←第4回へ 「初等量子力学/量子力学」の目次に戻る 第6回へ→
前回の続きから。
一般の演算子A(p,x,t)(時間にもあらわに依存している)の期待値の時間微分(d/dt)<A(p,x,t)>は
となる。
【問い9】(2.24)を証明せよ。 【問い10】 ∫ψ^*(x,t)ψ(x,t)dxの値は時間が経っても変化しない(確率の保存則)ことを、シュレーディンガー方程式を使って証明せよ。ただし、 H はエルミートであると仮定する。 |
問い9は授業中にやった。計算自体はこれまでのxやpの期待値によるものとほぼ同じ。ついでに、古典的にA(x,p,t)の時間微分を計算しておこう。古典力学であるから、x,pはtの関数である。よって微分すると、
となる。2行目では正準方程式を用いた。この式のの部分は古典力学では「AとHのポアッソン括弧」と呼ばれる量だが、これが、量子論ではに対応する。解析力学のこのあたりの話になじみのない人にはわかりにくいが、ポアッソン括弧と交換関係は一対一対応する。
波動関数を運動量の固有関数で展開することができた。同じようなことを、他の物理量に対しても実行可能である。たとえばエネルギーの期待値はあるいはハミルトニアンHをψ^*とψの間にはさむことで計算できる(シュレーディンガー方程式があるので、どちらであっても結果は同じ)。
たとえば今ある波動関数を
のように、各々がω_iの角振動数を持った波の重ね合わせで表現したとする。
これらの各項はシュレーディンガー方程式の解になっていて、
という式を満たしている。最後の式は両辺をで割ると
Hφ_i= E_iφ_i
という形になる(ただしE_i=ω_i)。この形の式は「定常状態のシュレーディンガー方程式」と呼ばれる。これの解は、エネルギーが固有値Eで確定している状態を表す。なぜ「定常状態」かというと、波動関数がψ(x,t)=φ_i(x)という形をしていると、ψ^*ψの中には時間依存性が入らない(となって消し合う)からである。
このようにして展開した波動関数の各成分は ω_iずつのエネルギーを持っている(そしてそれは演算子であるハミルトニアンHの固有値でもある) ので、が kずつ運動量(演算子の固有値でもある)を持っていた場合と同じような計算ができる。すなわち、
(2.28)
である。最後の行では、運動量同様、Hの固有値が違うものどうしをかけて積分すると0になる(直交する) という事実を使って計算を楽にしている。これは運動量やハミルトニアンでなくても、エルミートな演算子であれば成立する(下の問題参照)。波動関数に関する計算を簡単にしてくれるありがたい法則である。
どうして「直交する」と言うんですか?
という質問が出たので、後ろの方の2.8節に書いたことをここで話した。その内容はだいたい以下の通り。
波動関数がなぜベクトルと考えられるかがわかりにくいならば、関数ψ(x,t)を
(2.58)
のような複素N成分を縦に並べたもの(列ベクトル)と考えてやればよい。ただしこのx_1,x_2,…,x_Nは今考えている空間内の全ての場所各点各点に1から順に番号を振っていったものと考える。実際にはもちろん、N=∞と考えなくてはいけない¥footnote{念の為に補足しておくと、実際には空間内の点の数は連続無限個、すなわち数え上げることが不可能な無限大であるので、このように1から順番に数を割り振ることはほんとうはできない。}。つまり、ψは無限個の複素数成分を持つベクトルであると考えてよい。 この列ベクトルに対してエルミート共役であるような行ベクトルは
ψ^†=(ψ^*(x
である。この二つのベクトルの内積を取って、結果に空間の各点各点の間の距離Δ xをかけてからN¥to∞の極限を取れば、
という形になる。つまり、いつも計算している∫ψ^*ψ dxは、ベクトルの内積と本質的には同じものなのである。だから、不確定性関係の証明の計算でも、二つの波動関数ψとφの内積を (ψ,φ)= ∫ ψ^*φ dx と内積であるかのように表記しておいたのであった。
