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連続的に分布した電荷について考えると、微小体積$dxdydz=d^3 \vec x$の中に電荷$\rho d^3 \vec x$があるのだと考えて、その各微小体積によるエネルギーの和を考える。微小体積を0とする極限では和は積分に置き換わるので、 $$ {1\over2}\sum_{i=1}^N q_i V_{\bar{i}}(\vec x_i)\to {1\over 2}\int \rho(\vec x) V(\vec x) d^3 \vec x$$ となる。これが静電場の持つエネルギーを、電荷密度ρと電位Vで表現した式である。ここで${1\over 2}\int \rho(\vec x) V(\vec x) d^3 \vec x$には「自分自身の作る電位は勘定に入れない」という計算に対応する「$i=j$を除く」のような注意書きがないことを不審に思う人がいるかもしれない。この場合の「自分自身」に対応するのは微小体積内の微小電荷$\rho d^3 \vec x$である。微小電荷を取り除いても、取り除く前と電位の値はほとんど変わらないので、わざわざ断る必要がないのである。

3.6.3 電場の持つエネルギー---電場による表現

さて、我々は「電荷の位置エネルギーは電場が持っている」という予想のもと、ここまで電荷の位置エネルギーを書き直してきた。${1\over 2}\int \rho(\vec x) V(\vec x) d^3 \vec x$という式は、いまだ電荷を使って表現している(つまり、エネルギーは電荷が持っている、という形の式になっている)。

ここで、電荷密度ρは電場と関係あることを思い出そう。すなわち、${\rm div}\vec E={\rho\over \varepsilon_0}$である。これを使って書き直すと、エネルギーは $$ {\varepsilon_0\over 2}\int ({\rm div}\vec E(\vec x))V(\vec x)d^3 \vec x$$ という積分になる(電場と電位の式になったので、目標に一歩近づいた)。

ここで、${\rm div}\vec E$という形で$\vec E$にかかっている微分をVの方におっかぶせる(もちろん部分積分を使ってである)。x,y,z成分を使って書くと上の式は $$ {\varepsilon_0\over 2}\int \left({\partial\over\partial x}E_x(\vec x)+{\partial\over\partial y}E_y(\vec x)+{\partial\over\partial z}E_z(\vec x)\right)V(\vec x)d^3 \vec x$$ で、これを各項ごとに部分積分すれば、 $$- {\varepsilon_0\over 2}\int \left(E_x(\vec x){\partial\over\partial x}V(\vec x)+E_y(\vec x){\partial\over\partial y}V(\vec x)+E_z(\vec x){\partial\over\partial z}V(\vec x)\right)d^3 \vec x$$ となる。いわゆる「表面項」、たとえば $$\left[ {\varepsilon_0\over2}\int E_x(\vec x)V(\vec x) dy dz \right]^{x=\infty}_{x=-\infty}$$ は無限遠では$V(\vec x)$や$\vec E(\vec x)$が0になっているのだと考えて無視した。

積分範囲は無限遠までになったんですか?

そうですね。ρとVで書いていた時はρがあるところだけ積分すればよかったんですが、EとVで書く場合、無限遠までにしないとEやVが0になってくれません。有限の範囲でやめると、全エネルギーのうちの積分範囲の中に入っているエネルギーだけを計算して、後を捨てていることになってしまいます。

ここで、$\vec E=-\vec\nabla V$(たとえばこのうちx成分を取り出すならば$E_x=-{\partial \over \partial x}V$)を使えば、 $$ {\varepsilon_0\over 2}\int \left(E_x(\vec x)E_x(\vec x)+E_y(\vec x)E_y(\vec x)+E_z(\vec x)E_z(\vec x)\right)d^3 \vec x$$ となり、まとめると、


真空中の静電場の持つエネルギー $$ U={\varepsilon_0\over 2}\int |\vec E|^2 d^3\vec x$$

となる*1。これは電場のみで書かれた式になっている。これから、電場の持つエネルギー密度は${\varepsilon_0\over2}|\vec E|^2$となる。数式の形としては、ばねのエネルギーの式${1\over 2}kx^2$にも似ている。

電磁波のエネルギーというのもこれなのですか?

