←第5回へ 「初等量子力学/量子力学」の目次に戻る 第7回へ→
前回の不確定性関係の導出の話の続きから始める。
となる。ここで[p-<p>,x-<x>]を計算する時には、<x>,<p>はもはや数であって演算子ではないので、xやpと交換することを用いた。よって、
^2 - 4 (Δ x)^2 (Δ p)^2≦ 0
である。これからただちに、
(Δ x)^2 (Δ p)^2 ≧ (^2/4) すなわち Δ x Δ p ≧ (/2)
が導かれる。これが不確定性関係である。
【問い14】導出方法からわかるように、Δ xΔ pが最小値である{ /2}になる時は、ψ_1=(p-<p>)ψ,ψ_2=(x-<x>)ψのような形の波動関数の間にψ_1 - ikψ_2=0(kはある実数)が成立する時である(この時にのみ(ψ_1-ikψ_2,ψ_1-ikψ_2)=0になる)。簡単のために<x>=<p>=0の場合についてこの式を解いて、ΔxΔpが最小になる時の波動関数がどんな形になるか、求めよ。この波動関数は、「不確定性が最小になっている」ということで、最小波束(minimum packet)と呼ばれる。 |
以上の導出方法からわかるように、別にx,pでなくても、演算子A,Bがあって、[A,B]=k(kは定数)であったならば、Δ AΔ B≧{|k|/2}を導くことができる。よって、量子力学において交換しないような二つの物理量の不確定度の両方をゼロにすることはできない。
たとえば二つの演算子を,として、
ψ=aψ, ψ=bψ
(a,bは固有値であって、数である)になるような状態ψがあったら、このψは「演算子と演算子の同時固有状態」と言う。
交換しない二つの演算子は同時固有状態を持てない。それは以下のように証明できる。
[,]=c(cは定数)とする。もし、同時固有状態があったとすると、
ψ=(bψ) = abψ
ψ=(aψ) = baψ
となる。数であるところのa,bは当然交換するので、この式からψ=ψとなってしまうが、これは[A,B]=cに反する(ただし、この証明には抜け道がある。下の問題参照)。
【問い15】[,]=(は演算子)である場合は、,の両方の固有状態があってもよい。ただし、その状態はのゼロ固有値状態(つまり、ψ=0)でなくてはならないことを証明せよ。 |
この抜け道の部分を除くと、交換しない演算子に対応する物理量は、同時に確定できないということがわかる。したがってこのような物理量の両方を同時測定するような実験は不可能だということになる。演算子の交換関係が0となるか否かは、大きな物理的意味を持っているのである。
ほんとはこの後に2.8節があったが、前回すでにアップした。
この章では、1次元でポテンシャルの中での波動関数を考える。1次元では現実 (3次元)に比べ簡単すぎてつまらないように感じるかもしれないが、1次元に限っても量子力学にはいろいろと面白い現象がある。
一次元の箱(長さL)に閉じ込められた質量mの粒子のエネルギーを Schr¥"odinger方程式を解くことなしにおおざっぱに評価しよう。計算結果に現れる量は,L,mのみのはずである。Lは文字通り[L]の次元を、mも [M]の次元を持つ。は時間で割る(振動数をかける)とエネルギー [ML^2T^-2]になるのだから、[ML^2T^-1]という次元を持っている。この 3つの量からエネルギーの次元を持った量を作ろうとすると、[T]を含むのはのみだから、^2[M^2L^4T^-2]に比例させなくてはいけない。後 Lとmを適当にかけることで次元あわせをすると、{^2/ mL^2}でエネルギーの次元となる。実際に計算した結果はこれの数倍程度の量になるだろう。
時間とは入って来ないんですか?