以上が2.8節からの移動部分。
【問い11】演算子Aがエルミートであるとする。ψ,φがAψ=aψ,Aφ=bφ(a≠b)のように、異なる固有値を持つ固有関数であった時、∫ψ^*φ
dx=0 となることを証明せよ。 この問題も授業中にやった。∫ψ^*Aφdxを、 (1)Aφ=bφを使って計算。 (2)エルミ−ト性をつかってAをψにかかるようにしてからAψ=aψを使って計算。 のように2種類の方法で計算すると、(b-a)∫ψ^*φ dx=0となる。a-bは0じゃないので、∫ψ^*φdx=0。 |
(2.28)の最後の表現を見ると、エネルギーの値であるω_iに、エネルギーがその値を取る確率∫ ψ^*_i ψ_i dxをかけ、全ての場合で足し算されている。すなわちエネルギーの期待値を計算したものになっている。ここでも、なりHなりをψ^*とψの間にはさむことでエネルギーの期待値が得られた。
量子力学では、古典力学での物理量に対応するものはなんらかの形で演算子となり、古典力学的な量はその演算子の期待値に対応する。「物理量が演算子になる」と言われると「いったいどういうこと?」と戸惑ってしまう人が多いと思うが、その意味はこういうことである。量子力学では、時間発展する力学変数は波動関数(なお、正確に言うと「波動関数」というのは量子力学的「状態(state)」の表示方法の一つであり、実は他にも状態を表現する方法はある。だから『力学変数は量子力学的状態である』とする方が正しい。しかもこれが成立するのはシュレーディンガー描像の場合であって、ハイゼンベルク描像(この講義では扱わない)の場合では演算子の方を力学変数にする)であって、観測によって得られる量(古典力学では力学変数だった量)は波動関数から得られる期待値や固有値に対応する。波動関数から期待値なり固有値なり、なんらかの値を取り出すために必要になる操作が今考えている「演算子」なのである。
以下で証明する定理があるので、実数の観測値を持つ物理量に対応する演算子はエルミートでなくてはならない(もし古典的に複素数で表されるような量を考えているのなら、それに対応する演算子はエルミートでなくてもよい。ただ、あまりそういう量を使う例はない)。
【問い12】演算子がエルミートであれば、その固有値はかならず実数であることを証明せよ。 (Hint:∫ (Aψ)^* ψ dx=∫ ψ^* Aψ dxに、固有値方程式Aψ=aψを代入する。もしaが複素数だったらどうなるだろう?) |
時間依存性がだけになっているような状態はエネルギーが確定している状態であるが、この場合、確率密度ψ^*ψは時間によって変化しなくなってしまう。この事情は運動量の固有状態について考えた時に、一つで表される状態(Δ p=0) が、空間に均等に拡がってしまい、Δ x=∞になるのと同様である。この意味で、Δ xΔ p同様に、Δ EΔ tもh程度より大きいという制限(不確定性関係)がある。
ここで一つ注意。不確定性関係についてはよく「一方を観測しようとするともう一方の観測誤差が大きくなる」という感じの表現が見られる。しかし、不確定性関係自体は「観測しようとすると」という前提があって成立するものではない。誰かが観測するかしないかとは関係なく、一つの状態におけるΔ pとΔ x(あるいはΔ EとΔ t)の間の関係なのである。標準偏差として計算されるΔ xなどの量は「ψがこれぐらいの範囲に拡がっている」という意味での数値であって、観測誤差を示しているのではない。もちろん、そのように拡がった状態を観測すればxの観測値はΔ x ぐらいの幅をもって拡がってしまうのは当然であるから、「観測誤差は最良の実験装置でもΔ x ぐらいになる」ということは間違ってはいない。間違ってはいないがしかし、ほんとうに大事なのは観測前からある「状態の拡がり具合」であることを忘れてはいけない。