電磁波のエネルギーは、これに磁場のエネルギーが加わります。磁場のエネルギーも似たような式で、真空中ならば${1\over2}\mu_0|\vec H|^2$です。

3.6.4 平行平板コンデンサの蓄えるエネルギー

静電気力の持つ位置エネルギーは${1\over2}qV$で表現されるということから、平行平板コンデンサの持つエネルギーを計算する。両極板に電荷Qと電荷-Q がためられているとする。極板の面積をSとすると極板間にできる電場の強さは${Q\over \varepsilon_0 S}$となるというのはこれまで計算した通りであるから、極板間の電位差Vは${Qd\over \varepsilon_0 S}$となる(今電場は一定なので、電位差は電場×距離となる)。電位差Vというのは、-Qがたまっている方の電位が$V_0$としたら、Qがたまっている方の電位が$V_0+V$だということであり、この時に静電エネルギーは、 $$ {1\over2}Q(V+V_0)+{1\over2}(-Q)V_0 = {1\over2}QV = {1\over2 }{Q^2 d\over \varepsilon_0 S}$$ となる。この${1\over2}QV$という式は、以下のように考えても導出できる。

condencer.png

電荷qを電位差Vの間を運ぶと、qVだけ仕事をすることになる。今、コンデンサに電気qがたまっている時に、電気を$q\to q+dq$に増やすために必要な仕事を考えれば、それはもちろんdqVなのだが、今の場合$V={qd\over\varepsilon_0 S}$であるから、$dq{qd\over \varepsilon_0 S}$となり、このqを0からQまで積分することで「コンデンサを充電するのに要した仕事」が計算できる。それは、 $$\int_0^Q dq{qd\over \varepsilon_0 S}={d\over \varepsilon_0 S}\left[{q^2\over 2}\right]^Q_0={Q^2d\over 2\varepsilon_0 S}$$ である。これはもちろん上の式と一致する。

ここで、これをコンデンサの極板にはさまれた部分の体積Sdで割ると、コンデンサの持つエネルギーは単位体積あたり、 $$ {1\over2}{Q^2 \over \varepsilon_0 S^2}={1\over2}\varepsilon_0 \left({Q\over \varepsilon_0 S}\right)^2$$ となる。これはちょうど、${1\over2}\varepsilon_0 |\vec E|^2$に他ならない。

授業では説明を逆にして、${\varepsilon_0\over2}|\vec E|^2$でエネルギー密度を出してそこから計算してもちゃんとコンデンサのエネルギーになることを示しました。

つまり、電荷に仕事をすることで溜め込んだエネルギーは「電場の持つエネルギー」としてコンデンサの極板間に溜められることになる。

gomu.png

電位をゴム膜に例えたアナロジーからすると、電荷をためることで+電荷のたまった部分は電位が高くなり(ゴム膜が上に引っ張られ)、−電荷のたまった部分は電位が低くなる(ゴム膜が下に引っ張られる)。結果としてコンデンサの内部では強い電場(ゴム膜の大きな傾斜)ができる。この引っ張られたゴム膜の弾性エネルギーに対応するものが電場のエネルギーである。ゴム膜の場合も、エネルギーはゴム膜を持ち上げたり下げたりする部分(極板)に局在するのではなく、広がって分布している。

このエネルギーを「極板を引っ張り上げる仕事」として計算することもできる。コンデンサの極板間に大きさEの電場ができている時、極板に働く引力は${1\over2}QE$である。まず極板間の距離が0になっていると仮定する。この時のコンデンサのエネルギーは0である(プラスマイナスの電荷が重なって存在しているというのは、何もないのと同じ)。この引力に逆らって距離dだけ極板を引きはがすと考えると、仕事は${1\over2}QEd={1\over2}QV$となる。


極板に働く力がQEでない理由 電場の定義である$\vec F=q\vec E$からすると、なぜこの極板間の引力に${1\over2}$がつくのか、不思議に思う人もいるかもしれないが、これにはいろいろな説明ができる。

まず、$\vec F=q\vec E$という式は、電場の中にどっぷりと電荷が浸かっている場合の式であるが、コンデンサの場合、電荷の内側にしか電場はない。これが半分になる理由である。

もう一つの説明としては、極板間の電場Eというのは実は、プラス電荷の作った${1\over2}E$とマイナス電荷の作った${1\over2}E$の和である。プラス電荷はマイナス電荷の作った電場だけを感じるのである。

1over2QE.png

以下の3.7節は、ざっと内容を示したのみで、細かい計算などはやっていません。

3.7 電場の応力

電気力線には「短くなろうとする」「混雑を嫌う」という性質があることを何度か話してきた。この二つの性質は、どちらも、「電場のエネルギー$ U={\varepsilon_0\over 2}\int |\vec E|^2 d^3\vec x$を小さくしようとする」という統一した見方で考えることができる。

