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先週のは「わからない」という声が多かったので、ショックを和らげる意味もかねて、「量子力学はわからなくてあたりまえ」という話をした。実際私の経験でも量子力学の意味するところというのは、授業受けた時は全然わからず、わからぬままにいろんな問題を解いたり計算をしたり、とにかくいろいろ考えているうち、ある日ふっと突然に「あ、そういうことか」とわかってきたりしたものである。逆に言うと、その境地に達するまでは、理解の進歩が遅くて、いらいらしてくることも多い。量子力学のような難しい物理を学ぶ時には、勉強量と理解度は比例しないのである。
だから今わからないからと悲観せず、あきらめず、とにかく勉強し続けること。あきらめずにやっていれば「なるほど、こう考えるのか」ということがつかめてくる(かもしれない)。「もうだめだわ」と勉強やめてしまったらもちろんいつまでたってもわかるはずがない。
アインシュタインは「問題と解きたければ、常にそのそばにいることだ」と言ったそうである。量子力学と友達になっていれば、そのうち理解できるはずです(きっと、たぶん、おそらく)。
というような話をしながら、チョークを右手に持って、左の手の平に向けて落下。もちろん手にあたってチョークは止まる。しかし、量子力学がほんとなら、ものすご〜く小さい確率で、トンネル効果でチョークが手をすり抜けることがある。宇宙が10の何十乗回も生まれ変わるうちに一回ぐらいなら(^_^;)。そんなことを言いながら、またチョークを落としてみる。しかしやっぱり今回も奇跡はおきませんでした(^_^;)。
そこで全般に関して質問ないかと言ったところ出た質問。
電子が波になっている時、電子の質量ってどうなっているんですか?
それは質量という言葉をどう定義するのかということも含めて考えなきゃいけない問題だけど、波のあちこちで分散しているという答えでいいのかな。
しかし、もともと質量って何かというと、何か力を受けた時にその粒子の運動の変化が起こりやすいと「質量が小さい」、逆に変化が起こりにくい時は「質量が大きい」と言う。第8回に書いたように、波もポテンシャルの違いで力を受けて曲がるわけだけど、その曲がり具合が大きいということがすなわち粒子として見た時の質量が軽い、ということ。そういう意味では屈折がどの程度起こるのかはシュレーディンガー方程式の中に入っていることになるから、波だと思った時の「質量」は「波の屈折しにくさを表すパラメータ」なんだということになる。そういう意味では「波全体が持っている」ということになるのかな。
二重スリットの実験ですが、壁(スリット以外のところ)には電子や光子は当たらないんですか?
あたります(^_^;)。というかほとんどはそこに当たる。
上のような考え方は、波動関数を「いろんな場所xに粒子が存在している波動関数」の重ね合わせとして表現していることになる。しかし一方で、「いろんな運動量を持った粒子が存在している波動関数」の重ね合わせで波動関数を表現することもできる。たとえば、
は、運動量p_1を持った波と、運動量p_2を持った波の重ね合わせを表す波動関数である。a_1,a_2はそれぞれの波がどのくらいの重みで入っているかを表す文字となる(一般にa_1,a_2は複素数であり、二つの波の位相のずれをも表していることになる)。
周期境界条件ψ(-π)=ψ(π)を使っているので、p_1,p_2は(整数)×でなくてはならない。ψの規格化から、
となる(p_1≠ p_2ならば一周分積分すると0になることに注意)。この式のa_1^* a_1は粒子が運動量p_1を持っている確率であり、a_2^* a_2は運動量p_2を持っている確率である。よって、運動量の期待値は
<p>= p_1 a^*_1 a_1+p_2 a^*_2 a_2
と書ける。
運動量の期待値を一般の波動関数で計算するには、
のように、ψ^*とψの間に運動量を表す演算子をはさんでおくとよい(<x>を計算する時に、どこにおいてもよいxをわざわざψ^*とψの間に置いたのは、これと統一を取るためである)。は波動関数にかかることによって、運動量pを出す演算子だからである。