ΔEΔt>hの場合も同じで、Δtは波動関数の「ある状態」の時間的拡がり、すなわち「この範囲ではψ^*ψにほとんど変化が見られない」という時間的長さなのだと解釈すべきである。その範囲で状態変化がない(その時間内ならどの時間も同等)のだから、何か実験を行った時、「何かが起こる時刻」はそれぐらいの幅の間のどこで起こるのか予測不可能になる(ゆらぎを持つ)だろう。だが、Δt(時間的拡がり)は観測前からそこにあったのである。そしてその最初からあった不確定性が、Δ EΔ t>hという式を満たすのである。
ハミルトニアンHは今考えている系がどんなものかによって、いろんな形(調和振動子なら(p^2/2m)+(1/2)kx^2、クーロン力なら(p^2/2m)-(ke^2/r)を取る。そのようなそれぞれの場合について、固有状態(エネルギーが確定した状態)がどのようなものかを求めて行けば、実際に存在する状態はその固有状態の重ね合わせで得られる。よって、エネルギー固有値を求めることが今後行うべき計算の第一歩になる。実は量子力学で行う計算のほとんどはこれである。「量子力学の計算ってエネルギー固有値を求めるだけなのか。なんだつまらない」などと思ってはいけない。エネルギー固有値や固有状態が求められれば、それを重ね合わせることでどんな状態の時間発展も計算できてしまうのだから、エネルギー固有値と固有関数を求める作業が完成すれば、完全な時間発展を求めたことと同じである。
エネルギーに限らず、その他の物理量(たとえば角運動量など、xやpの組合せで表現できるものでもよい)も同様にψ^*とψの間に対応する演算子をはさみこむという操作で計算できると考えられる。演算子であるということを強調するのに、文字の上にハット(^)を加えて、のように書くことがある。
一般の演算子Aに対して固有関数となる関数をψ_1,ψ_2,ψ_3,… とする(すなわちAψ_i=a_iψ_iのようにいろんな固有値a_1,a_2,… を出す関数を考える)。一般の波動関数ψは、
ψ= f_1 ψ_1+ f_2 ψ_2+ f_3 ψ_3+…
のように重ね合わせで表現できる。f_iは、どの波動関数がどの程度まざっているかを示す係数である。各々の波動関数ψ_iが規格化済みだとすると、f_iを求めるには以下のようにすればよい。
∫ ψ_i^* ψ dx= ∫ ψ_i^*(f_1 ψ_1+ f_2 ψ_2+ f_3 ψ_3+…+f_i ψ_i+… )dx = f_i ∫ ψ_i^* ψ_i dx =f_i
このように、ψ^*_iをかけて積分することによって、ψ_iを含む部分以外はゼロになってくれるおかげで、f_iを計算できる。これはさっき証明した「異なる固有値を持つ固有関数は直交する」という性質のおかげである(ただし、同じ固有値を持つ固有関数が複数個あるような場合には少々話が複雑である(いずれ出てくるので注意)。このような場合、「波動関数が(あるいは状態が)縮退(degenerate)している」と言う)。この計算法は、波動関数をいろんな形で表示する時に役に立つ(フーリエ変換はまさにこの計算法の一例である)。
【長い註】この部分は、最初に勉強する時は理解できなくともよい。
して、pの関数ψ(p,t)を「波動関数」と考える立場もとれる。ψ(x,t)が決まればψ(p,t)は決まるし、この逆も真だから、この二つは同等なのである。 このような書き直しをすると、たとえばxの関数である、ある演算子A(x)の期待値<A>は のようにしてψ(p,t)を使った式に書き換えていくことができる。さらに後ろにがある時には となることを使って、と置き換える。ただし、ここの微分はにかかっている。つまり、
という形になっている。ここで部分積分をして、微分がψ(p,t)の方にかかるようにする。こうすると部分積分のおかげでマイナス符号が一個出て、さらにと置き換わる。これでには微分がかからなくなったから前にもっていくことができて、