3.7.1 電気力線は短くなろうとする→電場の張力

tension.png

図のように電気力線が(密度を変えずに)短くなるところを想像する。こうなることで電気力線の存在する場所の体積が小さくなる。電気力線の密度は変わらないから、電場$\vec E$は変わらないが、体積が減れば積分Uの値は小さくなる。つまり「電気力線が短くなろうとする」ということは「電場の存在する空間を狭くしようとする」ということに他ならない。ここで今仮想的に考えたチューブの底面積をSとし、長さをLとすると、このチューブ内の電場の持つ静電エネルギーは${\varepsilon_0\over2}|\vec E|^2 SL$である。$L\to L +x$と増えることによるエネルギーの増加は $$ \Delta U = {\varepsilon_0\over2}|\vec E|^2 S x$$ となるから、 $$-{\partial U\over \partial x} = -{\varepsilon_0\over2}|\vec E|^2 S$$ である。単位面積あたり${\varepsilon_0\over 2}|\vec E|^2$の力で張力が発生していることがわかる。この力の式に−符号がつくのは「xが増える方向の反対」を意味する。つまり引っ張る力である。

3.7.2 電気力線は混雑を避ける→電場の圧力

pressure.png

今度はこの仮想的チューブが長さを変えずに面積を増大させたとする。簡単のためチューブの底面を縦a、横bの長方形として、横をyだけ増やしてみよう。この時、電気力線の本数が変わらずに面積が増えるので、電場(単位面積あたりの電気力線)が減ることになる。そこで今度は$\vec E S$が定数になると考える。すると、$U={\varepsilon_0\over2}|\vec E S|^2 {L\over S}$となる。これを($\vec ES$はこの組み合わせで定数なので微分せずに!)Sが$\Delta S$だけ変化するとすると、 $$ \Delta U = -{\varepsilon_0\over2}|\vec E S|^2 {L\over S^2}\Delta S= -{\varepsilon_0\over2}|\vec E |^2 {L}\Delta S$$ という結果が出る。今の場合、$\Delta S=ay$であるからこれを代入して両辺をyで割れば、 $$ -{\partial U\over \partial y}= {\varepsilon_0\over2}|\vec E |^2 {L a}$$ が出る。これは側面にかかる力であるから、単位面積あたりにするには$L a$で割ればよい。つまり、電気力線が広がろうとする圧力が${\varepsilon_0\over2}|\vec E|^2$だけ働いていることがわかる。

3.7.3 応力から考える静電気力

張力・圧力などの力が面に働く時、まとめて「応力(stress)」と呼ぶ。今、ある微小面積$d\vec S$がある時、その面にどんな力が働くことになるかを式で表そう。もし、$d\vec S$と$\vec E$が平行ならば、この面には${\varepsilon_0\over2}|\vec E|^2 d\vec S$の力が働く。一方、$d\vec S$と$\vec E$が垂直ならば、$-{\varepsilon_0\over2}|\vec E|^2 d\vec S$の力が働く(水平でも垂直でもない場合についてはこの節の最後を見よ)。

実際にこれがクーロン力を表現していることを確認しておく。次の図は二つの電荷(電気量はqと-q)が距離2L離れている状態を描いたものである。

qq.png

二つの電荷のちょうど中間にあたる位置に面(図の点線)を考えて、その面に働く張力を考える。図に書き込んだように、二つの電荷を結ぶ直線から角度θだけ離れた面を考えると、その場所に一方の電荷が作る電場は${q\cos^2\theta\over 4\pi\varepsilon_0 L^2}$となる(電荷からこの点までの距離が${L\over \cos\theta}$となることに注意。合成電場は二つの電荷の作る電場をベクトル的に足すことで得られるから、 $$2\times {q\cos^2\theta\over 4\pi\varepsilon_0 L^2} \times\cos\theta={q\cos^3\theta\over 2\pi\varepsilon_0 L^2}$$ となる。これを自乗して${1\over2}\varepsilon_0$をかけたもの $$ {1\over2}\varepsilon_0 E^2 = {1\over2}\varepsilon_0 \left({q\cos^3\theta\over 2\pi\varepsilon_0 L^2}\right)^2={q^2\cos^6\theta\over 8\pi^2\varepsilon_0 L^4}$$ が電場の(単位面積あたりの)張力である。

