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3.6 ローレンツの考えからアインシュタインの相対性理論へ

ローレンツは「ヘルツの方程式の導出では、電場や磁場の値が座標系によって変化しないと考えている」という点に異議を唱えた。ローレンツがこの点を改良したうえで、さらに、後で述べるマイケルソン・モーレーの実験を説明するための「ローレンツ短縮」という現象なども取り入れるように作ったのがローレンツ変換である。 ローレンツ変換はマックスウェル方程式を不変にするので、ヘルツの方程式のような新しい方程式は出てこない。そのかわり、電場や磁場は

\vec E' = \vec E + \vec v\times \vec B
(電場のローレンツ変換の式)
\vec B' = \vec B -{1\over c^2} \vec v\times \vec E
(磁場のローレンツ変換の式)

のように、座標系によって違う値を取ると考えた。なお、実際のローレンツの式はもっと複雑なのだが、この式では\left({v\over c}\right)^2のオーダーを無視して簡単にして書いている。

lorentzF.png

\vec E'\vec B'は、\vec x'座標系での電場と磁場である。二つの座標系は、\vec x座標系から見ると\vec x'座標系の原点が速度\vec vで動いていくように見える座標変換でつながっている。ただし、変換はガリレイ変換に似ているが単純ではない。

ローレンツは各種実験をちゃんと再現できるように考えてこの変換にたどりついた。この変換によれば、ある座標系では電場がなく磁場だけが存在していたとしても、その座標系に対して速度\vec vで動くような座標系には電場と磁場の両方が存在する。ローレンツは磁場中を動いている電荷が感じる力は、その電荷が静止しているような座標系では電場が存在していて、その電場により力を受けるからだと考えられることを示した。その力こそq\vec v\times \vec Bであり、現在「ローレンツ力」と呼ばれている*1;を指す。))。3.2節節で考えた動くコイルの問題も、(磁場のローレンツ変換の式)式を考えれば、「動いているコイルから磁場を見ると、そこには電場もあるように見える」という考え方で解くことができる。

ヘルツの方程式では説明が困難であった現象を、「マックスウェル方程式+ローレンツ変換」によってうまく説明することができた。しかしこの時点でのローレンツ変換にはいくつか不明確な点や未完成な点がある。そのためここで説明するとかえって混乱することになりそうなので、ローレンツ変換自体の説明は少し先に延ばす。歴史的には、ローレンツが試行錯誤の末にローレンツ変換を作りあげた後、アインシュタインが特殊相対性原理という形で、その背後にある物理的内容を明確にしてくれた。現在の我々も、特殊相対性原理の考え方を使ってローレンツ変換を考えた方がわかりやすい。

以上からわかるように、エーテルの静止系でのみマックスウェル方程式が成立するという考え方は、いろいろと実験的不都合を招く。その不都合の最たるものが次の章で説明するマイケルソン・モーレーの実験である。マイケルソン・モーレーの実験は「光の速度は観測者によって変わるはず」ということを確認するための実験であったが、その結果は失敗に終わり、光の速度が変化しないことが確認されてしまったのである。つまり、エーテルの存在=絶対空間の存在にとどめをさす実験であった。

だが、忘れないでいて欲しいのはマイケルソン・モーレーの実験だけがエーテルの存在(絶対空間の存在)を否定しているわけではないということである。この節で述べたように、ヘルツの理論(マックスウェル方程式+ガリレイ変換)ではどうしてもうまく説明できない実験事実がいろいろとあったからこそ、アインシュタインを筆頭とする20世紀の物理学者達はガリレイ変換を棄却してローレンツ変換を採用し、特殊相対論を展開させた。新しい物理というのは、一つの実験だけをきっかけに一朝一夕にできあがるようなものではないのである。

3.7 マイケルソン・モーレーの実験

ヘルツの考察から、(ガリレイ変換が正しいとすれば)、電磁気の基本法則はマックスウェル方程式ではなくヘルツの方程式で表されることになる。このヘルツの方程式は結局は間違っていたわけであるが、間違っていると言っても理論的に間違っているわけではない。ヘルツの方程式は実験によって否定されるのである。ヘルツの方程式が正しいかどうか、あるいはエーテルが存在しているのかどうかを確認する実験として、ここではもっとも有名で、かつ直接的な測定であるマイケルソン・モーレーの実験について述べよう。光の速度がエーテルの運動によって変化するかどうかを確認した実験である。光の速さを測定しよう、というのであれば、一番単純な方法は「A地点で光を発射してB地点で受ける。A地点とB 地点の距離をかかった時間で割る」というものであろう。原子時計などを用いて精密に時間を測ることができる現代であれば、まさにこの通りの実験ができる。しかし、当時はまだそんな測定はできない。そこで干渉を用いて速度変化を検出しようというのがマイケルソン・モーレーの実験である*2

