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2.4 2次元の直線座標の間の変換

 一つ次元をあげて、2次元空間の場合で考えてみる。二つの空間座標をx,yとすると、x,yに対して別々の平行移動を行う座標変換

x'=x-a, y'=y-b

であるとか、それぞれ別の速度でガリレイ変換する座標変換

x'=x-v_x t,y'=y-v_y t

などがある。

 回転する座標系 しかしここまでは1次元の話を重ねているだけで面白味がない。2次元ならではの座標変換は、右の図のような、座標軸の回転である。

x'= xcosθ + ysinθ

y'=-xsinθ+ ycosθ

(2.7)

【問い3】図に適当に補助線を引くことにより、(2.7)式を図的に示せ。

 回転であるから当然であるが、この式は

(x')^2+(y')^2 = x^2+y^2

(2.8)

を満足する。つまり、原点からの距離(上の式は距離の自乗)はこの変換で保存する。

逆に、(2.8)を満足するような座標変換はどんなものか、考えてみよう。この変換はx,y(またはx',y')の1次変換の形になっているので、

xy座標の回転

(2.9)

と書くことができる。このように行列で書くと、(2.8)は内積の保存の式 である。

内積保存の式(行列)

(2.10)

上の式で、一個目の行列が行と列を入れ替えた形になっていることに注意。こうしないと正しい代入にならない。縦にならんだ列ベクトルを横にならんだ行ベクトルになおすと、となるからである。行列計算をばらしてみて、x'=a_11x + a_21y,  y'=a_12x + a_22yと代入したものになることを確認してみよ。

ということになるが、x,yが任意の数でこれが成立するためには、

直交行列になる

となればよい。これが意味することは、二つの列ベクトル2つの列ベクトル が、どちらも長さが1で、互いに直交せよ、ということである。このような条件を満たしている行列を直交行列といい、Aが直交行列であれば、A^TAは単位行列となる(A^Tは行列Aの転置(行と列を入れ替えたもの)を表す。)。

AA^Tも単位行列になりますか?
当然。Aの逆行列がA^Tだということですから、どっちからかけても単位行列です。

 直交行列であれ、というだけの条件では回転の行列になるとは限らない。たとえば、(a_12,a_22)=(sinθ,cosθ)としても、(a_11,a_21)は(cosθ,-sinθ)となる場合と(-cosθ,sinθ)となる場合が考えられる。前者は回転であるが、後者は回転+反転になっている。

3次元になると回転がより複雑になるが、基本的な考え方は同じで、3つの直交するベクトルを並べた形で直交行列を作れば回転(反転を含む場合あり)の行列を作ることができる。

【問い4】行列 が回転+反転の行列であることを、図を書いて確認せよ。

 なお、以上のような多次元の計算をする時、いちいちx座標はこう、y座標はこう、と式を並べるのは面倒なので、約束ごととして、x^1=x,x^2=yのようにxの肩に添字をつけて表すことが多い。x^1は「xの1乗」と、x^2は「xの2乗」と間違えやすいので注意すること。(添字は肩でなく下につけてx_1,x_2とする場合もある(この場合を「下付き添字」などと言う)。上付き添字と下付き添字は厳密には意味が違う。その差はこの講義の後半で出現する予定。実は厳密に考えると、(2.9) はx^i=a^i_jx^jのように書かなくてはいけない。今考えている2次元や3次元で直交座標を使っている場合ではそこまで厳密にしなくても支障無い)。この書き方を使うと、(2.9)は

(2.12)

と書けるし、(2.10)は

(2.13)

と書ける(a_jiとかa_jkなどの足の前後関係に注意せよ)。

 上の計算の補足。まず(2.12)を、と書き換える。そこに、 を代入する。すると右辺はとなる。この式の順番を入れ替えると(2.13)が出てくる。 これは行列で書くと(2.10)である。それは以下のように考えるとわかる。

のように二つの行列を考えて、その積を計算すると、

となる。ABという行列の(i,j)成分はとなっている。ここで、aの後ろの添字とbの前の添字が同じ添字になって、これが足し上げられていることに注意。これが正しい、行列の計算である。それに比べ、上の式ではaの前の添字同士が同じ添字になって足し上げられている。よって、この式を行列の式で書き直す時には、添字の前後(すなわち、行と列)を引っくり返した足し算をしていると思わなくてはいけない。ということで、行と列を入れ替えた行列(転置行列)が必要になるのである。

 さらに楽をするために、「同じ添字が2回現れたら、その添字に関して和がとられているものとする」というルール(始めたのはアインシュタインなので、「アインシュタインの規約」と呼ぶ。アインシュタイン本人は「私の数学への最大の貢献」と冗談混じりに自画自賛している。)を採用して、Σを省略することがある。その場合、(2.9)は

x^i = a_ijx^j

と書けるし、(2.10)は

(x')^i(x')^i = x^ja_ija_ikx^k= x^i x^i

と書ける。

 最後が x^i x^iになるのは、どういう計算ですか?
 これは計算ではありません。最初に回転という座標変換の性質として、(x')^2+(y')^2 = x^2+y^2 がわかっていたから、それを使っただけです。

 このように上や下に添字のついた量を「テンソル」(足の数をテンソルの階数と言う。ベクトルは足が一個ついているので「一階のテンソル」と言う。a_ijは二階のテンソル。)と呼ぶ(テンソルの正しい定義は後で行う)。以後この講義ではこの書き方をすることも多い(しばらくは併記するようにする)。どの書き方もたいへん大事なので、どれも使えるようになって欲しい。

a_ijが直交行列であるという条件は

a_ji a_jk_ik

と書ける。ただし、δ_ikはi=kの時1、それ以外の時0ということを意味する記号で、クロネッカー・デルタと呼ばれる。つまりは単位行列をテンソルで表したものである。

学生の感想・コメントから

Σを書かなくくていいのは便利そうだ。
という意見に比べ、

Σを書かないのは慣れないと難しい。
という意見が圧倒的。がんばって慣れてください。

今日のコメントはほとんどがこれだったので、いつもより少ない。

もし光の速さで飛ぶ宇宙船があったとして、その船から光を照らすと、その光の速さはどうなるのか。
その光の速さもcです。これは音だって同じです。超音速のジェット機が出す音も、音速で伝わります。

反転を表す行列は何ですか?
 が反転+回転の行列です。これのθ=0にすれば、反転だけの行列です(θ=180度でもよい)。

相対論で使う数学の分野は主にどこらへんでしょうか。
ちょっとした代数ができれば十分です。具体的な計算をする時には、微積分も当然必要です。

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