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第7章 相対論的力学

7.1 ニュートン力学を相対論的に再構成する

ガリレイ変換 ローレンツ変換 実験的検証
ニュートン力学 × 19世紀まで○
ヘルツの方程式 × ×
マックスウェル方程式 ×
相対論的力学? ×

 ここまでの流れを整理しよう。ここまで、相対性原理(絶対空間は存在しないということ)を一つの原理として捉えてきた。そして、電磁気の基本法則であるマックスウェル方程式が相対性原理を満たしていないように見える(ガリレイ変換で不変でない)ことから、マックスウェル方程式を破棄するか、ガリレイ変換を破棄するかの二者択一を迫られることになった。マイケルソン・モーレーをはじめとする実験事実から、破棄されるべきなのはガリレイ変換であり、ローレンツ変換へと修正すべきであることがわかった。また、時間と空間を別物と考えるのではなく、合わせて4次元の時空を考えて、その4次元を混ぜ合わせるような変換としてローレンツ変換を捉えればよいことがわかった。

 そこでもう一度元にもどって考えると、そもそも相対性原理が考えられたのは、ニュートン力学はガリレイ変換で不変であったからである。しかし電磁気に対する考察からガリレイ変換はローレンツ変換へと修正されたのだから、今度はニュートン力学をローレンツ変換で不変になるように作り直さなくてはいけない。この章で考えるのはローレンツ変換で不変になるように作り直された新しい力学、すなわち相対論的力学である。

 そこで、どのようにして相対論的力学を作るか、その概要を述べる。ニュートン力学の基本である運動方程式は

 {dp^i/ dt}=f^i

という形をしている。p^iは運動量で、具体的にはp^i=m{dx^i/ dt}である。ニュートン力学では、ある時刻tにおいて、物体の位置x^i(t)を時間の関数として与え、時間がたつにつれてこれらがどのように変化していくかを運動方程式を使って追い掛ける。ニュートン力学では時間というものが特別なパラメータとなっている。しかし、時間というものを特別視していては、相対論的に不変な方程式にはならない。運動のパラメータとしては座標時間tを使うのではなく、固有時τを使うべきである。τは「その物体が静止している座標系で測った時間」という定義になっているので、物体を決めれば一意的に決まり、ローレンツ変換しても変わらない。以下で、

1.座標時間による微分{d/ dt}は全て固有時微分{d/ dτ}に置き換える。
2. 3次元ベクトルx^i=(x(t),y(t),z(t))で表されている量は4元ベクトルx=(ct(τ),x(τ),y(τ),z(τ))に拡張する。
3. 方程式の両辺はローレンツ変換した時に同じ変換をされるものではなくてはならない。

という方針で相対論的力学を作っていこう。

7.2 4元速度

 まず、ニュートン力学における3次元速度{dx^i/ dt}をV=(c{dt/ dτ},{dx/ dτ},{dy/ dτ},{dz/ dτ})に置き換える。固有時τはローレンツ変換で変化しないため、x (x')^μ=α^μ_{‾ν}x^νとローレンツ変換される時、V^μ¥to ¥alpha^μ_{‾ν}V^νとローレンツ変換される。すなわちVは4元ベクトルであり、「4元速度」と呼ばれる。

 物体の4元速度の自乗を計算すると、

(-c^2({dt/ dτ})^2+({dx/ dτ})^2+({dy/ dτ})^2+({dz/ dτ})^2)= -c^2 (7.2)

となる。つまり、4元速度は常に時間的(自乗がマイナスになるベクトル)であって、4元速度の自乗は一定値なのである。3次元的に見ると物体はそれぞれ固有の速さを持って運動しているように見えるが、4次元的に見れば全て同じ速さで運動している、と考えることもできる。ただし、

(4元速度の自乗)=((空間的速度の自乗)-(時間的速度の自乗))

