さを${\mathrm d\theta}$倍したベクトル(${\mathrm i}{\mathrm d\theta}$を掛けた部分)を足せ、という計算となる。これはつまり「微小角度の回転」なのである。この微小回転を何回も(どころか、無限回)繰り返すことで有限角度の回転ができる。たとえば角度$\theta$の回転を行いたいならば、まず${\theta\over N}$という微小な角度の回転を行なって、次にそれを$N$回行えばよい。
それを表現する式は
\begin{equation} \left(1+{\mathrm i}{\theta\over N}\right)^N \end{equation}である。これを$N\to\infty$極限を取れば正しい有限角度の回転が出る。ここで指数関数の定義の一つである、
\begin{equation} \lim_{N\to\infty} \left(1+{x\over N}\right)^N = \exp x \end{equation}を思い出せば、
\begin{equation} \lim_{N\to\infty} \left(1+{\mathrm i}{\theta\over N}\right)^N=\exp\left({\mathrm i}\theta\right) \end{equation}となる。つまり複素数を使うことで「回転」を表現できる。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。