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2006.3.1

★試験は落とすためにある??
 田崎さんの2月14 日の日記に入試の採点の様子が語られている。ちょうどいいので、前から書きたかったことを書く。それは世間の受験生の多くが陥っていると思われる思い違いのこと。
 その思い違いとは、彼らが入試問題を出す人、採点している人を「敵」と認識してるんじゃないか?ということだ。たとえば予備校などでよく語られる「この問題のこの部分は“ひっかけ”なので、ひっかからないように気をつけろ」という言葉なんかは、いかにも大学の先生が悪意を持って試験問題に“罠”をしかけているがごとき錯覚を受験生に与えているんじゃないかと思う。
 あるいは「符号一つ間違えただけで大問全部パーになるから気をつけろ!」なんて指導もある。「大学の先生は汚い字で書いてたら見てくれないから丁寧に書け」なんてことも言われている。
 実際には田崎さんが書いているように、丁寧に採点して、間違いが入っていたとしてもどのような間違いを検討した上で与えられる部分点は与えるし、汚い字だってちゃんと見る。それが普通の採点だと思う。問題を作るときも悪意を持って“罠”をしかけるなどということはあり得ない(もちろん“よく勉強してないと間違えるポイント”を作ることはあるだろう、しかしそれは悪意ゆえではないのである)。

 予備校の先生の中には、受験生に対してこういう脅しをかけるものもいる。

「入学試験は落とすためにある。だから大学は罠をしかけて点数が取れないようにしているんだ」

 なるほど、「入学試験は落とすためにある」という部分については、真実を含んでいる。だがそのために“罠”をしかけるなんてことはあり得ないし、点数が低くなるようにもくろむなんてことはない。

 大学の先生が、どんな学生に落ちて欲しいか、どんな学生に通って欲しいかという点を考えればこんなことが間違いであることはわかるはずだ。あたりまえだが大学の先生は「なんでもいいから点の低い学生が落ちればいい」などと思ってないのである。
 たまたま符号を間違えたがゆえに大量点を失ったりするような試験をしてしまうと、試験の点数順に並べた時、学生は学力順に並んでいないことになる。理想としては、試験の得点順がすなわち学生の学力順であって欲しい。ちゃんと勉強して力をつけた人が合格するシステムであって欲しいのだ。
 もちろん理想の状態になるはずもないが、少しでも理想の状態に近づけるためには、部分点もできるだけ拾う。汚い字だってちゃんと読む。まして問題に罠をしかけたりはしていられない。

 ちゃんと勉強して試験に臨む学生さんたちにたいしては、大学の先生はけっして、「敵」ではない。ちゃんと勉強して力をつけた人が来てくれることを待っているだけなのである。

 試験というのは「競争」であるから、受験生も受験産業に従事する人も、どうしても殺気だってしまって、「仮想敵」を作りたくなるのかもしれない。だがその力の入り方がおかしな方向へ行きすぎて、「受験生の裏をかこうとする仮想敵のさらに裏をかく」のような、いびつな勉強をするようになってしまうと、もうこれはお互いにとって不幸なことだと思ってしまうのである。

2006.3.2

★二階から目薬はやはり 難しい?
 ぱたさんからいただいた情報によると、魔夜峰央の「親バカ日誌」に同じネタがあり、目薬半分空にしても失敗だったそうな。
 ということは三回目で成功したうちの娘はよほど運がよかったか、それとも目薬入れの名人か?