という形になっているので、空間的方向の速度が速くなると時間的方向の速度も速くならなくてはいけない。

 「時間方向の速度が増える」というのは変な表現だが、今考えている「速度」というのは「単位固有時あたりの変化」という意味であるから、「τ(固有時) が1変化する間にt(座標時)はどれだけ変化するか」ということである。動いているとこれが増える、というのはどういうことかというと、「小さいτの変化に対し、tが大きく変化する」逆に言えば「tが大きく変化しているのにτがあまり変化しない」ということである。つまり、「運動物体の時間は遅れる」ということの別の表現だということになる。

 4元速度の第0成分であるc{dt/ dτ}を3次元速度v^i={dx^i/ dt}を使って表そう。(7.2)より、

-c^2({dt/ dτ})^2 + ¥biggl(¥underbrace{{dx^i/ dt}}_{=v^i}{dt/ dτ}¥biggr)^2=  -c^2 ¥¥ -({dt/ dτ} )^2(c^2-|¥vec v|^2) = -c^2 ¥¥{d(ct)/ dτ}= {c/¥sqrt{ 1-{|v|^2/ c^2}}} = cγ

となって、ウラシマ効果の時間遅れの因子γにcをかけたものが出てくる。また、3次元速度v^iと4次元速度Vの関係は{dx^μ/ dτ}={dx^μ/ dt}{dt/ dτ}となることから、

V^0= cγ, V^i = γ v^i

となる。物体が静止している時、4元速度は(c,0,0,0)となる。そして、速度vがcに近づくにつれてVは無限大へと発散する。

 これが意味することは、有限の力積(あるいは有限の仕事)を加えたのでは、Vを有限の値しか変えられないので、物体の速度をcにすることはできませんよ、ということ。

7.2 速度の合成

 x系でから見ると原点が速度vで動いているような、x'座標系を考える。この座標系内で見て三次元速度v'で動いている物体はx座標系で見るとどれだけの速度で動いていることになるであろうか。ガリレイ変換であれば単純な和v'+vになるが、ローレンツ変換の場合そうではない。まず、x'座標系で速度Vで動いている物体の軌跡は、x'=v't'で表される。これにローレンツ変換の式を代入すると、

  γ(x-v t)=v'γ(t-{v/ c^2}x) ¥¥  x-v t=v't-{v'v/ c^2}x ¥¥  x(1+{v'v/ c^2} )=v't+vt¥¥  x={v'+v / 1+{v'v/ c^2}}t

となる。これは速度{v'+v/ 1+{v'v/ c^2}}で動く物体の軌跡である。つまり、3次元速度vと3次元速度v'の合成結果は{v'+v/ 1+{v'v/ c^2}}なのである。ここで注意すべきことは、vもcより小さくなるということである。

【問い11】証明せよ。

 つまり、速度をいかに足し算していっても、光速度cを超えることはない。これは、ローレンツ変換が速度ベクトルの自乗を保存すること、つまり時間的なベクトルをいかにローレンツ変換してもやはり時間的ベクトルである、ということにからもわかる。

 なお、上の計算は二つの速度がどちらもx方向を向いている時の計算であるが、たとえばx'系での速度が(v'_x,v'_y,v'_z)であるような時は、y'=v'_y t'という式が成立しているので、

  y=v'_y γ(t-{v/ c^2}x) =v'_y γ(t-{v/ c^2}{v'_x+v/ 1+{v'_xv/ c^2}}t)   =v'_y γ({1-{v^2/ c^2}/ 1+{v'_xv/ c^2}})t =v'_y ({¥sqrt{1-{v^2/ c^2}}/ 1+{v'_xv/ c^2}})t ¥¥

となり、y方向の速度はv'_y ({¥sqrt{1-{v^2/ c^2}}/ 1+{v'_xv/ c^2}})ということがわかる。z方向も同様に、v'_z ({¥sqrt{1-{v^2/ c^2}}/ 1+{v'_xv/ c^2}})とわかる。

 なお、このような速度の変換は、4元速度の考え方を使っても導くことができる。x'座標系で見ると4元速度V'を持っている物体があったとすると、x座標系では、

 V^0 = γ(V^{¥prime0}+β V^{¥prime1}), V^1 = γ(V^{¥prime1}+β V^{¥prime0}),V^2=V^{¥prime2},V^3=V^{¥prime3}