enban2.png

これに面積をかけて積分することで、今考えた面全体に働く張力を求めよう。 角度がθから$\theta+ d\theta$ までの範囲を考えると、その範囲に入っている微小面積は $$ \pi\left(L\tan(\theta+d\theta)\right)^2 -\pi (L\tan\theta)^2= 2\pi L^2 \tan\theta {d\theta\over \cos^2\theta} $$ となる(図参照)。先に計算した電場に面積をかけてこの面全体で積分する(つまり、$\theta=0$から$\theta={\pi\over 2}$まで積分する)と、 $$\begin{array}{rl} \int_0^{\pi\over2} {q^2\cos^6\theta\over 8\pi^2\varepsilon_0 L^4} \times 2\pi L^2 \tan\theta {d\theta\over \cos^2\theta} =\int_0^{\pi\over2} {q^2\cos^3\theta\over 4\pi\varepsilon_0 L^2} \times \sin \theta {d\theta} ={q^2\over 4\pi\varepsilon_0 L^2}\left[-{\cos^4\theta\over 4}\right]^{\pi\over2}_0={q^2\over 16\pi\varepsilon_0 L^2}\end{array}$$

qq2.png

これは、距離2L離れた電気量qと-qの電荷に働くクーロン引力${q^2\over 4\pi\varepsilon_0 (2L)^2}$そのものである。

なお、+電荷どうしの斥力も同様の計算で求めることができる。この場合は電場の圧力を積分すればよい。

以上のように、空間の各点各点に分布している電場が、そのとなりの電場との間に張力や圧力を及ぼすということが静電気現象で起こる力全ての源泉であるというふうに考えられることになる。近接作用論をとなえた時、ファラデーは目に見えない「電場」や「電気力線」の力の及ぼし合いが本質であることを見抜いていたのである。

電場はもちろん「物質」とは違うが、このように押し合い引き合いしながら力を伝えたりエネルギーをたくわえるすることができる。この意味では、立派な物理的実体のある存在なのである。

以上で出てきた応力を、後で出てくる、磁場による応力とまとめて、「マックスウェル応力」と呼ぶ。


この部分は授業では話さない可能性もあるが、その場合は読んでおいてください。

3.7.4 応力テンソル

dF.png

この微小面積に働く力$d\vec F$は $$ d\vec F=\varepsilon_0\vec E (\vec E\cdot d\vec S)-{\varepsilon_0\over2}|\vec E|^2 d\vec S$$ とまとめることができる。この式は、$\vec E$と$d\vec S$が平行な時は${\varepsilon_0\over2}|\vec E|^2 d\vec S$となり、$\vec E$と$d\vec S$が垂直な時は$-{\varepsilon_0\over 2}|\vec E|^2 d\vec S$となる。つまり電気力線と平行な方向には張力、垂直な方向には圧力が働く式になっているわけである。

この式を成分で書くと、 $$\begin{array}{rl} dF_x =& \varepsilon_0E_x \left(E_x dS_x+E_y dS_y+E_z dS_z\right) - {\varepsilon_0\over2}\left((E_x)^2+(E_y)^2+(E_z)^2\right)dS_x\\=& {\varepsilon_0\over2}\left((E_x)^2-(E_y)^2-(E_z)^2\right)dS_x+\varepsilon_0E_x E_y dS_y+\varepsilon_0E_x E_z dS_z\\ dF_y =& \varepsilon_0E_y \left(E_x dS_x+E_y dS_y+E_z dS_z\right) - {\varepsilon_0\over2}\left((E_x)^2+(E_y)^2+(E_z)^2\right)dS_y\\=& \varepsilon_0E_y E_x dS_x+{\varepsilon_0\over2}\left(-(E_x)^2+(E_y)^2-(E_z)^2\right)dS_y+\varepsilon_0 E_y E_z dS_z\\ dF_z =& \varepsilon_0E_z \left(E_x dS_x+E_y dS_y+E_z dS_z\right) - {\varepsilon_0\over2}\left((E_x)^2+(E_y)^2+(E_z)^2\right)dS_z\\=& \varepsilon_0E_z E_x dS_x+\varepsilon_0E_z E_y dS_y+ {\varepsilon_0\over2}\left(-(E_x)^2-(E_y)^2+(E_z)^2\right)dS_z\\\end{array}$$ となり、行列を使ってまとめると、 $$ \left(\begin{array}{c} dF_x\\dF_y\\dF_z \end{array}\right)=\left(\begin{array}{ccc} & & \\ &{\bf T} & \\ & & \\\end{array} \right)\left(\begin{array}{c} dS_x\\dS_y \\dS_z \end{array}\right)$$ となる。ただし、${\bf T}$は $$\begin{array}{rl} &\left(\begin{array}{ccc} T_{xx}&T_{xy} &T_{xz} \\ T_{yx}&T_{yy} &T_{yz} \\ T_{zx}&T_{zy} &T_{zz} \\ \end{array}\right) \\ =& {\varepsilon_0} \left( \begin{array}{ccc} {1\over2}(E_x)-{1\over2}(E_y)^2-{1\over2}(E_z)^2 & E_x E_y &E_x E_z \\ E_xE_y & -{1\over2}(E_x)+{1\over2}(E_y)^2-{1\over2}(E_z)^2 & E_z E_y \\ E_xE_z & E_yE_z & -{1\over2}(E_x)-{1\over2}(E_y)^2+{1\over2}(E_z)^2 \end{array} \right)\end{array}$$ である。この$3\times3$行列の各成分$T_{ij}$(i,jはx,y,zのどれか)を「応力テンソル」*2と呼ぶ。「テンソル」とは上の行列のように、「x成分、y成分、z成分」を意味する添字${}_x,{}_y,{}_z$を持つ量のことである。

