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 P_n(x)の最初の5つのグラフは右のようになる。nが偶数の時P_n(x)は偶関数となり、nが奇数 の時奇関数となる。グラフでもわかるように、nが大きくなるにつれて複雑になっていく(波動関数としてみると、「波の山・谷が増えて行く」)関数になって いる。

 各々のP_n(x)はnの値に応じてそれぞれ違う|\vec L|^2の固有値を持った波動関数(実際には「波動関数のうちθ依存する部分」と 言うべき)と考えることができる。「異なる固有値を持つ固有関数は直交する」という定理のおかげで、

_-1^1 dx P_m(x)P_n(x) =0   (m≠0の時)

がわかる。あるいはx=cosθであることを思い出せば、

_0 dθ sinθ P_m(cosθ)P_n(cosθ) =0    (m≠0の時)

である。θ=0でx=1、θ=πでx=-1であり、積分の方向が逆になっているが、その符号はdx=-sinθ dθの符号とキャンセルする。

θ積分の形にすると、積分の中にsinθという因子が入るが、3次元の体積要素がdr dθ dφ r^2sinθであった ためであり、これで正しい。

なお、m=nの時は

_-1^1 dx P_n(x)P_n(x) = (2/2n+1)

となる。

 角度θの関数としてグラフを書くと、右図のようになる。_θ=0(北極)がx=1に、θ=π(南極)がx=-1に対応することに注意せよ。

さらに右の図では、P_1(θ)で表せる波動関数の確率分布の様子を平面的に表した。図の曲線は、「中心からの距離」が「そ の角度の方向に粒子のいる確率密度」になるように書かれている。「このグラフの線の上に粒子がいる」とか「この線の内側に粒子が集中している」という意味 ではないので勘違いしないように!(そもそも、まだ動径方向の波動方程式は解いていな いので、r がどれくらいのところに粒子がいるとかいないとか、判定することもまだできないのである)

 このグラフからわかることは、P_1(θ)で表せる状態では、南極部分と北極部分にたくさん粒子がいて、赤道部分には全く いない状態になっているということである。n=1以外で確率分布の様子を同様のグラフで書くと、

になる。

 この図も、原点からの距離は「波動関数の絶対値の自乗」を表すものであって、ほんとの距離ではないことに注 意。

 われわれが求めることができるのは、L_x,L_y,L_zのうち、一つの 演算子にたいしてのみ固有状態であるということ、今求めているのはL_zの固有状態であり、それゆえL_xやL_yに 関してはまったく決定できない(例外として「全部固有値0」だけがあり得る。これは不確定性関係の話のところで注意した通 り)ということに注意しよう。この節で計算したのは|\vec L|^2>0でL_z=0という状態である。古典論 なら「この状態はx方向かy方向か、あるいはその中間とか、とにかくz軸と垂直な軸の回りの回転をしている」と考えるところだが、波動関数を見ると、x方 向やy方向に回っているというイメージは見えない。それはL_xやL_yに関しては全く固有状態になってい ないからである。

 ルジャンドルの多項式にはベッセル関数同様に母関数があり、

 {1/\sqrt{1-2xz+z^2}}=\sum_{n=0}^∞ z^n P<SUB>_n</SUB>(x)

である。

 【以下長い註】この部分は、最初に勉強する時は理解できなくともよい

179x211(868bytes)  この母関数の幾何学的意味を述べておく。今平面に極座標を取り、原点からθ=0 方向にRだけ離れた位置に点Qを置く。点Pを極座標で(r,θ)と表される位置に置く。PQの長さをxとすると、

 x= \sqrt{(rcosθ-R)^2 +(rsinθ)^2} =\sqrt{R^2 -2rRcosθ + r^2}=R\sqrt{1-2{r/ R}cosθ + ({r/ R})^2}

となる。これから、

 {1/ x}={1/ R\sqrt{1-2{r/ R}cosθ +  ({r/ R})^2}}= {1/ R}\sum_{n=0}^∞  ({r/ R})^n P_n(cosθ)

となる。たとえばQ点に電荷eが存在している時、P点の電位はV_{PQ}={e/4πε x}であるから、

 V_{PQ}= {e/ 4π R }(1+ {r/ R}cosθ+{1/2}({r/ R})^2(3cos^2θ-1)+{1/2}({r/ R})^3(5cos^3θ -3cosθ)+…)