のようにx積分を実行して、pを変数とする表示に書き直すことができる。こうなってしまうと今度はxの方がpを微分する演算子となり、むしろpの方が「数」に見えてくる。 ψ(x,t)を使うのはx-表示、ψ(p,t)を使うのはp-表示などと言うが、これ以外にも他の表示もあり、その時その時で便利な表現を使って問題を解くのがよい。一般的には(x-表示以外では)xも立派な演算子なのである。なお、もし運動量の関数であるような演算子B()がはさまっていたとしたら、x-表示でのはp-表示では単なる数pに置き換わって、B(p)という表現になるだろう。 以下この講義ではほとんどx-表示しか使わないが、いろんな場合を計算しているうちに「xも一般的に演算子として扱った方がよいのだな」ということがわかってくると思う。 【長い註終わり】 |
位置の不確定度Δ xと運動量の不確定度Δpの間には、ΔxΔp ≧ {/ 2}という関係(たいていの場合、ΔxΔ p > hと書いてあるが、正確にはこう)があった。これを期待値および分散という考えかたから導こう。まず、不確定度を分散の平方根であるとして、
(Δ p)^2 = <(p-<p>)^2>=∫ ψ^*
(p-<p>)^2 ψ dx
(Δ x)^2 = <(x-<x>)^2>=∫
ψ^* (x-<x>)^2 ψ dx
としよう。これの積が一定値よりも大きいことを証明する。このふたつの量は、
ψ_1=(p-<p>)ψ, ψ_2=(x-<x>)ψ (2.38)
のような形の波動関数を考えると、
(Δ p)^2 = ∫ψ^*_1 ψ_1 dx=(ψ_1,ψ_1), (Δ x)^2 = ∫ψ^*_2 ψ_2 dx=(ψ_2,ψ_2)
と書ける。ただし(ψ,φ)=∫ ψ^* φ dxという、ベクトルの内積の真似をした記法を使って書いている(波動関数をベクトル的に扱うことの意味は、この後で少し説明する)。
すぐにわかるように、(ψ,φ)=(φ,ψ)^*であり、特に(φ,φ)≧0である(もちろん(φ,φ)は実数。等号が成立するのはφがいたるところで0である場合のみ)(「場の量子論」と呼ばれる量子力学の無限自由度系バージョンにおいては、自分自身との内積が負になるような場合を考えなくてはいけない場合もある。量子力学では(φ,φ)≧0と考えてよい)。波動関数ψに対し、のことを波動関数のノルム(norm)と呼ぶ。ノルムはベクトルの長さに対応し、規格化されているならば1である。
物理においてよく使われる空間ベクトルに関する公式として
(2.40)
というものがある。この式は内積の定義からも導けるし、二つのベクトルを任意に実数αをかけて引いたベクトルの長さが、αの値にかかわらず常に0以上であること(式で書けば()^2≧ 0)からも証明できる。すぐ後でこれの波動関数バージョンの証明をする。
【問い13】(2.40)を証明せよ。 |
この式の左辺が二つのベクトルの長さの自乗の形になっていることに注意せよ。今求めたいΔ pΔ xも自乗すれば、(Δp)^2(Δx)^2=(ψ_1,ψ_1)(ψ_2,ψ_2) となって、(2.40)の左辺に似た形となる。この式の波動関数バージョンの式を使うと、Δ x Δpの最小値への手がかりが得られそうである。 そこでまず、以下で(2.40)の波動関数バージョンとなる一般的な式を証明しよう。まずはψ_1,ψ_2を一般の波動関数として、ψ_1−αψ_2という波動関数を作る。α は複素数としよう。自分自身との内積(ノルムの自乗)は0以上になるということから、
(ψ_1-αψ_2,ψ_1-αψ_2)
≧0
(ψ_1,ψ_1) -α (ψ_1,ψ_2)
-α^* (ψ_2,ψ_1) +α α^*
(ψ_2,ψ_2) ≧0
になる。ここで、内積の定義から(ψ_1,αψ_2)=α(ψ_1,ψ_2)および(αψ_2,ψ_1)=α^*(ψ_2,ψ_1)が言えることに注意。すなわち、定数が内積の中から外に出る時は、後ろから出るならそのままだが、前から出るなら複素共役になって出てくる(定義(ψ,φ)=∫ ψ^*φ dx をよく見よ)。
ここでα=kとしてkが実数であるとすれば、
(ψ_1,ψ_1)-k((ψ_1,ψ_2)+ (ψ_2,ψ_1))+k^2 (ψ_2,ψ_2)≧0