MM.png

マイケルソンは以下で説明する原理の実験を、1881年に最初に行っている。以後、1887年からはモーレーと協同で装置を改良し、実験精度を上げながら実験を続けている。実験の目的は、南北方向の光と東西方向の光の速度を比較することである。地球が南北方向より東西方向に大きく動いているであろう(太陽が静止していると考えて、太陽から地球の運動を見ていると考えればこれはもっともらしい)ことを考えると、速度には差が出てきそうに思える。また、たとえそうでなく、たまたまエーテルの流れと地球の自転公転の速度が一致していたとしても、地球は1日の間に1自転し、1年の間に1公転する。したがって長い時間実験を行えば、かならずどこか(いつか)エーテルの風が吹く場所がありそうである。

マイケルソンとモーレーの実験の概念を説明するアニメーションプログラムがあります。今日はそれ見せながら話をしました。なお、このプログラムは去年のバージョンそのまんまです。

マイケルソンとモーレーの実験では、図のように、同じ長さの腕2本の上を光が往復する。エーテルが静止している(あるいはエーテルと実験装置が同じ速度で動いているとしても話は同じこと)と考えると、どちらの方向に進んだ波も、帰ってくるまでにかかる時間はt={2L\over c}となるだろう。

ではエーテルの風が図で左(西向き)に吹いている場合(あるいはエーテルが静止していて、観測装置が右に動いている場合)を考えよう。断っておくが、以下の計算は(ガリレイ変換が正しいと仮定した場合)の計算である(後でこう考えたのではいけない、ということがわかる)。この仮定のもとでは、2種類の計算ができる。一つはエーテルが静止して実験装置が右(東)に動いているという立場であり、もう一つは実験装置が静止してエーテルの風が西向きに吹いているという立場である。

エーテルが静止している立場: まず、エーテルが静止している立場で考えよう。この立場では、実験装置が右へ動いている、ということになる。その立場で書いたのが上の図の中央と右の図である。実験装置がエーテルに対して速度vで東(図で右)に運動しているとして、南北方向へ進む光について考える。中央から棒の端まで光が進むのにt かかったとすると、ピタゴラスの定理により(ct)^2=(vt)^2+L^2が成立する。光が往復にかかる時間はこの2倍なので、

#math( t_{南北}={2L\over \sqrt{c^2-v^2}})

となる。次に東西である。まず中央から棒の端まで光が進むのにt_1かかったとする。その間に棒もvt_1進んでいるので、光はL+vt_1進まねばならない。逆に棒の端から中央まで戻る時にt_2かかるとすると、この時進む距離はL-vt_2でよい。以上から

L+vt_1=ct_1
(東西時間の式1)
L-vt_2=ct_2
(東西時間の式2) を解くことにより

#math( t_{東西}={L\over c-v}+{L\over c+v}= {2cL\over c^2-v^2} ) が求まる。

実験装置が静止している立場 :)この場合はエーテルの風に乗った方向(西行き)では光速がc+vになり、逆風の方向(東行き)では光速がc-vになると考えて計算する。

hikari.png

また、エーテルの風と直角の方向(北行きもしくは南行き)の光は、速度が\sqrt{c^2-v^2}に減る(速さcで斜めに進んだ光が、速さvで東に流されると考えれば、ピタゴラスの定理でこうなることがわかる)。

このように考えると、距離Lを速さc+v,c-v,\sqrt{c^2-v^2}でそれぞれ割って足し算するという計算で&math(t_{東西});や&math(t_{南北});が計算できる。結果は同じことになるのはすぐにわかる。

以上、どちらの計算でも&math(t_{東西});と&math(t_{南北});が得られる。そして、この二つには差がある。vはcより十分小さいとして近似を行うと、

#math( t_{南北}\simeq {2L\over c}\left(1+{1\over2}\left({v\over c}\right)^2+\cdots\right),~~~~ t_{東西}\simeq {2L\over c}\left(1+\left({v\over c}\right)^2+\cdots\right)) つまり、{2L\over c}\times{1\over2}\left({v\over c}\right)^2ぐらいの時間差が出ることになる。cが自転(秒速0.46キロ)や公転(秒速30キロ)に比べて非常に大きい(秒速30万キロ)ため、{v\over c}は公転速度をとったとしても10^{-4}程度の値になる。最初の実験ではL=3mほどだったので、時間差は

\Delta t = {2\times 3\over 3.0\times10^8}\times {1\over2}\left(10^{-4}\right)^2\simeq 10^{-16}

となり、10^{-16}s以上の精度での時間の測定が必要となる。そこで実際の実験では時間を直接測定するのではなく、光の干渉を用いて到着時間が変化する様子を見定めようとした(実際には到着時間が変化しないという結果が出た)。

