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2.4 2次元の直線座標の間の変換(続き)

回転に関しても運動方程式は不変になる。

 m{d^2 x¥over dt^2}=F_x, m{d^2 y¥over dt^2}= F_y

から、

 m{d^2 x'¥over dt^2}= m{d^2 x¥over dt^2}cos θ+ m{d^2 y¥over dt^2}sin θ= F_x cosθ + F_y sin θ

同様に

 m{d^2 y'¥over dt^2}=-F_x sinθ+ F_y cos θ

となる。ゆえに、

F_{x'}= F_x cosθ + F_y sin θ¥¥F_{y'}=-F_x sinθ+ F_y cos θ

を「回転された力」と考えれば(これは座標というベクトルと力というベクトルが同じ形の変換をしなさい、ということなので、reasonableである。)

 m{d^2 x'¥over dt^2}=F_{x'},  m{d^2 y'¥over dt^2}=F_{y'}

が成立し、回転前と同じ運動方程式が成立している。

このことも、行列およびテンソルを使った書き方で示しておく。

行列を使って書くならば、運動方程式が

と書かれていて、回転した座標系では、

回転した運動方程式

と書かれる、ということになる。角度θが時間tによっていなければ、この二つの式は等しい。また、a_11=a_22=cosθ,a_12=-a_21=sinθとしてa_ijを使って表すならば、運動方程式は

 m {d^2 x^i¥over dt^2} = F^i

から

 m a_{ij} {d^2 x^j ¥over dt^2} = a_{ij}F^j

と変わる、ということになる。a_ijが時間によらなければ、この二つは等しい。

行列表示あるいはテンソル表示では、元の運動方程式に何か(行列だったりa_ijだったり)をかけることで新しい座標系での運動方程式が出ている、ということがわかりやすいかと思う。

2.5 運動方程式を不変にする3次元の座標変換

この節は授業では飛ばしたので省略。2次元を3次元にするだけなので本質的に難しいところは特にない。

2.6 絶対空間に対するマッハの批判

 ニュートンはニュートン力学を構築する時、「絶対空間」すなわち物体が静止していることの基準となる空間を仮定した。つまり、「静止している」ということが定義できるとしたのである。マッハはこれを批判し、「物体が静止しているかどうかを判定することはできない」と主張した。実際ニュートンの運動方程式はガリレイ変換で不変なのだから(動きながら見ても物理法則は変らないのだから)運動を見ているだけではその物体が静止しているかどうかを判定することはできない。観測者自身すら、止まっているのかどうかが判定できないからである。

 この「動いているかどうか判定できない」というのは等速直線運動の場合に限る。たとえば観測者が回転運動をしていれば、遠心力を感じるので、遠心力があるか否かを実験することで「自分は回転しているのか」を判定することができる(数式上で言えば、先の計算のθが時間の関数であれば、運動方程式は不変ではない)。しかしマッハはこの考え方も批判していて「自分が静止していて宇宙全体が回転していたとしても遠心力が働くかもしれない」と述べている。今のところ(?)、誰も宇宙全体を回転させるような実験はできないので、この真偽はもちろんわからない。

 ここで遊園地にある、部屋がぐるぐる回った後で床が抜けるアトラクションの話などをした。遠心力で壁に押し付けられるため、床が抜けても落ちない。これも、部屋ではなく宇宙全体が回っても遠心力が発生する・・・はずである(マッハの言うことを認めれば)。

 マッハの批判から学ぶべきことは「観測されていないことを固定観念で「決まっている」と思い込んではいけない」ということである(このあたりの「心」は量子力学にもつながるかもしれない。ただし、マッハ自身は量子力学どころか、分子論に対しても批判的であった。つまりは全てを疑ってかかる人だったのだろう。)}。ニュートンは実際には観測することができない「絶対空間」をあると仮定してニュートン力学を作った(実際にはこの仮定は必要ではない)。「絶対空間」が存在することは人間の感覚にはなんとなく、合う。だが、感覚を信用することは危険である。「物体に働く力は、物体の速度に比例する」という、人間の感覚に合うアリストテレスの理論が長い間信じられてきた(が間違っている)ということを思い出さなくてはいけない。

2.7 この章で考えた座標変換と、「慣性系」の定義

 以上でわかるように、ニュートンの運動方程式は

1. ガリレイ変換。すなわちx'=x-vt-bという形の、等速運動による原点ずらし。
2. 一定角度(時間にも空間にもよらない角度)の回転。
3. 座標軸の反転。

