←第7回へ 「相対論」の目次に戻る 第9回へ →
前回の説明ではまだまだ納得できない人が多かったので、ここでもう一度図を書きながら説明した。
まず、電車が静止している座標系での、電車の先端、中間にいる人間、後端のそれぞれの軌跡を図に書くと、下のようになる。黄色で書いた線は光の軌跡で、A点で後端から、B点で先端から出て、M点で人間の目の前ですれ違い、C点とD点に至る。
ここで、同じ現象を左向きに速さvで走りながら(つまり速度-vで走りながら見る)。電車の先端、真ん中の人間、後端は下の図のような動きをする。
さて、この図の中にABCDMの各点を書き込んでいこう。まず両方の座標系の原点をAとすることにして、Aを書く(どこかに座標系を固定しなくてはいけないのだから当然だ)。次にA点から光を出す。光はこの座標系では常に45度の方向に進む。そしてそれが人間の軌跡と交わるのがM点。そこを通り抜けて電車の先端の軌跡に達する場所がD点である。
では次に、先端から出た光の軌跡を書いてみよう。ここで大事なのは、この光はM点を通過しなくてはいけないことである。なぜなら、この光が0時0分0秒の時計の文字盤からの光だとするならば、この人はこの(M点で表される)瞬間、前を向いても後ろを向いても、ちょうど時計が0時0分0秒を示さなくてはいけない。つまり「0時0分0秒という文字盤の光」が同時にこの人を通過しなくてはいけないのである。今考えている座標変換というのは、見る人の立場によって物理現象がどう変わってみるかを式で表すものである。「この人がどっちを向いても0:0:0が見える」という事実はどちらの座標系で考えても成立しなくては行けない、物理的事実である。よって、M点から右下と左上に45度の傾きの線を伸ばしていく。結果が次の図である。
これから、x'-ct'座標系(電車が静止している座標系)において「同時」であるA点とB点は、x-t座標系(電車が運動している座標系)においては同時でない。
なお、同時の相対性にずいぶんこだわっていろいろ図を書いて説明しているが、それは私がこの同時の相対性こそが相対論を理解するのにもっとも重要な(そして、それゆえにとっつきにくい)概念だと考えているからである。この説明で「わかった」と思えた人は、相対論理解という山の七合目までは来ている。
昔の人は、真ん中で光が交差しないと思っていたんですか?
こういう意味かな?
はい。
昔の人は光速度が不変だなんて思いもしなかったから、
と考えていた。つまり前から来る光は遅く、後ろから来る光は速くなるはず、ということ。でもこれは実験で否定されちゃったからね。
見る人によって同時なのが同時でなくなるって、どういうことですか。おかしい。
もちろん、おかしい。というか、おかしく感じられる。でもおかしく感じられるのは、我々がふだんせいぜい秒速100メートル程度までの電車しか見たことがないから。この図だと、秒速10万キロぐらいで走っているでしょ。もし我々の回りに秒速10万キロの電車が走っていて、しかも驚異的な動体視力で、電車内部の時計が見えたとしたら「電車の前と後ろで時計があってないじゃないか」と思う。つまりそれが「常識」になる。我々の常識ってのは、結局秒速100メートルぐらいまででしか通用しない常識だと思わなくちゃいけない。だから今話しているこの常識はずれな話を「常識に合わないから間違っている」なんて思ってはいけない。もっと謙虚にならんと。実際には、こういう現象が実際に起こっていることがわかるような物理現象に関して調べてみて、果たしてこの理論が正しいのかどうかを判定すべきですわな。現実の実験としては、粒子一個なら亜光速で飛ばせるし、宇宙のどっかには光速の何パーセントなんてスピードで流れている宇宙ジェットなんてのもある。そういうものをよく観察したり実験したりして始めて、我々の常識と、この理論のどっちが正しいかがわかってくる。どうわかるか、というところはこの授業の今後を御楽しみに。
ほんとにこんなことが起こっているなら、見てみたい!