二つの光をハーフミラーなどを使って重ねてスクリーンなどにあてると、ヤングの実験やニュートンリングの実験などと同様に、二つの光の光路差によって干渉が生じ、スクリーン上に縞模様ができる(実際に使う光はある程度の広がりがある)。エーテルの風が吹いている時と吹いてない時では光路差が違うので、干渉の(強め合うとか弱め合うとか)の条件が変化する。10^{-16}という時間は短いが、光路差に直すとc=3.0\times10^8がかかって3.0\times10^{-8}mとなる。光としてナトリウムランプを使ったとしたらその波長6\times10^{-7}mに比べ、だいたい20分の1 となる。この光路差の違いは干渉縞の移動という形で感知できる。

実験装置は90度回転できるようになっており、回転しているうちに南北と東西が入れ替わる。光路差はプラスからマイナスへと、この倍変化するので、波長の10 分の1程度光路差が変化する。ということは明線から明線までの距離の10分の1 (明線から暗線までの距離の5分の1)の干渉縞の移動が見られるはずであった。なお、実験で感知できるのはあくまで「光路差の違い」であって、「光路差」そのものがいくらかはわからないことに注意せよ(実際に実験によって測っているのは干渉縞の位置であって、干渉で強めあっているからと言って光路差0とは限らない)。実験装置を90度傾けるのは、他の状況を変えずにエーテル風の角度だけを変えて、その時の光路差の変化の様子を知るためである。

ところが、実際にはそのずれが観測されず、エーテルの風は吹いていない、という結論になった。マイケルソンとモーレー、あるいは別の人々が実験装置を大きくしたり、光を何度も反射させてLを大きくしたりして、いろんな実験を行ったが、結果は常に予想される移動量よりも小さく出た(この移動は誤差の範囲内)。

いくつか、この実験結果への反論(および反論の反論)を紹介しておこう。

つまり「実験装置が動いている場合の計算で速度をcにしているのが間違いなのではないのか」ということだが、例えば音の場合、音源が動いているからと言って音速は変化しない。音速が変化するとしたら、風が吹く(つまり媒質が運動する)か、観測者が動くことによってみかけの音速が変化するか、どちらかである。今は媒質の運動しているかどうかを観測する実験をやっているのである。なお、&math(t_{東西} );の計算ではc+vやc-vが現れているが、これは光速が変化しているのを意味しているのではなく、棒の両端(光源ではなく、光を受ける方)が動いているために到達時間がのびたり縮んだりしていることのあらわれである。式(東西時間の式1)と式(東西時間の式2)の作り方をよく見てみよう。

だとしたら、その6ヶ月後に同じ実験をしたら、公転速度の二倍分、エーテルに対して地球は移動しているはずである。しかし、そんなことはなかった。

この実験だけを説明するのなら、「エーテルは地球表面といっしょに運動しているので、地球上で実験してもエーテルの運動は検出できない」という考え方でも説明できる。しかし、そうだとすると地球表面でエーテルが渦巻くような流れを作っていることになり、外から地球にやってきた光は、地表面近くのエーテルの流れに流されることになる。これでは、我々が見ている星の位置は、地上のエーテルの流れに流された分ずれることになってしまう。しかし、そんな現象は確認されていない。また、マイケルソンとモーレーは屋外での実験も行っており、「部屋の中のエーテルは部屋と一緒に動いている」という考え方も正しくない。

実験というのは、「これを判定するためにはこれだけの精度が必要である。ゆえにこのように実験装置を組み立てる」という計画を持って行うものである。マイケルソンらも、上に書いたような「光の干渉縞はどれだけ移動するはず」という予想をもって、誤差の精度がその予想より小さくなるように注意して実験を行っている。正しい実験家は、精度が確保できないような実験は最初から行わないのである。だから「古い実験だから精度が悪い」などということはない。また、この実験自体は現在でも(光にレーザーを用いるなど、さまざまな改良をしたうえで)行われているので、「古い実験だから」などという反論は、そもそも成立しない。

3.8 古い意味のローレンツ短縮

マイケルソン・モーレーの実験でエーテルの速度が検出されなかったことは、物理学者たちに衝撃と困惑を与えた。ローレンツは&math(t_{東西});と&math(t_{南北});が\sqrt{1-\left({v\over c}\right)^2}倍違うことから、「東西方向の棒の長さは\sqrt{1-\left({v\over c}\right)^2}倍に縮んでいる」という説を唱えた。これが古い意味での「ローレンツ短縮」である。フィッツジェラルドも同じようなことを考えていたので「ローレンツ・フィッツジェラルド短縮」と呼ぶこともある。

