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4.2 2次元における角運動量

 直交座標での運動量はp_x,p_y、極座標での運動量はp_r,pとなったが、このうちpは原点回りの角運動量である。古典力学では角運動量はxp_y-yp_x のように位置ベクトルと運動量ベクトルの外積で書かれる(2次元なので外積は1成分の量(スカラー)となる。3次元ならばyp_z-zp_y,zp_x-xp_z,xp_y-yp_xの3成分となって、外積はベクトルになる)。実際に計算してみると、

xp_y-yp_x= -iPARTIALOVERPARTIALTHETA.PNG      (4.29)

となってちゃんと対応していることがわかる。

【問い50】具体的計算により(4.29)を確かめよ。

 ここで、ハミルトニアンはθを含まないから、[p,H]=0 である。この事実(角運動量とハミルトニアンが交換すること)から重要なことが二つわかる。

 一つは「角運動量は保存する」ということである。一般の演算子A(x,p,t) の期待値の時間微分が

{d/ dt}¥expV{A}= ¥expV{{∂ / ∂ t}A}+¥expV{{1/  i¥hbar}[A,H]}

で表せたことを思い出そう。今考えている角運動量の場合、tには依存していないので右辺第一項はない。(書き忘れているが、今の場合第2項はもちろん0なので、pの時間微分は0になる)これは今の場合に限らず、ハミルトニアンが特定の座標を全く含まない時には常に言える。

 もう一つはエネルギーと角運動量の同時固有状態が存在するということである(互いに交換する演算子には同時固有状態が許されるということを思い出せ)。逆に言えば、「p_rとHの同時固有状態」は存在しない。直交座標ではp_x,p_y,Hの全ての同時固有状態が存在する(ただし、p_x,p_y,Hの固有値のうち、独立なものは2つだけである)。

 以下ではpとHの同時固有状態を求めて行くことにする。まず角運動量の固有状態を考えると、

 -iPARTIALOVERPARTIALTHETA.PNGe^inθne^inθ

となることから、固有関数はe^inθで固有値は¥hbar nである。

 θ=0とθ=2πは同じ点だから、そこで波動関数は等しくならなくてはいけない。つまりθが周期2πの周期関数でなくてはならない。つまり、

e^i2πn=1

であるから、nは整数であることがわかる。つまり、角運動量は¥hbar× (整数)という値に量子化される。角運動量の値が¥hbarの整数倍になるということは、後でやる3次元の場合でも(一般の次元でも)成立する。実はこの世の中には¥hbar の半整数倍(半整数とは、(1/2),(3/2)などのように、(奇数) /2で表せる数字。言葉の原義(整数の半分)からすると、半整数の中には(偶数)/2(つまりは整数)が入ってもよさそうだが、普通はいれない。厳密に言いたい人は「半奇数」という言葉を使う)の角運動量(電子のスピンなど)も存在しているのだが、この講義では触れない。

4.3 動径方向の波動関数

 次の章で3次元の場合をやる予定だが、3次元の計算はもう細かいところまでフォローせず、「とろ火でぐつぐつ一昼夜煮込まなくてはいけませんが、今日は時間がありませんのでできあがったものが用意してございます」という料理番組方式で結果だけを述べる予定。というわけでその分、2次元はまじめにどういう計算をするのかをフォローした。

 エネルギーと角運動量の同時固有状態を考えることにすれば、

ψ(r,θ)= R(r)e^inθ

という形の解を探すことになる。これをシュレーディンガー方程式に代入すると、

 -{¥hbar^2/ 2m}({∂^2/ ∂ r^2}+{1/ r}{∂/ ∂ r}+{1/ r^2}{∂^2/ ∂ θ^2})Re^{inθ}=&E Re^{inθ}¥¥({∂^2/ ∂ r^2}+{1/ r}{∂/ ∂ r}-{n^2/ r^2})Re^{inθ}=&-{2mE/ ¥hbar^2} Re^{inθ}¥¥({∂^2/ ∂ r^2}+{1/ r}{∂/ ∂ r}-{n^2/ r^2})R=-{2mE/ ¥hbar^2}R¥¥ 

となる。

 このような方程式を解く時、「無次元化」を行っておくといろんな点で便利である。この方程式の変数rは長さの次元を持っているが、r=α ξとして、長さの次元を持つ定数αと、次元のない変数ξを導入する。そして、以後はξを変数と考えて式を解いて行くことにする。

【問い51】ξを使って式を書き換え、かつα={¥hbar/¥sqrt{2mE}}と選ぶ(テキストではαの分母と分子が逆なのでこのように訂正しておいてください)と、我々が解くべき方程式は