と展開されるということがわかる。極座標を使ってポテンシャル問題を考える時などによく使われる展開である。

5.4 ルジャンドル陪関数:m≠0の波動関数

 m=0の場合の解が求まったので、m≠0の場合の解をこれから作っていこう。そのためにはL_+を使えばよい(もちろん、 級数展開を使ってごりごりと解いて行くことも可能である。ただし、その時は、m≠0ではx=±1が確定特異点であることに注意が必要)。

 具体的計算に入るまえに、一つの疑問を考えよう。L_+を使ってL_zの固有値をあげていけるわけ だが、いくらでも大きくできるのであろうか。そんなことは物理的に見てありえない。なぜならば、L_+はL^2=(L_x)^2+(L_y)^+(L_z)^2 の固有値を変えない。古典的に考えるとL^2はベクトル(L_x,L_y,L_z) の長さの自乗である。これが変わらない以上、L_zの固有値には上限がある。上限は古典的に考えると|L|であるが、今はL は数ではなくて演算子なので、L_zの最大値は|L|と等しくならない。具体的に最大値を計算するためには、

|\vec L|^2 = L_- L_+ +\hbar L_z + (L_z)^2

と書けることを利用する。

【問い62】上の式を確認せよ。

 今、|\vec L|^2の 固有値が\hbar^2 n(n+1)で、L_zの固有値がm\hbarであるような状態があり、それがmの最 大値であったとする。この状態ψ_maxに|\vec L|^2をかけると、

 |\vec L|^2 ψ_{max}=(L_- \underbrace{L_+}_{ψ_{max}にかかると0} +\hbar L_z + (L_z)^2 )ψ_{max}\\\hbar^2n(n+1)ψ_{max}= \hbar^2(m+m^2)ψ_{max}

 n(n+1)=m(m+1)の解はm=nまたはm=-n-1である。しかしmの最大値が負であるのはおかしいので、m=nの方を取る。

 さて、m=0の固有関数はP_n(cosθ)である。これにまずL_+の具体的表現 \hbar e^{iφ}( {∂/ ∂ θ}+i\cotθ{∂/ ∂φ})をかける。答えは

L_+ P_n(cosθ)= \hbare^iφ(d/dθ)P_n(cosθ)

である。これがL_zの固有値が\hbarである状態となる。さらにL_+をかけると、

(L_+)^2 P_n(cosθ)= \hbar^2 e^{iφ}( {∂/ ∂ θ}+i\cotθ\underbrace{{∂/ ∂φ}}_{固有値がi})(e^{iφ}{d/ dθ}P_n(cosθ))= \hbar^2 e^{2iφ}( {d / d θ}-\cotθ){d/ dθ}P_n(cosθ)

となる。L_zの固有値がm\hbarである状態は因子e^imφを持っているのだか ら、その状態にかかる時にはL_zの中の(∂/∂φ)はimに置き換えられることになる。つまり、L_zの 固有値がm\hbarから(m+1)\hbarに変わる時に作用したL_+は、

 L_+\bigg|_{m→ m+1}=\hbar e^{iφ}({∂/ ∂ θ}-m\cotθ)

と書ける。

 ここで微分演算子の関係として、

( {d/ dθ}-m\cotθ ) f(θ)= {sin^mθ}{d/  dθ}({1/ sin^m θ}f(θ)) 

が成立することに注意する。(d/dθ)({1/ sin^mθ})=-m {cosθ/ sin^{m+1}θ}ということに気をつけれれば上の式が成立することはすぐわかる。 これを使うと、

L_+\bigg|_{m→ m+1}=\hbar e^{iφ}sin^mθ{d/ d θ}({1/ sin^mθ})

である。さらに{1/sinθ}{d/ dθ}={d/ dx}と、sinθ=\sqrt{1-x^2}を使って、

 L_+\bigg|_{m→ m+1}=\hbar e^{iφ}(1-z^2)^{{m+1/2}}{d/ dx}({1/ (1-x^2)^{{m/2}}})

と書ける。

  L_+\bigg|_{m+1→ m+2} L_+\bigg|_{m→ m+1} =\hbar  e^{iφ}(1-x^2)^{{m+2/2}} {d/ dx}({1/ (1-x^2)^{{m+1/2}}}) \hbar  e^{iφ}(1-x^2)^{{m+1/2}} {d/ dx}({1/ (1-x^2)^{{m/2}}}) = \hbar^2 (1-x^2)^{{m+2/ 2}}{d^2/ dθ^2}( {1/ (1-x^2)^{{m/2}}})

