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この章では3次元で球対称なポテンシャルV(r)が存在している場合のシュレーディンガー方程式を極座標で解いていくことにする。2次元の時と同様に、ラプラシアン演算子
の極座標での表示が
または
となることに注意しよう。ここでは具体的にどのようにこの式を出すかは説明しないが、やり方は2次元の場合と本質的に同じである。
【問い56】どのような方法でもよいので、極座標でのラプラシアンを求める過程を示せ。
【問い57】円筒座標の場合のラプラシアンを求めよ。 |
これからシュレーディンガー方程式は
となる(mという文字を後で別の意味で使うので、この章では質量をμとした)。
2次元の場合の自由粒子のシュレーディンガー方程式は次のようになる。
であったが、第2項のはと書くことができる。さらにこのL_zの固有値がnであることを使って式を簡単にしていくことができた。古典論でも運動エネルギーはと表すことができたので、その類推から、3次元の自由粒子のシュレーディンガー方程式は
(5.6)
という形になるであろうと考えられる。L_x,L_y,L_zは3次元の角運動量である。そこでまず、3次元の角運動量について考えて行こう。
古典力学においては、角運動量はr×pのように、原点からの位置ベクトルと運動量ベクトルの外積であった。2次元の角運動量はxp_y-yp_xの一成分しかないが、3次元では角運動量は
L_x=
yp_z-zp_y
L_y=
zp_x-xp_z
L_z=
xp_y-yp_x
の3つの成分を持ち、それぞれがx軸回りの角運動量、y軸回りの角運動量、z軸回りの角運動量である。z成分であるL_zについては2次元における角運動量演算子xp_y-yp_xと同じであるから、
と書ける。
まず、L_x,L_yを計算しよう。角運動量は回転の運動量であるから、r方向への運動は関係ない。そのため、角運動量の中には{∂/ ∂ r}は存在しないはずである。よってその部分は最初から計算しないことにして考えると、
および
と計算できる。
角運動量の絶対値の自乗||^2=(L_x)^2+(L_y)^2+(L_z)^2を計算してみよう。まず、
となる。同様の計算により
である。よって、
である。これから無事に、(5.6)を示すことができた。
2次元の場合にハミルトニアンと角運動量L_zとの同時固有状態を考えたように、3次元でもハミルトニアンと角運動量の同時固有状態を考えて行きたい。しかし同時固有状態であるためには互いに交換する演算子でなくてはならない。
そこでここで出てきた演算子||^2,L_x,L_y,L_zおよびハミルトニアンHとの相互の交換関係を考えておこう。まずL_xとL_yの交換関係を計算する。 [L_x,L_y] =[ yp_z-zp_y,zp_x-xp_z ]であるが、交換関係の中身を見ると、交換しない組み合わせは「yp_z の中のp_zとzp_xの中のz」、「-zp_yの中のzと-xp_zの中のp_z」の二つだけである。ゆえに、
[L_x,L_y]=y[p_z,z]p_x +x[z,p_z]p_y=i(xp_y-yp_x)=i L_z
である。サイクリックな交換(x→ y, y→ z,z→ x)を行うことで、[L_y,L_z]=i L_x,[L_z,L_x]=i L_yが求められる。自分自身とは当然交換する(たとえば[L_x,L_x]=0)し、これ以外のものは上で求めたものの逆符号になる(たとえば[L_y,L_x]=-[L_x,L_y]=-i L_z)ので、これでL_x,L_y,L_zの組み合わせについてはすべて計算した。
||^2とL_xとの交換関係を計算すると、
[||^2,L_x]=[(L_x)^2,L_x]+[(L_y)^2,L_x]+[(L_z)^2,L_x]
であるが、[L_x,L_x]=0だから第1項は0。第2項は
[L_yL_y,L_x]=L_y[L_y,L_x]+[L_y,L_x]L_y= -i[L_yL_z+L_zL_y]
となり0ではないが、第3項が
[L_zL_z,L_x]=L_z[L_z,L_x]+[L_z,L_x]L_z= i[L_zL_y+L_yL_z]
となって互いに逆符号でキャンセルし、[||^2,L_x]=0である(L_y,L_zに関しても同様)。今考えているハミルトニアンはとなっている。L_x,L_y,L_z,||^2は全てr微分を含まず、かつこれらは全て||^2と交換するのだから、L_x,L_y,L_z,||^2はハミルトニアンと交換する。
L_x,L_y,L_zは互いの交換関係が0でないことに注意すると、Hとの同時固有状態を持てるのは||^2と、L_x,L_y,L_zのうちどれか一つである(通常はL_z を選ぶ)。
L_zの固有状態については2次元の時と同じで、e^imφという形の固有関数に対して、L_zの固有値がmとなる(2次元の時と同様に、mは整数)。よってψ(r,θ,φ)=R(r)θ(θ)e^imφとおいて、波動関数を動径部分と角運動量部分に、さらに角運動量部分はz成分の固有関数部分とそれ以外の部分に分解する。