 ({d^2/ dξ^2}+{1/ ξ}{d/ dξ})R +(1- {n^2/ ξ^2})R=0       (4.35)

という式になることを示せ。

 このようにして無次元化することには、

一般的な問題になる
 物理においては、一見違うように見える現象が、同じ方程式で記述できることがよくある。無次元化しておくとこれを見つけやすい。実際、上で求めた(4.35) はベッセルの微分方程式と呼ばれる有名な式であり、光学の回折でも現れる式である。

変数の大きさに普遍的意味がある
 長さの次元のある変数の場合、「1より小さい」とか「大きい数である」ということにはあまり意味がない。メートルを単位とするかミリメートルを単位とするかで、値そのものは1000倍違ってしまう。問題によっては『0.001メートルだから短い』と考えることもあれば『1ミリだから無視できない』と考えることもある。無次元化することで「今考えている問題にとって、この数字は大きいのか小さいのか」を判断できる。

というようなメリットがある。(書き忘れているが式が簡単になるというメリットも当然ある)

4.4 ベッセル方程式を級数展開で解く

 この方程式を解いてみよう。方程式が簡単に積分できるような形になっていない場合に線形微分方程式を解く方法としてよく使われるのが級数展開である。この後の計算でも解くのが難しい微分方程式をこの方法を使って解くことがあるので、ここで級数展開を使って微分方程式を解く方法について述べておく。

 方程式がξ=0で発散する係数を持っていない場合、その解は

 f(ξ)=Σ_{k=0}^∞ A_k ξ^k

 と展開される(この場合A_kはf(ξ)の微係数で表すことができる)。そうでなく、微分方程式がξ=0が確定特異点(微分方程式を{d^2 f/ dξ^2} +P(ξ){df/ dξ}+Q(ξ)=0 と書いた時、P(ξ)やQ(ξ) はξ=0で極になっているが、ξ P(z)とξ^2 Q(z)が正則である場合、ξ=0は確定特異点であると言う)になっている場合(ベッセルの微分方程式もそう)は、その解は

 R(ξ)= Σ_{k=0} a_k ξ^{k+k_0}

のように展開できることが知られている。k_0は後で定まる。

 級数展開で微分方程式を解くということはすなわち、この展開係数a_kを一つずつ決めて行くということである。

 ベッセルの微分方程式に級数展開された関数を代入すると、

  ( {d^2/ dξ^2} +{1/ ξ}{d/ dξ} +( 1 - {n^2/ ξ^2}) )( Σ_{k=0} a_k ξ^{k+k_0}) =0 ¥¥Σ_{k=0}a_k    ( {d^2/ dξ^2}ξ^{k+k_0} +{1/ ξ}{d/ dξ} ξ^{k+k_0} + ( 1 - {n^2/ ξ^2} )ξ^{k+k_0}) =0¥¥Σ_{k=0} a_k   ( (k+k_0)(k+k_0-1)ξ^{k+k_0-2} +(k+k_0) ξ^{k+k_0-2} +ξ^{k+k_0} - n^2 ξ^{k+k_0-2}) =0

となって、

Σ_{k=0}^∞ ((k+k_0)^2 a_k ξ^{k+k_0-2}+a_k ξ^{k+k_0}-n^2 a_k ξ^{k+k_0-2})=0

という式を解いて行けばよいことがわかる。この式はξに関する恒等式だから、ξの各次数で0になる必要がある。

 真中のa_k ξ^n+k_0だけξの次数が2大きいことに注意して、

Σ_{k=0}^∞  a_k ξ^{k+k_0} = Σ_{k=2}^∞ a_{k-2}ξ^{k+k_0-2}

と書き換える(k→ k-2と置換えたので、「新しいk」の和は0からではなく2からになる。こうすれば「古いk」および「新しいk-2」はどちらも、0,1,2,3,…になる)。結局、

Σ_{k=0}^∞ ((k+k_0)^2 -n^2 ) a_k ξ^{k+k_0-2}= -Σ_{k=2}^∞ a_{k-2}ξ^{k+k_0-2}

という式になる。これから、k≧ 2に対しては、

((k+k_0)^2 -n^2 )a_k =-a_k-2      (4.42)

という式が出る。k=0,1だけは右辺の寄与がないので特別で、

(k_0^2 -n^2) a_0 =0
((k_0+1)^2 -n^2 )a_1 =0

という式になる。a_0は0ではない(もし0だったとしたら、級数はξ^k_0 の項からではなくξ^k_0+1から始まるということだから、k_0+1 を改めてk_0と置いて問題を解き直すことになる)ので、(k_0)^2=n^2すなわちk_0=± nということになる。しかし実はk_0が負の数、すなわち-|n|の場合は仮定に矛盾することが以下のようにしてわかる。

