自然法則を数学を使って表現しその関係を探るというのが本講義の目的であるが、この章では(今後何度となくお世話になる)「関数」の例を示し、次の章で微分を、さらにその先で積分を考えるための準備をしよう。
自然科学を探求していくとき、
を調べていかなくてはいけないことがよくある。この「AからBへの関係」(A→B)のことを「関数(function)」英語のfunctionは「機能」とか「作用」のような意味を持っている。と呼ぶ。「数」に限らず「何かを入力(インプット)したら何かが出力(アウトプット)される」働きを持っていればそれは「function(関数)」と呼んでも良いコンピュータ言語においても「関数(function)」という言葉があるが、コンピュータ言語における関数には「出力(アウトプット)がない関数(void関数)」もある。。数学的な意味で「関数」と言う時は数(もしくは数で表現できる量)を相手にしていることが多いが、数学だからと言って「数」を扱っているとは限らない。「関数」に似た、Aを決めればBが決まるという対応関係を表す言葉が「写像(image)」「イメージ」は「印象」「象徴」などの意味で使われることが多いが「映像」「画像」という意味もあり、数学での「イメージ(image)」は、ある量が別の量に(映写されるように)映されている様子を表現している。「関数」と「写像」の使い分けは必ずしも明確ではないが、「写像」の方が広い意味であることが多い。である。
この変化させる数を「変数(variable)variableという言葉は「変化させることができるもの」という意味になる。」と呼ぼう。まず最初に変化させるある量Aは「独立変数(independent variable)」、それに応じて変化するある量Bは「従属変数(dependent variable)」と呼ぶ英語の「depend」は「依存する」だから、「従属変数(dependent variable)は何かに依存して変化する量、という意味を持つ。independentはその反対。。独立変数は文字通り独立に、好きに選ぶことができて、それに応じて従属変数の値が決まる、という意味を持たせたネーミングである実はある量が独立変数なのか従属変数なのかは、状況によって違う。たとえば実験する時には、1つの量を変化させつつもう1つの量を測る、ということを行うが、どの量を変化させるかは実験の状況に応じて変わる(変えることができる)。。
互いに関係のある量を計測する実験を何度も行うことによってし、それぞれの間にどのような法則があるかを求めていこうとすること、それが自然科学の始まりである。自然科学で計測するものは数であることが多いので、「ある数→また別のある数」という対応関係(「関数」)を調べていくことが多くなるのは必然的である。
高校までの数学では独立変数にx、従属変数にyを使うことが多いが、これは別にそうでなくてはいけないというものではない。文字に何を使うかというのは全く本質ではない。
xとyに「xを1つ決めればyが1つ決まる」という関係があるとき、「yはxの関数だ」と言う。下のプログラムでその実例を見よう。
では、以下のページでアニメーションを使って「関数」を勉強していこう。
プログラムについて御質問、御要望、バグ報告などございましたら、前野[いろもの物理学者]昌弘へメールくださるか、または、twitterにてirobutsuまでメンションしてください。
xとyに「xを1つ決めればyが1つ決まる」という関係があるとき、「yはxの関数だ」と言う。関数の対応関係は式で表してもよいが、右のようにグラフで表現してもよい。たとえばこの関数がy=f(x)という式で表現されるものであったならば、グラフの線の上ではy=f(x)が成り立ち、線が引かれていない場所ではこの式が成り立たない。つまりグラフが表現している「線」は「y=f(x)が成り立つ点」の集合である。多くの場合、これはある線になるが、関数が変な関数であれば、「線」になるとは限らない線になるかどうかは、関数が連続性のある関数かどうかにかかっている。連続性があればある点の「隣」に点があるから、関数の式を満たす点の集合が「線」として実現する。実験などで測定値をグラフに「点」としてプロットして、最後に「えいやっ」と線を引くが、それは考えている関数が連続であることを仮定(期待)しているからである。。
関数によってはxはなんでもよいわけではなく、「定義域(domain of definition)「定義域」を単にdomainと呼ぶことも多い。」と呼ばれる範囲に入っていなくてはいけない。「この範囲で関数が定義されている」という意味で「定義域」と呼ぶ。たとえばxが「試験の点数」なら、定義域は$0\leq x\leq 100$になる。採点の仕方にもよるが、多くの場合さらにxは整数である、という条件もつくだろう。このように「xを0以上100以下の整数とするとき」のように離散的な(とびとびの)値が定義域になる場合もある。定義域は考えている量(物理量だったり測定値だったり)がそもそもそういう量であることが理由で決まる場合もあるし、数式として意味から決まる場合もある。たとえば$y=\sqrt{x}$という関数は(実数の範囲なら)$x\geq 0$でないと意味がないから、定義域は$x\geq0$である。
