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 なお、ここで定義した力f^i=(dP^i/dt)は、その定義(t微分を使ったところ)からして4元ベクトルになっていない。4元ベクトルになる力F

(dP/ dτ)=F

で定義すると、F=(dt/dτ) fという関係が成立する。このτは、今力が及ぼされている物体の固有時であるから、その物体が速度u^iを持っているならば、

{dt/ dτ} ={1/ ¥sqrt{1-{u^2/ c^2}}}

である。

 Fを「4元力」または「ミンコフスキーの力」と呼ぶ。

 4元力は4元ベクトルであるから、その変換性は他の4元ベクトルと同様で、x方向に速度βで移動する座標系へ変換した時、

F'^1=γ(F^1-β F^0), F'^0=γ(F^0-β F^1), F'^2=F^2,,F'^3=F^3

となる。f^μ=¥sqrt{1-(u/ c)^2}F^μという式が成立している(uは今考えている粒子の速度である)ことを考えると、fの方の変換も計算できる。ただしその時は、x座標系とx'座標系では、物体の速度u^iも速度の合成則に従って変換することに注意しよう。したがってfの変換はFに比べると複雑なものになってしまう。

 

7.5 質量の増大?

 よく相対論の本では「運動すると物体の質量が増大する」という意味のことが書いてある。この講義ではここまで一貫して質量mを定数として扱ってきた。ではこのmは増大するのだろうか?

 もちろん、しない。では「運動すると物体の質量が増大する」とはどういう意味なのか。ここで「そもそも質量の定義とは何か?」ということに立ち戻る必要がある。ニュートン力学における質量は運動方程式

f^i = m(d^2 x^i/dt^2)

によって規定されている。相対論的力学でも、力としてfの方(4元力Fではなく)を使えば、ニュートンの運動方程式と同じ形の、

f = (dP/dt)

であるが、運動量Pはこの場合4元運動量であって、3次元運動量p^iとは少し違う。具体的には

 P^i = m{dx^i/ dτ}= {mv/¥sqrt{1-({v/ c})^2}}=¥underbrace{m}_{静止質量}¥underbrace{v^i/¥sqrt{1-({v/ c})^2}}_{4元速度の空間成分}=¥underbrace{m/¥sqrt{1-({v/ c})^2}}_{相対論的質量}¥underbrace{v^i}_{3次元速度}

となるわけであるが、この運動量のどこまでを「質量」と考え、どこまでを「速度」と考えるかには、上の二つのような流儀がある。

 どちらの流儀で考えるにせよ、ある力f^iをdt秒間加えた時、{mv^i/ ¥sqrt{1-({v/ c})^2}}がf^i dtだけ増大するのは同じである。なお、実際にP^iを時間で微分したとすると、

  {dP^i/ dt}={d/ dt}({m v^i/ ¥sqrt{1-({v^2/ c^2})}})={m {dv^i/ dt}/ ¥sqrt{1-({v^2/ c^2})}}+{m v^iv^j {dv^j/ dt}/ c^2({1-({v^2/ c^2})})^{3/2}}

となる。つまり、力f^iの方向と加速度(dv^i/dt)の方向は必ずしも一致しない。速度v^iと加速度(dv^i/ dt)が直交しているような場合は第2項が消えるので非常に簡単になる。磁場中を走る荷電粒子の場合、ローレンツ力qvB(ここでは説明しないが、qvBで表されるのがfなのかFなのかは、電磁場をローレンツ変換した時どうなるべきかということから決まる)を受けて円運動するが、加速度は速度と垂直(中心向き)に(v^2/r)となるので、

 qvB = {m/¥sqrt{1-{v^2/ c^2}}}{v^2/ r}

となって、半径がr={mv/ qB¥sqrt{1-{v^2/ c^2}}} となる。非相対論的な計算では分母の¥sqrt{1-{v^2/ c^2}}は表れない。実験によって支持されるのはもちろん相対論的な計算であり、荷電粒子を磁場中で加速する(サイクロトロンなど)実験装置ではこのいわゆる「質量増大」の効果を考えて設計せねばならない。