(4.42)でk_0=-|n|とすると

( (k-|n|)^2 -n^2 )a_k =-a_{k-2}
k(k-2|n|)a_k=-a_k-2

となるが、k=2|n|の時、上の式は

0=-a_2|n|-2

となってしまう。(4.42)からわかるようにa_2|n|-2がゼロならば添字がそれよりも2少ないa_2|n|-4もゼロになる。同じことを|n|回続ければ、結局a_0=0になってしまう。しかしa_0は0ではない。

よってk_0=|n|としよう。結果、a_1は0にならなくてはいけない(本来、二階微分方程式を解いているのだから、独立な解は二つであるはずである。もう一つの解はNeumann関数と言って、log ξを含む複雑な関数だが、原点で発散するので今考えている問題の解にはならない)

 一般式から

 a_k = {1/ n^2-(k+|n|)^2}a_{k-2}= {-1/ k(2|n|+k)}a_{k-2}

が出る。この式を次々と使うと、a_奇数は結局はa_1に比例することがわかる。a_1=0なのだから、すべてのa_奇数=0である。a_偶数に関してはk=2j(jは整数)とおいて、

  a_{2j}= {-1/ 2j(2|n|+2j)}a_{2j-2}   ={-1/ 2j(2|n|+2j)}{-1/ (2j-2)(2|n|+2j-2)}a_{2j-4}=…¥¥= {(-1)^{j}/ 2j(2j-2)(2j-4)…6× 4× 2×(2|n|+2j)(2|n|+2j-2)…(2|n|+4)(2|n|+2)}a_0

と求めることができる。

2j(2j-2)(2j-4)…6× 4× 2 =2j× 2(j-1) ×2(j-2) …(2×3)× (2×2)×(2×1) =2^j j(j-1)(j-2)…3×2×1= 2^j j!

と書き直そう。同様にして、

 (2|n|+2j) (2|n|+2j-2) … (2|n|+4) (2|n|+2) ={ (2|n|+2j) (2|n|+2j-2) … (2|n|+4) (2|n|+2) 2|n|×(2|n|-2)×(2|n|-4) … 6×4×2 / 2|n|×(2|n|-2)×(2|n|-4) … 6×4×2 } ={{2^{|n|+j}}(|n|+j)!/ 2^{|n|}|n|!} ={{2^{j}}(|n|+j)!/ |n|!}

となるので、

 a_{2j}={(-1)^j |n|!/2^{2j} j! (|n|+j)!} a_0

である。

 よって解は

 Σ_{j=0}^∞{(-1)^j |n|!/ 2^{2j}j! (|n|+j)!}ξ^{2j+|n|}a_0

とまとまる。方程式はRに関して線形だから、全体を定数倍しても解になる。つまりa_0は決定できない。a_0は全体の規格化によって決まることになる。ここではa_0={1/ 2^{|n|} |n|!}と選ぶと、この関数は

 Σ_{j=0}^∞{(-1)^j / j! (|n|+j)!}({ξ/2 })^{2j+|n|}

と書ける。

 一方、

 J_{n}(ξ)=Σ_{j=0}^∞{(-1)^j / j! (n+j)!}({ξ/2 })^{2j+n}

はよく知られているベッセル関数の定義式の一つである(この式ではnは整数だが、一般のベッセル関数ではこれは任意の実数である(その場合、(n+j)!はΓ(n+j+1)に変わる))。解はJ_|n|(ξ)e^inθと書けることになる。次の問題で示すようにJ_n(ξ)とJ_-n(ξ)は符号を除いて同じ関数なので、J_n(ξ)e^inθと書いてもよい。右はJ_0(x),J_1(x),J_2(x)のグラフである。グラフの形はsinやcosに似た振動であるが遠方に行くほど(原点から離れるほど)振幅が減衰しているし、周期も一定ではない。

【問い52】ベッセル関数の定義式から(-1)^n J_-n(x)=J_n(x) を証明せよ。ただし、計算の中で(負の整数)!が出てきた時は∞と考え、(1/(負の整数)!)=0としてよい。

 以上で、直交座標の場合と極座標の場合で自由粒子のシュレーディンガー方程式を解いた。この計算だけを見たら、直交座標の方が圧倒的に簡単で、極座標で解くメリットは感じられないかもしれない。しかし、たとえば、ψ|_r=r_0=0のような境界条件が与えられた場合(つまり、半径r_0 の円内に閉じ込められた粒子の波動関数を求めなくてはいけない場合)などは、直交座標で計算することは難しい。極座標を使った場合では、ベッセル関数の零点がちょうどr=r_0に来るようにエネルギーを調整してやればよい。

