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6.2 行列およびテンソル式で書くローレンツ変換

座標変換を

(ct'\\x'\\y'\\z')=(α^0_{~0}&α^0_{~1} &α^0_{~2} & α^0_{~3} \\α^1_{~0}&α^1_{~1} &α^1_{~2} & α^1_{~3} \\α^2_{~0}&α^2_{~1} &α^2_{~2} & α^2_{~3} \\ α^3_{~0}&α^3_{~1} &α^3_{~2} & α^3_{~3} \\)(ct\\x\\y\\z)

と書いて、α(μ,νは0,1,2,3を取る)の満たすべき条件を考えていこう。

短く書くならば、

 (x')^μ=α^μ_{~ν}x^ν

である(アインシュタインの規約をつかった)。このように足し上げられている(つまりほんとうはΣ_μがあるのに省略されている)添字は「つぶされている添字」と言ったり「ダミーの添字」と呼んだりする。

 なぜ「ダミー」などと、一人前の添字扱いしてもらえないかというと、これはA_0 B^0+A_1 B^1+A_2 B^2+A_3 B^3 と書くのが面倒なのでA Bと書いているだけであって、μという添字はあってなきがごときものだからである。またこれを「つぶれている」と表現するにも理由があるが、それは後で述べる。

 ちなみに私は自分で計算する時は、ダミーの添字には星印やらハートマークやら、とにかく「一目見たら普通の文字じゃないとわかる文字」を使って「これはダミーなんじゃ!」と区別がつくようにしている。

 たとえばこんな感じ→

前章で求めた座標変換の場合、

(α^0_{~0}&α^0_{~1} &α^0_{~2} & α^0_{~3} \\α^1_{~0}&α^1_{~1} &α^1_{~2} & α^1_{~3} \\α^2_{~0}&α^2_{~1} &α^2_{~2} & α^2_{~3} \\α^3_{~0}&α^3_{~1} &α^3_{~2} & α^3_{~3})=(γ& -γβ &0 &0 \\	-γβ&γ &0 &0 \\0&0 &1 &0 \\0&0 &0 &1) (6.11)

である。例によって、β=v/c, γ={1\over\sqrt{1-β^2}}という記号を使った。

 要請1.の条件は

η_{μν}x^μ x^ν=0の時、~~~~ η_{μν}(x')^μ (x')^ν= η_{μν}α^μ_{~μ'} x^{μ'} α^ν_{~ν'}x^{ν'}

と書くことができる。ただし、

 η_{μν}=(-1&0 &0 &0 \\0 &1 &0 &0 \\0 &0 &1 & 0\\0 &0 &0 &1)

である。

 ここで具体的な例についてη_{μ'ν'}α^{μ'}_{~μ}α^{ν'}_{~μ} を計算してみよう。そのため、これを行列の計算に書き直す。2行2列の行列の計算が

で表されることと、掛け算の結果を行列(C^1_{~1}& C^1_{~2} \\ C^2_{~1}& C^2_{~2} )で表すならば、この式は

のように書けることを使う。つまり「前の行列の後ろの添字(列の添字)と、後ろの行列の前の添字(行の添字)が同じもの同志を掛け算し、その和を取る」というのが行列の掛け算のルールである。説明は2行2列の行列で行ったが、これらの計算ルール自体は、4行4列の行列であっても同様に使える。

 ここで、η_{μ'ν'}α^{μ'}_{~μ}α^{ν'}_{~μ}の計算をする。掛け算のルールに合うようにするためには、1番左側にあるαの行列が転置されていること、掛け算の順番がα^T,η,αの順であることに注意せよ。具体的に求めた(6.11)をこの式に代入してみると、

となる。つまりこの場合、η_{μν}x^μ x^ν=0という条件は必要でなく、一般的に

 η_{μν}= η_{μ'ν'}α^{μ'}_{~μ}α^{ν'}_{~ν}

が成立していることがわかる。なお、x,y面内における回転を表す行列は

であるが、これらについても同様であることは、

のような具体的計算で確かめることができる(反転に関しても同様)。一般のローレンツ変換は、x軸方向へのローレンツ変換に回転や反転を組み合わせることで表現できるので、全てのローレンツ変換でこれは成立する。

 ほんとはこの辺はしっかりと計算してみせるか、一般論で示すべきであるが省略した。

ここでわかった非常に大事なことは

η_{μν}x^μ x^ν=η_{μν}x^{\primeμ} x^{\primeν}

ということ。すなわち、

-(ct)^2 + x^2 + y^2 +z^2

がローレンツ変換の不変量である、ということである。このうち時間成分を除いたx^2+y^2+z^2は3次元空間における距離の自乗であって、これは回転(および反転)という座標変換に対して不変であった。「距離の自乗」の4次元バージョンである-(ct)^2 + x^2 + y^2 +z^2は回転・反転だけでなく、ローレンツ変換に対して不変となっている。なお、4次元的な距離の自乗を不変にする変換を(3次元的な回転や反転もひっくるめて)「ローレンツ変換」と呼ぶ場合もある。上で求めたような η_{μν}= η_{μ'ν'}α^{μ'}_{~μ}α^{ν'}_{~ν} を満たす行列αで表される変換は、すべて広い意味でのローレンツ変換である。

もともとローレンツ変換を求める時においた要請1.は -(ct)^2 + x^2 + y^2 +z^2 の値の不変性ではなく、「 -(ct)^2 + x^2 + y^2 +z^2 =0であれ」という条件の不変性であったが、要請2.と要請3.のおかげで、 -(ct)^2 + x^2 + y^2 +z^2 そのものが不変でなくてはならなくなったのである。

 下の図は、(x,y)面においてx^2+y^2=一定となる線と、(x,ct)面において-(ct)^2+x^2=一定となる線を書いたものである。右の図は「等距離の点」には見えないが、4次元的な意味で「等距離の点」なのである。

学生の感想・コメントから

 4次元的に考えるのはすごく難しい(ものすごく多数)
 イメージするのは確かに難しい。数式とにらめっこしながら考えてみてください。

 なんで「距離の自乗」がマイナスになるんですか!(多数)
 そういう定義だから(^_^;)。なぜそう定義するかというと、ローレンツ変換に対して不変量になるようにしたから。プラスになるような定義だと、ローレンツ変換したら値が変わってしまうのです。「自乗だからプラスだろ!」ということよりも「不変量じゃなきゃ距離の自乗って言えないだろ!」ということの方が大事なのです

 行列をα_11と書くのと、α^1_1と書くのは何か違うんですか?
 その違いについてはまた来週。

 行列の「行」と「列」がどっちがどっちか、よく悩むけど、今日の授業でよくわかった。
 「行」の字には横線があるから横に並んでいるのが行、「列」の字には縦線があるから縦に並んでいるのが列、って奴ですね。私は大学1年の時の数学の先生に習いました。その先生から他に何を教わったかは全部忘れましたが、これだけは覚えてます。

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