応力テンソルの一個一個の成分の意味は以下の通りである。

Txy.png

$T_{xx}$はx方向に垂直な平面(面積$dS_x$)にかかるx方向の力(ただし、単位面積あたり)を意味する。これは(右にある横から見た図でわかるように)今考えている物体を引き延ばす「張力」である。一方$T_{zx}$は同じ面にかかるz方向の力(やはり単位面積あたり)を意味する。これは物体をずらすように変形させる力(剪断応力と呼ぶ)となる。$T_{ij}$の対角成分$T_{xx},T_{yy},T_{zz}$は張力を表し、非対角成分は剪断応力を表す。たいていの場合、${\bf T}$は対称行列である($T_{ij}=T_{ji}$)。

以下の章末演習問題のうち1問を試験の前日までの提出課題ということにしていましたが、提出率が悪いのと、皆さん試験で忙しいようなので、提出期限は追試の前日までとします。つまり10月4日までです。ただし、なるべく速く出してくれないと、成績が出ません。

3.8 章末演習問題

cube2.png

[演習問題3-1]

3次元空間に$V = kx^2$で表される電位があったとする。

(a) 電場を求めよ。

(b) 図のような一辺aの立方体の中には、どれだけの電荷が入っているか2通りの計算方法で計算せよ。

[演習問題3-2]以下のような静電場は存在できるか?---存在できない場合はその理由を記せ。存在できる場合はその電位と、電荷分布を求めよ。

(a)$E_x= kx, E_y= ky, E_z=0$

(b)$E_x= ky, E_y= kx, E_z=0$

(c)$E_x= -ky, E_y= kx, E_z=0$

(d)$E_x= k(x^2+y^2), E_y= 2kxy, E_z=0$

[演習問題3-3]演習問題2-4を、電位を使って解き直す。


円筒座標の場合のラプラシアン $$ \triangle = {1\over r}{\partial\over \partial r}\left(r{\partial\over \partial r}\right)+ {1\over r^2}{\partial^2\over \partial \theta^2}+{\partial^2\over \partial z^2}$$

を使って、ポアッソン方程式&math(\triangle V = -{(電荷密度)\over \varepsilon_0});を解くと電位が求められる。電荷密度は$r_1<r<r_2$でρ、それ以外の場所では0である。境界条件は、r=0でV=0とせよ。

電位から$\vec E=-{\rm grad} V$を使って電場を求めると、演習問題2-4の答と一致することを確認せよ。

[演習問題3-4]「電荷のない空間では、電位が極大値もしくは極小値になることはない」という法則がある。この法則が成立しなかったと仮定すると(すなわち、電荷のない空間に電位の極大値もしくは極小値があったと仮定すると)、ガウスの法則が成立しないことを説明せよ。

[演習問題3-5] 厚みの無視できる半径Rと半径r($R>r$)の球殻を、中心を揃えて配置し、外側に電荷Q、内側に電荷-Qを与えた。電荷は球殻上で球対称に分布したとして、

(a) 電場と電位はどのようになるか?---電位の基準は好きに選んでよい(註:この場合、薄い球殻の中に電荷が集中して存在するため、電場はなめらかにつながらない。)。

(b) この系が蓄えている静電エネルギーはいくらになるか?---電荷と電位で表現する式${1\over2}qV$から求めよ。

(c) この系が蓄えている静電エネルギーはいくらになるか?---エネルギー密度の式${1\over2}\varepsilon_0|\vec E|^2$から求めよ。

[演習問題3-6] 電気双極子の作る電位$V(r,\theta)={p\cos\theta\over 4\pi\varepsilon_0 r^2}$が(原点を除き)ラプラス方程式の解であることを確認せよ。