のように、L_+をどんどんかけていくと、(1-x^2)^{なんとか/ 2}の項は一個ずつ消しあっていく。 よって、

L_+\bigg|_{m-1→ m} L_+\bigg|_{m-2→ m-1}… L_+\bigg|_{1→ 2} L_+\bigg|_{0→ 1}=\hbar^m e^{imφ}(1-x^2)^{{m/2 }} {d^m/ dx^m}

とまとまる。同じようにP_n(cosθ)にL_-をどんどんかけていけば、

L_-\bigg|_{-m+1→ -m} L_-\bigg|_{-m+2→ -m+1}… L_-\bigg|_{-1→ -2} L_-\bigg|_{0→ -1}=\hbar^m e^{-imφ}(1-x^2)^{{m/2 }} {d^m/ dx^m}

となることはすぐわかる。

 まとめると、mが-n≦ m≦ nの範囲で変化するとして、

P_n^{~m}(x)= (1-x^2)^{|m|/2}{d^{|m|}/ dx^{|m|}}P_n(x)

という関数が|\vec L|^2とL_zの 同時固有関数(|\vec L|^2の 固有値が\hbar n(n+1)、L_zの固有値がm\hbar)のθ依存部分であることがわかる。P_n^m(x) をルジャンドル陪関数と呼ぶ。m=0はルジャンドル多項式P_n(x)と一致する。

ここで、mの最大値がnであることを確認しておこう。もしP_n^n+1(x)という関数が存在する とすれば、

P_n^{~n+1}(x)= (1-x^2)^{n+1/2}{d^{n+1}/ dx^{n+1}}P_n(x)

のような形になるわけだが、P_n(x)はxのn次の多項式なので、上のようにn+1回微分すれば答えは0である。つまり、 P_n^n+1(x)は存在できない。よって最初の予想どうり、mの最大値はnである(最小値が-mである ことも同様)。

低い次数でのルジャンドル陪関数を書いておくと、

P_1^{~1}(x)=\sqrt{1-x^2},P_2^{~1}(x)=3x\sqrt{1-x^2}, P_2^{~2}(x)=3(1-x^2),P_3^{~1}(x)={3/2}\sqrt{1-x^2}(5x^2-1),…

のようになる。三角関数で表せば、

P_1^{~1}(cosθ)=sinθ,P_2^{~1}(cosθ)=3cosθsinθ,P_2^{~2}(cosθ)=3sin^2θ,P_3^{~1}(cosθ)={3/2}sinθ(5cos^2θ-1),…

のようになる。

 ルジャンドル陪関数には、mが等しい場合について、

_-1^1 dx P_n^m(x)P_n'^m = δ_nn(2/2n+1)((n+m)!/(n-m)!)

という直交関係がある。n≠ n'で答えが0になるのは、異なる固有値に属するからである。なお、mが等しくない場合はφ積分の方で直交してしまうので、θ積分(x積分)の方は直交し なくても問題はない。

 P_n(cosθ)の時と同様に、原点からの距離がその角度方向の確率密度であるようにして書いたグラフが上の一連の図である。P_1^0,P_1^1 およびP_2^0,P_2^1,P_2^2 の自乗が示されている。mが大きくなるほど角運動量が大きいので、波動関数はより「外」つまり赤道部にひっぱられている様子がグラフで確認できる。また、 mが大きくなるほどこのグラフに現れる「波の山」の数が減っているが、その分、グラフに現れていない回転方向の「波の山」は増えている。

 と、書いたのだが、「m=0とm=1を比べると、波の数同じで は?(上のn=2の場合、どっちも4)」という指摘を受けた。確かにその通りだ。この図で見ると「一周分の波の数」は変わらない。「半周 分」で考えると3、2、1と減っているという見方もできるが。むしろ「波長の伸び縮み」という説明をすべきであったかも。

 三次元的な絵にしたのが以下の図である。くどいようだが、この図の原点からの距離は「本当の距離」であるrではなく、「|θ 方向の波動関数|^2」 であるので、その点を勘違いしないように!

