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4.3 (新しい意味での)ローレンツ短縮

 この座標変換を最初に導いたのはアインシュタインではなくローレンツなので、これを「ローレンツ変換」と呼ぶ。ただし、ローレンツはこの変換における新しい座標での時間t'を「局所時」と呼んで、本当の意味の時間ではないと考えていたらしい。

ローレンツがad hocに導いたローレンツ短縮と似た現象が、この座標変換でも導かれることを示そう。今、一つの棒をx-t座標系で見て静止するように置いたとする。棒の長さをLとして、一方の端をx=0、もう一方の端をx=Lに置いたとする。時間tが経過してもこのxの値は変化しない。では、これをx' 座標系で見るとどうか。棒の一方の端の時空座標を(x_1,t_1)または(x'_1,t'_1)で、もう一方の端の時空座標を(x_2,t_2)または(x'_2,t'_2)で表すとすれば、

(x_1,t_1)=(0,t)→(x'_1,t'_1)=(-γβct,γct)
(x_2,t_2)=(L,t)→(x'_2,t'_2)=(γ(L-β ct),γ(ct-βL))

となる。

 ここでx'座標系で棒の長さを測るとしよう。「x'座標系での棒の長さ」はt'_1=t'_2にした時のx'_2-x'_1で計算される。上の表の(x'_1,t'_1)と(x'_2,t'_2)では、t'_1¥ne t'_2なので、t_2の方の時間をt¥to t+{β/ c}Lとずらして、

(x_2,t_2)=(L,t+{β/ c}L)→(x'_2,t'_2)=(γ(L-β ct-β^2 L),γ ct)

とすれば、t'_1=t'_2になる。この時のx'_2-x'_1を計算すると、

 x'_2 - x'_1 = γ(L-β^2L)=L{1-β^2 /¥sqrt{1-β^2}}=L{¥sqrt{1-β^2}}

となり、x系での長さLに比べ、¥sqrt{1-β^2}倍になっている(縮んでいる)ことがわかる。

この式は形としてはローレンツがマイケルソン・モーレーの実験結果を説明するために導入した短縮と同じであるが、根本的に意味が違う。まず、ローレンツはエーテルとの相対運動が理由で機械的に短縮が起こると考えたが、ここでの短縮は座標変換によって生じたものであって、力が働いて起こる短縮とは全く意味が違う。また、図で説明してあるように、座標系が違うことによって「同時刻で空間的に離れた2点」という2点の定義の仕方そのものが変わってくる。ガリレイ変換ではこんなことは生じない。古い意味のローレンツ短縮はガリレイ変換を使った物理の中で考えられたものだから、同様に「座標系が違えば同時刻が違う」ということを考慮せずに単に短縮すると仮定している。

何よりここで導かれた短縮は光速度不変の原理と特殊相対性原理から自動的に導出されたもので、筋道だった説明が与えられていることが大きな違いである。

 時間の関係で次の節のドップラー効果は省略。とりあえず載せておく。

4.4 ドップラー効果

 ドップラー効果については音の方が有名である。まず音の場合のドップラ─効果がどのような現象であるかを思い出す。そこでまず気をつけて欲しいのは、「ドップラ─効果」と呼ばれている現象は実は二つの現象を合わせたものだということである。それは

1. 音源が移動していることによって、波長が変化し、結果として振動数が変化する。
2. 観測者が移動していることによって、見掛けの音速が変化し、結果として振動数が変化する。

振動数fは波長λと音速Vによって、f=(V/λ)と書かれる。1.は、この式の分母の変化である。図で書けば右のようになる。これは音源が動きながら音を出している様子である。音源が動いても、まわりの空気(音の媒質)はいっしょに動いているわけではないので、音を出した場所を中心として球状に(図では円状になっている)広がる。音が広がるまでの間に音源が移動しているので、前方では波がつまり(波長が短くなり)、後方では波が広がる(波長が長くなる)。

これに対して2.は、f={V/ λ}の分子の方の変化である。同じ波長の波が来たとしても、自分が波に立ち向かっていくならば、1秒間に遭遇する波の数が増える。逆に波から遠ざかるならば、波の数が減る。

しかしこのような説明を聞いた後で、「さて光の場合のドップラー効果はどうなるのか」と考えると、ちょっと不思議なことに気づくだろう。音の場合、観測者の運動によって音速が変る(2の場合)。だから音の振動数が変化するわけである。しかし光の場合、そんなことは起きない(光速度不変の原理!)。では光の場合、「観測者が運動している場合のドップラー効果」は存在しないのか。もちろんそんなことはない。以下で、まず図を書いて考えてみよう。