 追試実験が待たれるところである。
待つな>わし


2006.3.3

★時間の矢
 ずっと昔のことだが、わしは文系向けの「時間と空間」という講義の中でこんなことを書いた(該当部分の講義録はここ)。

 なぜ我々は時間が「過去から未来へ進む」と感じるのでしょうか。一つの考え方として、我々の記憶が過去の方向だけを向いているから、という考え方ができそうです。つまり「何が起こったかを脳に蓄える」という現象が、エントロピー増大現象だからというのが正解なのかもしれません。

 実はこの話、全然自信がなかったので「できそうです」とか「正解なのかもしれません」とか書いている(^_^;)。あくまで「そんな考え方もあるかもね」という程度の思いつきである。実際今もう一度考えてみても、この考え方では結局エントロピー増大を作っているものが何かという点はスッポリと見ないふりをしている点で大いに不満が残る。
 今日図書館で借りてきた(だって値段高いんだもん(;_;))「現代物理学の歴史I」 (朝倉書店)を読んでいると、細谷暁夫先生の書いている「マックスウェルの悪魔と量子計算機の歴史」という項目の中に、マックスウェルの悪魔(をモデル化したもの)のエントロピーが増大するのは、マシンを操作した時ではなく、マシンを操作したことによって自分に記憶された状態をリセットする時だということが書いてあった。ご承知の方も多かろうが、マックスウェルの悪魔の話では、気体分子が閉じこめられた箱に開けられた窓を悪魔が閉じたり開けたりすることで気体に温度差を発生さえ、エネルギーを取り出すことができる。しかし開けたり閉めたりするその時悪魔のエントロピーがその分上昇するので、全体としてサイクルになってなくて、これを使って第二種永久機関を作ろうとしても無理だよ、というふうに説明がされている。
 細谷先生がここで紹介しているのはマックスウェルの悪魔マシンをさらに単純化した物なのだが、それによると、通常の話で「右から気体分子が来たら窓を開け、左からきたら窓を閉める」という操作にあたる部分では、エントロピーは増えない(理由はこれがユニタリーな時間発展で書けるから)。窓を開けたり閉めたりということをしたことで変わってしまった自分の状態を初期状態(気体分子がどっちからくるかを観測して開けるか閉めるか決めようと待っている状態)に戻すときにエントロピーが増大するのである(こっちはあきらかにユニタリーな時間発展でない)。
 ということは「覚える」という現象ではなく、むしろ、「忘れる」という現象がエントロピー増大現象であることがマックスウェルの悪魔のパラドックスを解く鍵になっていることになる。さて、冒頭の話にもどって、人間の頭の中で起こる「覚える」という現象はどうなのだろう。脳がエネルギーを食って熱を発している以上、そこではエントロピーが増大しているはずなのだが。
 こういう話を考える時はいつも、ミクロな立場とマクロな立場の境目の部分でわからなくなって思考停止してしまうのだが、ここでもマックスウェルの悪魔が状態を忘れるところはミクロ的な立場で、人間の記憶どうこうの部分はマクロな話になっているから話がつながらないんだろうなぁ、というところでまたもや思考停止。

 と、以上はあくまでいろもの物理学者による妄想みたいなもんなんでこれっぽっちも信用してはいけません。

2006.3.4

★私だけ?
 mozillaなりinternet explorerなりが「このサイトのパスワードを記憶しますか?」というダイアログを出してくると、つい、マウスをわしづかみにしながら、ミスタースポックの声で

「記憶せよ」

と言ってしまう。
相変わらずどうでもいいことを>わし

★ところで
 わしの日記では自分のぼけに対するセルフつっこみを、
こんなふうに

右寄せにして小さい字で書いております。こうすることで読む人に微妙なタイムラグが発生して、「つっこみの間」が作れるんじゃないかと思っているわけです。
 で、このセルフつっこみをする人のことを、最近は「右の人」と呼んでいます。いつか人格を主張してこないかと心配です。
主張して欲しいんかい!


