次に「定数係数」という条件を外して定数でない係数を考えることにする。まずは、簡単な一階微分の場合を考えよう。
一般的な一階線型非斉次微分方程式は、$p({x})$と$q({x})$を既知の${x}$の関数定数ならばこれまでやってきた方法で解ける。として、
\begin{equation} {{\mathrm d\over \mathrm dx}}f({x})+p({x})f({x})=q({x})\label{DEpq} \end{equation}と書くことができる。$f({x})$が今から求めようとしている「未知の関数」である。より一般的には
\begin{equation} r({x}) {{\mathrm d\over \mathrm dx}}f({x})+p({x})f({x})=q({x}) \end{equation}という形も考えられるが、この式の両辺を$r({x})$で割って
\begin{equation} {{\mathrm d\over \mathrm dx}}f({x})+{p({x})\over r({x}) }f({x})={q({x})\over r({x}) } \end{equation}としたのが上の式だと思えばよい(もちろんこの計算は$r({x})\neq0$の領域でのみ可)。
この方程式は
\begin{equation} \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} +p({x})\right)f({x})=q({x}) \end{equation}とも書ける。
ここで
$$\left({\mathrm d\over \mathrm dx}-A\right)\left({\mathrm e}^{A{x}}F({x})\right)= {\mathrm e}^{A{x}}{\mathrm d\over \mathrm dx} F({x})$$という式を思い出す。
ここでは${\mathrm d\over \mathrm dx}$の後には数ではなく関数がついているわけだが、その場合でも真似をして、$f({x})=\fbox{?}F({x})$と置き直すことで
\begin{equation} \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} +p({x})\right)\left(\fbox{?}F({x})\right) =\fbox{?}{\mathrm d\over \mathrm dx} F({x}) \end{equation}とできないだろうか(微分演算子と$\fbox{?}$を交換することで$p({x})$を「消去」できないだろうか)と考える。この式を整理すれば、
\begin{equation} \begin{array}{rl} {\mathrm d\over \mathrm dx}\left(\fbox{?}F({x})\right)+p({x})\fbox{?}F({x})=&\fbox{?}{\mathrm d\over \mathrm dx} F({x}) \\ \left( {\mathrm d\over \mathrm dx}\fbox{?}\right)F({x}) +{\fbox{?}{\mathrm d\over \mathrm dx} F({x})} +p({x})\fbox{?}F({x})=&{\fbox{?}{\mathrm d\over \mathrm dx} F({x})} \\ \left( {\mathrm d\over \mathrm dx}\fbox{?}+p({x})\fbox{?} \right)F({x})=&0 \end{array} \end{equation}であるから、微分すると$-p({x})\fbox{?}$になるような$\fbox{?}$を見つければよい。
$p({x})$の不定積分が$\int \mathrm dx p({x})=P({x})+C$のように求まったとする(つまり、$p({x})$の原始関数の一つが$P({x})$であるということ)。すると$\fbox{?}={\mathrm e}^{-P({x})}$とすれば${\mathrm d\over \mathrm dx}\fbox{?}=-p({x})\fbox{?}$となる。これを使うと、${y}={\mathrm e}^{-P({x})}F({x})$とすることで、
\begin{equation} \begin{array}{rl} \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} +p({x})\right)\underbrace{{\mathrm e}^{-P({x})}F({x})}_{f({x})}=&q({x}) \\[3mm] {\mathrm e}^{-P({x})}{\mathrm d\over \mathrm dx} F({x})=&q({x}) \end{array}\label{ddxkoukan} \end{equation} となる。FAQ:$p({x})$の不定積分は$P({x})+C$なので、$f({x})={\mathrm e}^{-P({x})-C}F({x})$とするべきでは?
