解析力学には『最小作用の原理』というものがある。
作用(ラグランジアンの時間積分で現される量)が最小になるような運動が実現される運動である。
と表現される原理で、ラグランジアンはたいていの場合、
(運動エネルギー)-(位置エネルギー)
と表される。
この原理を「最小作用の原理」とよく言う。「自然は作用が最小になるような運動を選ぶ」などとえらく哲学的に書いてある本もあったりする。さて、ほんとに最小になるんだろうか。そこを考えるために、調和振動子の運動を考えよう。この場合は
$$I=\int({1\over2} v^2 -{1\over2}x^2 )dt$$
である(簡単のため質量もばね定数も1として考える)。最初(t=0)と最後(t=π)でx=1になるような運動を考えよう。実際起こる運動は単振動なので、
$$x(t)=\cos(t)$$
ということになる。これをちょっと変形させた運動だが、x(0)=x(2π)=1であることは保つような経路として、
$$x(t)= a\cos(t)+(1-a)\cos^2(t)$$
を考える。a=1が実際に実現される運動である。
具体的にグラフを書いてやると上の図のような感じである。a=1が普通の単振動になっている。
この場合のIを計算すると、
$${\pi\over8}\times(a-1)^2$$
となる。これはa=1に最小値を持つ関数になっている。なるほど、確かに最小作用が実現される運動になった。
もっと簡単な例として
$$x(t)=a\cos(t)+ 1-a$$
を取ってみる。グラフにすると
これもa=1では実際に実現される運動になる。しかしこの場合は、作用積分の値は-π(a-1)^2となり、むしろa=1は最大値となる。つまりこの場合では、ある意味「最大作用」が実現するのである。といっても今考えている変化の方向に限った中で「最大」なのであって、ほんとの意味で最大なのではない。
もちろん考えられる経路はこれだけではない。経路の変形の仕方は無限個あるといってもいい。上の二つはその無限個の変化を特別な平面ですぱっと切り取った、いわば「断面」なのである。いろんな断面を考えると、ある面で見れば実現される運動は最大値の場合であり、ある時は実現される運動が最小値の場合になっている。つまりは実現される経路は鞍点にあたるものなのである。実際には、無限個にある「運動を変化させる方向」のうち、有限個の方向に変化させた場合だけ、作用の値が小さくなるようになっているのだそうだ(証明までは知らない)。だから「ほとんど最小作用」と言ってもいいのかもしれない。
つまり、最小作用の原理と言うものの、実は「極大/極小作用の原理」と名付けた方が実情に合うのである。さらに言うと、ここでは出さなかったが、極大でも極小でもない、単に微分が0だという場合だってあり得る。 もともと最小作用の原理が導出された時を思い出そう。作用は、変分して0になるという条件から運動方程式が出てくるように定められた。上に運動エネルギー引く位置エネルギーと書いたが、あれは結果としてそうなるのであって、定義はそうではない(運動エネルギー引く位置エネルギーと表せないような作用もいくらでもある)。もともとの定義は「1階微分がゼロ」しか要求していないのだから、最小とは限らないのはあたりまえなのであった。 というわけで最小作用の原理は実は最小ではないが、だからといって気にする必要はないのであった。