上左の図は、静止した波源から波(光もしくは音)が出ている状況の時空図である。波は上下左右前後に(図では例によって空間軸を一つ省略している)均等に広がっていく。それゆえ、異った時刻に発生した波の波面は同心球(図では同心円)を描く。

これを動きながらみたらどのように見えるかを表したのが上中、上右の図であり、それぞれ光の場合と音の場合である。光の場合、光速度不変により、光円錐は傾かない。しかし、波源(光源)が刻一刻動いているので、今度は同心球とはならず、進行方向の前では波がつまり、後ろでは波が広がる。

 音の場合はどうかというと、波源(音源)の動きと同じ速さで空気も動いているので、音の球はいわば、風に流される状態になる。ゆえに「音円錐(実際にこんな言葉はない」は風で流される分、傾く。音源と媒質が同じ速度で動いているので、波面は球状に広がりながら流されていき、同心球はたもたれる。つまりこの場合、波長は変化しない。しかし前方では波がそれだけ速くなっており、同じ波長でも速さが速い分振動数が多くなっている(以上の音に対する計算では、座標変換にガリレイ変換を使っている。ほんとうはここもローレンツ変換を使うべきなのだが、音のようなせいぜい数百m/sの話をしている時には、ローレンツ変換とガリレイ変換の差は非常に小さく、わざわざ計算が面倒なローレンツ変換を使う意味はあまりない)

今考えた二つ(上中、上右図)は同じ現象を動きながら見た場合であった。そのため、音の場合、音源と同じ速度で媒質(空気)が動いていた。では空気の中を音源が動くとどうなるかを書いたのが右の図である。この場合、音円錐は傾かないが音源の動きのせいで波面が同心球にならない。つまりこの場合、波長が変化することで振動数が変化している(音速は変化していない)。

波の振動数νは波長λと波の伝わる速さvで表すとν=(v/λ)であるが、音の場合、波源が動いたならばλが変化し、観測者が動いたら音速vが変化する。光の場合、速さvは変化しないので、変化は全て波長の変化に帰着される。しかし、その波長が変化する理由は実は二つある。一つは図に現れている、波と波の間隔がつまるという現象である。もう一つ、いわゆるウラシマ効果によって、波源(光源)が波を出してから次に波を出すまでの間隔がのびる。この二つの効果によって光の波長が変化し、ゆえに振動数が変化するのである。このように、光速度不変(cは観測者の速度によって変化しない)であっても、振動数や波長は観測者の速度によって変化しうる。

では、どのように光のドップラー効果が起こるかを、ローレンツ変換の式を使って計算してみよう。光の振動数(ただし、音源が静止している場合に出す光の振動数)をν_0とする。光源の静止系(x'系とする。)では、「山」を出してから次に「山」を出すまでの時間は(1/ν_0)であるから、光の「山」が出た時空点を(x',y',z',ct')=(0,0,0,(nc/ν_0))(nは整数)と考えることができる。これをローレンツ変換すると、(x,y,z,ct)=(γβnc/ν_0,0,0, γnc/ν_0 )となる。つまりこれが光源が動いている座標系において光の「山」が出た時空点である。

 もっとも簡単な場合として、光源の進んでいく先にあたる場所(x,y,z)=(L,0,0)(Lは大きく、まだ光源はここまで達していないと考える)でこの光を観測したとすると、光は出てからL-γβ {nc/ ν_0} の距離だけ走ってこの場所に到達することになる。その時刻は

¥underbrace{γ {n/ ν_0}}_{山が出た時刻} + ¥underbrace{{L-γβ{nc/ ν_0}/ c}}_{光が到着するのにかかる時間}= {L/ c} + γ(1-β){n/ ν_0}

である。nが1違うと、この時刻はγ(1-β){1/ ν_0}だけ違う。ゆえに、振動数は

 ν=ν_0 {1/γ(1-β)}=ν_0{¥sqrt{1-β^2}/ 1-β}=ν_0 ¥sqrt{{1+β/ 1-β}}

と変化していることになる。より一般的に、(Lcosθ,Lsinθ,0)に来た光の振動数を考えよう。この場所に「山」がやってくる時刻はLが大きいとして近似すると、

γ {n/ ν_0}+{1/ c}¥sqrt{(Lcosθ-γβ{nc/ ν_0})^2 +(Lsinθ)^2}¥simeq γ {n/ ν_0}+{1/ c}¥sqrt{L^2 -2Lcosθ γβ{nc/ ν_0} }¥simeq  γ {n/ ν_0}+{1/ c}(L -cosθ γβ{nc/ ν_0} )