 以下の縦質量に関する部分は授業では省略。

 逆に、運動方向と加速度が同じ方向を向いていると、また話が少し変わる。この場合、v^iも(dv^i/dt)もx成分だけが零でないとすると、

  {dP^1/ dt} ={m {dv/ dt}/ ¥sqrt{1-({v^2/ c^2})}} +{m v^2 {dv/ dt} / c^2 ( {1-({v^2/ c^2})})^{3/2}} ={m {dv/ dt}(1-{v^2/ c^2})/ (1-({v^2/ c^2}))^{3/2}} +{m v^2 {dv/ dt} / c^2 ( {1-({v^2/ c^2})})^{3/2}} ={ m /  ( {1-({v^2/ c^2})})^{3/2}}{dv/ dt}

となり、この場合は質量が{m/(1-{v^2/ c^2})^{3/2}} に増えていることになる。こちらを「縦質量」、さっきの{m/¥sqrt{1-{v^2/ c^2}}}を「横質量」として区別する場合もある。縦質量の方が横質量より大きいのは、横方向に押す場合はvの大きさは変化しない(つまり運動量の分母は変化しない)が、縦方向に押すとvの大きさを変える(運動量の分母も変える)のに余分な力が必要になるからである。このように、「質量が増大する」という考え方は、「質量」と「速度」の両方が時間的に変化すると考える分だけ、計算がかえって複雑になる場合もあり、あまり推奨されない。質量は常にmで一定だと考えて、運動量の式には分母に¥sqrt{1-{v^2/ c^2}}があるのだとした方が簡便である。どちらの流儀でも、「相対論では運動量がmvではなくmvγになる」ということを把握しておけば問題はない。

 ここで、fが有限で時間経過も有限である限り、Pは有限の値を取ることに注意しよう。速度を増やしていくと、v=cとなったところでPは無限大となる。ゆえに、有限の力で有限の時間加速している限り、光速に達することはない。このことは光速cが物体の限界速度であることを示している。

 

7.6 運動量・エネルギーの保存則

 ニュートン力学においては、運動量の保存則がどのように導かれたかを思い出そう。質量m_i(i=1,2,¥cdots,N)のN個の物体がそれぞれ¥vec p_iの運動量をもち、i番目の物体からj番目の物体へは力¥vec f_{ij}が働くとすると、

{d¥vec p_i¥over dt}= ¥sum_{j¥ne i}¥vec f_{ji}

である。これをiで足し上げると、

¥sum_i {d¥vec p_i¥over dt} = ¥sum_{i,j ¥atop i¥ne j}¥vec f_{ji}

となる。

312x266(2577bytes) 作用・反作用の法則により、¥vec f_{ij}=─¥vec f_{ji}(i番目がj番目に及ぼす力は、j番目がi番目に及ぼす力と同じ大きさで逆向き)である。Σ_{i,j}の和を取る段階でかならず¥vec f_{ij}¥vec f_{ji}の両方の和が表れるので、この二つが消し合うことにより、

(d/dt)(Σ_i ¥vec p_i)=0

となる。すなわち、運動量の和Σ_i ¥vec p_iは保存する。

 相対論的力学においても(dP/dt)=fが成立しているので、fについて作用・反作用の法則が成立していれば、同様にPの和が保存する。ここで、保存則が(d/dτ)(ΣP)=0ではなく(d/dt)(ΣP)=0であることに注意せよ。固有時τは粒子一個一個について独立に定義されているものだから、複数の粒子の運動量の固有時微分(dP/dτ)を足すことには意味がない。作用・反作用の法則が成立するのも、Fに対してではなくfに対してである。

 なお、相対論では運動量とエネルギーは同じ4元運動量の空間成分と時間成分という形にまとまっているので、運動量だけが保存してエネルギーが保存しないとか、あるいはこの逆のことなどはあり得ない。違う座標系に移れば時間成分と空間成分は入り交じる(たとえば、P'^0=γ(P^0-βP^1)というふうに)ので、全ての座標系で運動量保存則が成立するためには、エネルギーも保存していてくれないと困るのである。これは相対性原理からの帰結である。

 ニュートン力学では非弾性衝突が起こった時などはエネルギーが保存しない、というふうに言うけれど、相対論的力学はそういうふうにならないようにできているのです。というより、そうできてないと座標系によって運動量保存則が成立したり成立しなかったりして、ちっとも相対的でなくなってしまう。この条件がかなり強いしばりになって、後で出てくるE=mc^2の深い意味とつながってきます。

