一般的な一階線型微分方程式

先週までは定数係数という条件をつけて線型な微分方程式を解いてきた。
解き方としては定数係数であるおかげで$\mathrm e^{\lambda x}$のような形を仮定できた。
というあたりの復習をやっていたら、あまりに皆さんがここまでの内容を覚えていないことにびっくりしてしまった。
数学は(いや大抵の学問は)積み重ねである。たとえば、「ぼく掛算忘れちゃった」と言う小学生に割り算を教えるのは至難の技である。微分方程式の解き方も、少しずつ簡単なところか難しいところへと進んでいくが、簡単なところをその都度忘れていては積み重ねていくことができない。一つ一つつ着実に理解していって欲しい。

 次に「定数係数」という条件を外して定数でない係数を考えることにする。まずは、簡単な一階微分の場合を考えよう。

一階線型微分方程式を書き直す

 一般的な一階線型非斉次微分方程式は、$p({x})$と$q({x})$を既知の${x}$の関数定数ならばこれまでやってきた方法で解ける。として、

\begin{equation} {{\mathrm d\over \mathrm dx}}f({x})+p({x})f({x})=q({x})\label{DEpq} \end{equation}

と書くことができる。$f({x})$が今から求めようとしている「未知の関数」である。より一般的には

\begin{equation} r({x}) {{\mathrm d\over \mathrm dx}}f({x})+p({x})f({x})=q({x}) \end{equation}

という形も考えられるが、この式の両辺を$r({x})$で割って

\begin{equation} {{\mathrm d\over \mathrm dx}}f({x})+{p({x})\over r({x}) }f({x})={q({x})\over r({x}) } \end{equation}

としたのが上の式だと思えばよい(もちろんこの計算は$r({x})\neq0$の領域でのみ可)。

この方程式は

\begin{equation} \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} +p({x})\right)f({x})=q({x}) \end{equation}

とも書ける。

解き方のパターン1としては、前にもやったように、(斉次方程式の一般解)と(非斉次方程式の特解)を求めてそれを重ね合わせるという手がある。
以下ではパターン2として、「上の微分方程式のうち$p(x)$の項を消す」という手を使ってみよう。

ここで

$$\left({\mathrm d\over \mathrm dx}-A\right)\left({\mathrm e}^{A{x}}F({x})\right)= {\mathrm e}^{A{x}}{\mathrm d\over \mathrm dx} F({x})$$

という式を思い出す。

と、みんな覚えてくれているだろうとテキストには書いたのだが、覚えてくれてなかったようなので補足した。
実際にこの式に代入してやれば、
$$ \begin{array}{rl} 左辺=&\left({\mathrm d\over \mathrm dx}-A\right)\left({\mathrm e}^{A{x}}F({x})\right)\\ =&{\mathrm d\over \mathrm dx}\left({\mathrm e}^{A{x}}F({x})\right)-A\mathrm e^{Ax}F(x)\\ =& A{\mathrm e}^{A{x}}F({x})+\mathrm e^{Ax}{\mathrm d\over \mathrm dx}F(x)-A\mathrm e^{Ax}F(x)=\mathrm e^{Ax}{\mathrm d\over \mathrm dx}F(x)\\ \end{array} $$
となって確かに右辺になる。つまり、(1階微分)+(0階微分)という式の0階微分の部分を「消す」方法を我々は知っていた。ただし前に考えたのは0階微分の項の係数が定数だったから、定数じゃない場合に使えるよう、式を作り直す。

ここでは${\mathrm d\over \mathrm dx}$の後には数ではなく関数がついているわけだが、その場合でも真似をして、$f({x})=\fbox{?}F({x})$と置き直すことで

\begin{equation} \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} +p({x})\right)\left(\fbox{?}F({x})\right) =\fbox{?}{\mathrm d\over \mathrm dx} F({x}) \end{equation}

とできないだろうか(微分演算子と$\fbox{?}$を交換することで$p({x})$を「消去」できないだろうか)と考える。この式を整理すれば、

\begin{equation} \begin{array}{rl} {\mathrm d\over \mathrm dx}\left(\fbox{?}F({x})\right)+p({x})\fbox{?}F({x})=&\fbox{?}{\mathrm d\over \mathrm dx} F({x}) \\ \left( {\mathrm d\over \mathrm dx}\fbox{?}\right)F({x}) +{\fbox{?}{\mathrm d\over \mathrm dx} F({x})} +p({x})\fbox{?}F({x})=&{\fbox{?}{\mathrm d\over \mathrm dx} F({x})} \\ \left( {\mathrm d\over \mathrm dx}\fbox{?}+p({x})\fbox{?} \right)F({x})=&0 \end{array} \end{equation}