と、ローレンツ変換と同じ変換を受けることになる。{v^i/ c}={dx^i/d(ct)}={dx^i/ dτ}{dτ/ d(ct)}={V^i/ V^0}ということを使うと、

 {v^1 / c}= {γ(V^{¥prime1}+β V^{¥prime0})/ γ(V^{¥prime0}+β V^{¥prime1})}= {V^{¥prime1}+β V^{¥prime0}/ V^{¥prime0}+β V^{¥prime1}}= {{V^{¥prime1}/ V^{'0}}+β / 1 +β {V^{¥prime1}/ V^{¥prime0}}}= {{v^{¥prime1}/ c}+β / 1 +β {v^{¥prime1}/ c}}={1/ c} {{v^{¥prime1}}+v / 1 +{vv^{¥prime1}/ c^2}}

 {v^2/ c}= {V^{¥prime2}/ γ(V^{¥prime0}+β V^{¥prime1})}= { {V^{¥prime2}/ V^{¥prime0}}/ γ(1+β {V^{¥prime1}/ V^{¥prime0}})}= { {v^{¥prime2}/ c}/ γ(1+{vv^{¥prime1}/ c^2})}

(v^3も同様)として求めていくこともできる。

7.3 4元加速度、4元運動量と4元力

 4元速度をさらに固有時τで微分したものを4元加速度と言う。式で書けば{d^2 x^μ/ dτ^2}となる。4元加速度の性質として、4元速度と(4次元の意味で)直交する。なぜなら4元速度の自乗が一定であることから、

  0={d/ dτ}(η_{μν}{dx<SUP>^μ</SUP>/ dτ}{dx^ν/ dτ}) ¥¥0= 2η_{μν}{d^2 x<SUP>^μ</SUP>/ dτ^2}{dx^ν/ dτ}

となるからである。

 4元速度に質量(相対論では質量という言葉にいろんな定義があるのだが、単に「質量」と書いてあったら「静止質量」のことである。他の質量の定義は後で述べるが、基本的な量は「静止質量」であり、これはローレンツ変換によって変化しない、定数である)をかけたものを4元運動量と呼ぶ。

P^μ=( mc{dt/ dτ},m{dx/ dτ},m{dy/ dτ},m{dz/ dτ})

のようなベクトルで、これは3次元の運動量

 p^i=(m{dx/ dt},m{dy/ dt},m{dz/ dt})

と、

P=( mc γ, γ p^1, γ p^2 , γ p^3)

のような関係にある。ここで、4元運動量の第0成分にはどんな意味があるのかを知るために、この4元運動量の微分dPについて考えてみる。

 4元運動量は4元速度にmをかけたものであるから、その自乗PP_μνP Pは-m^2c^2という定数になる。この式を微分すると、

η_μνdP P^ν=0

であるが、これを少し変形すると、

  η_{μν}dP^μ dx^ν=0  dP^i dx^i=dP^0 d(ct)//  {dP^i/ dt} dx^i= c dP^0 (7.16)

となる。つまり、{dP^i/ dt}とdx^iの3次元的内積がP^0の変化量となる。ニュートンの運動方程式と同じように、

f^i = (dP^i/dt)

のようにして力を定義するならば、(7.16)はまさに

仕事= cP^0の変化

という式になる。これはcP^0がエネルギーと解釈できることを示している。つまりエネルギーは「時間方向の運動量× c」なのである。量子力学でp_i= -i¥hbar {¥partial /¥partial q_i},E=i¥hbar {¥partial /¥partial t}のような対応になっているのは、エネルギーが時間方向の運動量だからであるとも言える。Eだけ符号が違うのも、もちろんη_μνが時間的成分のみマイナスであることが関係している。