xが定義域の間を変化した時にyの取り得る値の範囲を「値域(range of values)こちらも、「値域」を単にrangeと呼ぶことも多い。」と呼ぶ。たとえば$y=\sqrt{x}$は(虚数を考えない場合)xが負だと意味がないから定義域は$x\geq0$であり、値域は$y\geq0$である。
下のような例は「xを1つ決めればyが1つ決まる」を満たさないから、関数ではない。
そのような場合も、
のように修正することで関数にすることができる。
もっとも簡単な関数関係は(あまりに自明なものたとえばxに何を入れてもyは0というのも確かに「yが決まる」から定義からすれば立派な関数だが、これはあまりに自明すぎてつまらないだろう(こんな時は「トリヴィアル(trivial)だ」と言う)。を除くと)「比例」と「反比例」だろう。比例とは「xがA倍になればyもA倍になる」という関係を示す。比例関係は自然のいろんなところに現れる。たとえば一様な物質(水などを思い浮かべよう)の質量と体積は比例する。
比例という関係は式で表現すればy=ax(aは定数、a=0だと自明な例)、グラフで表現すれば「原点を通る直線」になる。
一方、「xがA倍になればyが${1\over A}$倍になる」という関係が反比例である。例は等温の気体の圧力と体積(体積を2倍にすれば圧力は${1\over 2}$)などがある。式で書けば$y={a\over x}$である。グラフは右に描いたような「双曲線(hyperbola)」と呼ばれる線である。
反比例の式$y={a\over x}$は$xy=a$と書き直すこともできる。つまり、右のグラフに描いた長方形の面積が常に一定だ、という関係だと思ってもよい。
$y={a\over x}$の方だと$a=0$の時は$y=0$になるけど、$xy=a$だと、$x=0$もありなんじゃないですか?
なるほど確かにそうだ。その点に関しては$y={a\over x}$と$xy=a$は$a=0$に関しては意味が違ってきますね。
自然には、「xがA倍になればyが$A^n$倍になる(nは定数)」という関係がある量もよく登場する。このような関係を「冪乗則(power law)powerはこの場合、「力」ではなく「冪」の意味。冪とは、$A^n$のような計算のこと。」と呼ぶ。数式で表現すればy=axnである。$n=1$なら比例、$n=-1$なら反比例となる。「冪乗則」と言うとき、nは整数とは限らず、一般の実数でよい。
nが整数の場合のグラフを以下に示した。
さらに、y=xnの形(冪乗)の関数のグラフの動くバージョンを見よう。
これを見て感じて欲しいのは、$n>0$に対して、
|x|が1より小さい時、nが大きいほどyが0に近づく。
|x|が1より大きい時、nが大きいほどyが$\pm\infty$に近づく。
$n<0$に対して、
|x|が1より小さい時、$|n|$が大きいほど$y$が$\pm\infty$に近づく。
|x|が1より大きい時、$|n|$が大きいほど$y$が0に近づく。
ということである。つまり、|x|が大きい時は、冪の高い方が効く(たとえば$x^5+x^2$という式があったとすると、|x|が大きいところでは$x^5$の方がほとんどであり、より重要である)。逆に小さい時は、冪の低い方が効く($x^5+x^2$ならば、$x^2$の方が重要である)。後々、
とか
のように、「式のどの部分が重要で、どの部分は重要でないか?」を判断する必要が出てくる。冪はその判断の大きな手がかりとなる。
「大きい」とか「小さい」とかは、あくまで基準となる量との比較で考えるべきである。自然科学で何かを考えるとき、「どのスケールで物を考えるか」ということ、さらに「このスケールで考えているからその${1\over 100}$は考える必要がない」ということを判断する必要が常にある。
前節まで、n次式で表された関数を考えてきたが、さらにいろんな冪の関数を足したものを考えていくことにしよう。$5,8x,4x^3y^2,\cdots$などのように、定数と変数のn乗(ここでのnは0以上の整数)になる式を「単項式(monominal)」と呼び、単項式を足して(あるいは引いて)できた式を「多項式(polynomial)」と呼ぶ一つも項を含まない式(つまり0)や、単項式1個でできている式も「多項式」に含める場合もあるし、含めていない本もある。日常用語の感覚からすれば「多」という文字がついているなら二つ以上の項があって欲しいところだが、数学的定義は例外が少ない方が好ましいので、「多」には0や1を含む定義にしている場合が多い。。変数(文字)を含まない項は「定数項」と呼ぶ。xnが掛算されている項は「n次の項」と呼ばれる($n=0$の場合が「定数項」である)。最大の次数の項がn次の単項式である多項式は「n次の多項式」と言う。$x^4-3x^2+5$は「$x$に関して4次の多項式」である(「n次の多項式」は「nより小さい次数の単項式」を含んでよい)。