 結局、|\vec L|^2の 固有値が\hbar^2n(n+1)でL_zの固有値がm\hbarであるような状態は、

Y_n^{~m}(θ,φ) = (-1)^m \sqrt{({2n+1/ 4π}){(n-m)!/ (n+m)!}} P_n^{m}(cosθ) e^{imφ}

と書ける。前についている係数は規格化などのためにつけたもので、あまり深い意味はない。このY_n^mを 「球面調和関数」と呼ぶ。球対称な3次元問題を考える時は、解は球面調和関数を使って表現すると便利なことが多い。

【問い63】Y_n^mが規格化されていること

_0dθ ∫_0^2π dφ sinθ Y_n^m Y_n'^m'_nn'δ_mm'

を証明せよ。

 以上で、波動関数を|\vec L|^2とL_zの 固有値で分類するという作業が終わったわけであるが、ここで、

「z軸などというものは人間が勝手に定めたものであって、どんなふうに座標軸を取ろうが物理は変わらないはず。それなのにその座標軸方向の角 運動量であるL_zの固有値で状態が分類される(量子化される)のは何か変だ」

と感じるかもしれない。これはもっともな疑問であって、たとえばL_zではなくL_xの固有値を使っ て状態を分類してもよいはずである。もちろん、(L_x+L_z)/のように適当な線形結合で考えてもよいだろう。

 実はL_z固有値で分類したのと、L_x固有値で分類したのは本質的には同じである。L_xを 使って分類すれば、上で求めたY_n^mとは違った波動関数y_n^mが できあがるだろう。しかしその場合も、新しい波動関数は独立なものではなく、

y_n^m_m'A_m'Y_n^m'

のようにY_n^m'の線形結合で表されるものになっている。

 

5.5 3次元球に閉じ込められた粒子

自由粒子の場合について動径方向の波動関数を求めておく。ポテンシャルの項はなくなるので、

-{\hbar^2/ 2μ}{1/ r^2}{d / dr}(r^2{d/ dr}R)+\hbar^2{n(n+1)/ 2μ r^2}R= ER

である。例によって無次元化を行うと、

{1/ξ^2}{d/ dξ}(ξ^2{d/ dξ}R)+(1-{n(n+1)/ ξ^2})R=0

となる。ただし、ξ={2μ E/\hbar^2}rである。この式はR={Q/ \sqrt{ξ}}とおくことで、

{1/ξ^2}{d/ dξ}(ξ^2{d/ dξ}({Q/\sqrt{ξ}}))+(1-{n(n+1)/ ξ^2}){Q/ ξ}=0 \\ {1/ξ^{3/2}}{d/ dξ}( ξ^{3/2} {dQ/ dξ}-{1/2}\sqrt{ξ}Q ) +(1-{n(n+1)/ ξ^2}){Q}=0 \\ {d^2/ dξ^2}Q + {1/ ξ}{dQ/ dξ} -{1/4ξ^2}Q +(1-{n(n+1)/ ξ^2}){Q}=0 \\ {d^2/ dξ^2}Q + {1/ ξ}{dQ/ dξ} +(1-{(n+{1/2})^2/ ξ^2}){Q}=0

と変形できる。これはベッセルの微分方程式(4.35)のnにn+1/2が代入されたものであるから、解もベッセル関数の定義式(4.54)のnに n+1/2が代入されたもの( J_n+1/2(ξ))となる((n+{1/2})^2の 形になっているので、-n-{1/2}を代入したものも解になりそうだが、原点で正則でなくなるのでここでは考えない)。なお、n≧0に対 する{\sqrt{π/2x}}J_{n+{1/2}}(x)をj_n(x)と書いて「球ベッセル関数」と呼ぶこともある(さっき捨 てた、負の次数に対応する関数は「球ノイマン関数」と呼ばれる)。三次元問題用のベッセル関数だから、「球」を頭につけるのである。

【問い64】0次の球ベッセル関数j_0(x)は、実は三角関数を使って表せる。ベッセル関数の級数展開の式(4.54)を使ってそ れを示せ。

 結局解は

ψ(r,θ,φ) ={A/\sqrt{r}}J_{n+{1/2}}(\sqrt{2μ E/ \hbar^2}r)P_n^{~m}(cosθ)e^{imφ} \\ =A'j_{n}(\sqrt{2μ E/ \hbar^2}r)P_n^{~m}(cosθ)e^{imφ} \end{array}