 4元運動量の自乗はη_μνP P^ν= -m^2c^2であるから、P^0=(E/c)とおくと、

-m^2 c^2 = -(E/c)^2 + |P^i|^2

という式が成立する。上の式から、運動量の大きさが増えるとエネルギーも増加する(自乗の差が一定値なのだから)。

 ここで、そもそも運動量やエネルギーというものが、ニュートン力学においてどのように導出されたものか、ということを思い出そう。まず運動方程式

 m{d^2 x^i/ dt^2}=f^i

から出発する。この両辺を時間で積分(区間は[t_i,t_f])すると、

 m{d x^i/ dt}¥big|_{t=t_f}- m{d x^i/ dt}¥big|_{t=t_i}=¥int_{t_i}^{t_f} f^idt

という式が出る。これは、運動量の変化が力積である、という式である。

また、x^iで積分すると、

 ¥int_{x_i}^{x_f}  m{d^2 x^i/ dt^2}dx^i=¥int_{x_i}^{x_f} f^i dx^i¥¥  m¥int_{t_i}^{t_f} {d^2 x^i/ dt^2}{dx^i/ dt}dt=¥int_{x_i}^{x_f} f^i dx^i¥¥  m¥int_{t_i}^{t_f} {d/ dt}({1/2}({dx^i/ dt})^2)dt=¥int_{x_i}^{x_f} f^i dx^i¥¥{1/2}m({dx^i/ dt})^2¥big|_{t=t_f}-{1/2}m({dx^i/ dt})^2¥big|_{t=t_i}= ¥int_{x_i}^{x_f} f^i dx^i

という式が出る。x_iは時刻t_iでの粒子の位置(x_f,t_fも同様)である。つまり、エネルギーは仕事f_i dx^iによって変化する量として定義されている。同様に、cP^0はエネルギーと解釈されるべき量なのである。実際、vがcより小さいという極限で計算してみると、

 cP^0= mc^2 {1/ ¥sqrt{1-β^2}}=mc^2(1+{1/2}β^2+…)= mc^2 + {1/2}mv^2+ …

となって、定数項mc^2とβの4次以上の項を除けばなじみのある運動エネルギーの式{1/2}mv^2が出てくる。なお、相対論で有名な公式(意味はわからなくてもこの式だけは知っている、という人も多いので、もしかすると、物理の公式の中で一番有名かもしれない)であるE=mc^2はこの式のβ=0にしたものである。つまり静止している物体もmc^2だけのエネルギーを持っているということを表している。しかし、ここまでの時点では単にエネルギーの原点がmc^2だけずれているだけのことである。通常の力学ではエネルギーの原点には意味がないが、このmc^2がないとPが4元ベクトルでなくなってしまうので、4元運動量として意味があるためにはmc^2を消してしまうことはできない。しかし、取り出すことのできるエネルギーは結局はエネルギーの差であり、cP^0の最小値はmc^2なのだから、このmc^2はこの一個の粒子の運動を考えている限りにおいては取り出すことのできないエネルギーということになる。ゆえに、(この時点では)このmc^2に物理的に深い意味はない(この式に含まれる深い意味は後で明らかになる)。

学生の感想・コメントから

 速度合成の式のおかげで、「なぜ光速を超えられないのか」という疑問が解決しました(多数)
 もっと早い時期にあの式は出しておくべきでしたね。

 tとτは、tは座標系においてずーーーっと止まっている人の時間、τは動き回る人にとっての個々の時間ととらえたんですけど、それでいいですか?
 その通りです。物体一個一個が腕時計をはめていると思って、その腕時計の指す時刻がτです。

 E=mc^2がやっと出てきました。有名な式なので理解したいです。
 今日は顔見せだけみたいな感じで、その本質的な意味は来週です。ほんとに最後の最後になってしまいました。もうちょっと余裕もって講義の計画たてておけばよかったなぁ、と今になって思います。

と、書いていた段階では、来週が最後の講義で、再来週がテストだと思っていた。よくカレンダー見てみたら、そうじゃなくて再来週が最後の講義だった。学生のみなさん、テストは8月3日ですからねぇ〜〜。

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