また、この電気双極子を90度回転して、双極子モーメントのベクトルがx方向を向くようにしたとすると、電位$V(r,\theta,\phi)$はどうなるか(この時の電位はφの関数でもあることに注意)を求めよ。さらに、この式もまた原点を除いてラプラス方程式の解となることを確認せよ。

[演習問題3-7] 3.7.3節の計算を参考にして、二つの正電荷(ともに電気量q)が2L離れている時に二つの電荷の間に働く力は${q^2\over 4\pi\varepsilon_0 (2L)^2}$の斥力であることをマックスウェル応力から計算せよ。

[演習問題3-8]今、二つの点電荷(電気量はqとq')があるとする。qの作る電場を$\vec E$、q'の作る電場を$\vec E'$とすれば、 $$\vec E(\vec x)= {q\over 4\pi\varepsilon_0 |\vec x-\vec x_q|^3}\left(\vec x-\vec x_q\right)$$ $$\vec E'(\vec x)= {q\over 4\pi\varepsilon_0 |\vec x-\vec x_{q'}|^3}\left(\vec x-\vec x_{q'}\right)$$ である($\vec x_{q},\vec x_{q'}$は電荷q,q'のいる位置)が、実際にできる電場はもちろん、この二つの重ね合わせである$\vec E+\vec E'$となる。この電場の持つエネルギーは $${1\over2}\varepsilon_0\left(\vec E+\vec E'\right)\cdot\left(\vec E+\vec E'\right)={1\over2}\varepsilon_0|\vec E|^2 + {1\over2}\varepsilon_0|\vec E'|^2 +\varepsilon_0\vec E\cdot\vec E'$$ となる。このうち${1\over2}\varepsilon_0|\vec E|^2$は「電荷qだけが存在した場合の電場のエネルギー」であり、${1\over2}\varepsilon_0|\vec E'|^2$は「電荷q'だけが存在した場合の電場のエネルギー」であるから、残った$\varepsilon_0\vec E\cdot\vec E'$は「両方の電荷が存在して始めて生まれるエネルギー」であり、つまりはこれこそが「二つの電荷の相互作用によって生まれるエネルギー」であると考えられる。

適当な座標系を考えて$\varepsilon_0\vec E\cdot\vec E'$を全空間で積分し、結果が${qq'\over 4\pi\varepsilon_0|\vec x_q-\vec x_{q'}|}$となること(つまり、これが静電気力の位置エネルギーそのものであること)を確認せよ。

(hint:一方を原点に置き、もう片一方をz軸上に置く、あるいは二つを(L,0,0)と(-L,0,0)に置くなど、自分が計算しやすい配置で考えるとよい。)

第4章 導体と誘電体

ここまでは、真空中(せいぜい、電荷が存在する程度)の静電場を扱った。水中、空気中、あるいは木や金属などの固体の中など、物質がある場合には静電場はどのように変わるだろうか。

4.1 導体と電場・電位

導体とは、内部に電荷が存在し、その電荷が自由に移動できるような物質である。例えば金属では、電子の一部が「自由電子」となって金属内を移動することができる。このような状況では静電場はどうなるだろうか?

heikinka.png

金属の場合で考えよう。自由電子は(マイナスの電荷を持つから)電場と逆向きに力を受け、その方向に動き出すであろう。そして、電位の高いところに集まる。もし自由に動けるプラス電気があれば、それらは電位の低い方向に集まるだろう。

プラス電気が集まるとその場所の電位は高くなるし、マイナス電気が集まればその場所の電位は低くなる。つまり、この電荷の移動は「電位の平均化」を引き起こす。そして、導体内部では電位が平坦に近づく。

最終的にどうなったら電荷の移動が止まるかというと、結局は電場が0、すなわち電位が一定値になってしまうと、電荷はもう動かない。我々が今扱っているのは静電場なので、この「電荷がもう動かない」状態になってしまった後のみを考えることにする。すると、金属などの自由に電荷が移動できる導体中では、電場は0すなわち電位一定となることがわかる。

電荷の動きを模式化して表したのが下の図である。

seidenshahei.png

電場がかかることによって、導体内の電荷が移動し、上の方にプラス電荷、下の方にマイナス電荷が整列する。この結果導体内には外部からかけられた電場の他に、この整列した電荷による電場ができることになる。この二つの電場が重ね合わされて導体内の電場が消える(正確に言えば、導体内の電場が0になる状態になるまで電荷が移動する)。こうして導体内では電場が消えるのである。この現象は「静電遮蔽」と呼ばれる。

seidenshahei2.png

上の図では導体がびっしりつまっている場合を考えたが、実は電荷が自由に移動することさえできれば、間の部分の導体がなくても同じようにして電場は消えてしまう。導体内にできた空洞では電場は0になる。

