2じゃなくて? 4です!
位置座標$x,y,z$だけではなく、速度$v_x,v_y,v_z$(あるいは運動量$p_x,p_y,p_z$)を合わせた6つの数を決めれば、その後の運動は全部決まる。
一個の粒子の運動を表すには、6個の数字があれば足りる
これを自由度6と呼ぶ。
太陽の周りの惑星の運動も、初期位置($x,y,z$)と初速度($v_x,v_y,v_z$)が決まれば決まるのだ!
ただし、ここでは太陽は動かないことにした。
動くのならば
太陽の運動を決める6個の数字をあわせ、自由度は合計12になる。
すべての物体の初期位置と初速度、そして運動方程式を全部知っていれば、未来は完全に予言できる!
ここまでのまとめ
一個の物体の「状態を表す」には、$\vec x,\vec v$(または$\vec x,\vec p$)の6つの量を知ることが必要。
$N$個の物体なら、$6N$個。
では、粒子が「波」であるってどういうこと?
↓に動画についての説明あり。
波という現象の持つ自由度
今遊んだアプリでは、全部で21個の点を指定すると、その後の運動が決まった。
つまり「アプリの波」の自由度は21。「現実の波」ならその自由度は?
波の位置座標は$f(x,t)$のように、位置の関数。
$0\le x \le L$の区間に$x$は何個ある??
$\infty$個
波は$\infty$の自由度を持つ。
波の状態を表す空間は「無限次元のベクトル」である。
「ベクトル」という言葉のついての注意
ベクトルというと「向きと大きさがあるもの」と高校では習う。
しかし「ベクトル」という言葉にはいろんな意味があって、数学的な、一番広い意味では・・・
足算と定数倍ができるものなら、なんだって「ベクトル」
なのである。「波の状態」(グラフを思い浮かべてくれればいい)は足算と定数倍ができるから、ベクトル。
波に関してもう少し、アプリで遊んでみる
波は重ね合わせて「局在させる」ことができる。
進行する波を作りたい人は
波の重ね合わせ(周期的)をやってみよう。
ここで感じておいてほしいこと:
- 短い波長の波をたくさん使うと波がより「局在」できる。
- 短い波長の波は振動数が高い。
量子力学で出てくる「粒子」は
「波であるときの振動数」×「プランク定数」
のエネルギーを持ちます。
ちょっと覚えておいて欲しい波の性質
- 同じ振動数なら、波長の短い波ほど、ゆっくり進む。
- 振動数が波長に反比例していると、波の速さは波長によらない←これは光の性質。
- 振動数が波長の自乗に反比例していると、波の速さは波長が短いほど速い←これは後で出てくる「物質波」の性質。
これが実感できないという人は、もう一度
波の重ね合わせ(周期的)をやってみよう。
各モードの振動数が
nに比例→振動数が波長に反比例(光)
n2に比例→振動数が波長の自乗に反比例(物質波)
です。
さて、そろそろ量子力学に行こう
19世紀の終わり頃、「ラプラスの悪魔」に代表されるように、物理学者は「自信満々」だった。
そこに暗雲が。
量子力学がやってくる。
(詳しい説明は置いておいて)量子力学は「一個の粒子」と我々が思っていたものが「波動関数」と呼ばれる関数の「波」であるということを発見した。
「粒子だと思っていたのが実は波だった」
古典力学の「粒子」と波を思い出すと
- 粒子は一個あたり自由度6
- 波は自由度$\infty$
歴史的には、「波だとばかり思っていた光が実は粒子だった」というところから始まってます(プランクの黒体輻射の理論、アインシュタインの光量子仮説)。
光の波動性
干渉する、屈折するなどの現象を起こす(例
ヤングの実験およびその偏光バージョン
ヤングの実験その1)
光の粒子性
「赤外線では日焼けしないが、紫外線では日焼けする」のは、
紫外線の方が波長が短く、
波長が長い方が「光子一粒のエネルギー」が大きいから
実は「夜空を見上げると星がすぐ見える」も光の粒子性のおかげである。
そして物質の波動性へ
ド・ブロイが波だとばかり思っていた光が実は粒子だったの逆である粒子だとばかり思っていた電子が実は波と言い出す。
波って、何の波よ?
