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第4章 光速度不変から導かれること

 前章で、マックスウェル方程式がガリレイ変換で不変でないということを述べた。この解釈として、

1. マックスウェル方程式は特定の座標系でしか成立しない方程式であると考える。
2. ガリレイ変換が正しくないと考える。

という二つの方向性があり得る。しかし前者は実験により否定されてしまったので、後者を考える必要がある。マイケルソン・モーレーおよびそのほかの実験の結果として「光速はどのように動きながら測っても$c$である」という事実がある。つまり、マックスウェル方程式は全ての慣性系で成立していると考えるべきなのである。だから、それにあうように理論を作らなくてはいけない。よってガリレイ変換の方を修正する必要が出てくるのである。

 アインシュタインは「物理法則は全ての慣性系で同じである」という要請を特殊相対性原理と呼んだ。この物理法則の中にマックスウェル方程式も入っているとすれば、これは光速度不変の原理を含んだ原理である。そしてこの原理が成立するためには、ガリレイ変換ではない座標変換を作らなくてはいけない。

4.1 同時の相対性

 長さ2Lの電車を考える。ただし、今はこの電車は動いていない。中央に人間が立っている。前方の端(人間からの距離L)と後方の端(人間からの距離はL で同じ)に電光掲示板式の時計があるとする。今、ある時刻(図では0時0分0秒とした)を示す時計の光は、時間(L/c)後(図では1秒後として書いた)に中央の人間に到達する。つまりこの瞬間(図では0時0分1秒である)、中央の人はどっちの時計を見ても0時0分0秒という目盛を読めることになる。

 この現象を、動きながら見たらどうであろう。

 今、電車の前方から後方へ向かう方向へと移動している観測者がこの現象を観測したとする。この観測者から見ると、電車は前方に向けて運動しているように見える。

 ガリレイ変換的な考え方(つまりは我々の直観に訴える考え方)からすると、前方から出た光は、観測者の運動と同方向に伝播することになるので、観測者の速度の分遅くなる。同様に後方から出た光は観測者の速度の分速くなる。一方、光が到達するまでの間に電車の中央は前方に移動する。それゆえ、結局は同時刻に出た光が同時刻に中央に到達する、ということになる。この二つの図は、どちらも同じ現象を表しているのである。第1の図は止まっている電車を見ている図で、第2の図は止まっている電車をわざわざ走りながら見ている図である。

しかし、実験事実はこのような(直観的に正しく思える)考え方を支持しない。実験によれば光速度は一定であるから、「後方から出た光は観測者の速度の分速くなる」などという現象は起きない。では、上の図のようになるのだろうか。だが、これもおかしい。なぜなら、この図では光が中央に到着するのは同時ではない。同じ現象を見方(観測者の立場)を変えて見ているだけであるということに注意して欲しい。中央の人は「自分には同時に光が到着した」と思うはずだ。そして、その現象は電車の中の人が見ようが外の人が見ようが変り得ない。

 満足のいく解釈は、前方と後方で時間がずれていると考える他はない。つまり、「同時刻」という概念は観測者に依存するのである。したがって、動いている人にとっての時刻t'が一定になる線(1+1次元で考えているので線だが、3+1で考えていれば3次元超平面)は、時刻tが一定の線に対して「傾く」ということになる。

 ガリレイ変換の時は、t軸(x=一定の線)とt'軸(x'=一定の線)は傾いたが、x軸とx'軸は同じ方向を向いていた。しかし、相対論的な座標変換においては、t軸もx軸も、両方が傾かなくてはいけない。そうでないと、光速度一定を満たすことができない。式で考えると、これはt'の式の中にx,tの両方が入ってくることを意味する。

 では次に、どれくらい座標系が傾かなくてはいけないかを作図で示してみよう。作図を楽にするために、縦軸はt,t'ではなく、これに光速度cをかけたct,ct'とする。こうすると、縦軸と横軸は同じ次元になると同時に、光の進む線がグラフの上ではぴったり45度の線になる(光は単位時間にc進むから)。

 図の(x',t')座標系が電車の静止系である。x'=0の線、すなわちt'=0の線が電車の後端の軌跡に重なるようにした。光が中央で出会ったのは時空点Pであるとする。電車の前端からも光が出てPに到達したわけだが、前端から光が出たその瞬間の時空点をQとした。電車の静止系で見ると、前端と後端から光が出た瞬間(OまたはQ)は同時刻である。ここで、Q→ Pと来た光がそのまま突き抜けて、後端に達した時空点をRとする。また、O→ Pと来た光がそのまま突き抜けて、前端に達した時空点をSとする。ORとQSは、どちらも同じ電車の一部の運動を表しているので、平行線である。また、RSとOQは、どちらも電車にとっての「同時刻」線であり、電車は一様な運動をしているのだから、平行線である。よってORSQは平行四辺形なのだが、ここでP点でのQRとOSの交わりを考える。この二つの線分はどちらも45度の斜め線であるから、直交している。対角線が直交する平行四辺形は菱形である。このことは、このグラフ上におけるx'軸とx 軸の角度が、ct'軸とct軸の角度と等しいことを意味する。つまり、この図はx←→ctという取り替え(図で言うと、45度線を対称軸とした折り返し)で対称である。