である。与えられた境界条件に応じて適当な線形結合を取ることで解が得られる。たとえば半径Rの球内に束縛されているとしたら、ψ(r=R,θ, φ)=0でなくてはいけないが、その条件からj_n(\sqrt{2μE/ \hbar^2}r)=0となるから、これが充たされるようにE の値をきめていかなくてはいけない。

以下、第6章と第7章もあるが、授業ではざっと概要を述べただけ。よって試験範囲から外す。

第6章 水素原子

 この章では水素原子の回りの電子のSchrodinger方程式を具体的に解いて、電子がどのような波動関数で表せるかを計算し、原子の構造を量 子力学で考えていく。

6.1 水素原子のシュレーディンガー方程式

 電子の換算質量(水素原子は陽子+電子からなるが、この二つの粒子は共通重心の回りを運動する。この問題を陽子の 方が静止しているような座標系で考える時、電子の質量mをμ=Mm/(M+m)と置き換える(Mは陽子の質量) とよいことがわかっている。このμが換算質量)をμとし、電子と陽子の間のクーロン力のポテンシャルエネルギーを-(ke^2/r) として、シュレーディンガー方程式

-\hbar^2 {1/ r^2}{∂ /∂ r}(r^2{∂/∂ r}ψ)+{1/ r^2}|\vec L|^2 ψ-{ke^2/ r}ψ = Eψ

を解こう。球対称な問題であるから、前の章で計算した球面調和関数を使って波動関数を

ψ(r,θ,φ)= R_{l}(r)Y_l^{m}(θ,φ)

のように、角運動量演算子|\vec L|^2とL_zの 固有状態(lは0から∞まで、mの和は-l≦ m≦lの範囲)と考えて計算を進めることができる。

 求めるべきはR_l(r)であり、そのみた すべき方程式は

-{\hbar^2/ 2μ r^2}{d/ dr}(r^2{d / dr }R_l) +{\hbar^2/ 2μ r^2}l(l+1)R_l-{ke^2/ r}R_l = ER_l

である(角運動量部分はすでに固有値\hbar^2l(l+1)に置き換えた)。 これを解くためにまた無次元化をする。まずr=α ρとして、

として、両辺に-(2μα^2/\hbar^2}をかけて、

となる。 以下では、電子が原子核の近くに束縛されて遠くへいけない状態を考えることにする。r→∞ に粒子が脱出できない条件はE>0 なので、とする(ルートの中はこれでプラ ス)。さらに(2μα ke^2/\hbar^2)=λとおく。こうすると左辺最終項は- (λ/ρ)R_lに、右辺は -{1/4}R_lとなる(係数を{1/4} にするのは昔からの慣習)。 解くべき式は

490x52(2246bytes)

である。まずこの式がρ→∞およびρ→0の極限でどのような形になるかを考えて、解を予想しよう。 ρ→∞では方程式が

となるので、遠方での解はR_l = e^±ρ/2と なる。例によってe^+ρ/2は発散するから捨てる。よって解は e^-ρ/2という因子をもつであろう。 次にρ→0では、

を考えればよい({1/ρ^2}の項が一番効く)。ρ^sという解を入れてみると、

s(s+1)ρ^s = l(l+1)ρ^s

という式になる。s(s+1)=l(l+1)ということはs=lまたは s=-l-1となるがρ^{-l-1}では原点で発散してしまうから、原点付近での解はρ^lとする。 以上の二つから、

R_l(r)= e^{-{1/2}ρ}ρ^l L_l(ρ)

と置いてみる。これを元の式に代入して整理して、 L_lに対する方程式は

となった。これを例によって級数展開で解く。

L_l(ρ)=Σ_k a_k ρ^k

とおく。

となるので、kのずらしを行ってからρ^kの項を取り出すことによって、

(λ-l-k)a_k-1+k(2l+k+1)a_k=0

という漸化式が出る。これから、

488x172(4878bytes)

のようにa_kを求めていくことができる。kの大きいところでは[k+l-λ/ 2k(l+1)+k(k-1)]≒{1/ k}であり、その場合a_k≒a_0/k!と考えてよいから、この関数は ほぼe_kρ^k/ k!と同じように無限遠で発散することになってしまう。今考えている波動関数はさらにe^-{1/2}ρという関数がかけられてい るが、これをいれてもまだe^(1/2)ρの発散が残る(これはつまり、さっき落としたe^+ρ/2が しぶとく生き残っていたということ)。よってこの係数がどこかで0にならなくてはいけない。k=n'+1になったところで、

