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第5章 光速度不変の数式的理解---ローレンツ変換

5.1 x-ctグラフで見るローレンツ変換

前章の電車の問題で、同時刻線が傾くということを確認した。ここで、どれくらい座標系が傾かなくてはいけないかを作図で示してみよう。

lorentzgraph.png

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このグラフを書いて電車の動きを見せるアプレットを作ってみせました。

図の(x,t)座標系は電車が速度vで動いているように見える座標系で、(x',t')座標系は電車の静止系である。x'=0の線、すなわちt'軸が電車の後端の軌跡に重なるようにグラフを書いた。このx'=0の線上では、x=vtが成立する((x,t)座標系では電車が速度vで走っている)ことに注意しよう。

電車の先端と後端から光が出てPに到達したわけだが、先端から光が出たその瞬間の時空点をQとした。電車の静止系で見ると、先端と後端から光が出た瞬間(Q とO)は同時刻である。ここで、Q\toPと来た光がそのまま突き抜けて、後端に達した時空点をRとする。また、O\toPと来た光がそのまま突き抜けて、先端に達した時空点をSとする。ORとQSは、どちらも同じ電車の一部の運動を表しているので、平行線である。また、OQとRSは、どちらも電車にとっての「同時刻」線であり、電車は一様な運動をしているのだから、平行線である。よってOQSRは平行四辺形なのだが、ここでP点でのOSとQRの交わりを考える。この二つの線分はどちらも45度の斜め線であるから、直交している。対角線が直交する平行四辺形は菱形である。このことは、このグラフ上におけるx'軸とx 軸の角度が、ct'軸とct軸の角度と等しいことを意味する。つまり、この図はx\leftrightarrow ctという取り替え(図で言うと、45度線を対称軸とした折り返し)で対称である。

ct'軸状ではx-vt=0が成立するのだから、

x-{v\over c}(ct)=0 \leftrightarrow ct -{v\over c}x =0

という対称変換をほどこすことで、x'軸の上ではct -{v\over c}x =0が成立していることがわかる。

hanten.png

対称変換がわかりにくい人は、こう考えよう。(x,ct)座標系で見ると、ct'軸の傾きは{c\over v}である(つまり、ct'軸上でx方向にv進むと、ct軸方向にc進む)。式で書けば、ct'軸は

ct={c\over v}x  書き直せば  x={v\over c}ct

なのである。 一方、x'軸とx軸の傾きは、ct'軸とct軸の傾きと同じ角度であることを考えると、x'軸は(x,ct)座標では{v\over c}の傾きを持つ。そう考えると、x'軸は

ct={v\over c}x

となる。

x'=0がx-{v\over c}ct=0に対応し、ct'=0がct-{v\over c}x=0に対応する ということから、

x'= A\left(x-{v\over c} ct\right)
(x'の式1)
ct'=B\left(ct-{v\over c}x\right)
(ct'の式1)

となることがわかる。

さらに、どちらの座標系でも光速がcであるということからA=Bであることがわかる。なぜならば、x座標系で原点から右へ進む光の光線上では、x=ctが成立する。この式が成立する時、x'座標系ではx'=ct' が成立しなくてはおかしい(光速度不変)。(x'の式1)と(ct'の式1)に、x=ctとx'=ct'を使うと、

\begin{array}{rcl} A\left(ct-{v\over c} ct\right)&=& B\left(ct-{v\over c}ct\right) \end{array}

となる。つまり、A=Bでなくてはならない。ここまでの結果は、

x'= A\left(x-{v\over c} ct\right)
(x'の式2)
ct'= A\left(ct-{v\over c}x\right)
(ct'の式2) である。相対論以前の`常識'に従えば、A=1と言いたいところである(A=1ならば、x'の式に関してはガリレイ変換と一致することになる)。しかし、そうはいかない。このAの値を決めるにはいろいろな方法がある。

ローレンツ短縮から

(x,t)座標系で測定した長さが、(x',t')系で測定したものの\sqrt{1-{v^2\over c^2}}倍になるようにする。

たとえば、x'=0の線(電車の後端)とx'=Lの線(電車の先端)を考える。(x',t')座標系ではこの間の距離はLである。(x,t)座標系ではどうなるかを考えよう。x'=0の線はx=vtであった。x'=Lの線はというと、

A(x-vt)=L すなわち、 x={L\over A}+vt

である。(x,t)座標系で電車の長さを測ると、

#math( (先端の位置)-(後端の位置)={L\over A}+vt -vt = {L\over A})