 J_n(x)が0になる場所は、(たとえばsin xの零点がx=nπであるようには) 簡単な式で表すことはできない。以下の表の数字は数値的に求めたもので、厳密ではない。また、n=0以外のJ_n(x)はJ_n(0)=0となるが、それは表にいれていない。

1番め 2番め 3番め 4番め
J_0(x) 2.40482556 5.52007811 8.65372791 11.7915344
J_1(x) 3.83170597 7.01558667 10.1734681 13.3236919
J_2(x) 5.13562230 8.41724414 11.6198412 14.7959518

 r=r_0の場所で波動関数が0になるような境界条件が置かれたとすると、その場所のξが上にあげた数値のどれかにならなくてはいけない。上の表の数値、すなわち「J_n(x)のm番めの零点(x=0を含まない)」をZ_n,mと書くことにすると、ξ={¥sqrt{2mE}/¥hbar}rであるから、

 Z_{n,m}={¥sqrt{2mE}/¥hbar}r_0

である。これから、エネルギー固有値Eが

E= {¥hbar^2/ 2m}({Z_{n,m}/ r_0})^2

と求められる。エネルギーの値は、n,mが大きいほど大きくなる。nは角運動量の大きさを示す。mはr=0からr=r_0までの間に波動関数が何回0になるかを示す数字(ただし、n≠0の時の原点での0は含まない。端での0は含む)であるから、これが大きいほど、動径方向にたくさんの波が入っていることになる。

 角運動量を持たないJ_0(x)の場合で、mが大きくなるにつれて波動関数がどう変化していくか、グラフで示すと以下のようになる。

 テキストでは止め絵だったけど、Web上ではアニメーションで。このアニメーションの速度は実際の波動関数の振動数とは無関係です。

 また、mを変えることなくnを増やす、つまり角運動量を増やして行くと以下のようなグラフで表せる波動関数になる(ただし、実部のみをグラフにしている)。

J_1(x)cosθJ_2(x)cos2θJ_3(x)cos3θ

【問い53】n≠0の時J_n(0)=0であること、つまり「角運動量がゼロでない時、原点での波動関数は0である」ということには、どのような物理的意味があるだろうか?

以下の4.5節は授業では説明省略。

4.5 二つの波動関数の関係

 ここで直交座標で表した波動関数、極座標で表した波動関数、二つの表示が出てきた。

直交座標:  ψ = A ¥exp[{{i/¥hbar}(p_x x + p_y y )}]¥¥極座標: ψ=A' J_{n}({¥sqrt{2mE}/ ¥hbar}r)e^{inθ}

である。どちらもe^{-{i/¥hbar }Et}という時間依存性を持つ(直交座標形の場合、E={(p_x)^2+(p_y)^2/ 2m})。この二つはいっけん違って見えるが、同じ方程式の解なのだから関係がある。実は

¥exp[{{i/¥hbar}(p_x x + p_y y )}]= Σ_{n=-∞}^∞ A'_n J_{n}({¥sqrt{2mE}/ ¥hbar}r)e^{inθ}

のように、J_nの適当な線形結合によって平面波を作ることができるのである。

 この式の両辺にe^-inθをかけて積分すると、e^inθに比例する成分を取り出すことができる。そのために左辺を極座標で書いておこう。p_x x + p_y yはベクトル(p_x,p_y)と(x,y)の内積であるから、 =¥sqrt{(p_x)^2+(p_y)^2}¥sqrt{x^2+y^2}¥cosα=¥sqrt{2mE}r¥cosα と書ける。α は二つのベクトルのなす角度である。θの方はベクトル(x,y)がx軸となす角である。θを変化させていくと、αもそれにつられて変化する(図参照)。ここではθ=0の時のαをα_0とおいて、α=α_0-θと書いておこう。

¥int dθ e^{-in'θ} ¥exp[i {¥sqrt{2mE}/¥hbar}r ¥cos(α_0-θ) ] =& ¥int dθ e^{-in'θ}Σ_{n=-∞}^∞ A'_n J_{n}( {¥sqrt{2mE}/ ¥hbar}r)e^{inθ}¥¥¥int d¥phi e^{-in'θ} ¥exp[i {¥sqrt{2mE}/¥hbar}r ¥cos(α_0-θ) ] =& 2πA'_{n'} J_{n'}( {¥sqrt{2mE}/ ¥hbar}r)