【問い47】[問い44]で計算した波動関数それぞれの場合について運動量p=の期待値を求めよ。 |
ここでxの期待値をpの期待値を計算したが、ここで波動関数という一つの量を、2種類の捉え方で考えていることに注意しよう。
一方、<p>を計算するときは、波動関数を「特定の波長(運動量)を持った波の重ね合わせ」と考えてその「各々の運動量を持った成分」での和を取っていくことで<p>を計算した。
つまり波動関数ψは、「ある点に物体がどれぐらいの確率で存在しているのか?」と「ある運動量を持った物体がどれぐらいの確率で存在しているのか?」の両方を表している物理量である。
現実に存在する粒子を記述するψはxで見てもpで見ても、特定の一つの値を取ってはいない。xもp もある程度の広がりを持ち、その広がりの度合いは不確定性関係によって制限を受けていることになる。
以下、最後の一節は時間の都合で授業ではしゃべれず。
x,pやx^2などに限らず、一般の演算子Aに対してものようにして期待値を計算することができる(A が微分を含むような時は、Aをはさむ位置に注意する)。
たとえばエネルギーの期待値は間にをはさむ。さっきの波動関数でこれを計算すると、
となる。この答えはa_1^*a_1という確率でエネルギーがE(p_1)となり、a^*_2a_2という確率でエネルギーがE(p_2)になるということからも当然である。
というわけで、これで「初等量子力学」の講義は終わり。「終わり」というよりは「後期の『量子力学』に続く」という感じだけど。
来週はテストなので試験問題と回答例をアップします(ただし、たぶん翌日になると思う)。
「予想問題をアップしてくださいよぉ」という要望があったけど、さすがにそれは無理。
スリットのすぐ後ろにスクリーンを置いたとしたら、二つのスリット両方に電子が来たりしませんよね? それなのになぜ、電子がスリットを波の形でぬけていると言えるのですか? もし両方に電子が来るのなら、電子は一つしかないのに、なぜ2つに着くのですか?
そういう実験をしたら、もちろん電子は一ヶ所にだけ到着します。でもその実験は、スクリーンが離れた場所に置かれている場合とは違う実験なのです。実験装置がどのように置かれているかということによって、実験結果は変わります。これは量子力学のややこしいところの一つです。
このあたりは第1回を読み直そう。
先日量子力学に関する一冊の本を読んだ。最後の方にEPRパラドックス、ベルの不等式の話などがのっていて、大きな衝撃を受けたのである。量子力学で言う、物体の物理状態は観測するまで定めることは出来ない。観測前の物体は無数の物理状態が重なり合って存在する、ということはもちろん、その理論が導き出す「非局所的」な話には大変びっくりした。だから読み終えて、読む前よりわからなくなったような気がしたのである。しかしおもしろいと思った。
いい本を読んだようですね。世の中ほんとにショックなことが多いです。量子力学に潜む非局所性の話は、私も考えるたびに「どこかで誰かにだまされているような気がする」と思えてくることがあります。でも誰かがだましているわけじゃないんですよねぇ。
チョークが手を通り抜けるところみたいですねぇ。
大学生の頃からよくやってますが、まだ通り抜けたことはありません。しかし半導体の中の電子とかはトンネル効果ってのを日々起こしてたりするんですよ。
授業の最後で二つの運動量の波動関数の重ね合わせになっている場合もあるという話でしたが、これは一つの電子に二つの波動関数があってそれが重なっているということなのでしょうか?
それとも2つの電子が重なり合うということはあるのでしょうか?
両方ありますが、授業でしゃべったのは、1つの電子の場合で、1つの電子が、二つの波動関数の和として表されている場合で、これは適当な確率の重みを持って二つの状態がかさなって1つ分の電子になっているということです。もし観測したとしたら、一個だけがどっちかの状態にいるところが見つかります。
量子力学は難しい〜〜〜(同様の感想多数)。
難しいです。でもがんばりましょう。夏休みだらけないようにね。