2006.3.5

★ついにできるぞ下り専 用エレベータ
 循環 式のエレベータを日立が開発というニュースを読む。おお、ついにできたか下り専用エレベータ、と思ってしまった。なにが「おお、ついに」なんだかわからない人は、2002年10月5日の日記の下の方を読んでください。まぁ循環だから厳 密には上り専用と下り専用の2列同時設置なんだけど。
 できれば下りエレベータは「elevator」でない名前をつけて欲しいものだが、エスカレータが下り専用のまで「escalator」であることを考えても、誰も作ろうとはしないだろうなぁ。しかしelavateの反対語ってそもそも何が適当なのか、わしにもわからないや。しかし2002年10月のわし、下り専用エレベータができるための条件を「空間ひんまげ器とかが実用化されて」なんて書いている。単なる循環に気がつかなかったとは、うかつ

2006.3.9

★明日明後日出張
 KEKの研究会「量子論の諸問題と今後の発展」を 聞きに行って来ます。。

2006.3.10

★研究会1日目
 量子ゲーム理論の話、「陽子崩壊が観測できないのはみんなが見張っているから量子ゼノン効果が起きている」という話はガセだよ〜んという話、不確定性原理の話(2004年3月10日に書いた話、小澤正直先生ご本人からじっくり聞けた)、いろいろ。面白い話が聞けたので満足。調子に乗って質問してたら、その一つについて、「あんたの言ってたことはダメダメ」と後でダメだしされた(;_;)。まぁそんなこともあるさ。

★ちなみに何をダメだしされたかというと
 小澤さんの不確定性原理に関する話を、ゾンマーフェルトの量子条件(というより、「量子力学的状態の状態ベクトル一つは、古典力学の位相空間で面積hを占める」ということ)を使って解釈できませんか、ということだったのだが、結果として「それは話が違うよ」ということだった。観測の対象と観測するためのメータにあたるものと、二つの力学的自由度(位相空間で数えれば4つの自由度)のある話だから、その一つの状態は4次元の位相空間の中で、体積h2を占めている。その4次元の位相体積をスクイーズするみたいにぎゅっとしぼっていると考えて、メーターの空間に投影した時の面積を考えると、観測の誤差が通常の不確定関係で予想されるよりも小さくできることが納得できそうな気が(話聞いている間は)したのだが。
 ちょっと単純に物を考えすぎたようだ。

2006.3.11

★研究会2日目
 量子計算をどう最適化するかというような話にはじまって、熱力学と量子力学・統計力学の関係の話から、重力波の実験の、量子力学からくる(と思われていた)限界についての話などなど。初日同様、なかなか面白かった。
  研究会は久々だったし、こっち方面の研究会に出るのは初めてだったのでちょっと不安だったのだが、とりあえず物理を楽しむことができたの で、来てよかったかな、という感想。

★KEKからの帰りのバ スの中で、笑える人の限定されるギャグ
「運賃いくら?」
「310円」
「あれ、430円になっているよ」
「見るたびに値段変わっている〜〜」
「ゼノン効果が起きてない!」(笑)
「ちゃんと見張ってないからだよ」(さらに笑)

 一般人の中にいるのに、業界でしか通じない冗談で笑い合っているんだから、物理屋ってだめね(^_^;)。
そういうおまえもこの中の一人だろうが>わし

★というわけで沖縄へ生還
 沖縄を離れていた時間はちょうど50時間。ちょっとあわただしかった。

2006.3.12

★下り専用エレベータの悲哀
 下り専用エレベータについて、古寺さんより有益なる情報が。

<エレベータの場合>
最初に「elevate(持ち上げる)」という動詞があってそこから「elevator(昇降機)」という言葉ができた。
 
<エスカレータの場合>
先に「escalator」という言葉ができてそのあとに「escalate (拡大する、次第に上昇する)」という動詞ができた。
 
ということです。
エスカレータの場合、指摘すべきは「escalatorには上りと下りがあるのにescalateは上りの意味しかないの
は変だ」ということになると思います(※)。
 
