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2006.2.16

★講義録の更新
 初等量子力学・量子力学 のテキスト、PDF版をアップしました。去年しゃべったが今年しゃべらなかったところ、今年しゃべったが去年しゃべらなかったところを両方含む形 になっているので学生さんたちに配ったのよりだいぶ厚くなり(と言っても実は印刷してないから“厚く”はなっていないのだが)、200ページ弱。最後にお まけとして解析力学についてもちょこっと書いておいた。

★追試して何ががっくり くるといって
 試験受けにこないのがいた時だなぁ。必修なのになんでなんだろうな。受けた連中の出来もよくないもんだから、どっと疲れた。なおも落ちた連中は、4月に 補習である。

2006.2.17

★卒業研究
 来週が発表会ということで、大詰め。今年は最後の時間がない状況になってから難しいことやろうとし過ぎたかも。
 今年の4年はわしが年次指導教官をやっていた連中なので、「これであいつらも卒業かぁ」と思うと感無量。ちなみにちょうどこの日記を始めたころに入学し てきた連中である。
 月日のたつのは早いものだ。

★高校への出前講座

 来年度やるのを募集中、みたいなことだったので、相対論、素粒子論、宇宙論を軸にして3種類書類書いて出した。沖縄の高校の先生方、大学の方から書類が 行くと思うんで、「ちょいといろもの物理学者の講義でも聴いたろかいな」という気になったら、来年度呼んでください。

2006.2.18

★ハイゼンベルクの顕微 鏡
 「ハ イゼンベルクの顕微鏡〜不確定性原理は超えられるか」という本を読む。まだ4分の1くらいしか読んでないが、なかなか面白い。

 んで、面白いのだが、いくらこの本の主題が不確定性原理だからとはいえ、冒頭で「量子力学をもっともよく代表する原理・法則を一つだけ挙げるとすれば、 ハイゼンベルクの不確定性原理であることに異論は少ないだろう」とか、「不確定原理によって量子力学は完成」だとか書いてあるのにはちょっと異論がある な。不確定性原理よりも正準交換関係とか、あるいはゾンマーフェルトの量子条件とかの方が原理的なもので、不確定原理というのはその表現方法の一つで しょ、という気がする。わかりやすさという意味では不確定性原理なんだろうけど。
 ゾンマーフェルトの条件の言い換えだけど、結局、量子力学の本質というのは「古典力学では状態は位相空間における点だけど、量子力学で一つの状態という のは、位相空間で面積hを占めているんだよ」ということだと思う。それが「位置と運動量が同時に確定しない」という結果を生むわけである(と、こう書いて いくうちにそれを「不確定性原理」と呼ぼうが「量子条件」と呼ぼうがどっちでもいいような気もしてきた)。

★ところで話は広がって
 この本に限らず量子力学の本の多くがそうなんだけど、なんでガンマ線顕微鏡の説明をする時、レンズの分解能がλ/sinθになるというところの説明は さっと飛ばされてしまうのだろう(調べたわけじゃないので、ちゃんと説明している本もちゃんとあるはずだが)。

 そういうおまえは自分の講義ではどうしているのか、と言われそうだが、こんなふうだ→(今年の「初等量子力学」の 第9回)。分解能は光が波であるがゆえに起こる干渉という現象によって出てくる制限なのだから、多少なりともその辺を説明した方が、不確定性が波 動性によって必然的に起こることであるということを理解しやすいと思うのだが。
 そもそも、ド・ブロイが物質波なんてのを言う背景には「幾何光学←→波動光学」の関係が「古典力学←→量子力学(ド・ブロイ的には波動力学)」とパラレ ルだったからなんで、「幾何光学←→波動光学」の関係を大筋だけでも知っておかないと量子力学が出てくる理由がピンと来ない思う(いや、それを知ってても どうせピンと来ないよ、というつっこみはこの際、なし)。

★で、話をさらに広げる と
 量子力学の歴史勉強しているといろいろ「あれ?」と思うことがあるが、その一つは「波動力学から経路積分まで、なんでこんなに時間がかかったのか?」と いうこと。ド・ブロイは「最小作用の原理」と「フェルマーの原理」の類推から、「いろんな経路を通ってきた物質波の重なりあって、強め合っているところが 古典力学の経路」という考え方から波動力学を作った。シュレーディンガーも同じように、ハミルトン・ヤコビの方程式のまねをして、作用÷プランク定数が位 相になるような関数としてシュレーディンガー方程式を作った。というわけだから、もう1ステップで経路積分にいけたはずなのだ。
 そういえばファインマンより前にディラックがちゃんと例のあの教科書に「作用原理」という名前で経路積分について書いているという話があるが、ディラッ クにとっては「ふつ〜」のことだったのかもしれないな。

