座標変換を
と書いて、α^μ_ν(μ,νは0,1,2,3を取る)の満たすべき条件を考えていこう。
短く書くならば、
である(アインシュタインの規約をつかった)。このように足し上げられている(つまりほんとうはΣ_μがあるのに省略されている)添字は「つぶされている添字」と言ったり「ダミーの添字」と呼んだりする。
なぜ「ダミー」などと、一人前の添字扱いしてもらえないかというと、これはA_0 B^0+A_1 B^1+A_2 B^2+A_3 B^3 と書くのが面倒なのでA_μ B^μと書いているだけであって、μという添字はあってなきがごときものだからである。またこれを「つぶれている」と表現するにも理由があるが、それは後で述べる。
ちなみに私は自分で計算する時は、ダミーの添字には星印やらハートマークやら、とにかく「一目見たら普通の文字じゃないとわかる文字」を使って「これはダミーなんじゃ!」と区別がつくようにしている。
たとえばこんな感じ→
前章で求めた座標変換の場合、
(6.11)
である。例によって、β=v/c, γ=という記号を使った。
要請1.の条件は
と書くことができる。ただし、
である。
ここで具体的な例について を計算してみよう。そのため、これを行列の計算に書き直す。2行2列の行列の計算が
で表されることと、掛け算の結果を行列で表すならば、この式は
のように書けることを使う。つまり「前の行列の後ろの添字(列の添字)と、後ろの行列の前の添字(行の添字)が同じもの同志を掛け算し、その和を取る」というのが行列の掛け算のルールである。説明は2行2列の行列で行ったが、これらの計算ルール自体は、4行4列の行列であっても同様に使える。
ここで、の計算をする。掛け算のルールに合うようにするためには、1番左側にあるαの行列が転置されていること、掛け算の順番がα^T,η,αの順であることに注意せよ。具体的に求めた(6.11)をこの式に代入してみると、
となる。つまりこの場合、という条件は必要でなく、一般的に
が成立していることがわかる。なお、x,y面内における回転を表す行列は
であるが、これらについても同様であることは、のような具体的計算で確かめることができる(反転に関しても同様)。一般のローレンツ変換は、x軸方向へのローレンツ変換に回転や反転を組み合わせることで表現できるので、全てのローレンツ変換でこれは成立する。
ほんとはこの辺はしっかりと計算してみせるか、一般論で示すべきであるが省略した。
ここでわかった非常に大事なことは
ということ。すなわち、
-(ct)^2 + x^2 + y^2 +z^2
がローレンツ変換の不変量である、ということである。このうち時間成分を除いたx^2+y^2+z^2は3次元空間における距離の自乗であって、これは回転(および反転)という座標変換に対して不変であった。「距離の自乗」の4次元バージョンである-(ct)^2 + x^2 + y^2 +z^2は回転・反転だけでなく、ローレンツ変換に対して不変となっている。なお、4次元的な距離の自乗を不変にする変換を(3次元的な回転や反転もひっくるめて)「ローレンツ変換」と呼ぶ場合もある。上で求めたようなを満たす行列α^μ_νで表される変換は、すべて広い意味でのローレンツ変換である。
もともとローレンツ変換を求める時においた要請1.は -(ct)^2 + x^2 + y^2 +z^2 の値の不変性ではなく、「 -(ct)^2 + x^2 + y^2 +z^2 =0であれ」という条件の不変性であったが、要請2.と要請3.のおかげで、 -(ct)^2 + x^2 + y^2 +z^2 そのものが不変でなくてはならなくなったのである。
下の図は、(x,y)面においてx^2+y^2=一定となる線と、(x,ct)面において-(ct)^2+x^2=一定となる線を書いたものである。右の図は「等距離の点」には見えないが、4次元的な意味で「等距離の点」なのである。
4次元的に考えるのはすごく難しい(ものすごく多数)
イメージするのは確かに難しい。数式とにらめっこしながら考えてみてください。
なんで「距離の自乗」がマイナスになるんですか!(多数)
そういう定義だから(^_^;)。なぜそう定義するかというと、ローレンツ変換に対して不変量になるようにしたから。プラスになるような定義だと、ローレンツ変換したら値が変わってしまうのです。「自乗だからプラスだろ!」ということよりも「不変量じゃなきゃ距離の自乗って言えないだろ!」ということの方が大事なのです。
行列をα_11と書くのと、α^1_1と書くのは何か違うんですか?
その違いについてはまた来週。
行列の「行」と「列」がどっちがどっちか、よく悩むけど、今日の授業でよくわかった。
「行」の字には横線があるから横に並んでいるのが行、「列」の字には縦線があるから縦に並んでいるのが列、って奴ですね。私は大学1年の時の数学の先生に習いました。その先生から他に何を教わったかは全部忘れましたが、これだけは覚えてます。