になるためにはn'=λ-l-1でなくてはならな い。これがλの値に制限を加える式となる。以後、λ=n'+l+1をnと書くことにしよう。 この制限の物理的意味を考えよう。もともとのλの定義から、(2μα ke^2/ \hbar^2)= nであるから、α= {n\hbar^2/ 2μ ke^2}となる。α=[-hbar^2/ 8μ E]^(1/2)(Eは負であることに 注意)であったから、

\sqrt{\hbar^2/ -8μ E}= {n\hbar^2/ 2μ ke^2}~~~より~~~{E}= -{μ k^2e^4/ 2n^2\hbar^2}

となる。つまり、エネルギーがとびとびの値に量子化された。その値はボーア模型でのエネルギーの値を再現している。

これでa_kは全て求めることができた。結果は

366x52(1948bytes)

となる。kは0からn'=n-l-1までの範 囲である。a_0={((n+l)!)^2/ (n-l-1)!(2l+1)!}と選ぶことにすれば、微分方程式の解は

a_k =\sum_{k=0}^{n-l-1}(-1)^k{((n+l))^2/ k! (2+k+1)!(n-l-k-1)!}ρ^k

である。これは

で定義されるLaguerreの陪多項式の、p=n-l-1,q=2l+1としたも のに一致する。よって動径方向の方程式の解は

R_l(ρ)= L_{2l+1}^{n-l-1}(ρ)

と書ける。

 結局まとめると、水素原子のシュレーディンガー方程式の解は規格化定数をつけて、

と書ける(最初にマイナス符号があるが、どうせ波動関数の符号には深い意味はない)。なお、ρ={r/ α}={2μ ke^2 / n hbar^2}rであり、nの値によって定義が違う。r_Bをボーア半径{hbar^2/μke^2}としてα=(r_B/2)と書けば、ρ=(2r/ r_B) である。l=0,1,2,3,…であり、-l≦ m ≦ lであることはすでにのべた。n'はL_{n-l-1}^{2l+1}(ρ)の最高冪の次数なので、n'=0,1,2,…であり、以上からn=1,2,3,…であることがわかる。

 nを主量子数 と呼ぶ。これが全エネルギーに関連する量子数である。n'は動径量子数と呼ばれ、動径方向の運動に関連する量子数となる。右のグラフはn=1,2,3でl=0であるような波動関数をプロットしたものである。n= 1 (基底状態)は原点に集中した形であるが、n>1では原点以外にも波動関数の山もしくは谷がある。l=0ということは球面調和関数の部分はP_0^0(cosθ)=1(テキストで下つき添え字が1だったのは間違い)であって角度依存性がない。つまりこのような分布で球対称な形 の波動関数になっている。「球(spherical)対 称」なのでこのような状態を「s波状態」と呼ぶ。(s状態と 呼ぶ理由は球とは関係ありません。分光学で、sharpなピークを持つ状態という意味だそうです)

 なお、上のグラフではいかにも原点に確率が集中しているように見えるが、「半径rからr+drのところに粒子がいる確率」を計算したいとすると、 ψ^*ψにさらに厚さdrで半径rの球殻の体積である4π r^2 drをかけなくてはいけない。

 そのように してかけ算して作ったグラフが左のものである。グラフの横軸はボーア半径r_B=1になる単位で書いてある。これを見ると、n=1 の場合、粒子がいる確率がもっとも大きいところにボーア半径がくる。つまり、「原点から距離r_B離れたある1点にいる確率」は 「原点にいる確率」より小さいが、「原点から距離r_B離れた点のどこかにいる確率」だと「原点にいる確率」より大きくなるわけで ある(「原点」は一点「原点から距離r_B離れた点」は一点ではないことに注意)。r_Bは「電子がその場 所を回っている」というような古典的な意味合いではなく、「波動関数の広がりの大きさ」を表すものであったことがわかる。 n=2,3とあがるにつれ、粒子がより外側に分布するようになっている。つまりは「電子がより外側の軌道にいる」。 ボーア・ゾンマーフェルトの量子化条件を使って計算していた時にはあくまで古典力学と対応づけて考えていたのだが、実際はこのような波動関数という形で粒 子が存在している、というのが正しい描像である。 ただし、ここで考えているのはl=0だから「回っている」のではないことに注意しよう。もっとも、l≠0なら回っているのかというと、そうも言えない。今考え ているのは定常状態のみなので、そういう意味ではどの状態も「確率密度が時間的に変化していく」という意味の運動は起こっていないので、「回っ ていない」。しかし、角運動量を持っているという意味では「回っている」のである(これは運動量の固有状態であるψ=e^ikxの場合も確率密度ψ^*ψが空間にも時間にもよらない一定値に なるのと同じである)。 以下は、z軸を通りその面上でφ=0,πであるような平面で切った断面上でn=1,2の波動関数が、どのような値をとっているかをグラフで表わしたもので ある。この図の上下方向はψであって、3次元的な「波動関数の形」を書いたものではないので注意しよう。