によって不変である。しかし例えば時間によって変動する角度で回転させたり、等加速度運動させたりすると、もはや新しい座標系では運動方程式が成立しなくなる。

 そこで、ニュートンの運動方程式が成立する座標系を特別に「慣性系」と呼ぶ。ニュートンの運動方程式は上の座標変換で不変である。つまり、上の座標変換は、慣性系を別の慣性系に移すような座標変換である、ということが言える。

 たとえば地球表面に固定した座標系は厳密には慣性系ではない。地球の回転によって、コリオリ力および遠心力というみかけの力が働く。また、慣性系xに対して加速度運動しているような座標系

x'=x -at^2/2

を導入したとすると、このx'系での運動方程式は

m¥left({d^2 x'¥over dt^2}+a¥right)=F

あるいは

 m {d^2 x'¥over dt^2}= F-ma

となってしまう。つまりx'系は慣性系ではなく、運動方程式の力の部分に余分な項-maがつく。この項は「慣性力」と呼ばれる。加速している物体(発進する車など)の上の観測者が加速と逆向きに力が働いているように感じるのが、この慣性力のもっとも単純な例である。このような加速度のある座標系は特殊相対論ではあまり扱われないが、一般相対論では非常に重要になる。

 その慣性力は、他の原因の力と区別はつかないんですか?
 すばらしい!その質問は、アインシュタインが一般相対論を考える手がかりになった質問です。実際この力はmaという大きさで重力mgと区別がつかないので、車が発車したから慣性力で引っ張られたのか、車の後ろに突然惑星が現れて引力がかかったのか、区別はつきません。アインシュタインはそれを手がかりにして、重力を慣性力のような表し方で表すことができるんじゃないかと考えて、一般相対論を作りました。その結果が前にも言った、ブラックホールの近くでは時間が遅くなるとか、そういう話なんです。

 ここで少し脱線して、重力と慣性力が区別がつかないよ、という話から、自由落下すると重力が消えるという話、「アポロ13」という映画では急降下する飛行機内で重力を慣性力で打ち消すことで無重力シーンを撮影したんだよ、という話などをしゃべる。

 宇宙へ行くと無重力になるのは、地球の引力がなくなるからじゃないんですか?
 実際に、スペースシャトルなんかで行っている宇宙は、まだまだ地球の近くだから、万有引力はまだ働いてます。例えば人工衛星みたいにぐるぐる地球の周りを回っていると、遠心力と万有引力が同じ大きさで逆を向くので、人工衛星の中にいる人は重力がなくなってしまったように感じる、ということです。

【問い5】平面上の慣性系(x,y)に対して角速度ωで回転している座標系(x'=x cosωt+y sinωt, y'=-x sinω t+y cosωt)で成立する運動方程式を求めよ。普通の運動方程式に比べ、余分な項がつくが、その余分な項の物理的意味は何か。
答えは省略するが、余分な項は2種類出て、一方は遠心力で、もう一方はコリオリ力となる。

19世紀終わりの段階では(まだ量子力学が出てないので)、基本的な方程式は力学におけるニュートンの運動方程式と電磁気におけるマックスウェル方程式であった。この章では、ニュートンの運動方程式が全ての慣性系で成立するということを確認した。ではマックスウェル方程式は?---これが次の章のテーマとなる。

2.8 光の伝搬とガリレイ変換

この節は次の章の予告編みたいなものだったので授業では飛ばして先へ進んだが、ここまでで授業終わって次3章から、の方がよかったかも。とりあえず講義録には乗せておく。

ここまででガリレイ変換がどういうものか、という感覚がつかめたと思うので、ここで少し先走って、ガリレイ変換の考え方では「光は誰が見ても同じ速度である」という事実を説明できそうにない、ということを確認しておこう。

光円錐と、それをガリレイ変換したもの。

光が一点からまわりに広がっていく、という現象は左側の図のように記述することができる。例によってz座標を省略している。これは円錐のように見えるので、光円錐(light-cone)と呼ばれる。光円錐の中に書かれている太線矢印はある粒子の軌跡を表している。

この現象を、左に走りながらみたらどうなるだろう。ナイーブに考えると(「ナイーブ(naive)」という言葉は日本語だと良い意味にとられるが、英語では「だまされやすいばか」という意味にとられることが多い。特に物理で「ナイーブに考えると」という言葉は「間抜けが考えると」に近い)、右側の図のようになると思われる。