 α_0は座標軸の取りかたを変えることで自由に選ぶことができるので、ここではα_0=π/2(αになっていたのは間違い)と選んでおく(こうするとA'_nが簡単になるのを知っているのでこうする)。この時、cos(α_0-θ)=sinθとなる。さらに、ξ={¥sqrt{2mE}/¥hbar}rとおいて、

 INTFROM0TO2PI.PNG - 498BYTESdθ e^-inθ exp[ iξsinθ ] = 2π A'_n J_n(ξ)         (4.60)

という式が成立する。

【問い】(4.60)の両辺からξ^k の項の係数を取り出して比較して、A'_nを求めよ。sinθ=(e^iθ-e^-iθ)/2iと、∫_0^2πdθe^-inθe^imθ=2πδ_mnを使えばよい。

 上で求めた関係をうまく使うと、

e^{iξ ¥sinθ} =Σ_{n=-∞}^∞ J_n(ξ) e^{inθ}

という式を作ることができる。この式でe^iθ=tと置くと、

 e^{{ξ/ 2}(t-{1/ t})}=Σ_{n=-∞}^∞ J_n(ξ) t^n     (4.62)

となる。つまり、e^((ξ/2)(t-(1/t))をtの関数と見て級数展開した時のt^nの係数がJ_n(ξ)である。

 一般に級数展開するとその各項の係数が関数列になるような関数を「母関数」と呼ぶ。e^((ξ/2)(t-(1/t))はJ_n(ξ)の母関数である。

 母関数の式(4.62)を使うと、便利な公式をいろいろ作ることができる。たとえば(4.62)の式のt → -(1/t)と置き換える。こうしても、t-(1/t)という組み合わせは不変なので、左辺は変化しない。一方右辺は

Σ_{n=-∞}^∞ J_n(ξ) t^{n}‾‾‾‾‾¥begin{array}[t]{c}¥longrightarrow ¥¥ {¥scriptstyle t¥to -{1/ t}}¥end{array}‾‾‾‾‾Σ_{n=-∞}^∞ J_n(ξ) (-t)^{-n}=Σ_{n=-∞}^∞ J_{-n}(ξ)(-1)^n t^{n}

と変化する。これから、前に証明した(-1)^n J_-n(x)=J_n(x)が証明できる。

【問い55】ベッセル関数の加法定理 J_n(x+y)=Σ_m=-∞^∞ J_m(x)J_n-m(y) を証明せよ。

【問い56】ベッセル関数の漸化式  2(d/dx)J_n(x)=J_n-1(x)-J_n+1(x)  を証明せよ。

 量子力学の計算ではいろんな演算子の固有関数を求めて、波動関数をその固有関数で展開するということをよく行う。前章までは運動量やエネルギーの固有関数はsin kxだったりe^ikxだったり、比較的簡単な関数で表すことができたのだが、実際に具体的な問題を解こうとすると、この章で出てきたベッセル関数のようなややこしい関数も必要となってくる。次の章の3次元の場合でも同様の計算を行う。

 今日の宿題は、問い52と問い53のみ。

学生の質問・コメントから

 2次元でも計算たいへんだなぁ。3次元はもっとたいへんなのかなぁ(同様の感想多数)。
 たいへんなんですが、現実に近ずけば計算がややこしくなるのは仕方ないことです。これまでやってた1次元の問題というのは、やはり現実からは遠いのです。3次元はもちろん2次元よりもっとたいへんですが、同じパターンの繰り返しではあるので、2次元に慣れていればそれほどたいへんじゃありません。2→3より、1→2の方がずっと難しい。

 試験はいつですか。どんな感じですか。
 2月3日です。範囲はもちろん全部。前期の初等量子力学の試験と同じような感じでしょう。

 Re^iθをψに代入したのをベッセル方程式と言うんですか、それともあの形ならベッセル方程式なんですか。
 今日出てきた形の微分方程式のことをベッセル方程式と呼びます。シュレーディンガー方程式に限らず、いろんなところで出てきます。

 板書で|n|の絶対値を外してnと書いていましたが、プリントとどっちが正しいんですか。
 すいません、板書の方が書き忘れです。k_0は正でないといけないので、nが正でも負でもk_0が正になるように、|n|でないと困ります。

 {d/ dt}¥expV{A}= ¥expV{{∂ / ∂ t}A}+¥expV{{1/  i¥hbar}[A,H]}って形が似ているけど同じものですか。
 交換関係というのは古典力学におけるPoisson括弧の量子力学バージョンです。だから、同じ式と言えます。

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