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2.3 運動量の期待値

 次に運動量の期待値を計算する方法を考えよう。ただし、この節では規格化の問題を簡単にするために、xの範囲を-π<x<πとし、周期境界条件をおく(xの範囲を(-∞,∞)にしても、ここで行ったようにe^{ikx}の重ね合わせで波動関数を表すことは可能である。ただその場合、∫ ψ^*ψ dx=1 にすることが難しくなる。これについてはまた後で述べる。

 このように定義された関数は

f(x)={1/¥sqrt{2π}}Σ_{n=-∞}^∞ F_n e^{inx}(2.5)

のようにフーリエ級数で展開できる。

 この前に付いているルート2πはなんですか?
 これは後で出てくる式(2.8)とかが簡単になるようにつけてある数字です。これがないと(2.8)の前に2πがついてしまう。

 つまり、波数n を持った波e^{inx}を適当な重みF_nをかけて足し算(重ね合わせ)していくことで、いろんな形の関数を作ることができる(「波数」という言葉は誤解を受けやすいが、単に「波の数」と思ってはいけない。正確な定義は「単位距離あたりの位相変化」ということになる。e^{inx}の場合、距離2πに対して2π n位相が変わる)。このnは整数に限るが、それは周期境界条件ψ(π)=ψ(-π)を満足するようにである。

 この関数f(x)を波動関数だと考えると、波数nということは運動量¥hbar n を持っているということだから、F_nは、「波動関数の中に運動量¥hbar n を持った成分がどの程度含まれているか」を示すと言うことができる。確率はψ^*ψに比例するから、運動量が¥hbar nになる確率はF^*_n F_nに比例する(F_nは一般に複素数であることに注意。うまく規格化されていれば、「比例する」ではなくF^*Fは確率そのものとなる)。

 単純な例を考えよう。ある波動関数が

 ψ(x)={1/¥sqrt{2π}} ( F_1 e^{ix}+ F_2 e^{2ix}+F_3e^{3inx})

のように、3つの波動関数の和として与えられたとする。各成分であるところのe^ix,e^2ix,e^3ixはそれぞれ、¥hbar,2¥hbar,3¥hbarの運動量を持っている粒子を表す波動関数と解釈でき、F_1,F_2,F_3はそれぞれの波がどの程度混じっているかを表す数字である。まず規格化条件を考える。ψ^*ψを積分すると

  ∫_{-π}^π  ψ^*ψ dx={1/2π}  ∫_{-π}^π  (F_1^* e^{-ix}+ F_2^* e^{-2ix}+F_3^*e^{-3ix})(F_1 e^{ix}+ F_2 e^{2ix}+F_3e^{3ix})dx

となる。

 プリントでは上の式の3ixのところが3inxになってましたが間違いでした。

 ここでe^{inx}(n≠0)のような振動関数を範囲-π<x<π(n周期分に対応する)で積分すると、答えはゼロになることを思い出そう。波の山と谷を足して行くことになるからである。これを使うと、かけ算の結果e^ixが残るような項(たとえばF^*_1e^-ixとF_2 e^2ixの積)はどうせゼロだから計算する必要はない。このように違う運動量を持った波動関数の積を積分すると0になる(同じ運動量を持つものどうしの積だけが残る)のはすぐ後で学ぶ一般的な法則「エルミートな演算子に対して異なる固有値を持つ固有関数は直交する」(「エルミート」「固有値」「固有関数」の意味はすぐに出てくる)の一例である。

 さて以上のような考察から、

  ∫_{-π}^π  ψ^*ψ dx={1/2π}  ∫_{-π}^π  (F_1^* F_1 + F_2^* F_2+F_3^*F_3) dx=F_1^* F_1 + F_2^* F_2+F_3^* F_3
    (2.8)

なので、規格化条件から、F_1^* F_1 + F_2^* F_2+F_3^* F_3 =1でなくてはならない。この時、F_1^* F_1,F_2^* F_2,F_3^* F_3という3つの数は、運動量がそれぞれ、¥hbar,2¥hbar,3¥hbarになる確率を表す。よって、この場合の運動量の期待値は(値)×(確率)の和として計算して、

<p>= ¥hbar F_1^* F_1 + 2¥hbar F_2^* F_2 + 3¥hbar F_3^* F_3

ということになる。

 では、運動量の期待値を計算するには、まず波動関数を(2.5)のようにフーリエ級数で展開して、係数F_nを求めておかなくてはいけないのだろうか?

 実はその心配はない。「運動量を演算子-i¥hbar{¥partial / ¥partial x} で置き換えることができる」ということのありがたさがここでも出てくる。波動関数にこの演算子をかけると、

-i¥hbar{¥partial / ¥partial x} ψ(x)= -i¥hbar{¥partial / ¥partial x}(F_1 e^ix+ F_2 e^2ix+F_3e^3ix)= ¥hbar F_1 e^ix+ 2¥hbar F_2 e^2ix+3¥hbar F_3e^3ix

となる。つまり、波動関数の各成分の前に、それぞれの成分の持つ運動量がかけ算された形で出てくる。これにψ^*をかけて積分すると、さっきと同じ理由でe^ixが残らない部分だけがノンゼロで残るから、

である。もっと一般的な波動関数であっても同じことが言える。つまり、F_n を計算しなくても、

<p>= ∫ψ^*(-i¥hbar{¥partial / ¥partial x})ψdx

と計算すればよいのである。前に<x>の計算でわざわざxをψ^*とψの間に置いたのは、この式と同じ形になるようにである。-i¥hbar{¥partial / ¥partial x}の方は微分演算子であるからどこにおいてもよいというわけにはいかない。