と思う人もいるかもしれないが、まだ$F({x})$は決まってない量だから、${\mathrm e}^{-C}$も含めて$F({x})$に入れてあると思えばよい。つまり、$P({x})$としては${\mathrm d\over \mathrm dx} P({x})=p({x})$になる関数を一つ代表を出しておけば十分である。
こうして、$p({x})$の原始関数を使うことで
\begin{equation}\left( {\mathrm d\over \mathrm dx} +p({x})\right)f({x})=q({x})~~~\to~~~ {\mathrm d\over \mathrm dx} F({x})=q({x}){\mathrm e}^{P({x})} \end{equation}と式を書き直せたので、後はこれを解く。右辺を${x}$で積分することができれば
\begin{equation} F({x})= \int \mathrm dx \left(q({x}){\mathrm e}^{P({x})}\right) \end{equation}となり、
\begin{equation} f({x})={\mathrm e}^{-P({x})}\int \mathrm dx \left(q({x}){\mathrm e}^{P({x})}\right) \end{equation}が一般解である。この不定積分$\int \mathrm dx \left(q({x}){\mathrm e}^{P({x})}\right)$の結果を$G({x})+D$($D$は積分定数)とすれば、
\begin{equation} f({x})=\underbrace{ {\mathrm e}^{-P({x})}G({x})}_{ f'({x})+p({x})f({x})=q({x})\atop の特解} + \underbrace{D {\mathrm e}^{-P({x})}}_{ f'({x})+p({x})f({x})=0\atop の一般解 } \end{equation}となる。第2項が同次方程式の一般解になっていることに注意しよう。
ここでやった計算は、
とまとめることができる。
このパターンで解ける微分方程式の一例として、
\begin{equation} {\mathrm dy\over \mathrm dx}+ 2{x}{y}= {x}\label{gaussx} \end{equation}を解いてみる。$p({x})=2{x}$であるから、$P({x})={x}^2$とすればよい。よって${y}={\mathrm e}^{-{x}^2}F({x})$と置くことで、
\begin{equation} \begin{array}{rl} \left({\mathrm d\over \mathrm dx}+2{x}\right){\mathrm e}^{-{x}^2}F({x}) &={x} \\ {\mathrm e}^{-{x}^2}{\mathrm d\over \mathrm dx} F({x}) &={x} \\[3mm] {\mathrm d\over \mathrm dx} F({x}) &={x}{\mathrm e}^{{x}^2} \end{array} \end{equation}となるが、この式は
\begin{equation} F({x})= {1\over 2}{\mathrm e}^{{x}^2}+C \end{equation}と積分できて、
\begin{equation} f({x})={1\over 2} + C{\mathrm e}^{-{x}^2} \end{equation}が一般解である。結果を見ると、${1\over 2}$の部分は非斉次方程式${\mathrm d\over \mathrm dx} f({x})+ 2{x}f({x})= {x}$の特解であり(代入してみよう)、$C{\mathrm e}^{-{x}^2}$の部分は斉次方程式${\mathrm d\over \mathrm dx} f({x})+ 2{x}f({x})= 0$の一般解である(これも実際に解いてみればわかる)。つまりこの場合は「斉次方程式の一般解と非斉次方程式の特解を足す」という解き方でも解ける。
以下の微分方程式を解け。
$$ \left({\mathrm d\over \mathrm dx}+{1\over x}\right)f(x)=x^2 $$ヒントとして、${\mathrm d\over \mathrm dx}\log x={1\over x}$だということをまず与えた。さらにおまけのヒントとして、
$$ \mathrm e^{-\log x}={1\over \mathrm e^{\log x}} $$と
$$ \mathrm e^{\log A}=A $$という式も黒板に書いておいた。それなのに意外とできなかったのは残念。
答えを書いておく。
この場合、$p(x)={1\over x}$だから、$P(x)=\log x$とすればよい。解くべき微分方程式は
$$ \left({\mathrm d\over \mathrm dx}+{1\over x}\right)\left(\mathrm e^{-\log x} F(x)\right)=x^2 $$となり、これは整理すると
$$ \mathrm e^{-\log x}{\mathrm d\over \mathrm dx}F(x)=x^2 $$となり、ヒントをつかって$\mathrm e^{-\log x}={1\over x}$として、
$${\mathrm d\over \mathrm dx}F(x)=x^3$$を解けばよい。結果は
$$F(x)={1\over4}x^4+C$$であり、最終結果は
$$f(x)={1\over 4}x^3 + {C\over x}$$となる。
ここで、前節での微分方程式の解き方を見直してみる。
出てきた答えを$y({x})= \left( G({x})+C \right) {\mathrm e}^{-P({x})}$とくくって考えてみると、この答えは${\mathrm dy\over \mathrm dx}+p({x}){y}=0$の一般解である$C {\mathrm e}^{-P({x})}$のパラメータである定数$C$が、$C\to G({x})+C$のように置き換えられた形になっている。従ってこの方程式は、以下に示すような「定数変化法」を使っても解ける。
定数変化法
\begin{equation} {\mathrm dy\over \mathrm dx}+p({x}){y}=q({x}) \end{equation} を解くにはまず \begin{equation} {\mathrm dy\over \mathrm dx}+p({x}){y}=0 \end{equation} を解いて${y}=C {\mathrm e}^{-P({x})}$という解を作ったのち、この定数$C$を$C({x})$のように変数だったとして元の方程式に代入する。すると、 \begin{equation} \begin{array}{rl} \left( {{\mathrm d\over \mathrm dx}}+p({x}) \right)\left( C({x}){\mathrm e}^{-P({x})} \right) =q({x}) \\ {\mathrm e}^{-P({x})}{\mathrm d\over \mathrm dx} C({x})= &q({x}) \\ \end{array} \end{equation} という式が出るから、後はこれを解いて$C({x})$を求める。定数なのに変化させるとはおかしな名前であるが、ここで説明したように「非斉次方程式→斉次方程式」のように方程式が置き換えられるとそれに応じて答えも「定数→変化する数」と置き換えよ、という意味だと解釈しよう。定数変化法のリクツを無視して「とにかくこうやりゃ解ける」と覚えてしまう人もいるのだが、やっているのは上に書いたような泥臭い計算を少々小綺麗にまとめているだけで、特にすごい事をしてるわけではない。また、この方法は当然ながら線型な微分方程式でしか通用しない。定数変化法は決して魔法のように微分方程式が解ける万能の手段ではないことは注意すべきだが、手順がパターン化されている点は便利なのでよく使われている。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。