となるし、α=ikのようにαが純虚数だとすれば、
(ψ_1,ψ_1)-ik((ψ_1,ψ_2)-(ψ_2,ψ_1))+k^2 (ψ_2,ψ_2)≧0
という式が出る。
このあたり、いちいちαが実数の場合と虚数の場合とわけて説明しているが、どっちか一方で説明すれば十分だった。
どちらの式も、ak^2 + bk+c ≧ 0というkに関する二次不等式の形に書けた。双方とも、a=(ψ_2,ψ_2),c=(ψ_1,ψ_1)であり、bは上の式では、- ( (ψ_1,ψ_2) + (ψ_2,ψ_1) )、下の式では-i( (ψ_1,ψ_2) -(ψ_2,ψ_1) )である。係数a,b,cは全て実数であることに注意せよ。だから実数係数の二次不等式での公式がすべて使える。
これらの式はkの値によらず成立しなくてはいけないが、もし(左辺)=0 という方程式が二つの実数解を持つと、右のようなグラフが書けることになってしまって負になってしまう。それゆえこの式は実数解をせいぜい一つしかもたない。その条件は判別式が0以下であるということ、すなわちb^2-4ac≦ 0である。ゆえに
[-((ψ_1,ψ_2)+(ψ_2,ψ_1))]^2-4(ψ_1,ψ_1)(ψ_2,ψ_2)≦0 (2.44)
または
[-i ( (ψ_1,ψ_2)-(ψ_2,ψ_1))]^2-4(ψ_1,ψ_1)(ψ_2,ψ_2)≦0 (2.45)
という式が出る。一見二つの式のようだが、実は(2.44)でψ_2→iψ_2と置き換えを行えば(2.45)が出てくる。以下では(2.45)だけ計算する。
ここまでは一般式だったが、ここで(2.45)の中のψ_1,ψ_2に(2.38)で定義された波動関数を代入する。
第二項は-4(Δ x)^2(Δ p)^2となる。第一項を計算しよう。
と、ここまで計算したところで今日は時間が来た。後少し計算が残っているがそれは来週。ちょっと中途半端なところで終わってしまったなぁ。
問い10、問い12、問い13はいつもの通り、宿題
以下の2.8節は授業では説明しないが、今日の授業でいくつかこれに関連する内容をしゃべったので、講義録にはここでのせておく。以下の内容については興味のある人は読んでおくこと。もう少し勉強が進んでから読んだ方が理解しやすいかもしれない。来週の授業は2.7節の残りを片付けた後、3章へと進む。
線形代数を勉強した人は、「エルミート共役」とか「エルミートな演算子」などの言葉が、行列に関する言葉として出てきたことを覚えていると思う。ここで行列の場合のエルミート性の定義と、それからどのような結果が得られるかをまとめておく。量子力学でも行列的考えかたは役に立つからである。
行列におけるエルミート共役とは、行と列を入れ換えた後で各成分の複素共役をとることを意味する。2×2行列なら
である。エルミート共役をとると自分自身にもどる行列を「エルミート行列」と呼ぶ。列ベクトルのエルミート共役は
となって、行ベクトルとなる。二つの列ベクトルとの内積は
のように、一方のエルミート共役をとってからかけ算したものと定義されている (もしベクトルの成分が実数ならば、これは普通の2次元ベクトルの内積である)。演算子に固有値や固有関数があったように、行列にも固有値や固有ベクトルがある。
となるならば、αが固有値、が固有ベクトルである。
となることに注意しよう。左辺はベクトルに行列 をかけるという計算が終了したのちに、結果のエル ミート共役を取るという計算を意味している。具体的に計算してみると、左辺はとなり、右辺は(a^*x^*+b^*y^* c^*x^*+d^*y^*) となり、等式が成立することが確認できる。 行列がエルミート行列であれば、
が成立する。演算子の場合のエルミート性
∫ (Aψ)^* ψ dx = ∫ ψ^* Aψ dx
と、行列のエルミート性が同様の性質を持つ、似た条件であることがわかる。