となる。nが1変化するとこの時刻はγ(1-βcosθ)/ν_0変化するので、振動数は

ν=ν_0 {¥sqrt{1-β^2}/ 1-βcosθ}

となる。

 (ガリレイ変換を使った場合の)音のドップラー効果との顕著な違いは、進行方向に対して真横の方向へ進む光(上の式でcosθ=0に対応する)にも振動数変化があらわれることである。これはウラシマ効果によるもので、音ではそのような結果は出ない。これを「横ドップラー効果」と呼ぶ。銀河のいくつかはその中心核から「宇宙ジェット」と呼ばれる亜光速のガス流を出しているが、そのガスが出す光が横ドップラー効果を起していることが確認されている。

 

第6章 ローレンツ変換と4次元時空

6.1 ローレンツ変換の数式による導出

 この章ではローレンツ変換に関してグラフで行った議論を数式でもう一度まとめ、その物理的および幾何学的内容について考えていく。

 まず、ローレンツ変換を計算により求めよう。ローレンツ変換が満たすべき条件として、次の3つを取る。

1. この変換によって、古い座標系での光円錐( (x-x_0)^2+(y-y_0)^2+(z-z_0)^2-c^2(t-t_0)^2=0 )は新しい座標系でも光円錐((x'-x'_0)^2+(y'-y'_0)^2+(z'-z'_0)^2 -c^2 (t'-t'_0)^2=0)へと移る(光速度不変の原理)。
2. この座標変換において特別な点はない(一様性)。
3. この座標変換において特別な方向はない(等方性)。

 1.が主張しているのは、光速度不変の法則を満足せよ、ということである。ある時空点(t_0,x_0,y_0,z_0) (x'座標系では(t'_0,x'_0,y'_0,z'_0))から光が出て、時空点(t,x,y,z) (x'座標系では(t',x',y',z'))にたどりついたとする。時刻t(あるいは時刻t')には、その光はc(t-t_0)(あるいはc(t'-t'_0))広がっている。ゆえに(x-x_0)^2+(y-y_0)^2+(z-z_0)^2-c^2(t-t_0)^2=0が成立するならば、(x'-x'_0)^2+(y'-y'_0)^2+(z'-z'_0)^2 -c^2 (t'-t'_0)^2=0も成立せねばならない。光速度はどっちの座標系でもcなのだから(くどいようだがもう一度書く。これは実験事実である)。

 2.が主張しているのは、この変換が一様であれ、ということである。

 たとえばx'= ax^2のような変換をしたとすると、x=0付近と、そこから遠い場所では、xが変化した時のx'の変化量が違う。これはつまり、x座標系で測った1メートルが、x'座標系では場所によって10センチになったり3メートルになったりと、違う長さになるということである。しかし今考えているのは座標系の一様な運動であるから、こんなことは起こらない。この条件を満たすためには、(x,y,z,ct)と(x',y',z',ct')が一次変換で結ばれなくてはならない。

3.が主張しているのは、たとえばこういうことである。x 軸の正方向へ速さvで運動している場合と、x軸の負方向へ速さvで運動している場合を比べたとする。この二つは、最初にx軸をどの方向にとったかというだけの違いであって、物理の本質的な部分は違わないはずである。つまり、ある方向へ移動する座標系だけが特別扱いされるようなことはあってはならない。

 以下で、これらの要請だけからガリレイ変換に替わる新しい座標変換を導く。

x'系の空間的原点x'=y'=z'=0が、x座標系で見ると速度vでx軸方向に移動していて、時刻t=0では原点が一致しているとする。このことから、x'=0 という式を解くと、x=β ctという答えが出るようになっていることがわかる。この条件はガリレイ変換x'=x-vtでも成立する。2.の条件があるので、

x'=A(x-βct)