||^2の固有値が^2 λであるとして、θ部分の方程式を
と書き直す。
波動関数は、Hの固有値E(エネルギー)と||^2の固有値 ^2λ、L_z の固有値mで分類されることになる。
次の節で||^2の固有値方程式を解くが、その前に、L_zの固有値に関係する、有用な式を示しておく。
[L_z,L_x]=i
L_y (5.21)
[L_z,L_y]=-i L_x (5.22)
という二つの式は(5.21)± i×(5.22)と組み合わせることで、
[L_z,L_x± iL_y]=i L_y ± L_x =± (L_x± iL_y)
とまとめることができる。L_±=L_x± iL_yとして新しい演算子L_±を定義すると、
[L_z,L_±]=± L_±
である。この式は
L_z L_± = L_± L_z ± L_±=L_±(L_z ± )
(上の式の最後の_zが抜けているのでは、という指摘がありました。上のが正解)
とも書ける。ここで今、L_zの固有値がmであるような波動関数ψ_mが求められたとしよう(L_zψ_m =
m
ψ_m)。この時、
となる。つまり、L_± ψ_mのL_z固有値は(m±1)である。L_x,L_yは||^2と交換するから、L_±はL_zの固有値をだけ変化させるが、||^2の固有値は変えない。この演算子はたいへん便利な演算子である。なぜなら、ψ_mを一つ求めておけば、L_±をかけることで次々とψ_m±1,ψ_m±2,…を求めることができるからである。
L_+(L_-)を「L_zの固有値を上げる(下げる)演算子」ということで、上昇(下降)演算子と呼ぶ。
【問い58】L_+,L_-の微分演算子による具体的な表現を求めよ。 【問い59】L_±とL_zの交換関係を、具体的表現を使って確かめよ。 【問い60】[L_+,L_-]を計算せよ。 |
前節で出した微分方程式(5.20)において、x=cosθという座標変換をすると、
dx= -sinθ dθ ゆえに (d/dθ) = -sinθ (d/dx) ←テキストでは符号が落ちてました。
なので、
となる。ここでsin^2θ=1-cos^2θ=1-x^2と書き直すと全部xの式となり、
この方程式はルジャンドル(Legendre)の方程式という有名な方程式である。この方程式も、前章でベッセルの方程式を級数展開で解いたのと同じような方法で解いて行くことができる。
授業では、ここまでやったところで「後はベッセル関数と同じようにやります」ということで結果をすぐに出した。
ある一つのmの値の解がわかれば、L_±を使ってmがそれ以外の場合の解を作ることができるから、まず一番簡単そうなm=0の場合について解こう。
今求めようとしている関数はx=0すなわちθ=π/2において発散しないはずであるから、その点を中心に
Θ= Σ_k=0A_k x^k = A_0 + A_1 x + A_2 x^2 + …
と展開できるだろう。これを代入していくと、
ここで、第一項をよく見ると、k=0,k=1の場合は0になっている(この項は2階微分された項だから定数項とxの1次項が消えているのは当然のことである)。だからこの和はΣ_k=2k(k-1)A_k x^k-2と書いても同じことである。こうしておいて、k→ k+2と置き直す。すると、
となる(kの和が再び0からに戻ったことに注意)。この式は任意のxで成立せねばならないから、各次数で0となる必要がある。そこでx^k次の係数を取り出して
A_k+2 (k+2)(k+1)+ A_k(λ-k(k+1))=0
となることがわかる。この式をくり返し使えば、
のようにして、kが偶数なら最後はA_0に、kが奇数なら最後はA_1にたどり着く。
しかし、ここでk→∞を考えてみると、係数が1に収束する。つまり、kが大きいところではこの級数は1+x+x^2+x^3+x^4+…と同じような形になる。この級数はx=1付近では収束しない(ベッセル関数の場合はだったので、a_kはk→∞でどんどん小さくなるので、発散する心配はしなくてよかった)。そこで、「この級数は無限次まで行かず、途中で止まらなくてはいけない」という条件をつける。この条件が成立するためには、k=nのところで、
λ=n(n+1)
となってA_n+2以降が全て0にならねばならない。これでλが決定される。演算子||^2の固有値が^2 λであったことを考えると、||^2の固有値は^2 n(n+1)という決まった値になる。波動関数の何らかの演算子の固有値が決まった値しかとれないことを「量子化される」というが、角運動量の固有値も量子化されているのである。
λ=n(n+1)でないとx=1やx=-1で発散してしまう。こうなる理由はイメージ的には、「今考えている関数はθ方向だけに進行する波であるから、うまい条件が充たされていないと北極や南極で波が集中して発散してしまう」というふうに考えておけばよい。