 ct'軸状ではx-vt=0が成立するのだから、

x-(v/c)(ct)=0 ←→ ct - (v/c)x =0

という対称変換をほどこすことで、x'軸の上では ct-(v/c)x =0が成立していることがわかる。

 対称変換をほどこすという考え方は不評だったので、ここで直線の傾きを計算するという方法で説明を補足した。図のct'軸の傾きは(c/v)である。なぜなら、単位時間たつとx'座標系の原点(x'=0)はvだけ移動する。単位時間でct軸方向にはcだけ移動するので、横軸がv変化する時に縦軸がc変化するということになり、傾きは(c/v)である。一方、図のx'軸はct'軸を45度線を対称軸として反転させたものだから、x'軸の傾きは(v/c)である。ゆえに、x'軸はct = (v/c)xという式で表される。

 ゆえに、

x'= A (x- (v/c)ct) (4.2)
ct'= B(ct-(v/c)x) (4.3)

となることがわかる。

  ここで、なぜ一次式なのか、という点について疑問が出たので、少し図を書いて説明した。一次式になる理由は、この変換が常に直線を直線に移すような変換、すなわち一次変換だからである。(x,t)座標系は図のような碁盤の目になっている。(x',t')座標系は、傾いているために正方形でなくなっているが、やはり傾いた碁盤の目である。図では、(x',t')座標系での碁盤の1マス分を斜線で塗り潰して示した。(x,t)の関係と(x',t')の関係が1次式でなかったら(たとえば2次式だったりすると)、(x',t')座標系で見た時の碁盤の1マスの大きさが、(x,t)座標系で見ると一様でない、ということになってしまう。つまりX'座標系での1メートルが、場所によって違う長さでx座標系に翻訳されてしまう。しかし、今考えている座標変換では、x'座標系のどの場所も同じような比率でx座標系と関連づけられているはずである。つまり図で書いたように、違う場所での「(x',t')座標系での1マス」はx座標系で見て同じ大きさ、同じ形のマスになるはずである(これが一様だということ)。そうなるためには、(x,t)と(x',t')の関係は1次式でなくてはならない。

 さらに、どちらの座標系でも光速がcであるということからA=Bであることがわかる。なぜならば、x座標系で原点から右へ進む光の光線上では、x=ctが成立する。この式が成立する時、x'座標系ではx'=ct' が成立しなくてはおかしい(光速度不変)。(4.2)と(4.3)に、x=ctとx'=ct'を使うと、

A(ct-(v/c)ct)=B(ct-(v/c)ct)

となる。つまり、A=Bでなくてはならない。ここまでの結果は、

x'= A (x- (v/c)ct) (4.6)
ct'= A(ct-(v/c)x) (4.7)

である。相対論以前の`常識'に従えば、A=1と言いたいところである(A=1ならば、x'の式に関してはガリレイ変換と一致することになる)。しかし、そうはいかない。このAの値は、次の節の考察によって決まる。

学生の感想・コメントから

 空間軸が傾くのがわからない。納得できない。なんか変な気がする(同様の感想多数)。
  すぐには納得できないのはあたりまえ。でも光速が不変であるということをよく考えながら今日のグラフに光の軌跡を書いて、いろいろと考えてみてください。そして、このように空間軸を傾けるということの必要性を理解してみてください。ここが相対論でも一番、従来の物理から飛躍するところじゃないかと思います。

 空間軸を傾けなくても、時間の伸び縮みや空間の伸び縮みで理解できるような気がします(同様のコメント3人ほど)。
 「気がします」ですまさず、時間や距離の伸び縮みだけで現象を再現できるかどうかを、式なりグラフなりの形で具体的に考えてみてください。空間軸の傾けが不可避であるということがわかってくると思います。

  光速度不変の事実のつじつまを合わせるためにグラフの軸を傾けるのはわかりましたが、なぜそうしようと当時の物理学者たちは考えたのですか?
 「他に解がない」。これは充分な理由です。いろんな人がいろんな方法を考えたけど、全てを説明しきる方法がこれ(相対論)しかなかったのです。

 なぜt軸じゃなくct軸を考えたのですか?
 光の軌跡が45度の線になると図が書きやすくなるからです。後で出てくる式も、ctとまとめておいた方がきれいな形になります。

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