このように定義されている時、これまで波動関数や演算子について成立していた性質が行列に対しても成り立っていることを確かめることができる。以下のことを証明してみよう。 【問い】列ベクトルの、自分自身との内積は常に0以上である。 |
もともとのこの部分には、波動関数をベクトルと見る見かたについての簡単な説明があった。
このように行列的に考えると、座標xというのは
という行列である。こうすれば、
となる。これまでの量子力学の表示において「ψにxをかけたらxψ」のように計算していたのは、実はこのような行列計算を暗黙のうちに行っていたのであった。 行列表示では、pすなわちは
となる。ただし、Δx(=x_2-x_1=x_3-x_2=…=x_N-x_{N-1})は空間をN等分した一個の長さである。残念なことにこの行列Pはエルミートでないが、連続極限(Δx→0)ではエルミートである。 このような行列を(2.58)にかけると、
となって、これは確かに微分である(Δ x→0の極限において)。この行列で表したxとpの間にも、交換関係[x,p]=iが成立している(実際に計算すると少しだけi×単位行列とはずれた形で出てくるが、その理由は本来連続的なものである微分を不連続に置き換えたせいである)。
演算子Aの場合でも、(Aφ,ψ)=(φ,A^†ψ)、すなわち、
∫ (Aφ)^* ψ dx = ∫ φ A^†ψ dx
としてAのエルミート共役A^†を定義できる。エルミートな演算子の場合、A^†=Aである。 A^† =-Aとなる演算子を反エルミートな演算子と言う。
【問い】演算子A,Bの積ABのエルミート共役(AB)^†は B^† A^†であることと、行列でもそうであることを証明せよ。【問い】エルミートな演算子の交換関係は反エルミートであることを証明せよ。 |
前に波動関数ψ(x,t)を運動量の固有状態で分解すること(ということはすなわちフーリエ変換するということ)を行ったが、その手順の概略は以下のようなものだった。
このような計算は、行列で見るとどのような計算をしていることになるのかを見ておこう。
結局、フーリエ変換(あるいはx-表示からp-表示への変換)というのは「無限行無限列行列を使ったユニタリ変換」ととらえることができる。 ここではフーリエ変換の場合で話をしたが、量子力学では「何かの演算子(ハミルトニアンでもいいし角運動量でもいい)の固有関数」の形で任意の関数を分解して計算するという方法をよく使う。このような計算方法を「演算子を対角化する」という言いかたをする。演算子を行列と考えた時、のような形に行列をユニタリ変換していることに対応しているからである。
ψが無限個の複素数成分を持つベクトルであると考えれば、固有関数が直交するという話が見通しよくなりました。
そうでしたか。この話を今するべきかもう少ししてからにすべきかちょっと悩んでたんですが、説明早く入れたほうがいいみたいですね。
ベクトルのと、波動関数の[-i (
(ψ_1,ψ_2)-(ψ_2,ψ_1))]^2-4(ψ_1,ψ_1)(ψ_2,ψ_2)≦0が同じことを意味しているというのが納得できません。
「同じ」というより、波動関数の式の方が一般的です。次元は高いし、複素数になっているし。波動関数の式で、ψ_1をaに、ψ_2をibに、と置き換えるとになるんです。ためしに代入してみてください。
宿題きついです・・・(泣)
わからなかったら「ここまでやったけど後わからんから教えて」という状態でもいいから持ってきてください。
∫ψ^*_1 ψ_1
dx を内積チックに書くと、(ψ_1,ψ_1)と書きますが*(スター)は書かなくていいんですか?どこいったんですか?
「*(スター)をつける」という操作を含めて、(ψ_1,ψ_1)という記号を定義しているのだと思ってください。
波動関数をベクトルの真似して書いたら何が得するんでしたっけ?
ベクトルに関する公式が波動関数に対しても使えるというのがうれしいところです。たとえば今日話した「固有値が違うと直交する」なんて法則も、もともとはベクトルに関する法則として知られていたものです。