今求めたように、A_偶数は全てA_0に比例し、A_奇数はA_1に比例している。今求めた条件が満たされているとすると、nが偶数ならばA_偶数 が有限次で終わる。その時にA_奇数 が無限に続いてしまっては困るから、nが偶数の時にはA_1=0として、すべてのA_奇数=0にしよう。同様に、nが奇数ならばA_{奇数}が有限次で終わり、A_偶数=0とする。こうすれば全ての関数が有限次の多項式となる。
A_mの一般式を求めよう。
となることを使うと、nが偶数の場合、
A_2 =
A_4 =
A_6 =
のようになり、一般式は
となる。これで最終的な答えは
同様に、nが奇数の場合も、
A_3 =
A_5 =
A_7 =
のようになるので、
と求められる。この形だとkは偶数の場合は1,x^2,x^4,…と和を取り、kが奇数の場合はx,x< SUP>,x^5,…と和の取っている。そこで和の取りかたをx^n,x^n-2,x^n-4,…という順番にかえて、nが奇数の場合でも偶数の場合でも同じ式が使えるようにしておくと便利である。そこで、偶数に対しては2m=n-2jとし、奇数に対しては2m=n-2j-1として、jによる和に書き直す。こうすると偶数の場合も奇数の場合も、
とまとめることができて便利である。jの範囲は0から、(n/2)を越えない範囲までである(nが偶数なら(n/2)、奇数なら(n-1)/2)。
ここで、分子の因子について、以下のような書き直しを行う。
式で下線を引いた部分どうしは約分すれば元に戻る。ここで分母の(2n-2j)=2(n-j)としたり、(n+2)=2((n/2)+1)としたりなどとして2を出せる限り外に出す。2は(n-j)-((n/2)+1)+1=(n/2)-j個出てくるので、
となる。
同じように、
となるので、まとめて、
となる。A_0を後で出てくる境界条件を充たすように、適当に選んで、
と書く。
このようにして求められた多項式をルジャンドル多項式と呼び、P_n(x)で表す(方程式の解としてはもう一つ、Q_n(x)と表される関数があるが、この関数はx=0で発散するのでシュレーディンガー方程式の解としては採用しない)。A_0もしくはA_1の値は全体のnormalizationで決まるのでルジャンドル方程式からは決まらないが、P_n(1)=1となるように決めるのが昔からの習慣で、ここでもそれにしたがっている。
証明は略すが、この展開は
とまとめられる(Rodriguesの公式)。
【問い61】Rodriguesの式が境界条件P_n(1)=1を満たしていることを示せ。
(hint:(x^2-1)^nは因数分解すると(x-1)^n(x+1)^nとなる。これをn階微分する時、微分がすべて(x-1)の方にかからない限り、最後にx=1を代入すると 0になる) |
nが小さい場合について、具体的な形を出しておくと、
P_0(x)=1, P_1(x)=x, P_2(x)=(1/2)(3x^2-1), P_3(x)=(1/2)(5x^3-3x), P_4(x)=(1/8)(35x^4-30x^2+3),…
のように計算される。
ここで時間切れ。とばしていっても時間かかりますなぁ。
ついていけない/計算がたいへんだ/試験が不安です(あまりに多数)。
試験が2週間後ということもあってか、泣きの入ったコメントがたくさん(;_;)。しかしねぇ、確かにめんどくさいしたいへんだろうけども、こういうことをやっていかないと現実的な問題を解いていけないんだよ。物理・・・というより、自然ってのは優しくないのです。
計算はややこしかったけど、やっていることは難しくないと感じた(数名)。
という人もいるんだよね。ただ式が長いとか、Σ記号が出てくるとか、そういうことに惑わされずに本質を見てくれれば、概念として難しいことはあんまりやっていない。
L_±というのは、生成消滅演算子のことですか?
考え方は似てますが、「粒子を作ったり消したりする」という演算ではないので、一応区別してください。「上昇下降演算子」です。
L_zがL_xやL_yに比べて楽な理由(固有状態を考える時にL_zを選ぶ理由)はなんですか?
微分演算子で表したとき、L_zだけはθ微分を含んでないからです。
L_xやL_yの図形による理解の仕方を教えてください。
L_xはx軸回りの回転ですから、極座標の図を書いて、x軸回りにちょっとだけ回転させると、それに応じてθやφがどう変化するか、という図を描くとなんとか理解できると思います。
λ=n(n+1)の時に北極や南極でなめらかになる(発散がない)理由はP_nを見ればすぐわかりますか。
「すぐ」とはいかないですが、発散することは上に書いたような考察で見て取れます。
L_+=L_x+iL_yというのはL_zの固有関数を計算するためのものでしたが、L_xの固有関数を計算するときはL_y+iL_zになりますか。
もちろん、そうなります。交換関係を計算するとわかります。