第2回へ 「初等量子力学 /量子力学」の目次に戻る 第4回へ

 

2.1 プランクによる黒体輻射の研究(続き)

 

 テキストとして用意した部分は先週で終りだったのだが、今週の授業ではまず前回追加しておいたアニメーショ ンによる空洞内の電磁波の画像をプロジェクタを使って見せることから始めた。以下は、それを見せながら学生から出た質問とそれに対する解答。

 いろいろな振動が起こるのはわかりましたが、実際に起こ るのはそのどれか一つですか?
 違います。いろんなモードの足し算(重ね合わせ)になっている振動が実際には起こります。例えば、(1,2)モードと(3,6)モードが 重ねあわされると、

うにょうにょ

のようになります。電磁波は熱運動している壁とぶつかることで、壁にエネルギーを与えて振幅が小さく なったり、逆に壁からエネルギーをもらって振幅が大きくなったり、あるいは別のモードに振動のしかたを変えたり、ということを繰り返します。で、いろんな モードの振動が起こるんだけど、平均をとってみると各モードにkTずつのエネルギーが分配されるだろう、というのが古典力学の予想です。

 結局、高い振動数の光はエネルギーたくさんもらっているんです か?
 古典力学的に考えると、高い振動数でも低い振動数でも、もらうエネルギーはkT。だけど高い振動数は数が多いか ら、全体としてみるとたくさんエネルギーをあげていることになる。またお金でたとえると、義郎おじさんちは一人息子だからお年玉1000円でいいが、達郎 おじさんちは子供が3人いるから3000円かかる、ということ。人間一人が電磁波の1モードにあたり、1000円がkTにあたる。
 量子力学的な計算では、モードの数が多い高い振動数の光は、1個のエネルギーの単位が大きい(たとえ話的に言うと、達郎おじさんちの子供の方が「万札で よこせ」と要求するわけである)。そのため、逆にもらえるエネルギーは減る。

 高い振動数ほど数(モード)が多いというけど、たとえば、 (3,3)モード、(4,4)モードは一つしかないではないですか。
 たとえば(5,5)モードは振動数が5^2+5^2=50 となるから、振動数は(50)^(1/2)に比例する。一方、(1,7)も、1^2+7^2=50 となるから、振動数は(50)^(1/2)に比例して、(5,5)モードと同じ。こんなふうに振動数が大きいところでは、モードの 数が全然違うけど振動数は同じあるいは近い、ということが起こるので、やっぱり振動数が高いほどモードの数は大きい。

2.2 光電効果

 同じように光のエネルギーが離散的であることを証明する実験が光電効果である。光電効果はヘルツによって1887年に発見された。ヘルツは光が放 電現象を引き起こすことを見つけたのだが、1899年にはトムソンにより、金属に光をあてることによって金属中から電子が飛び出したのだということが確認 された。金属中には「自由電子」がたくさんいるのだから、飛び出してくること自体は別に不思議なことではない。不思議なことには、1902年にレナルトが 発見した、「飛び出してくる電子のエネルギーは光の強さとは無関係である」という事実である。また、ある一定の振動数 より低い振動数の光ではこの効果が起きないこともわかっていた。

 光電効果を「光の電場によって、金属内の自由電子がゆらされ、その結果外に飛び出す」と考えると、振動数が低くても振幅が大きければ飛び出しても よいと思われるし、逆に振動数が高くても振幅が小さければ飛び出さないだろうと考えたくなる。しかし現実はそうではなく、飛び出すか飛び出さないかは振動 数だけで決まるし、出てきた電子のエネルギーは振幅によっていない。

 具体的な計算は下の問題を解いてもらいたいが、光電効果という現象において大事なことは、光を波と考えた場合と粒子と考えた場合で、そのエネル ギーが金属に与えられるときに連続的に与えられるのか、不連続な塊で与えられるのかという大きな違いがある、ということである。