である。電車がローレンツ短縮すべきだと考えると、{1\over A}=\sqrt{1-{v^2\over c^2}}、つまり、

A={1\over\sqrt{1-{v^2/c^2}}}

となるのであった。

ウラシマ効果から

(x,t)座標系で測定した時間が、(x',t')系で測定したものの\sqrt{1-{v^2\over c^2}}倍になるようにする。

たとえば、t'=0という時刻と、t'=Tという時刻を考える。(x',t')座標系ではこの間の時間はTである。(x,t)座標系ではどうなるかを考えよう。t'=0の線はt={v\over c^2}xであった。t'=Tの線はというと、

A\left(t-{v\over c^2}x\right)=T すなわち、 x={T\over A}+{v\over c^2}t

上の式で分子にvが抜けてました。↑のように訂正してください。

である。よって(x,t)座標系での時間差は

{T\over A}+{v\over c^2}x -{v\over c^2}x = {T\over A}

である。ウラシマ効果を考えると{T\over A}=\sqrt{1-{v^2\over c^2}}なので、

A={1\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}

となるのであった。

速度-vの変換が逆変換となること

もう一つの方法は、「速度vのローレンツ変換をした後、速度-vのローレンツ変換をしたら、元に戻るはず」ということ、そして「速度vのローレンツ変換と、速度-vのローレンツ変換で、Aの値は同じはず」ということを使う。なぜAが同じになるべきかというと、速度がvであるか-vであるかというのは座標系の正の方向をどちらにとうかという「人間の都合」で来まったものである。一方、Aの値は(上二つからもわかるように)二つの座標系のスケールの伸び縮みを表す値なので、どちらに動いても同じであるべきである(ある方向へ動いた時のスケールの伸びが、それと逆方向では違うとすると、宇宙には特定の方向があることになってしまう)。

すると、逆変換は(v\to -vと置き換えて)

x=A\left(x'+{v\over c}ct'\right),~~~ct=A\left(ct'+{v\over c}x'\right)

ということなので、これに変換式を代入すると、

x=A\left(A(x-vt)+{v\over c}A\left(ct-{v\over c}x\right)\right)=A\left(1-{v^2\over c^2}\right)x

となって(ctに関する式も同様)、A={1\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}となる。

以上から、ローレンツ変換とは、

x'={1\over\sqrt{1-{v^2/c^2}}}(x-vt),~~~ t'={1\over\sqrt{1-{v^2/c^2}}}\left(t-{v\over c^2}t\right)

という座標変換であることがわかる。なお、よく出てくる因子{1\over\sqrt{1-{v^2/c^2}}}をγと書き、{v\over c}=\betaと書くことが多い。この文字を使うと、ローレンツ変換は

x'=\gamma(x-\beta ct),~~~ ct'=\gamma(ct-\beta x)

という形にまとまる。

この変換はいっけんガリレイ変換と大きく違うように思われるが、{v^2/c^2}や、{v\over c^2}xを小さい(光速cに比べて今考えている速度などが小さければこう考えていい)とすれば、ガリレイ変換と同じ変換となる。つまり、ガリレイ変換は速度が光速に比べて遅い場合の近似式だったのである。

5.2 ローレンツ変換の数式による導出

次に、ローレンツ変換を計算のみにより求めよう。ローレンツ変換が満たすべき条件として、次の3つを取る(この条件は、前節でも利用している)。

  1. 古い座標系での光円錐( (x-x_0)^2+(y-y_0)^2+(z-z_0)^2-c^2(t-t_0)^2=0 )は新しい座標系でも光円錐((x'-x'_0)^2+(y'-y'_0)^2+(z'-z'_0)^2 -c^2 (t'-t'_0)^2=0)へと移る(光速度不変の原理)。
  2. この座標変換において特別な点はない(一様性)。
  3. この座標変換において特別な方向はない(等方性)。
lcone.png

1.が主張しているのは、光速度不変の原理を満足せよ、ということである。ある時空点(t_0,x_0,y_0,z_0) (x'座標系では(t'_0,x'_0,y'_0,z'_0))から光が出て、時空点(t,x,y,z) (x'座標系では(t',x',y',z'))にたどりついたとする。時刻t(あるいは時刻t')には、その光はc(t-t_0) (あるいはc(t'-t'_0))広がっている。ゆえに(x-x_0)^2+(y-y_0)^2+(z-z_0)^2-c^2(t-t_0)^2=0が成立するならば、(x'-x'_0)^2+(y'-y'_0)^2+(z'-z'_0)^2 -c^2 (t'-t'_0)^2=0も成立せねばならない。光速度はどっちの座標系でもcだからである。くどいようだがもう一度書く。これは実験事実である。また、ここで光速度一定という現象に着目してはいるが、これは光を特別視しているわけではなく、マックスウェル方程式が生み出す物理現象の代表として光を使っているということに注意して欲しい。「光速度一定」は「どの座標系でも成立すべき物理法則」の代表なのである*1