電場がないところでは電位は変化しないから、導体表面、導体内部、そして導体内部の空洞は全て等電位となる。

4.1.1 導体表面の電場

導体内部には電場はなくなるということは、導体内に電荷が存在するとしたら導体表面しかあり得ず、しかも電気力線は導体外に向けてしか出ることはできない。

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さらにもう一つ電場には、導体表面に垂直でなくてはいけないという条件がつく。もし垂直でなかったら、その水平成分の分だけ、表面電荷を横に動かそうとする力が働いてしまう。それでは平衡状態にならない。したがってその状態では電荷の移動が起こり、最終的には必ず電場は面に垂直となる*3

電場の面に平行な成分が0になることは、静電場の場合の式${\rm rot} \vec E=0$からもわかる。${\rm rot}\vec E=0$ということは微小な面積を回るように試験電荷を動かした時、電場のする仕事が0だということである。

その微小面積を図のように導体表面の外側をなぞるように取る。導体の内側では電場は0だから、導体内部ではどんな経路を取るかに関係なく、電場は仕事をしない。導体外側には電場が存在するが、この電場が仕事をしてしまわないようにするためには、電場は表面に垂直でなくてはならない。

doutaihyoumen.png

では、この電場の強さはどれだけになるか。これはガウスの法則から計算できる。導体表面上の微小な面積$\Delta S$を含むように微小体積を取る。もし表面における電荷の面積密度がσであるとすれば、この微小体積内には$\rho \Delta S$の電荷がいる。この電荷は${\sigma\Delta S\over \varepsilon_0}$の電気力線を出し、その電気力線は外にだけ抜けるから、$\Delta S$という面積を通り抜ける。ゆえに電場の強さは$E={\sigma\over \varepsilon_0}$である。面の法線ベクトルを$\vec n$とすると、$\vec E={\sigma\over \varepsilon_0}\vec n$と書くことができる。前に考えた無限に広い板の場合は電場がこの${1\over2}$になっていたが、それは電気力線が上下両方に分配されていたからである。導体表面の場合、内側(図の下側)には電気力線が出ないので、電場の強さは2倍になる。

この後、無限に広い導体板の近くに電荷がある場合について少し話しましたが、細かい計算はまだなので、それは明日まとめて講義録とします。

今後の予定:

以下の日程で補講を行います。

試験は

です。

試験+これまでの課題発表の成績が悪い人には補習と追試験を課します。

補習:10月1日(月)から10月4日(木)(時間などは後で掲示します)

追試:10月5日(金)12:50〜14:20

誰が追試を受けるべきかは、8月10日の夜に掲示板(理313前と物理系事務室前)に張り出します。

質問が多かったのでここで答えておきますが、4章の内容については、計算問題などは出しません。計算はある程度練習しないとできるようにならないので、試験一週間前の授業でやったことを試験に出してもできないと思うからです。ただし内容に関係する簡単な設問は出しますので、「試験に出ないなら授業に出なくていいや」などとは思わないように(そもそも、大学生になってこんなことを考えているようではいけません)。

学生の感想・コメントから

自由電子の数に限りがあるとすると、導体内に電場は現れるのですか?

一応そうなりますが、金属内の自由電子を全部集めてしまうほどの電場がかかったら、導体の片方に集まった電子は金属外に出てしまう(放電してしまう)でしょう。

エレベータ内で携帯が使えないのは、エレベータが導体でできているからですか?

その通りです。エレベータは鉄の箱みたいなものですから。

${Q^2\over 2\varepsilon_0 S^2}$をエネルギー密度と言ってましたがどういうことですか?

「エネルギー密度」という言葉の意味を聞いているのですか? だったら、単位体積あたりのエネルギーということです。なぜこの式が出てきたのかというと、&mimtex({\varepsilon_0\over2}|\vec E|^2);の式に$E={Q\over\varepsilon_0 S}$を代入して出しました。

真空中の静電場のエネルギーは${\varepsilon_0\over2}\int|\vec E|^2 d^3 \vec x$だそうですが、物質中だと変わるのですか?

はい、その場合はちょっと変わります。そのあたりは明日配るプリントに書いてますが、授業はそこまでいけるかなぁ。。。。

自分の作った電位でエネルギーを得るとすると非線型になるんでしょうか?

そうなるかも。そうすると、重ね合わせの原理とかが使えなくなりますね。

どのくらい電場が強いと、電荷は導体の外に出れるんですか?