であるから、微分すると$-p({x})\fbox{?}$になるような$\fbox{?}$を見つければよい。

$p({x})$の不定積分が$\int \mathrm dx p({x})=P({x})+C$のように求まったとする(つまり、$p({x})$の原始関数の一つが$P({x})$であるということ)。すると$\fbox{?}={\mathrm e}^{-P({x})}$とすれば${\mathrm d\over \mathrm dx}\fbox{?}=-p({x})\fbox{?}$となる。これを使うと、${y}={\mathrm e}^{-P({x})}F({x})$とすることで、

\begin{equation} \begin{array}{rl} \left( {\mathrm d\over \mathrm dx} +p({x})\right)\underbrace{{\mathrm e}^{-P({x})}F({x})}_{f({x})}=&q({x}) \\[3mm] {\mathrm e}^{-P({x})}{\mathrm d\over \mathrm dx} F({x})=&q({x}) \end{array}\label{ddxkoukan} \end{equation} となる。

FAQ:$p({x})$の不定積分は$P({x})+C$なので、$f({x})={\mathrm e}^{-P({x})-C}F({x})$とするべきでは?

と思う人もいるかもしれないが、まだ$F({x})$は決まってない量だから、${\mathrm e}^{-C}$も含めて$F({x})$に入れてあると思えばよい。つまり、$P({x})$としては${\mathrm d\over \mathrm dx} P({x})=p({x})$になる関数を一つ代表を出しておけば十分である。


こうして、$p({x})$の原始関数を使うことで

\begin{equation}\left( {\mathrm d\over \mathrm dx} +p({x})\right)f({x})=q({x})~~~\to~~~ {\mathrm d\over \mathrm dx} F({x})=q({x}){\mathrm e}^{P({x})} \end{equation}

と式を書き直せたので、後はこれを解く。右辺を${x}$で積分することができれば

\begin{equation} F({x})= \int \mathrm dx \left(q({x}){\mathrm e}^{P({x})}\right) \end{equation}

となり、

\begin{equation} f({x})={\mathrm e}^{-P({x})}\int \mathrm dx \left(q({x}){\mathrm e}^{P({x})}\right) \end{equation}

が一般解である。この不定積分$\int \mathrm dx \left(q({x}){\mathrm e}^{P({x})}\right)$の結果を$G({x})+D$($D$は積分定数)とすれば、

\begin{equation} f({x})=\underbrace{ {\mathrm e}^{-P({x})}G({x})}_{ f'({x})+p({x})f({x})=q({x})\atop の特解} + \underbrace{D {\mathrm e}^{-P({x})}}_{ f'({x})+p({x})f({x})=0\atop の一般解 } \end{equation}

となる。第2項が同次方程式の一般解になっていることに注意しよう。

ここでやった計算は、

${{\mathrm d\over \mathrm dx}}f({x})+p({x})f({x})=q({x})$という式は、$p({x})$の原始関数の一つ$P({x})$を求めて、${y}={\mathrm e}^{-P({x})}F({x})$と置くことで \begin{equation} {\mathrm e}^{-P({x})} {\mathrm d\over \mathrm dx} F({x})=q({x}) \end{equation} に書き直すことができる(微分方程式から${y}$の1次の項を「消す」ことができる)。

とまとめることができる。

このパターンで解ける微分方程式の一例として、

\begin{equation} {\mathrm dy\over \mathrm dx}+ 2{x}{y}= {x}\label{gaussx} \end{equation}

を解いてみる。$p({x})=2{x}$であるから、$P({x})={x}^2$とすればよい。よって${y}={\mathrm e}^{-{x}^2}F({x})$と置くことで、

\begin{equation} \begin{array}{rl} \left({\mathrm d\over \mathrm dx}+2{x}\right){\mathrm e}^{-{x}^2}F({x}) &={x} \\ {\mathrm e}^{-{x}^2}{\mathrm d\over \mathrm dx} F({x}) &={x} \\[3mm] {\mathrm d\over \mathrm dx} F({x}) &={x}{\mathrm e}^{{x}^2} \end{array} \end{equation}

となるが、この式は

\begin{equation} F({x})= {1\over 2}{\mathrm e}^{{x}^2}+C \end{equation}

と積分できて、

\begin{equation} f({x})={1\over 2} + C{\mathrm e}^{-{x}^2} \end{equation}

が一般解である。結果を見ると、${1\over 2}$の部分は非斉次方程式${\mathrm d\over \mathrm dx} f({x})+ 2{x}f({x})= {x}$の特解であり(代入してみよう)、$C{\mathrm e}^{-{x}^2}$の部分は斉次方程式${\mathrm d\over \mathrm dx} f({x})+ 2{x}f({x})= 0$の一般解である(これも実際に解いてみればわかる)。つまりこの場合は「斉次方程式の一般解と非斉次方程式の特解を足す」という解き方でも解ける。