海の波は海水の振動
音は空気の振動
光は電磁場の振動
物質(たとえば電子)は??
「何の振動」とも言い難いので、「波動関数」と呼びます。
波が無限次元の自由度を持つので、波動関数$\psi$も(1個の粒子であっても)無限次元の自由度を持ちます。
我々のご先祖はなぜ「電子は粒子だと思った」のか?
「波が粒子のように振る舞うこともある」ということを思い出そう。
いやいや、しかしあの「粒子のような波」は「粒子と思う」にはおかしい振る舞いをするじゃないか(特に物質波)。
何のことかわかるかな?
考えた?そう、波は広がるものなのだ。
電子が波なら、なぜ広がらない?
「電子が波なら、なぜ広がらない?」の答えその1
一例として、原子核の周りを「回っている」電子は、なぜ原子の外に広がらない??
古典力学的には(粒子的に考えると)
「力(電気的引力)がはたらくから」が答え
では(波的に考えると)どうなるの?
(粒子的に考えると)
「力」は運動速度を変えるということをする。
運動速度を変えるには、
「速さを変える(速くする/遅くする)」
と、
「進行方向を変える」
がある。
波の進行方向が変わる現象って何?
答えは屈折。
「屈折」という現象が起きるのは「波の波長が変わるとき」
(粒子的な考えで)
「力が働いて物体の軌道が曲がる」
(波的な考えで)
「波長を変える作用(力?)が働いて波の軌道が曲がる」
我々は「重なり合った波」のうち、干渉で消えなかった部分を見ているのである。
われわれが「力が働く」と感じていたのは、「波の波長を変える」という操作だった。
中心に向かう引力がある→中心に近いところは波長が短くなる。
↑この考え方から「シュレーディンガー方程式」という波動方程式が立てられ、これを解くことで原子のまわりの電子がどういう状態になるかがわかる。
原子核の周りの電子の波動関数(一例)
↑の高さが$\psi$の絶対値を表す(実際には3次元の中の複素数の波)。
量子力学ができる前にあった
「原子の存在に関する謎」
もしも、
のように原子核の周りを電子が回っていたとすると、マイナス電気を持った電子の運動は磁場をつくり、原子からは電磁波が発生する。
電磁波としてエネルギーを放出すると、電子は原子核に向かって「落ちて」いってしまう(原子の半径が0になるまで)。
古典力学によれば、原子は存在できない。
落ちない理由は、ここまでで話した「波の性質」に関係している。
わかるかな??
量子力学でも、エネルギーの低い状態になろうとするという物理の原理は生きている。
電子が原子核に向けて落ち込む。→狭い範囲に波が押し込まれる→波の波長が短くなる→波動関数の持つエネルギーが上がる
という関係から、一番エネルギーが低いのは「そこそこに広がりながら原子核の周りに存在している」という右図のような状況になる。
狭いところに押し込めた波は却って広がる。
もちろん、イメージだけでこう言っているんじゃなく、ちゃんと波動方程式を解いた結果としてこれがわかる。
「電子が波なら、なぜ広がらない?」
答えその2
準備はいいかい?
粒子を表す波(波動関数)は観測されると「収縮」する。
なんですかそれ?
広がってしまった波(である物質)は、観測という操作の結果として「観測された位置」に存在する波へと「収縮」するのです。
こんなこと(波動関数の収縮)、信用できねぇ!