 なお、上では作用・反作用の法則が成立ということを仮定したが、相対論の場合にはこの仮定にも注意が必要である。なぜなら、相対論では空間的に離れた場所での同時刻には意味がない。上の図では、離れた物体との間で力が「同時に」働いているかのごとく書いているが、実際にはそんなことは起きない(そもそも、力も光速より速く伝わるはずがない!)。したがって厳密には、作用・反作用の法則を単純に適用してよいのは、物体と物体が接触して(同一時空点に存在して)力を及ぼす場合である。クーロン力を「二つの電荷の押し合い(引き合い)」と考える場合、作用反作用の法則が成立しているとは限らない。ただし、クーロン力を「電荷と、その場所の電磁場との相互作用による力」と考えるならば、ちゃんと作用・反作用が成立するのだが、その場合は「電磁場の持つ運動量」を計算してやらなくてはいけない。

 まずは物体が接触して衝突するという単純な問題の場合で相対論的な場合と非相対論的な場合にどのような差があるかを確認しておこう。

608x203(2244bytes)  静止している質量mの物体に、同じ質量の物体が運動量¥vec p_0を持って衝突したとする。結果として二つの物体の運動量が¥vec p_1,¥vec p_2になったとすると、

¥vec p_0 = ¥vec p_1 +¥vec p_2

という式が成立する(運動量保存)。この式は¥vec p_0,¥vec p_1,¥vec p_2が三角形を形作ることを示している。一方、非相対論的な計算では、エネルギーの保存則が

|¥vec p_0|^2/2m = |¥vec p_1|^2/2m+ |¥vec p_2| ^2/2mすなわち    |¥vec p_0|^2= |¥vec p_1|^2+ |¥vec p_2|^2

となる。これから¥vec p_0,¥vec p_1,¥vec p_2で作った三角形がピタゴラスの定理を満たすこと、すなわちこれが直角三角形となって、¥vec p_1¥vec p_2が垂直であることがわかる。これはビリヤードの玉などでも確認できる現象である。

 相対論的な計算では、エネルギー保存則は

 ¥sqrt{|¥vec p_0|^2c^2+m^2c^4} +m c^2= ¥sqrt{|¥vec p_1|^2c^2+m^2c^4}+ ¥sqrt{|¥vec p_2|^2c^2+m^2c^4}

となるので、もはや¥vec p_1¥vec p_2は直角ではなくなる。細かい計算は省略するが、角度θは90度より小さくなる。この現象は霧箱の中にβ線を入射させて、電子と衝突させるなどの実験で実際に起こることが確認されており、相対論的力学が正しいことの証拠の一つとなっている。

学生の感想・コメントから

 相対論って、けっこう実験的検証あるんですね。相対論を証明できないものって何ですか?
 そりゃもちろん。実験的検証がたくさんあるからこそ基礎理論になれるのです。「証明できないもの」という問いは難しいなぁ。

 ビリヤードに行きたくなりました。行ってきま〜す。
 勉強は? ねぇ勉強は?

 非弾性衝突の時はエネルギーは熱になったりして保存しているのではないのですか。だとしたらニュートン力学でも相対論的力学でも同じことだと思うのですが。
 いい質問です。来週きっちりやりますが、相対論的力学では「熱」などのエネルギーも、質量を変化させるという形で4元運動量の中に入ってくるのです。くわしくは来週やりましょう。

 「運動する物体は質量が増大する」というのは正確な表現ではなかったのですね。
 うーん、正確じゃないといえば正確じゃないかな。つまりは「質量とは何か」という定義をきっちりやった後でないと、「増大する」とか「増大しない」とかは言えないわけです。そして、どちらかというと現代的な考え方では、「増大しないように質量を定義する」ことが多いのです。

 本当に質量が増大したわけではなく、γをmにくっつけたら質量が増大したように見えるというだけのことなんですか?
 「本当に」という言葉の意味が問題ですが、「本当の質量」ってのは何でしょう??
 つまりは「質量」という言葉の定義をちゃんとしなきゃだめですよ、ということで、定義の仕方によっては増大することも増大しないこともある、ということです。どういう定義が「本当」なのか、と聞かれても「それは定義による」としか言えないものです。

 Pのt微分であるfが4元ベクトルじゃないのはなぜですか?
 ローレンツ変換の式を考えて見ます。P’=αPとなってます。f’=dP’/dt’で、f=dP/dtなので、これからf
=αと言う式を作ろうとしたら、、左辺をt’で、右辺をtで微分しなくてはいけなくなります。しかしそんなことをしたら等式が崩れてしまいます。F=dP/dτなら、両辺をτ(どの座標系でも共通)で微分すればいいので、ちゃんとF=αが出てきます。

 

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