今日の小テスト

以下の微分方程式を解け。

$$ \left({\mathrm d\over \mathrm dx}+{1\over x}\right)f(x)=x^2 $$

ヒントとして、${\mathrm d\over \mathrm dx}\log x={1\over x}$だということをまず与えた。さらにおまけのヒントとして、

$$ \mathrm e^{-\log x}={1\over \mathrm e^{\log x}} $$

$$ \mathrm e^{\log A}=A $$

という式も黒板に書いておいた。それなのに意外とできなかったのは残念。


答えを書いておく。

この場合、$p(x)={1\over x}$だから、$P(x)=\log x$とすればよい。解くべき微分方程式は

$$ \left({\mathrm d\over \mathrm dx}+{1\over x}\right)\left(\mathrm e^{-\log x} F(x)\right)=x^2 $$

となり、これは整理すると

$$ \mathrm e^{-\log x}{\mathrm d\over \mathrm dx}F(x)=x^2 $$

となり、ヒントをつかって$\mathrm e^{-\log x}={1\over x}$として、

$${\mathrm d\over \mathrm dx}F(x)=x^3$$

を解けばよい。結果は

$$F(x)={1\over4}x^4+C$$

であり、最終結果は

$$f(x)={1\over 4}x^3 + {C\over x}$$

となる。

定数変化法

ここで、前節での微分方程式の解き方を見直してみる。

出てきた答えを$y({x})= \left( G({x})+C \right) {\mathrm e}^{-P({x})}$とくくって考えてみると、この答えは${\mathrm dy\over \mathrm dx}+p({x}){y}=0$の一般解である$C {\mathrm e}^{-P({x})}$のパラメータである定数$C$が、$C\to G({x})+C$のように置き換えられた形になっている。従ってこの方程式は、以下に示すような「定数変化法」を使っても解ける。

定数変化法

\begin{equation} {\mathrm dy\over \mathrm dx}+p({x}){y}=q({x}) \end{equation} を解くにはまず \begin{equation} {\mathrm dy\over \mathrm dx}+p({x}){y}=0 \end{equation} を解いて${y}=C {\mathrm e}^{-P({x})}$という解を作ったのち、この定数$C$を$C({x})$のように変数だったとして元の方程式に代入する。すると、 \begin{equation} \begin{array}{rl} \left( {{\mathrm d\over \mathrm dx}}+p({x}) \right)\left( C({x}){\mathrm e}^{-P({x})} \right) =q({x}) \\ {\mathrm e}^{-P({x})}{\mathrm d\over \mathrm dx} C({x})= &q({x}) \\ \end{array} \end{equation} という式が出るから、後はこれを解いて$C({x})$を求める。

定数なのに変化させるとはおかしな名前であるが、ここで説明したように「非斉次方程式→斉次方程式」のように方程式が置き換えられるとそれに応じて答えも「定数→変化する数」と置き換えよ、という意味だと解釈しよう。定数変化法のリクツを無視して「とにかくこうやりゃ解ける」と覚えてしまう人もいるのだが、やっているのは上に書いたような泥臭い計算を少々小綺麗にまとめているだけで、特にすごい事をしてるわけではない。また、この方法は当然ながら線型な微分方程式でしか通用しない。定数変化法は決して魔法のように微分方程式が解ける万能の手段ではないことは注意すべきだが、手順がパターン化されている点は便利なのでよく使われている。

今日は小テスト以外にもノートで計算演習をしてもらいながら進めたので、少し進みが遅く、ここまで。
受講者の感想・コメント

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受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

今日のパターン2のやり方は理解できました。問題の考え方もまだぎこちなかったですが、できたので楽しかったです。
いろいろ問題解いてみてください。

今日はけっこう理解できました。良かったです。
それはよかった。

今日の内容は少し難しいなと感じた。自分なりに復習して理解しておきたいなと思った。
少しずつ難しくはなってます。じっくり復習しましょう。

授業中では理解できたと重ったが、いざ紙に問題を解こうとすると難しかった。
それはもう、練習を積むしかないです。

検算したおかげで間違いに気づけました。
検算は大事。

しっかり順序、意味を理解し、線型微分方程式を解けるようにしたい。
そのためには、練習してください。

ノートを見ながらですが、やっと問題を自力で解くことができました。
まずは見ながらでいいです。慣れていきましょう。

今日はとてもわかりやすく、目から鱗ボロボロでました。小テストは毎時間やるんでしょうか?
鱗落ちてよかったです。小テストは、時間がある時はやります。

解き方がいろいろあって面白かった。
いろいろ、全てを理解しておきましょう。

今日の小テストにびびりました。先生たちはお昼いつも中央食堂でどのような会話をしているのですか?やっぱり物理の内容ですか?
物理の話もしないではないけど、世間話がほとんどかな。授業の話も少しする。