xxd.png

2.が主張しているのは、この変換が一様であれ、ということである。

たとえばx'= ax^2のような変換をしたとすると、x=0付近と、そこから遠い場所では、xが変化した時のx'の変化量が違う。これはつまり、x座標系で測った1メートルが、x'座標系では場所によって10センチになったり3メートルになったりと、違う長さになるということである。しかし今考えているのは座標系の一様な運動であるから、こんなことは起こらないだろう(ある座標系での1メートルが別の座標系では等しく50センチになることはあり得るとしても!)。この条件を満たすためには、(x,y,z,ct)と(x',y',z',ct')が一次変換で結ばれなくてはならない。

3.が主張しているのは、たとえばこういうことである。x 軸の正方向へ速さvで運動している場合と、x軸の負方向へ速さvで運動している場合を比べたとする。この二つは、最初にx軸をどの方向にとったかというだけの違いであって、物理の本質的な部分は違わないはずである。

また、x座標方向へ移動する座標変換と、y方向へ移動する座標変換も、最初にx軸をどの向きにとったかというだけの違いであって、本質的違いはないはずである。

つまり、ある方向へ移動する座標系だけが特別扱いされるようなことはあってはならない。

以下で、これらの要請だけからガリレイ変換に替わる新しい座標変換を導く。

x'系の空間的原点x'=y'=z'=0が、x座標系で見ると速度vでx軸方向に移動していて、時刻t=0では原点が一致しているとする。このことから、x'=0 という式を解くと、x=\beta ctという答えが出るようになっていることがわかる。この条件はガリレイ変換x'=x-vtでも成立する。2.の条件があるので、

x'=A(x-\beta ct)

という形でなくてはならないことがわかる。y方向、z方向には座標軸は移動していない。つまりこの座標変換で、y=0である場所はy'=0である場所に移る。zに関しても同様なので、

y'=By,~~~z'=Bz

となるべきだろう。ここで、簡単のためにy軸やz軸の方向も変わらないとした。この二つの式の係数がどちらもBなのは、空間の対称性(y軸とz軸を取り替えても物理は変わらない)から判断した。

しかし、要請3.から、Bは1でなくてはならないことがわかる。Bが1でなかったとすると、この座標変換によってy軸やz軸方向の長さが伸びたり(B>1 の場合)、縮んだり(B<1の場合)することになる。運動方向を反転(v\to -v)したとしよう。この時の変換は元の変換の逆変換であろうから、y''={y\over B},~~~~z''={z\over B}という形になる。つまり+x方向ではB 倍になったとしたら、-x方向では{1\over B}倍でなくてはならない。B\ne 1だと、この現象は要請3.に反する。

時間座標に関しては、

ct'= C(ct-D x)

と置ける。ここにy,zが入らないのは、この変換はyやzの正の方向がどちらかによらない形になるべきだからである。

以上の座標変換に対して、要請1.すなわち「x^2+y^2+z^2-c^2 t^2=0の時に(x')^2+(y')^2+(z')^2-c^2(t')^2=0になれ」(簡単のためx_0など、下付添字{}_0の着く量はすべて0であるとした)という条件が成立するためにはA,C,D,E,Fがどうならなくてはいけないかを考える。そのためにまず(x')^2+(y')^2+(z')^2-(ct')^2を計算しよう。

\begin{array}{rl} (x')^2+(y')^2+(z')^2-(ct')^2=&A^2(x-\beta ct)^2 + y^2 +z^2 -C^2(ct-D x)^2 \\=&(A^2-C^2 D^2)x^2+y^2 +z^2 +(A^2 \beta^2 - C^2)(ct)^2+2(-A^2\beta + C^2 D) xct \\ \end{array}

ここで、条件x^2+y^2+z^2-c^2t^2=0であることを思い起こす。よってここではx,y,zが独立な変数であって、ctはct=\pm\sqrt{x^2+y^2+z^2}であるとして扱う。すると最終的な式はx^2を含む項、y^2を含む項、z^2を含む項と、xctすなわちx\sqrt{x^2+y^2+z^2}を含む項になるだろう。 x,y,zは各々独立に動かせるから、各々の係数は零でないと困る。 まず、xctまたはx\sqrt{x^2+y^2+z^2}の係数に着目すると、A^2\beta = C^2Dがわかる。そこでD ={A^2\beta \over C^2}と代入して上の式をまとめ直すと、

\begin{array}{rl}0=&(A^2-{A^4 \beta ^2\over C^2})x^2+y^2 +z^2 +(A^2\beta^2 - C^2)(ct)^2\\0=&(A^2-{A^4 \beta^2\over  C^2})x^2+y^2 +z^2 +(A^2{\beta^2} - C^2)(x^2+y^2+z^2)\\0=&\left(A^2-{A^4 \beta^2\over C^2}+A^2{\beta^2} - C^2\right)x^2+\left(1+A^2{\beta^2} - C^2\right)y^2 +\left(1 +A^2{\beta^2} - C^2\right) z^2  \end{array}