では、escalatorという言葉はどのようにしてできたのか、といいますと(今調べた)
(1)ラテン語の「scala(はし ご、階段)」と「elevator」を組み合わ せて作った。
(2)「escalade(はしごを上る)」と「elevator」を組み合わせて作った。
という二つの説がありはっきりしないようです。どちらにしてもエレベータが元になってるので「下りがあ
るのは変だ」という指摘はエレベータに集約されます。

 escalatorの語源が二つの説があったりすることがややこしい。しかも私の手元の辞書(Bookshelf3.0)には、「escalete」の語源は「escalator」だとあるが、「escalator」の語源はフランス語の「登るもの」という単語だとあるので(3)または(2')説があることになる(あるいはラテン語→フランス語→英語という流れかもしれない)。
 いずれにせよ、下り専用エレベータの出現は、問題が集約されている部分への深刻な一撃であることが確認されたわけである。

深刻だと思っているのはおまえぐらいだろう。

2006.3.13

★下り専用エレベータの 悲哀・続
 いろいろと教えてくれるありがたい人というのはいるもので、今度は江藤巌さんより、

eacalator の語源説ですが、
(2)のescaladeは多分フランス語でしょう。
ですからお手元の辞書のフランス語語源説は(2)と同じと思われます。
ちなみに手元のフランス語の辞書だと、

escalade:登攀、よじ登り、乗り越え、(梯子による)敵塁攻撃、(法)家宅侵入。
escalader:梯子で登る、(梯子や山や壁に)よじ登る、乗り越える、梯子を掛け
て乗取る(攻略する)、段々に上がる、(に)到達する。

だそうです。「段々に上がる」の意味は、なんとなくですが、
escalator(フランス語でもこのまま。もちろん読みは英語とは違う)が
発明されて以降に生じた意味にも思えます。
と教えていただいた。なるほど、(2)はつまりはフランス語ですかぁ。escaladerは、ladder(英語のはしご)と同じ根っこから来ている言葉なのかな。
どうでもいいことだがエスカフローネってのはどーゆー意味なんだろ。

 escalader+elevator→escalatorとされたのだとすると、「はしご」という意味を持っている部分がtorに消されてしまったことになりますなぁ。
 それにしてもエスカレータが先で「エスカレートする」ができたってのは面白いな。雑誌の名前が元で「とらばーゆする」なんて言葉ができたりするのと一緒か。

2006.3.14

★娘たちの実験
 今回娘は実行犯ではないのだが、娘の友人たち、今度は

「わらしべ長者」の実験

をしたそうな。草一本から琉球ガラスまではいけたそうな。実行犯ではないところの娘が、なぜかレポートを作成していた(作成したレポートをどこに提出するのだろう???)
 くだらない実験につきあってくれる優しい大人に囲まれて育っている、ということだな(^_^;)。

★御恵贈御礼
 小林泰三著「脳髄工場」をいただく。ありがとうございました>小林さん
 まだ読んでないですが、評判聞くだけでも私好みなのが入ってそうな(^_^;)。

★講義録のサーバ移転
 大学のうちの系で使っているサーバ移転のため、講義録などで使っていた

phys.sci.u-ryukyu.ac.jp

が、

www.phys.u-ryukyu.ac.jp

に変わりました。うちのページからのリンクはだいたい直してありますし、phys.sciの方もあと半年は残りますが、リンクなどしておられる方がいたら修正よろしく。

2006.3.15

★文科省から
 「今日、NHKで大学法人化についての番組やるから見てね!」という文章(もちろん実際の文章はもっと硬い)が来たので、NHKのクローズアップ現代「大学大競争時代〜生き残りをかけた闘い」ってのを見る。
 「大学が競争によってよくなる」というイメージを持たせようというタイトルなのかもしれないが、なんとか資金を得ようとしたり経費節減に走ったりする話ばかりで「大学大競争」というタイトルよりは「大学大節約」の方が近い内容だなぁ。
 うちの大学もどんどんせちがらいと言うか渋いと言うか、そういう状態になっておりますが、どこも苦労しておるようです。
 で、この後愚痴ろうかと思ったんだけど、暗くなるだけで面白くならないのですぱっと没。


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