私だって見てみたいよ。でも直接見るのは無理です。いろんな実験から間接的にわかってくる。
マイケルソンとモーレーの実験における、南北方向の光について思い出す。実験装置が動いていないという立場(地上にいる人の立場)で観測すると、距離2L を光が進むので、往復に(2L/c)かかる。一方同じ現象を、装置が速さv で東に動いているという立場(地球外の人の立場)で観測する。この人にとっては光は南北方向にではなく、少し斜めに(光の速度ベクトルcと地球の速度ベクトルv が図に書いたような関係になるように)進んでいる。この人にとっての光の速度の南北方向成分はになる(当然cより遅い)。
ゆえにこの時に光が発射されてから到着するまでの時間は2L÷となる(Lは南北方向の距離であることに注意せよ)。つまり、地球外の人の方が同じ現象にかかった時間を倍だけ、長く感じることになる。
このように、動いている人(この場合は地球上にいる人)の時間は止まっている人(この場合は宇宙から観測する人)の時間より遅くなることになる。これを浦島太郎の昔話になぞらえて、ウラシマ効果と呼ぶ。
今、地上の立場をx'座標として考えると、発射はx'=0,t'=0であり、到着はx'=0,t'= 2L/c となる。これを(4.5)と(4.6)に代入して考えると、地球外の立場(x座標系)では発射がx=0,t=0であり、到着がx=Av×(2L/c),t=A×(2L/c)となる。ゆえに、A=ということになる。 「ゆえに」の一言ですませてしまったが、もちろんこれはちゃんと代入して計算するのである。
ちょうどここで「地球から見ると宇宙の人の時間は遅れるんですか?それとも進むんですか?」というナイスな質問が出たので、以下に続く。
なお、立場を逆にして、宇宙の方で南北方向に光を往復させたとすると、宇宙ではその時間を(2L/c)と感じ、地上では2L÷ と感じるということになる。これを使えば同様の計算により、A=とわかる。
ここで、地上でも宇宙でも相手の方が時間が遅いと感じるなんておかしい、と思うかもしれないが、次のように考えるとおかしなところは何もない。
テキストでは誤って、縦軸の距離を2L/cと書いていたが、今使っているのはct軸なので、2Lが正しい。上の図は修正済。
地上で実験する場合、光の発射と到着は図Aに矢印で「発射」と「到着」と示した2つの時空点である。この場合、x'座標系で見て同じ場所に光が戻っている。x座標系でみれば、同じ場所に光は戻っていないことになる。一方、宇宙で実験する場合(図B)の「発射」と「到着」は、x座標系で見て同じ場所に光が戻る(x'座標系では同じ場所に戻らない)。
どちらで実験する場合も、実験装置と共に動いている方は、(2L/c)という時間を観測する(これは相対性原理からして当然)。もう一方は、その時間を、「自分の時間」を使って測定するのだが、互いの同時刻面は相手に対して傾いている。その傾きがゆえに、双方が「おまえの時間の方が遅い」と判断することになるのである。
図B'は、図Bを、x'-t'座標系が垂直になるように書き直したものである。ct 軸に関しては図Bを左右逆転したような図になっている(速度逆向きの座標変換だから)。
また、図C中の点線は原点からいろんな速度で出発した人の時計が同じ時刻を刻む時空点を線でつないだものである。速く動く人ほど持っている時計は遅く進むので、垂直に対して傾いた軌道をとっている人ほど、止まっている人との時間差が大きくなる。
結局、x'-t'系での同時がx-t座標系から見ると傾いていてx-t座標系での同時と同じではないため、このように「互いに相手の時間を短く感じる」という一見矛盾した結果が出る。
以上をまとめて、
x'= γ(x-βct)
ct'= γ(ct-βx)
(ただし、β=(v/c)、γ=)という形の座標変換をすれば、どの座標系でも光速は一定値cを取ることがわかった。
【問い10】この逆変換の式((x',t')から(x,t)を求める式)を求めよ。
x'+βct'=γ(x-βct+βct-β^2 x)=γ(1-β^2)x ここで、(1-β^2)γ^2=1をつかって、 γ(x'+βct')=x tを求めるには、同様にct'+βxという組み合わせを計算すれば良い。 |
次回は生徒の一部が集中講義で抜けるので、先へ進むのではなく番外編とする予定。双子のパラドックスの話でもしゃべろう。
今回は単に感想ではなく、上の【問い10】も解かせたところ、解くのに必死で感想を書いてくれた人が少なかった。
ウラシマ太郎は宇宙人につれさられた?
誰かがこれ書くと思った(^_^;)。
ウラシマ効果は物体の回転の速度にも関係してくるんでしょうか。だとすると地球の自転速度が速くなった場合、元の場合と比べて1日は短くなるのに時間の流れ方は遅くなるということになるんでしょうか?
回転でも同じように遅れますが、地球の1日を長くするには、ものすご〜〜〜〜〜く速く回らないとだめですよ。
光速度不変が大元になっているけど、まだ狐につままれた感じが抜けないです。理解するより、なれるしかないのでしょうか?
なれる、というより「そう考えるといかにうまく行くか」ということを実感していくのが一番だと思います。これからいろんな現象を相対論的に考えていきますが、そうやって考えた方が物理現象をうまく説明できる、ということがたくさんあるのです。
←第7回へ 「相対論」の目次に戻る 第9回へ →