最後の問題でg(x)の積分定数を、f(x)に代入し忘れてしまった。注意しようと思う。
注意しましょう。

一般的な微分方程式は今までより、複雑になってきて難しかった。家で復習します。
一般的に慣ればなるほど難しいものです。

$\left({\mathrm d\over \mathrm dx}+{1\over x}\right)f(x)=x^2$の解を$f(x)=\mathrm e^{-\log x}\left({x^4\over4}+C\right)$として、$\log x$を残してしまった。注意していきたい。
それは別に間違いではないです(答えが実際より複雑に見えるだけのことで)。

いろいろ抜けているところがあったので、ちゃんと復習します。
穴は早めに埋めましょう。

一階線型微分方程式の色々な解き方がわかった。理解することができてよかった。
色々、解いてみてください。

一階線型微分方程式を今まで難しく考えていたけど、今日の授業で理解することができた。
わかってしまえば、そんなに難しくないでしょ。

計算問題が難しかったです。証明の計算も、途中からついていけなくなってしまったので、頑張ってできるようになりたいです。
家でもう一度見なおしてみてください。じっくり取り組めばわかるはず。

今回の講義で、小テストをした時に全く解けなくて絶望しました。理解できなかったのがくやしかったので、さらにがんばります。
では、次こそは頑張ってください。

小テストの答えが違うと思ったら、$\mathrm e^{\log x}=x$に直し忘れだったので、やり方はあたっているのだとと安心しました。
それは書き方の問題だから間違ってはいないね。ただ、簡単になる式はなるべく早めに簡単にしておいた方が、その先の間違いが減りますよ。

授業の最初で前回の復習があったので、今日の授業は割と理解できたと思う。今後は自分で復習できるように勉強していけたらいいなと思う。
繰り返し、復習しておきましょう。するたびに理解が進むはずです。

いろんな解き方があるのはおもしろいがスッキリする数学のイメージとはちょっとびみょうだ。
スッキリする解き方だけでやれればいいですが、現実はいろんな解き方を駆使していかないと問題は解けない。

3つの解き方を学んだ。どれも利用できるように頑張ろうと思った。
いろんな方法を知っておくと、今後役立ちます。

3つの解法をおぼえましたが、解法を知るたびに理解が深まるような気がします。
他にもいろいろあるので、さらに理解を深めていってください。

今日は全体的によく理解することができた。
それは素晴らしい。

一般的な解法パターンを知ることができた。プリントにある練習問題を解いておこうと思った。
練習問題は是非、やっておいてください。

$\left({\mathrm d\over \mathrm dx}+p(x)\right)f(x)=q$が分かったのでよかった。
使いこなしていこう!

先生が説明しているときはわかったのですが、小テストで自分で解いているとわからなくなってわーーーってなりました。
だからね、自分で手を動かして解いてみるということを一度はやらないと勉強にならないもんなんです。

やっていると機械的にこうおいてこうでってなってなんでそうなるか忘れてしまうので、もっと自分のものにしたい。
「なんでそうなるか」を理解しながら計算できるのが一番。

最後の最後に今日やった微分方程式の解き方がわかった。テストのときにできなかったのがくやしい。大会で2週間も休んでいたので最初まったくわからなかった。
休んだ間の授業は自分で補完しておかないと。

分かりませんでした。やり方を覚えるぐらいしかできません。
「なんだか分からないけどやり方覚える」は絶対やっちゃダメ。「なぜこれで解けるのか」の部分をとことんまで考えること。でないと「使える数学」にはなりません。

今日は定数係数じゃない線形微分方程式を解きました。前回同様楽しかったです。
楽しんでもらえてよかった。

一般的な一階線型微分方程式の解き方を学んだので、しっかり復習して定着させていきたい。
練習しておきましょう。

修行しに山にこもります。
勉強道具は持ってこもるように。

わかりやすかったです。
ほんとか? その割にテストが…。

今日やった方程式は$y=\mathrm e^x$を代入するのにくらべてややこしかった。
そりゃまぁ、少しずつ難しくなっていくからねぇ。

今日のテストでは、途中の計算ミスに気づかないで、全部解ききることができませんでした。解法パターンは理解したので、次に活かしたいです。
では、次回がんばりましょう。

理解できたと思ったら小テストをやって、まだ完全に理解できていなかったので、もっとちゃんと理解したいと思いました。
「ちゃんと理解する」ためには自分で計算して解いてみることが必要ですね。

日々の勉強が足りてないので、勉強します。
気づいたからには、やりましょう。

一般的な一階線型微分方程式

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