という形でなくてはならないことがわかる。y方向、z方向には座標軸は移動していない。つまりこの座標変換で、y=0である場所はy'=0である場所に移る。zに関しても同様なので、

y'=By, z'=Bz

となるべきだろう。ここで、簡単のためにy軸やz軸の方向も変わらないとした。この二つの式の係数がどちらもBなのは、空間の対称性から判断した。

 しかし、要請3.から、Bは1でなくてはならないことがわかる。Bが1でなかったとすると、この座標変換によってy軸やz軸方向の長さが伸びたり(B>1 の場合)、縮んだり(B<1の場合)することになる。運動方向を反転(v → -v)したとしよう。この時の変換は元の変換の逆変換であろうから、y''=(y/B),z''=(z/B)という形になる。つまり+x方向ではB 倍になったとしたら、-x方向では(1/B)倍でなくてはならない。B≠1だと、この現象は要請3.に反する。

時間座標に関しては、

ct'= C(ct-D x-E y-F z)

と置いてみる。以上の座標変換に対して、要請1.すなわち「x^2+y^2+z^2-c^2 t^2=0の時に(x')^2+(y')^2+(z')^2-c^2(t')^2=0になれ」という条件が成立するためにはA,C,D,E,Fがどうならなくてはいけないかを考える。そのためにまず (x')^2+(y')^2+(z')^2-(ct')^2を計算しよう。

プリントではこの式はちょっと間違えてました。最後の行と、その一つ上の行の2C^2Dの前の符号。これにともなって、下でも符号間違いをしているところがあります(訂正済み)

 ここで、条件x^2+y^2+z^2-c^2t^2=0であることを思い起こす。よってここではx,y,zが独立な変数であって、ctはct=¥pm¥sqrt{x^2+y^2+z^2}であるとして扱う。x,y,zは各々独立に動かせるから、xct,yct,zctの係数は零でないと困る。これから、E=F=0とA^2β - C^2D=0がわかる。そこでD ={A^2β / C^2}と代入して、

0=(A^2-{A^4 β ^2/ C^2})x^2+y^2 +z^2 +(A^2β^2 - C^2)(ct)^2¥¥0=(A^2-{A^4 β^2/  C^2})x^2+B^2y^2 +B^2 z^2 +(A^2{β^2} - C^2)(x^2+y^2+z^2)¥¥0=(A^2-{A^4 β^2/ C^2}+A^2{β^2} - C^2)x^2+(1+A^2{β^2} - C^2)y^2 +(1 +A^2{β^2} - C^2) z^2

ここでx^2の係数は0にならなくてはいけないが、

A^2-(A^4β^2/C^2)+A^2β^2 - C^2= 0
A^2-C^2 - (A^2 β^2/ C^2)(A^2-C^2)= 0
(A^2-C^2)(1 - (A^2β^2/C^2))= 0

となるから、A^2=C^2か、(A^2β^2/C^2)=1かが成立せねばならない。しかし(A^2β^2/C^2)=1だと、y^2の前の係数が1になってしまい、けっして0にならない。そこで、C^2=A^2として、

1 = C^2(1-β^2)

という式が成立する。これで座標変換は

 x'= {1/¥sqrt{1-β^2}}(x-β ct), y'= y, z'=z, ct'= {1/ ¥sqrt{1-β^2}}(ct-βx)

とまとめられる。当然ながら、図から求めたものと一致する。

なお、ここまでの計算では簡単のために運動方向をx方向に限ったし、y,z座標に関しても同じ方向を向いているとした。よって一般的には運動方向が任意の方向を向いたものや、これに座標軸の回転が組み合わさったものが出てくる。

 

学生の感想・コメントから

 計算がややこしかった(ものすごく多数)
  一度自分の手で計算やってみてください。たしかに長い計算だったかもしれないけど、この程度は「ちょっと複雑」ぐらいの気分でやれるようでないと。

 グラフで出した式が数式でも確認できてよかった(多数)
 面白いことに、数式の方がよくわかるという人と、グラフの方がよくわかるという人と、人間には2種類いるみたいです。

  原子と原子の間の距離も縮むということは、走らせると核融合が起こったりしますか?
  いいえ。ローレンツ変換というのはあくまで、見る人の立場による違いを表現したものですから、「核融合が起こるか起こらないか」というような物理的現象については差が出ません。出たら困る。

  期末テストはどんな感じになるんですか? 計算問題とかも出るんですか? 対策としてどんな勉強したらいいですか? 範囲は授業でやったところ全部ですか?
  そろそろこういう質問が出る季節になりましたか。範囲は全部で、計算問題も少しは出ます。でも基本的概念が理解できていることが大事なので、「○○とは何か?」「××はどこから導かれたか?」「なぜ△△現象が起きるのか?」のような質問に答えられるようにしておいてください(○○とかの中身はテキスト読んで考えよう)。

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