10万V/mぐらいは必要なようです。1cmあたり1000Vとか。もっとも電場の強さだけでなく、周りの状況に依っても大きく変わります。

テキストに3次元でない空間では面積に対応する量がベクトルではないと書いてありましたが、3次元だから${\rm rot}\vec E=0$となって保存力になるのですか?

いえ、電場による力が保存力になるのは何次元でも同じです。

${\rm rot}\vec E=0$が成り立つのは静電気の時だけではないのですか?

もちろん、静電気の時だけです。今やっているのは全部静電気の話だけですよ。

半径Rの球の表面に密度ρの電荷がある時の内外の電位を求めるという問題をポアッソン方程式で解いたら、R>rではV=C、R<rでは$V={C'\over r}$となって、定数が決められません。どうしたらいいのでしょうか?

球の表面にだけ電荷があると考えてしまうと、この問題は解けなくなります(δ関数を使う方法ならなんとかなるんですが)。方法としては、R<r<R+dの間に体積密度ρ'で電荷が広がって分布しているとして、後でd→0の極限を取ります。体積密度ρ'と面積密度ρの関係は、$\rho=4\pi R^2 \rho'$とします。これで解けるはずですよ。

${\rm rot}\vec E\neq 0$となるような静電場は、自然界では作れないのですか。

ムリですね。エネルギー保存則を破るようなことが起きていないとそんなことにはなりません。

誘電率は物質を構成する分子の極性に依存するのですか?

明日の範囲ですね。分子が電場をかけられた時、どの程度分極するかという性質に関係してきます。

補足の中にテンソルというのがありますが、tensionという名前から考えて場にばねのたわみがたくわえられるイメージですか?

いえ、応力テンソルが表すのはたわみを生じさせる力の方で、たくわえられているものを表すのではありません。

先生のホームページで光は質量は0なのに運動量があるという話でしたが、場のゆがみとして運動量があるということですか?

電磁場に運動量があるのは、ややこしい理屈は必要ありません。力を出すことができるものには全部運動量があるのです。でないと、運動量は保存しません。

電場は電荷に付随するものでしょうか?

電場を作る源は電荷です。でも何に付随するか、と言われたら、それは空間の各点各点に「電場」というベクトルの物理量が分布していると考えた方がよさそうです。

車の中にいたら雷から守られるのは車が導体だからですか? でも導体だとしたら、携帯はつながらないはずでは?

雷から守られるのは「電流」が車を通るため、人間の身体を通らないから。でも「電流」と「電場」は別です。「電流」は車の窓を通して入ってくるということはないですが、「電場」(電波)の方は入ってくる。だから携帯はつながります。

電子レンジの網の隙間から電磁場ってもれないんですか?

波は自分の波長より小さい隙間からは抜け出せない、という性質があるのです。電子レンジで使っている電波は10センチぐらいの波長があります。

電場がエネルギーを蓄えて質量を持つことから、電磁波が粒子性

電場は物体の質量に影響を与えますが、電磁波の粒子である光子には質量はありません(このあたりは3年になったら相対論の授業で勉強してください)。電場がエネルギーを持つからということだけでは波動性と粒子性の二重性があることを説明するのはムリです。これも3年の量子力学で勉強して欲しいのですが、波動性と粒子性の二重性というのは実はもっともっと複雑で深刻な問題です。

導体中で電場が打ち消されずに残るということはあるのですか?

静電場ならありません。ちょうど打ち消す状態になるまでは電荷が移動するからです。

部分積分のところで、$\left[ {\varepsilon_0\over2}\int E_x(\vec x)V(\vec x) dy dz \right]^{x=\infty}_{x=-\infty}$でdydzになるのがわからなかった。

その時に質問しましょう!!! もともとdxdydzという積分で、x積分が終わったのでdydzだけが残っているのです。

導体=金属ではないんですか? 自由電子を持たない導体ってあるんですか?

厳密には金属でないセラミックなどの化合物なども、電気を通すことはあります。自由電子でなく、イオンや正孔(ホール)が電気を運んでいる導体もあります。


*1 慣れてきたら上の計算は、$ \int(\vec\nabla \cdot \vec E)V = - \int\vec E\cdot \vec \nabla V= \int \vec E\cdot \vec E$といっきにやりたいところである。
*2 「テンソル」はもともと「張力(tension)」が語源。
*3 なお、電場が十分強いと、電荷は導体の外に出る。これが放電という現象で、雷もその一例である。

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Last-modified: 2024-01-12 (金) 19:41:41