 と、くだくだ考えるのはちょっとやめて、続きを読もう。

2006.2.19

★ハイゼンベルクの顕微 鏡(続き)
 昨日、「なぜ経路積分がすぐにできなかったのか?」という疑問を書いたけど、ある程度は「これが答だろう」と予想しているものはある。そ れは何かというと、結局のところ、シュレーディンガー方程式は簡単すぎた、ということなんじゃないかと思う。

 と、書いたらシュレーディンガー方程式に苦しんでいる学生さんたちに怒られそうだが。

 シュレーディンガー方程式が出る前というのは、ボーアが相補性だのなんだのと言い、ハイゼンベルクが行列力学などというものすご〜く概念のつかみづらい 理論で量子力学を語っているという状況で、そこで(まぁ複素数だったりはするが)物理屋がよく見たことのあ る二階偏微分方程式の形で量子力学を語ってしまった。
 一方、その原理的なところにあった「位相にiかけてhバーで割って、expに乗せて、いろんな経路で足し算する」という考え方は、まじめに実行すると ファインマンの経路積分になるわけだけど、これまた計算難しい(どころか、そもそも数学的にはちゃんと定義できないものだという話すらある)。行列力学よ りもとっつきにくい。
 だから当時のシュレーディンガー方程式で問題がどんどん解けていく状況で、「基本に戻ってもう一度考えると、経路積分って方法があるよ」という方向に注 意がいかなかったのは当然かもしれない。

 ただまぁ、そういう姿勢も忘れないようにしておくと後々のためにはいいのかもしれない。と、うちの日記には珍しく教訓めいたこと書いたところで今日はこ の辺で。

2006.2.21

★あさって卒研発表会
 毎年のことだが学生さんがみんなばたばたばたばたばたばたばたばたしている。明日もじたばだどたばたしそうである。今回4年次指導教官な もので、予稿集を集めたり印刷したり、指導している学生の発表の準備をみたり(まだOHP書けてないぞおい)。
 こういう時、Webであれ日記を書いておくと便利だ。去年はどうだっけ、一昨年はどうだっけ、と振り返られる。一昨年は前日は9時に帰れているなぁ。でもさらにその前の年は日付が変わるまで帰れなかったようだ。今年はどーだろ。

2006.2.23

★今日は卒研発表会
 なので今日は朝の3時まで発表準備につきあって、いったん家帰ってごそごして、寝たのが5時、起きたのが7時。
 これで朝の8時からまた会場で準備して、9時から夕方6時まで計27個の発表聞いて、そのうち居眠りして聞けなかったのは3つぐらいだから、まぁ自分を ほめてあげてもいいかもしれない(^_^;)。

 発表にも個性があるもので、発表する姿勢からして研究室ごとに違っていて面白い。下手に受けをねらおうとしてすべり続けたうえに先生怒らせちゃった人も いたが。わしは後で「もっと芸を磨け!」としかっておいたら、聞いてた別の学生に「前野先生の怒るポイントはそこですか」と言われてしまった。

★うちの卒研生の発表は
 クーロン力を場の量子論ではどんなふうに考えましょか、という話(光子との相互作用でクーロン・ポテンシャルが出てきますよ、って話)と、マッハの原理 と一般相対論/ブランス・ディッケ理論なんてところのお話と。内容自体はまぁまぁの出来だったが、質問に対する受け応えはなってなかった。そこまで練習で きなかったからなぁ。

★よその研究室の発表で
 量子コンピュータがらみの話で加算回路うんぬんってので、3キュビットが入力、3キュビット出力の図を書いているから「なんで1桁の2進数の足し算が2 キュビット入力、2キュビット出力でできんのか」と聞いたら、「いや、この桁の下の桁からの桁あがりをちゃんとしたいので」ということだった。

 んで後からよくよく考えてみると、「2桁の2進数の足し算だから2キュビット」と考えたのは別の意味であさはかだった。桁上がりを考慮しなければ2キュ ビットもいらないのだ。
 2桁の2進数の足し算なら、

0+0=00
0+1=01
1+0=01
1+1=10

だから、出力は3つしかないじゃないか。つまりlog23キュビットだ(^_^;)。入力2キュビットで出力log23 キュビットではユニタリーになろうはずもないが、よく考えてみると足し算は可換だから、1+0と0+1は同じだと考えれば両方がlog23 キュビットになってちゃんとユニタリーな演算回路になるではないか。

2006.2.24

★ファイナルアンサー?
 今日は確率論の基礎のゼミを聞いていたのだが。確率論の話でよく出てくる、クイズ・ショーの問題について教えてもらった。問題というの は、

 3つ のカーテンの向こうに1台の車が隠れていて、どれに隠れているか当てる、というクイズをやっている。もちろん当たれば車がもらえる。あなたがカーテンXを 選らんだ後、司会者が「じゃ、カーテンYを開けてみます」と開けてみると空であった。これでカーテンXか、カーテンZか、どちらかに車が隠れていることに なる。
 そこで司会者が、「今からカーテンZに選択しなおしてもいいですよ」と 言ったとする。そのままがいいか、それとも変更した方がいいか?