915x335(47077bytes)

 l=0 の時って、電子は陽子と同じ場所にいるんですか。
 この範囲にぼやーっと確率的に広がった状態にいるから、「陽子と同じ場所」とは言えないかなぁ。上のグラフのとこ ろにも書いてあるけど、この図だけ見て「原点が一番確率が大きい」と考えると、ちょっと違う。「確率密度が大きい」ならいいんだけど、確率にする時は「確 率密度×体積」のように体積を掛け算するから、「どの距離にいるか」という確率を計算すると原点にいる確率はむしろ小さくなるから。

 同様にn=3について書いた図が以下のようになる。

742x578(69211bytes)

 実際に電子を観測したらどう見えるんですか?
 そこで「見る」ということをちゃんと考えなくちゃいけない。不確定性関係というのがあるから、電子 の位置を「原子のこの辺にいる」というところまで精密に測定するということは、それだけ「小さいΔxで測定を行う」ということ。ところがΔxが小さくなる とΔpがでかくなる。もしそんな測定をするとすると、具体的にはそういう短い波長の光を当てるということになるんだけど、そんな光は電子に大きなエネル ギーを与えるから、結果として電子はどっかへ飛んでいってしまう。つまり水素原子がイオン化しちゃう。というわけで、「電子がここにいる」なんてことを特 定することは無理。
 だいたい、我々が「水素原子を観測する」という時は位置xの固有状態じゃなくて、エネルギーの固有状態(つまりは主量子数n)を観測していると思ったほ うがいい。

 水素原子の持つエネルギーは主量子数nだけで決まる。nが決まると、l は0からn-1までの数字をとり、それに応じてn'の値が決まる。n,lが決まっても、l≠0ならばmの値が-lからlまで、2l+1段階に変化できる。それゆえ、主量子数n の状態が何個あるかを数えると、

となる。

つまり、主量子数nの状態はn^2重に縮退している。電子にはスピンという自転に対応する自由度がある。スピンは角運動量\vec Lと同様の性質を持っていて、そのz成分の固 有値がS_z={1/2}\hbarとS_z=-{1/2}\hbarの二つある。それゆえスピンも考慮する と状態の数が2倍となり、主量子数nの状態は2n^2個あることになる。



n=1 n=2
n=3


原子番号 元素記号 l=0 l=0 l=1 l=0 l=1
1 H 1




2 He 2




3 Li 2 1



4 Be 2 2



5 B 2 2 1


6 C 2 2 2


7 N 2 2 3


8 O 2 2 4


9 F 2 2 5


10 Ne 2 2 6


11 Na 2 2 6 1

12 Mg 2 2 6 2

13 Al 2 2 6 2 1
14 Si 2 2 6 2 2
15 P 2 2 6 2 3
16 S 2 2 6 2 4
17 Cl 2 2 6 2 5
18 Ar 2 2 6 2 6
19 K 2 2 6 2 6 1
20 Ca 2 2 6 2 6 2

 n=1の状態は2個、n=2の状態は8個、n=3の状態は18個ある。nが小さいほどエネルギーが低いので、電子が原子の回りに束縛される時に は、なるべくn の小さい状態を占めようとする。ところが電子には(この講義では説明していないが)「パウリの排他律」という法則が働いて、すでに電子が入っている状態に はそれ以上電子が存在できないため、電子は下の方の状態から順に「詰まって行く」ことになる。原子番号の小さい方から、電子が順に詰まって行く様子を表し たのが左の表である。l=0,1,2の箱には、それ ぞれ2個、6個、10個までの電子が入ることができる。実際の原子では、電子と電子の間の相互作用などの関係で、主量子数nが等しくてもエネルギーが同じ とは限らない(この章で行った計算では、電子は一個として考えていて、電子と電子の間の力は考慮されていない)。 実際には同じnどうしではlが大きいほどエネルギー が高くなるので、表のようにlの小さい方から順に詰 まっていく。