ここでx^2の係数は0にならなくてはいけないが、

\begin{array}{rl}A^2-{A^4 \beta^2 C^2}+A^2{\beta^2} - C^2=  &0 \\A^2-C^2  - {A^2 \beta^2\over C^2}(A^2-C^2)=  &0 \\(A^2-C^2)\left(1 - {A^2 \beta^2\over  C^2}\right)=  &0 \\ \end{array}

となるから、A^2=C^2か、{A^2 \beta^2 \over C^2}=1かが成立せねばならない。しかし{A^2\beta^2 \over C^2}=1だと、y^2の前の係数が1になってしまい、けっして0にならない。そこで、C^2=A^2ということになる。これをもう一度上の式に代入すると、x^2の項は消え、y^2z^2の項の係数は

1 +C^2{\beta^2} - C^2

となるので、

1 = C^2\left(1-\beta^2\right)

という式が成立する。Cは正の数であると考えられる*2ので、C={1\over\sqrt{1-\beta^2}}となる。座標変換は

x'= {1\over\sqrt{1-\beta^2}}(x-\beta ct), y'= y, z'=z, ct'= {1\over \sqrt{1-\beta^2}}(ct-\beta x)

とまとめられる。当然ながら、図から求めたものと一致する。あらためて指摘しておくと、係数{1\over\sqrt{1-\beta^2}}は、xやtのスケールの変化(ローレンツ短縮やウラシマ効果)を表している。また、ct'の式にct-\beta xが現れることは、tの同時刻とt'の同時刻が場所によって変化すること(t=一定とt'=一定がグラフ上で平行線ではない)を示しているのである。

なお、ここまでの計算では簡単のために運動方向をx方向に限ったし、y,z座標に関しても同じ方向を向いているとした。一般的には運動方向が任意の方向を向いたものや、これに座標軸の回転が組み合わさったものが出てくる可能性がある。

今日の授業は上の計算の途中で終わったので、来週はここの計算からまたやります。

学生の感想・コメントから

ローレンツ変換に入るまでが長かったです。

確かに長いですね。電磁気やガリレイ変換などの基礎を確認してから進みたかったので。

昔の人は何を求めてこういったことを考えるようになったのだろう? 理屈理屈で頭がぐるぐるします。

目の前にマックスウェル方程式という式があって実験にぴったり合う。しかもどんな立場(どんな座標系)で考えてもぴったり結果に合う。しかし、なぜどんな座標系でもぴったり合うのか、その理由が説明できない。そういう状況にあった時、つきつめて「なぜこんなことになるんだろう?」と考えてみたくなりませんか? 多少頭がぐるぐるしても、考えるべきことだったと思います。

ガリレイ変換とローレンツ変換の関係がわかってすっきりしました。

はい。ガリレイ変換も、今後は近似式として使えばよいわけです。

x'座標系が非慣性系の時でもガリレイ変換は成り立ちますか?

だめです。ガリレイ変換もローレンツ変換も、慣性系と慣性系の間の座標変換です。

\beta={v\over c},\gamma={1\over\sqrt{1-{v^2/c^2}}}とするなら、αも出てきてよさそうですらありませんか?

そういえばないですね。。。。なぜだろう???

電車の両端から光が出るということと、真ん中で人が同時に観測するということの物理現象の違いは何ですか?

「真ん中で人が同時に観測する」というのは、場所も時間も「一点」で起こっています。だから、そういう物理現象は座標変換してもやっぱり一点で起こる。だから同時刻性は変わらない。しかし「電車の両端から光が出る」ということは、時間が(電車内座標系から見ると)同一ですが空間的には離れた点です。つまり「2点」で起こってます。だから、座標系が違えば時間がずれるということも起こってもよいわけです。


*1 こうやって作ったローレンツ変換がマックスウェル方程式を不変に保つかどうかはちゃんとチェックする必要がある。答を先に書いておくと、電場や磁場のローレンツ変換をちゃんと定義すれば不変になっている。
*2 C<0だと、t'が増加した時にtが減少する(時間の流れが逆転!?)ことになる。

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Last-modified: 2024-01-12 (金) 19:41:45