以上の3問は宿題レポートとするので、解いて提出すること。提出の際は前野にじかに手渡して、内容に関する質問に答えること。ただポストにつっこんだだけでは提出したとは認めない。

 

2.4 固有値と固有関数

 うーん、今見直すと、この章のタイトルちょっと変だ。というか、章を分ける必要なかったかも。

 ここで、e^{inx}という関数は-i¥hbar{¥partial / ¥partial x}をかけると

-i¥hbar{¥partial / ¥partial x} e^{inx}= ¥hbar n e^{inx}

のように、¥hbar n×(元の関数)という形にもどる。このようにある演算子をかけてその関数の形が変わらず、ただ元の形の定数倍になる時、その関数を固有関数と呼び、その時出てきた数(今の場合¥hbar n)を固有値と呼ぶ(歴史的事情から、英語の本でも、これらの「固有」はドイツ語であるeigen(発音は仮名書きするとアイゲン) を使う。固有関数はeigen function、固有値はeigen value)

 上では3種類の運動量を持つ状態の足し合わされた状態になっている波動関数を考えた。このような波動関数は固有関数ではない(一個一個の成分は固有関数)。波動関数が運動量の固有関数になっている(e^{inx}一項のみからなる)ということは、その波動関数で表されている量子力学的状態は運動量が一つの値(¥hbar n)に決まっていて、ゆらぎがないということである。

 この時、ψ^*ψを計算すると、xによらない定数となる。なぜならば、e^-inxe^inx=1という計算からxが消えてしまうからである。つまり、このような波動関数は確率密度が定数、すなわち、「どこにいるんだかさっぱりわからない」ということである。運動量が確定すると位置が不確定になるという不確定性関係が、ここでも実現している。

 実際に存在する波動関数では、いろんな運動量を持った波動関数の重ね合わせになっており、運動量が一つの値に確定していない(それゆえ逆にxに関してはある程度は決まっている)。任意の関数がフーリエ変換によってe^{ikx}の和の形にかけるということはすなわち、任意の波動関数がいろんな運動量を持った波動関数の重ね合わせでかならず書けるということである。

 ここで、javaで作った波の合成を見るプログラムを上演。別ページにjava アプレットがアップしてあるのでいろいろ遊んでみてください。
 この後、次回の予告を少しだけやった。

 

学生からのコメント・感想から

 今更ですが演算子ってなんですか。
 おいおい。とりあえず、「関数f(x)に作用して、なにかのルールでf(x)に対応する関数g(x)を作るもの」が演算子だと思ってください。たとえば「3をかける(f(x) → 3f(x))」も演算子だし、「符号をひっくり返す(f(x) → -f(x))」のも演算子。あるいは何度も出てきている「微分(f(x) → df(x)/dx)も演算子です。一般的には「逆数をとる(f(x) → 1/f(x))」だとか、「自乗する( f(x) → f(x)^2)」も演算子ですが、量子力学で演算子という時は線形演算子といって、「f(x) → F(x)でg(x) → G(x)ならば、f(x)+g(x) → F(x)+G(x)」を満たすものを使います。3倍や符号反転や微分は線形演算子だけど、逆数や自乗は違います。

 量子力学の力学変数はψだということですが、xは定数として扱うのですか。
 ψと一文字で書いてますが、実はψ(x,t)、つまりxとtの関数です。つまり、ψ一文字の中に「場所x_1でのψ」「場所x_2でのψ」「場所x_3でのψ」などなど、たくさんのψが入っています。そのたくさんの(実際のところ無限個の)ψの中から、「今考えているψはどのψなのかな?」を表す、「ψの番地」あるいは「ψのラベル」がxなのです。

 物理数学IVでもやっているのですが、つまりのところフーリエ級数って何なんですか。
 つまりのところ、「どんな関数f(x)がきても、波で分解してしまえ」というものです。今日の授業でいえばe^inxで、場合によってはsinやcosを使って、関数f(x)を簡単な関数の和で表してしまう。そしてその簡単な関数を相手にしていろんな計算をしておいて、後でまた元の関数に戻す。これで計算を楽にします。

 なぜ、e^xは微分しても形が変わらないんですか?
 (1)なげやりな答
 そういう関数を探したらe^xだった。
(2)テーラー展開による答

(3)微分の定義による答
微分の定義にe^xを代入すると、となるが、になるというのが、eという数の定義。
 たぶん、他にも理由は見付けられると思う。

 エルミートってなんですか?
 来週話します。

 ψ^*がψの共役な複素数ということは、ψにiがなければψ^*ψ=ψ^2になりますか?
 はいそうです。

 <p>を計算するとき、xの範囲を周期境界条件としたのはなぜですか?
 とりあえず簡単な状況を考えた、ということです。周期境界条件を置かなくても計算は可能ですが、いろいろとややこしさが増えます。

 レポート問題は成績にどのくらい関わっているんですか?
 いちおう、出席点分含めて40点としてます(期末テストは60点)。しかし「問題が解けているかどうか」で点が決まるのではなくて「ちゃんと出しに来たかどうか」で点数つけます。そういう意味では「ここまでできたが後わからん。教えて」という状態でもってきても、ちゃんとレポートの分の点数はあげます。しっかり勉強しましょう。

 波の重ね合わせを絵で見るととてもわかりやすい。不確定性関係の説明はなるほどと思った。
 ぜひ、プログラムのページで自分で波を動かしてみて下さい。

 

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