という人が多いと思います。でもこれ、実験事実です。
電子を使った「物質の干渉の実験」の結果を見ましょう→
日立のサイト
この「二重スリットの実験」の(古典的)説明のアニメーションは
ヤングの実験およびその偏光バージョン
これ。
二重スリットを通り抜けて広がった(波であるところの電子)がスクリーンにあたると一箇所に「収縮」し、「粒子」としての姿を表します。
つまり、これは本当に起こっていることです。
決定論的世界の終わり
しかも重要なことは「観測の結果どのように収縮するかは、確率でしかわからない」ということです(←ラプラスの悪魔、死亡)。
波動関数$\psi$がシュレーディンガー方程式に従って(アニメーションで動かしたように)時間的変化していくのは、
最初の状態が決まっていれば、後の状態も全部決まる
という意味で「決定論的」です。ところが「観測」によってどのように波動関数が収縮するかは「確率」しか予言できないのです。
よくある疑問:電子はどちらを通ったか?
二重スリットのどっちかを電子が通るのが普通の考え方でしょ?
二重スリットを通り抜けた直後は
のような形をしていた波動関数$\psi$が進行するに従って振動して観測器(スクリーン)に到着する。
どちらかを通る
というのは、
波動関数が
$\psi_1$
または
$\psi_2$のどちらか($\psi_1$ or $\psi_2$)の状態にある
ということ。
そうではなく、$\psi_1+\psi_2$
のような重ね合わせになっていないと干渉は起きない。
粒子として考えると「上を通った結果と下を通った結果が消し合う」というのは納得しがたいが、我々が粒子を「粒子」と感じるのはそのような「場所を特定する観測」を行った後なのである。
素朴な疑問
じゃあ二重スリットのところでどっちを通るかを監視したら?
「監視」ではないが、上を通ったか下を通ったかを区別する実験として、
ヤングの実験その2がある。
上を通った光は|、下を通った光は―のように偏光させておくと、足し算しても(独立なので)干渉が起きない。
ところが、もう一枚偏光板を使うと、「干渉が復活」することが知られている。
ヤングの実験その3を見よ。
ヤングの実験その4で、いろんな状況の実験シミュレーションが見れるので、いろいろ遊んでみよう。
シュレーディンガーの猫
(名前だけは)有名な「シュレーディンガーの猫」は、このような「波動関数の収縮」という考え方に対する反論に使われた思考実験です。
あくまで「思考実験」なので注意。
↑のような仕掛けのしてある箱があったとする。放射性物質の崩壊というのも量子力学的現象で崩壊がいつ起るかは確率的にしか予言できない。だから、放射性物質の状態は(観測する前は)二つの状態の重ね合わせ
になっている。
と考えていくと、観測する前は猫が「生」と「死」の二つの状態の重ね合わせの存在も認めなくてはならない。
シュレーディンガーの意図したこと
シュレーディンガーがこの猫の話をしたのは
こんなことが起こるなんて量子力学すごい!
と言いたかったわけではない。
こんなことが起こるなんて変だ。
と言いたかったのである。シュレーディンガーは自分の方程式で原子核の周りの電子の状態が計算できることは喜んだが、その解釈の中で「確率的に波動関数が収縮する」という話は信じられなかったので
量子力学の確率解釈が本当だったら困るじゃないか。
と言いたいがためにこの話を作ったのである。
現代の物理学者は…
「生」と「死」の重ね合わせがあって、何が悪い。
と思ってます。
実際の猫ではもちろん無理なんですが、ミクロな世界では物質の「重ね合わせ状態」を作って実験することは、現代では「ふつ〜」に行われている。
で、結局猫は生きているんですか?死んでいるんですか?
そやから、「重ね合わせだ」って言うとろうが!!
猫の生き死にで重ね合わせができるならば、「死んだ猫を観測して悲しんでいる私」と「猫が生きているのを観測して喜んでいる私」の重ね合わせだってできる。
という考え方をしてもよいはずだ。
あなたが観測する猫が生きているか死んでいるかは、確率的に決まる。
後で誰かが「私」を観測すると、その人にとって私が収縮する。
おわりに
今日は、古典力学の概観から初めて、量子力学という「高校ではちゃんと習わない物理」の中身まで話しました。
「常識を疑う」ようなことが科学の世界では普通に起こり、結果として「騙されていた!」と思うことが実際にある(あった)、ということを話したかったのです。
世界は不思議に満ちている。
おしまい!