 これを見ると、不活性元素(He,Ne,Ar)は、くぎりのいいところまでの電子状態がぴったりと埋められていることがわかる。また、アルカリ金 属(Li,Na,K)には「ぴったり埋まった状態に、さらに電子が1個だけ入っている」という共通点があるし、ハロゲン(B,Cl)には「あとひとつ電子 を足せばちょうど埋まる」という共通点がある。電子の状態が物質の化学的性質(アルカリ金属は電子を放出して陽イオンになりやすい、ハロゲンは電子を獲得 して陰イオンになりやすい、など)を決めていることがわかる。

 以上のように、量子力学によって水素原子の構造を解いていくことができた。現実に存在するものは水素原子のような簡単なもの(これでも「簡単」な のである!) ばかりではない。原子の回りの電子も一つではないことの方が多いし、複数の原子があつまって分子をつくったりもする。このような場合については適当な近似 を行わないと計算はできない。しかし、量子力学的な計算を行うことで原子や分子の構造や性質を解き明かしていくことができるのである。

 

 最後にもう一度力説したことは

「量子力学は難しい」

ということ。なんとかわかりやすいものにしようといろいろ工夫はしたが、それだけで理解できるものではないと 思う。物理を学ぶということは(いや学問というものはと言うべきか)、自分の世界観を変えていくような、それほど大きな作業(苦行?)が必要になるけど、 古典力学→量子力学はその「世界観の変化という苦行」が一番たいへんなところかもしれない。
 最初の授業の方でも言ったが、いろいろ問題を解いたり悩んだりしていると、ある日突然、「あ、そういうことか」とわかる時が来る。「その時」が来るまで は「さっぱりわからん」状態が続くかもしれない。残念ながら勉強量と理解度は比例しないのである。だからと言ってあきらめてしまっては、ずっと「その時」 が来ない。

 まぁそういうわけで言いたいことは、

 がんばって勉強してね。

ということにつきるのであった。とりあえず試験がんばってください。2月3日です。なお、2月10日 に追試を予定してます。

 

学生の質問・コメントから

 水素原子の話を聞いて、これまで電子がまわっていると思っていたので、これまでやってたのは何なのかと 思った。
 
「電子は回っている」という考え方も全然間違いだというわけではないし、結構役には立つ ので悲観することはないです。

 他の原子の構造や分子の構造も解けるんでしょうか。
 原理的には解けるはずなんですが、計算がたいへん複雑になり、厳密解を見つけることはできないので、いろいろと近似計算したり、コンピュータで数値計算 して答えを出します。でも、量子力学で物質の構造を解いていくことが成功しているのは確かです。

 水素原子ですが、陽子は「原点」にいるのですね?
 実はまじめに考えると陽子の方も量子力学的に運動するわけで(^_^;)。ほんとはぼやけていることでしょう。もっとも、今日の計算は、「陽子は静止し ている」という座標系に移るような座標変換をしてからシュレーディンガー方程式を解いているので、「陽子は原点にいる(という状況に座標変換して問題を解 いている)」と思っていいでしょう。

 来週テストですね。再来週もテストがんばります。
 こらこら。来週で終わるようにがんばれ。

 他に、「1年間ありがとうございました」と書いてくれている学生さんが何人かいた。「ありがとう」 と言いたいのはこっちの方です。量子力学の授業をしたのはこれが始めてだけど、1年間気力を続かせながらテキストを作ったり授業の準備をしたりできたの は、受講生の皆さんたちが「ただ聞いている」だけでなく、いろいろと質問したり感想をのべてくれたりしてくれたおかげです。テキストを作ったりアニメー ションプログラムを作ったりしている時も「この書き方だと○○君が質問してきそうだ」「ここでアニメーションか何か見せないと、△△さんがわから〜んと言 いそうだ」とか思いながらやってました。思いもしなかった質問が出てびっくりしたり、「そうか、そう来たか」とにやりとしたり、授業している時も新鮮な驚 きと面白さがいっぱいでした。
 たぶん、この授業を一番楽しんだのは私です。
 私の授業が、あなたたちが量子力学を理解するための手助けになっていれば、とても嬉しいことです。

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