 司会者はもちろん、どこに車が隠れているかはわかっていて、「Yの後ろにはない」と知っていたからYを開けたとする。確率を計算すると実は選択を変更す る方がよいのである。
 前に聞いた話ではややこしそうに思ったのだが、ちょっと図を書いて考えてみるとすぐに理解できた。まず最初自分がXを選んだ段階では、何の情報もないか ら、

X(1/3)
Y(1/3)
Z(1/3)

の3つの可能性が、全部1/3の確率なわけだ。で、ハッピーなことになるのは実際にXに車が入っていた場合なので、それだけピンクにしてある。
 さて、ここで司会者が1枚のカーテンをあける。司会者は答を知っているから、Xに入っている場合はYかZかどっちかを開ける(いきなり正解じゃつまらん から)。Yに入っている時はZを開けるだろうし、Zに入っている時はYを開けるだろう(いきなり残念じゃつまらんから)。Xに車が入っている場合に司会者 がYとZのどっちをあけるかは二つに一つで1/2の確率だとすれば、

X(1/3) Y(1/3) Z(1/3)
Y が開く(1/6)
Z が開く(1/6)
Z が開く
(1/3)
Y が開く
(1/3)

という図が書ける。今司会者はYを開いたので、Yが開いたところを薄いピンクと濃いピンクで塗った。Zは開かれなかったので、図で緑の部分はもはや可能性 が消去されているわけだ。
 こう見ると、確かに変更する(つまりZにかける)方が確率がでかい(濃いピンクの方)。
 なんかどっかでだまされているような感じになるが、図で見ると確率の違いが一目瞭然。うまい説明になっていると思うので、ここに書いて覚えておこう。
 上に「緑の部分はもはや可能性が消去されている」と書いたが、この消去が、Yである可能性を100%、Xである確率を50%消し去っている(そして、Z である可能性については何もしてない)というところが肝心なところかな。


2006.2.25

★本日試験監督
 特に作業するでもなく、受験生のまわりをうろつきまわっているだけなのだが、試験監督というのは妙に疲れる。受験生の緊張が乗り移ってく るのかなぁ。というわけで家に帰ってから爆睡してしまった。

★ファイナルアンサー??
 この件について大反響(^_^;)。まずは栗田さんより、こういう説明で納得することもできますよ、というもの。

 カー テンが3つではなく、仮に100枚あったとし て、そのうちの一つが選ばれた後、残りの99枚のう ちから空のカーテン98枚を司会者が開きます。 その後で、残された唯一の閉じられているカーテンに変更した方がいいか?と考えてみると、変更した方が有 利になることはすぐに理解できます。 もちろんカー テンの数を減らしていって3枚になったときでも同じ理屈が成立することを確認しなくてはいけないのですが、“開かれたカーテンの分の確率が開かれなかった カーテンに集まってくる”などというとてもいかがわ しい表現が妙に腑に落ちてしまいました。

 あ、なるほど。昨日の図と同じような感じで、色の濃さが「確率の濃さ」を表すようにして書くと、最初の状況では

X(1/3)
Y(1/3)
Z(1/3)

のように、全部1/3だった確率が、Yが開けられることによって、


X(1/3)
Y(0/3)
Z(2/3)

のようになって、Yの確率が薄く(これを色が白くなることで表した)なった分だけZの確率が濃くなるわけですな。波動関数を断熱圧縮したみたいなイメージ かな。
 しかしこの説明だと、Xに車が入っている時に、司会者が半々の確率でYかZを選ぶのならいいけど、そうじゃない場合の説明がかえって難しくなりそう。
 昨日の説明では半々の確率としたので、

X(1/3) Y(1/3) Z(1/3)
Y が開く(1/6)
Z が開く(1/6)
Z が開く
(1/3)
Y が開く
(1/3)

という図を書いたのだけれど、これがもし1:2の確率でYを選ぶのだとすると、

X(1/3) Y(1/3) Z(1/3)
Y 開
(1/9)
Z が開く
(2/9)
Z が開く
(1/3)
Y が開く
(1/3)

となり、「Yが開いた場合にZを選んだ方がよい」という良さ加減と、「Zが開いた時にYを選んだ方がよい」という良さ加減では、前者の方が大きくなる (どっちにしろ、変更した方がいいのは一緒)。
 波動関数の圧縮解釈では、どっちにしろ変更した方が得なのはわかるものの、差があることがわかりにくい。