問題の設定の中に時間を含む量はないから入って来ません。むしろ、,L,mから時間が決まる。
この結果は不確定性関係を用いた考察からも出てくる。長さLの箱に閉じ込められているということは、位置の不確定性は最大でもΔ x=Lである。一方 Δ x Δ p> hであるから、運動量はΔ p=(h/L)程度の不確定性を持たなくてはいけない。この場合、エネルギーも{p^2/ 2m}= (h^2/ 2mL^2) 程度を持っているはずである。
このようにエネルギーの値が決まってしまうとうのは量子力学のおかげであるが、次元解析の考えかたでは、プランク定数hがでてきたおかげでエネルギーの次元を持つ量が作れるようになったから。不確定性関係の考えかたでは、粒子が止まれなくなった(Δx=0になれなくなった)からだと言える。
【問い22】ばね定数kのばねにつながれた質量mの粒子(エネルギーは
{p^2/2m}+{1/2}kx^2と書ける)について、次元解析および不確定性関係から、最小のエネルギーの値を予想せよ。
ヒントを書いておく。この場合もΔpがだいたい(h/Δx)と書けるだろうから、これをエネルギーの式に代入すると、エネルギーはΔx^2に比例する項とΔx^(-2)に比例する項を含む。Δxを変化させていった時、どんな時が最小だろう?と考えるとよい。このあたりの計算はおおざっぱなどんぶり勘定でよいので、係数のちょっとした違いに神経質にならなくてよい。 |
以上の考察をした後、具体的にSchr¥"odinger方程式を解いていってみよう。一次元の空間(0≦ x ≦ L)内に閉じ込められた、自由な粒子(V(x)=0)を考える。粒子の質量をmとする。
解くべき方程式は、
である(時間的に定常な場合)。エネルギー Eを与えられた定数と考えて、上の方程式を解く。このような線形微分方程式の場合、解はe^λxと置くことができる。λの値を求めるためにこの解を代入すると、
-(^2/2m) λ^2 e^λ x = E e^λ x
となるから、
-(^2/2m) λ^2 = E
を解いて、λ=±iとなる。 これから、境界条件を考慮しなければ、k=と置いて、
ψ(x)= A e^{ikx}+ B e^{-ikx}
という解が出る。
ここで波動関数に境界条件を与えよう。粒子は0≦ x ≦ Lに閉じ込められているとしたのだから、この範囲の外側ではψ=0である。その外側の波動関数とつながるためにはψ(0)=ψ(L)=0でなくてはならない。これから、
A + B =0, A e^{ikL} + B e^{-ikL} =0
という式が出てくる。第一式よりB=-Aであるから、
A(e^{ikL}-e^{-ikL}=2Ai sin kL=0
Aが0では波動関数が全部0になってしまうので、sin kL=0ということになる。ゆえに、
kL = nπ (nは自然数)
という条件がつく。つまり、
のようにエネルギーが決まった(最初の予想と比較してみよう。多少数はずれているがだいたいの値は出ている)。結局波動関数は
ψ_n(x)=2Ai sin[(nπ/L)x]
となり、nの値に応じてというエネルギーを持つことになる。エネルギーが任意の値を取れず、何か整数nを使って表せるようなとびとびの値を取る(量子化される)ことは量子力学でよく現れる現象であるが、これは束縛状態(粒子が空間の一部に集中して存在している状態)の特徴である。
規格化条件∫ ψ^* ψ dx=1を満たすようにAを決めよう。
この式の積分はsin^2θ=(1-cos 2θ)/2を使って積分することもできるが、グラフを思い浮かべれば右のようになり、「山と谷が消し合う」ということを考えればちょうど底辺L、高さ(1/2)の長方形の面積になることがわかって、答えは(L/2)になる。これから、
2A^*AL =1
よってとなる。なので、A^*Aという組合せの中にはθは入っていない。つまりこのθは規格化条件をつけても決まらないのである。ここでは
となるように、つまり最初ついていたiが消えるように選んでおこう(こうしなくてもまったく問題ないが)。
i=-πと選んだということ。これについてはなぜこうしたのかという質問がいくつか来ていたが、基本的にはψ_nの係数を簡単にしたかったという以外、たいして意味はない。
こうしてn=1に始まってn=∞まで続く、無限個の波動関数が得られた。各々は違う大きさのエネルギー固有値を持つ固有関数になっている。したがって、状態をエネルギーの固有値で分類した、と考えることができる。