【問い13】光が波のように連続的であると仮定して100Wの電球から5メートルの位置にある金属の原子が電子を飛び出させるだけの エネルギーをため込むのにどれだけの時間がかかるかを計算せよ。ただし、100W の電球は文字通り、1s間に100Jのエネルギーをすべて光の形で放出するとし、そのエネルギーは等方的に広がるとせよ。金属の原子の半径を10^(-10)m として受け取るエネルギーがどれくらいになるかを考えればよい。なお、電子は5×10^(-19)J程度のエネルギーをもらって飛 び出すとせよ。

 連続的にやってくるエネルギーならば、時間がたった後でなければ電子は飛び出さない。しかし実験は、ただちに電子が飛び出すという結果をみせてい る。光を波だと考えるならば、金属の中に、(どんなものなのか想像もつかないが)「広がってやってきた光のエネルギーをかきあつめて電子一個に与えるメカ ニズム」があることになる。もちろんそんなものはなく、光電効果は、光が「光子」というエネルギーの塊として降ってきていることを示しているのである。

 アインシュタインはこのような現象は、光が「光量子」という粒で出来ていると考えれば説明できる、という「光量子仮説」をとなえた(1905 年)。アインシュタインはプランクが考えた光のエネルギーの単位hνは光量子一個分のエネルギーであり、電子は一個の光量子に衝突されてそのエネルギーを 吸収し、外に出てくると考えたのである。こうすると確かに、光が強いということは光量子が多いということであるから、電子一個のエネルギーは変化せず、出 てくる電子の数が増えることになる。アインシュタインは電子が金属外に出るときにW(仕事関数と呼ぶ)だけエネルギーを消費すると考えると、金属から出て きた時に電子の持っているエネルギーは

E=hν-W

で表されると結論した。もし、hν<Wであれば電子は外に出てくることができない。

 その出てこない電子はどうなるんですか。
 普通より少し早く金属内を走るだけ。最終的にはこのエネルギーは散らばってしまって、熱になるとい うことになります。

 しかしこの時点では飛び出してきた電子のエネルギーを正確にはかることはできていなかった。1916年にミリカンがこの式を実験的に導き出し、光 量子仮説の正しさを実証することになる(現在では光の粒子には「光量子(light quantum)」という言葉は使われず、「光子(photon)」と呼ばれている)。

 光電効果(後であげるコンプトン効果も)の意義は、光が実際に粒子的形態を取っている(ことがある)ということを示したことにある。プランクが 「光のエネルギーはhνの整数倍である」と言った時点では、まだそこまでの主張はされていない。実際、1905年に出たアインシュタインの論文に関して は、多くの批判がされている。当時の物理学者にとっては「光のエネルギーが不連続である」という主張以上に「光は粒子である」という主張は衝撃的であった ことがわかる。

学生からのコメント・感想から

 光電効果で、光子が電子じゃなく、原子核にあたったらどうなりますか?
 まずあたりません。あたったとしても、原子核をたたきだすようなエネルギーを持っていないので、原子核の熱運動に なるだけで終わるでしょう。

 たとえ赤外線みたいに振動数の低い光でも、どんどん光子があたっ てくればいつかは飛び出すんじゃないんですか。
 そりゃどんどんどんどんあたってくれば。でもそれはむしろ、光で金属が暖められて電子が飛び出した ということであって、別の現象でしょうね。

 光子が2つ以上あたることはないんですか?
 確率的に小さいと思っていいでしょう。

 光電効果で電子をなくすことはできますか?
 無理です。ある程度電子が出ていくと、金属はプラスに帯電して、回りの電子を引き込みますから。一 度、鉄の自由電子が全部なくなったら、どれくらいの電気量がたまることになるか、計算してみてください。

 光電効果で+に帯電するのなら、太陽の光で地球の物全部が+に帯 電したりしないのですか?
 出ていった電子は出ていきっ放しではなく、どこかの物質に戻りますから、+電荷がどんどん増えていったりはしませ ん。光電効果で飛び出した電子は、地球の引力を振り切るほどの速度は持ってません。

 

第2回へ 「初等量子力学/量子力学」の目次に戻る 第4回へ