 続いて田崎さんからは、これは「Monty Hall Paradox」というのだと教えてもらった。Monty Hallはおそらく、日本で言えばみのもんただと思う。
 田崎さんも昨日の私の説明がわかりやすいと思うそうである。もしかしたらどの説明がわかりやすいかというのが、量子力学の多世界解釈を許容できるかどう かと相関しているかもしれない(^_^;)。
 なお、この問題にはバリエーションがたくさんある(まぁこういう問題があったら次々作りたくなるのが人情だろう)そうで、5つのドアの場合がこ こでにある。この問題は5つのドアのうち自分が2つを選び、司会者が二つを開ける。司会者が何の戦略もなく2つのドアを(ただし、当たりは避ける ように)選んでいる場合のパラレルワールドの存在割合の図は

V(1/5)
W(1/5)
X(1/5)
Y(1/5)
Z(1/5)
Y,Zが開く
(1/15)
X,Zが開く
(1/15)
X, Yが開く
(1/15)
Y,Zが開く
(1/15)
X,Zが開く
(1/15)
X, Yが開く
(1/15)
Y,Zが開く
(1/5)
X,Zが開く
(1/5)
X, Yが開く
(1/5)

という感じ。今度の場合、自分は2枚のドアを持っているので、今司会者がX,Yを開いたとして、変更しない場合の確率はピンクで塗った部分となり、変更し た場合の確率は赤で塗った部分になる。この場合、V,Wのどちらかがあたりである確率と、Zがあたりである確率を比べると、V,Wの方は二つの和であるに もかかわらず、Zの方が大きい。つまり2枚のドアを捨てて、残る1枚を取った方が得になってしまう。

 ところで昨日の話もここまでの話も「司会者は答えを知っていて、当たりが出るのを避けるように選んでいる」という場合を考えているのだけれど、そうじゃ なく司会者も当たりをしらずにたまたま外したのだとすると、パラレルワールドの存在割合の図は

V(1/5)
W(1/5)
X(1/5)
Y(1/5)
Z(1/5)
Y,Zが開く
(1/15)
X,Zが開く
(1/15)
X, Yが開く
(1/15)
Y,Zが開く
(1/15)
X,Zが開く
(1/15)
X, Yが開く
(1/15)
Y,Zが開く
(1/15)
X,Zが開く
(1/15)
X, Yが開く
(1/15)
Y,Zが開く
(1/15)
X,Zが開く
(1/15)
X, Yが開く
(1/15)
Y,Zが開く
(1/15)
X,Zが開く
(1/15)
X, Yが開く
(1/15)

に代わり、この場合は2枚のドアを保持した方が有利。
 司会者がどうやっているのかわからない場合はさらに複雑な話になるけど、まぁそこは省略(^_^;)。元気な人は自分で考えるか、上のリンクを
じっくり読んでくださいまし。
 とにかくこういう「相手がどういう手を取ってくるか」を読む話にまで広がってくると、なかなか一筋縄では答えが出ない問題になってきますな。

 さらに一筋縄ではいかないであろう話は小林泰三さんからももらっていて、ドアを4つにして

ドアを 選ぶ→空のドアを一つ開ける→ドアを選ぶ→また空のドアを開ける→ド
アを選ぶ、のようにして賞品が当たる確率はいくらかというものです。

戦略としては、

(1) 最後までドアを変えない。
(2) ドアが3つになった時に変え、2つになった時には変えない。
(3) ドアが3つになった時には変えず、2つになった時に変える。
(4) ドアが3つになったち時も2つになった時も変える

の4つがありますが、最も有利な戦略は何でしょう?

という問題を考えたことがあるそうである。なお、

#実は 単純な確率の問題ではありません。(^^;)

とのことなので(しかも相手はあの小林さんなので)要注意である。

 とはいえ、試験監督終わって爆睡して、0時過ぎてから起き出して、私はいったい何をこんな大量の(しかもちゃんと読んでくれる人の限られる)日記を書い ておるのだろう。残りは後でまた。というわけでまだいただいた問題はかんがえておりませぬ>小林さん

 時に、こういう大々反響(うちの日記ではメールが2通を超えると大反響)の時なんかは、「ブログに移行した方がお互い (わしもメールくれる人も)楽かなぁ」などと思うんだよなぁ。大反響はめったにないのだけれど。

★長々と確率の話などしたので

 軽〜〜〜〜い話を一発しておこう。うちの馬鹿娘の話である。
 こないだ中学校で友達と一緒に

「二階から目薬」は可能かどうか?

という検証実験をやったそうである。結果、3回めのトライで成功。
 どういう状況でやったのかはしらんが、3回めで成功ってのはかなり運がいい方なんではあるまいか??


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