今求めたエネルギー固有状態では、粒子の存在確率(ψ_n^*ψ_n)は時間によらない。つまり、粒子は動いていない。それはあたりまえで、エネルギーの固有状態であるということはψ(x,t)=φ(x)e^(-iωt)という形で時間依存性e^(-iωt)が空間依存性φ(x)と分離してしまっている。だから、ψ^*(x,t) ψ(x,t)=φ^*(x)φ(x)となって、時間がたったときに確率分布が変化しなくなっている。
それでは、古典力学における`運動'はどこへ行ってしまったのか。これが気になる人のために、エネルギー固有状態でない状態ではどうなるのかを考えよう。一番簡単な例として、以上で求めた波動関数のうち、もっともエネルギーの低いものから二つ(と、を考えよう。
ψ_mix=C_1 ψ_1 + C_2 ψ_2
のように二つの状態がまざった状態として作ることができる。このように二つの波が重なりあい、しかもφ_1とφ_2は違うエネルギーを持っていて違う振動数で振動しているので、これらの和は状況によって左側が強め合ったり、右側が強め合ったりするのである(右の図参照)。つまり、「いったりきたり」という現象が表れている。つまり、古典力学的な意味で動いている(期待値が振動している)状態というのは、エネルギー固有状態でない状態(複数のエネルギー固有状態の重ね合わせ)として実現しているわけである。
波動関数の「行ったり来たり」を表すアニメーションのJavaアプレットがあるので、自分でいろんな波を作ってみるとよい。授業ではこれのデモンストレーションを見せた。
(アプレットのグラフに関する質問)確率密度(ψ^*ψ)の方がψより小さくなっているのはなぜですか?
1より小さい場合のグラフになっているからです。1より小さいと自乗した方が小さくなりますね。
【問い23】ψ_mixが規格化されているためのC_1,C_2の条件を求めよ。
【問い24】時間発展を考慮して、 とする。xの期待値<x>を計算し、振動するような答えであることを確認せよ。 |
今日の宿題は、問い14〜15と、問い22〜25。
javaアプレットの波で、<x>が端までいかないのはなぜですか?。(また別の学生から)<x>が端で一瞬とまって見えるのはなぜですか?
どっちもよい質問です。これは、波動関数も波であって、波にはある程度の拡がりが(どうしても)あるということを考えると理解できます。右の図のように、波が壁にぶつかっていくところを考えてください。まだ壁に波がぶつかっていない時(1枚目の図)は、山のてっぺんにあたる部分に期待値<x>が来ます。ところが波の頭の部分が壁にぶつかると(2枚目の図)、その部分は跳ね返り、反射波が元の波に足されます。これによって、期待値は山のてっぺん部分より少し、右側にずれることになります。そして、山のてっぺん部分が壁に達した時(3枚目の図)は、<x>はそれよりずっと右側にあります。つまり、波の先行部分(中央より前にある部分が先に反射してしまう分、<x>は壁に近づけません。こうして反射波が逆向きに重なるために、一瞬動きが止まることになります。
2.8節の「波動関数をベクトルで考える」にはいつか戻って来ますか?
残念ながら戻って来る時間はなさそうです。読んでおいてください。これがわからなくてもある程度計算はできますが、知っておいた方がいろいろと便利です。必要な時にはまた解説します。読んでわからなかったら質問にきてください。
固有状態とそれ以外の状態では何が違うのですか。
エネルギー固有状態である場合、波動関数は全空間で足並みそろえてe^(-iωt)で表せる振動をしています。すべてがいっせいに振動していると、あまり面白いことがおきません。固有状態の和の状態では、それぞれの成分が別々の動きをするので、なにか面白いことが起きます。
定常状態の波を足し合わせたら動きのある波ができるというのはおもしろい(他に「グラフの動きがおもしろかった」など多数)。
いちどプログラムで遊んでみてください。
k=と決めたのに、kは波数なんですか。
sin
kxという形で式に入っているので、2π÷波長という意味を持っています。つまり波数です。
箱の中に閉じ込めた粒子のエネルギーを測ったらどうなりますか。
「エネルギーを測定する」という作業は、「あるエネルギー固有状態を選択する」ということです。つまり、波動関数がψ=C_1ψ_1+C_2ψ_2+C_3ψ_3+…という状態だったとすると、観測後は例えばψ=C_2ψ_2になります(波動関数の収縮)。