実際に見える光円錐。ガリレイ変換ではない。 しかし、光の速度は動きながらみても変わらないということが実験事実なので、光円錐の形は変化しないことになる。しかし、物体の運動に関しては変化している(これも実験事実!)。

ちなみに、光の速度は変化しないが、その様子はいろいろと変わっている。どのように変化するのかについては今後の講義で話そう。とにかくここまでで感じて欲しいことは、「図Aを動きながら見たら図Bではなく図Cになるとしたら、図Aと図Cはどのような関係になっているのか」ということである。

「動きながら見る」ということは時々刻々位置が変化していく、ということだから、「超平面」の位置がずれていく、という考え方(ガリレイ変換がまさにこういう変換なのである)をすると、どうしても結果は図Bになってしまう。図Aが図Cに変化するためには、この図の水平方向の動きだけではだめである。かならず「超平面を傾ける」というような操作が必要になる。実際にどんな操作なのかは以後の講義を聞いてのお楽しみであるが、このような操作がすなわち「4次元的に考える」ということなのである。

第3章 電磁気学の相対性

3.1 電磁波に関する疑問

 前にも書いたが、アインシュタインが後に相対論へと続く道の中で、最初に抱いた疑問は「光の速さで飛ぶと波の形をした静電場や静磁場が見えるんだろうか?」だったと言う話がある。例えばx方向に伝播する電磁波

 E_x=E_z=0,E_y=E_0 ¥sin k(x-ct), B_x=B_y=0,B_z={E_0¥over c}¥sin k(x-ct)

(3.1)

は真空中のマックスウェル方程式

 ¥div {¥vec B}=0 &‾‾‾‾ ¥rot{¥vec E}=-{¥partial {¥vec B}¥over ¥partial t}¥¥ ¥div {¥vec E}=0 &‾‾‾‾ ¥rot{¥vec B}={1¥over c^2}{¥partial{¥vec E}¥over ¥partial t}

(3.2)

の解である。

光速で走りながら電磁波を見るアインシュタイン

【問い6】(3.1)が(3.2)の解であることを確認せよ。
【問い7】(3.2)は、通常の教科書に載っている式を、真空中ではD=ε_0 E,B=μ_0 Hであることを使って簡単化した式である。教科書に載っている式からこの式を導いてみよ。

これを速度cで走りながら見たとすると、その観測者にとっての座標系(X,T)は速度cでのガリレイ変換を施した座標系

X=x-ct, T=t

だと考えられる。座標の変換だけを行えばよいのだとすると(つまり、電場や磁場は座標変換しても同じ値を保っているとすると)、この系での電場と磁場は

E_X=E_Z=0,E_Y=E_0 ¥sin kX, B_X=B_Y=0,B_Z={E_0¥over c}¥sin kX

となり、波の形をして止まっている電場と磁場が見えるように思われる。しかし、この解はマックスウェル方程式を満たさない。例えば左辺のrot¥vec EのY成分は-¥partial_X E_Z= -kE_0¥cos kXとなるが、右辺は{¥partial {¥vec B}¥over ¥partial T}=0である。

 というわけで、マックスウェル方程式がガリレイ変換で不変ではない、ということ(つまり相対論以前の考え方では、「電磁気学には絶対空間がある」ということ)が確認できた。ではこれはマックスウェル方程式というのは特別な座標系でしか成立しない式だということを意味するのか。だとすると、今後マックスウェル方程式を使う時は、自分が絶対空間にいるのかどうか確認しなくてはいけないことになるが・・・さてどうしよう???
 というところで、また来週。

学生の感想・コメントから

 授業の最後の話からすると、電磁気学では絶対空間があるのですか?(同様の質問多数)
 一見そう思える結果になったのは「ガリレイ変換」を使ったからです。実は「ガリレイ変換」が正しい変換ではない、ということがわかってきます(あと何回かの授業の後に)。

 マックスウェル自身は光の相対運動についてどう考えていたんですか? エーテルとかは仮定していたというのは本にのってたのですが。
 マックスウェルは光は空間に分布したものが伝えると考えていたので、絶対空間があることを仮定していたことになります。

 光の速さで運動すると、という話がよく出てきますが、走っている電車の中で前後に光が出たらどうなるのでしょう?
 まさにその話を、4章ぐらいでやることになると思いますから、少し待ってください。

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