最大次数nがない(別の言い方をすれば「nが∞」)の場合は「多項式」とは呼ばない。たとえば後で出てくる三角関数や指数関数はxnの項の和で表現しようとするとnはいくらでも大きいものが必要(つまりn=∞が必要)なので、「非多項式(non-polynomial)」である。
次数が低い(1,2,3)の場合について考えておこう。
y=ax+b(a,bは定数)の形、すなわち1次の多項式の形の関数を「1次関数」と呼ぶ。ここで、bは0でも構わないが、a≠0である(でないと、1次式でなくなってしまう)。aを「傾き」、bを「切片(またはy切片)」と呼ぶ。1次関数のグラフは正比例同様「直線」となる。
bの意味がx=0のときのyであることは式を見てもわかる。一方aは増加率すなわち~xが1増えたとき、yがどれだけ増えるかという意味を持つ。この「1次の項の係数が増加率を表す」という点は後々重要になるだろう。y=ax2+bx+cの形、すなわち2次の多項式の形の関数を「2次関数」と呼ぶ。そのグラフは「放物線(parabola)」と呼ばれるこの線は物体を放り投げた時の軌跡なので「放物」と名付けられている。。以下にa,b,cをいろいろと変えた場合のグラフを示した。
これでわかるようにb,cは放物線の位置を決めるパラメータ関数の独立変数とは別の「変化できる量」をパラメータ(媒介変数)と呼ぶ。であり、b,cを変えても形は変わらず、平行移動するだけである。一方、aが変化すると放物線の形が変わる。
ここで、↑こんな感じで踊ってみた。1次の係数を変化させた時の放物線の移動の感じ。
さらに、↑こんな感じで踊ってみた。2次の係数を変化させた時の放物線の形状変化の感じ。
具体的には、$a>0$ならば下に凸、$a<0$ならば上に凸であり、aの絶対値が大きいほど、曲がり具合(尖り具合)が大きい2次の係数が曲線の曲がり具合を表現する、ということも、(1次の係数が増加率であることに併せて)今後のためにも覚えておくとよい。。2次関数は曲がっている---すなわち傾きが変化する。よって、1次関数のような一定の傾きを表すパラメータ(1次関数のax+bのa)は存在しない。ではそのような場合傾きはどうなるか??---ということについては、微分の章で考えるのでそのときのお楽しみに取っておこう。
なぜb,cは放物線を平行移動させるだけで形を変えないのか、それを直感するために、ここで関数の平行移動とはどういうものかを考えておこう。平面上のグラフを考えているから、基本的平行移動は縦(つまりy方向)と横(つまりx方向)の2つがある(斜め方向は縦横の組み合わせだ)。関数のグラフというのは「その点の上でy=f(x)が成り立っている」という点を集めたものである。
このグラフをy方向にy0だけ平行移動させるには、y→ y-y0と置き換えて、y-y0=f(x)という式に直せばよい。同様にx方向にx0だけ平行移動させるには、x→x-x0と置き換えてy=f(x-x0)という式に変える。両方を同時に行うと、
$y=f(x){\rightarrow}y-y_0=f(x-x_0)$
とすることで、x方向にx0、y方向にy0という平行移動が実現する。
この平行移動によって、
$y= ax^2+bx+c ~~~\to~~~y=a\left(x-x_0\right)^2+b\left(x-x_0\right)+c$
と式が変わるが、結果を展開すれば
$ax^2+\underbrace{(b+2a)}_{新しいb}x+\underbrace{a^2(x_0)^2-bx_0+c}_{新しいc}$
となり、2次の項の係数aは変化せず、1次の項と定数項が変化することになる。逆に言えば、b,cを変化させても起こる変化はグラフの平行移動で、「形」は変わらないということになる。
y=ax3+bx2+cx+dの形の関数である。パラメータはさらに一つ増えて4個となり、平行移動のパラメータ2個を引いてもあと2個残る。つまり、形を表すパラメータが2つあることになる。下に、a,b,cを変化させた時のグラフの変化の様子を示した(dすなわち定数項の変化についてはy方向の平行移動であることはもうわかるだろうから省略した)。
x=0の近辺だけを見ると、2次の項の係数(この場合b)がやはり「x=0近辺での曲がり具合」を、1次の項の係数(この場合c)がやはり「x=0近辺での傾き」を表現している(ただしこれはx=0付近でみ)。
見た目ではわかりにくいかもしれないが、左の図(3次の係数aを変えている図)では、1次と2次の係数は変わってないので、原点(重なりあっている部分)においては傾きと曲がり具合は変化していない。
2次関数では「上に凸なら山、下に凸なら谷」が一つあるだけだったが、3次関数では山と谷が一つずつ現れる。ただし、たとえばy=x3の時のように山も谷も現れない時があるが、これは山と谷二つが同じ位置に現れて「変曲点」になっている。それだけ複雑な形となっている(パラメータが2個になっただけのことはある)。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。