ローレンツは、この短縮は観測できないと述べている。なぜなら、この短縮を観測しようとして物差しをあてると、その物差しも一緒に縮んでしまう。また、目で見ようとしても、見ようとする目自体も横に短縮している。よって地上で、同じ速さで走っている我々がローレンツ短縮を測定することはできないのである。地球の外から見れば見えるだろうが、その短縮の割合は\sqrt{1-\left({v\over c}\right)^2}であり、{v\over c}10^{-4}程度だから、縮む割合は10^{-8}程度となる。そもそも、この精度で長さを測定すること自体が難しいだろう。

本によっては、「ローレンツ短縮」を相対論の帰結である、と説明しているが、ローレンツはあくまで実験を説明するためにad hoc*3にこの短縮を導入したのであって、相対論の帰結として理論的に導き出したわけではない。

もう一つ注意しておく。このローレンツ短縮という考え方では、マイケルソン・モーレーの実験について説明することは可能だが、そのほかの実験を説明するにはこれでは足りない。「ローレンツ変換」はその一部として「ローレンツ短縮」と同様の現象を含んでいるが、より広い意味がある。

「ローレンツ短縮」も「ローレンツ変換」も、アインシュタインではなくローレンツの名前がついている。どちらもアインシュタインより前にローレンツが提出しているからである。しかしローレンツは(同様にこのあたりの研究をしていたポアンカレもそうなのだが)「ローレンツ短縮」を、例えば「エーテルの圧力によって物体が縮む」というような、力学的な意味での短縮だと考えていた。「ローレンツ変換」に関しても「こう考えればうまくいく」という提案であって、その意義を理解してはいない。後で出てくるアインシュタインによる考え方とはその点が違うので注意すること。


[問い3-2] ローレンツ短縮という現象が起きているとすると、確かに二つの光はエーテル風が吹いていても吹いていなくても、同時に到着する。しかし、この立場で考えると、ある二つの事象が、エーテル風がない時には同時であるのに、吹いている時には同時に起こらない。それは何か???

答は「光が反射する時間」。アニメをじっくり見てみよう。

3.9 現代における光速度不変

マイケルソン・モーレーの実験は100年以上前の実験であり、当時の実験技術の粋をこらして実行されたものとはいえ、現代の技術でならばもっと精密な実験が可能である。もちろんそのような実験も行われており、マイケルソンとモーレーの実験に比べると精度は10万倍に上がっている*4。もちろん、光速度不変の原理を疑うに足る証拠はまったくない。

しかも、現代ではもっとシンプルな方法で光の速さを測定できる。「A 地点で光を発射してB 地点で受ける。A地点とB地点の距離をかかった時間で割る」という方法である。マイケルソン・モーレーの実験ではエーテル風の影響は\left({v\over c}\right)^2のオーダーであったが、このような直接測定を行えば{v\over c}のオーダーで影響が出る。一方、現在の原子時計が10^{-7} 秒ぐらいの精度で時間を測ることができる。

逆に、「光がこれだけの遅れで伝わってきたからA地点とB地点の距離はこれこれである」という原理で現在位置を測定する機械がある。カーナビなどで使われているGPS(Global Positioning System)である。GPSは複数の人工衛星からの電波を受信して、その電波が発信源からどれくらい遅れて到着したかということを計算して自分の位置を測る。衛星Aからの電波が衛星Bよりの電波に比べてより遅れているのなら、自分は衛星Bの近くにいると判断する、という具合いである。このような機械がうまく動作するためには「光速が一定である」という大前提がなくてはならない。衛星は頭上2万キロぐらいの高さを回っている。カーナビの精度は数メートルぐらいであるから、10^{-7}の精度で距離が測定できていることになる(誤差の原因は、電波が大気中を通る時の速度変化と、軍事利用されないためにわざと混入されている誤差)。エーテルの風が吹くという考え方がもしも正しいならば、GPSの衛星から来る電波の速度が季節によって10^{-4}ぐらい変化してしまうことになるので、10^{-7}の精度で距離を測ることなど、とてもできない。つまり、現在我々の生活に直接関係する部分でも、エーテルが存在しないことを前提とした機械が使われており、しかも何の問題もなく動作しているということになる。すくなくとも現在の実験のレベルにおいて、光速度不変を疑うことはもはやできない。もちろん今後実験精度がさらにあがった時に何か変なことが発見される可能性は零ではないが、それを言い出せば、もともと物理における全ての法則は実験精度の範囲内でしか保証されていないのは当然のことである。

3.10 光の伝搬とガリレイ変換

lightcone.png

次の章でいよいよローレンツ変換を導いていくが、その前に、ガリレイ変換の考え方では「光は誰が見ても同じ速度である」という事実を説明できそうにない、ということを確認しておこう。

光が一点からまわりに広がっていく、という現象は左側の図のように記述することができる。例によってz座標を省略している。これは円錐のように見えるので、光円錐(light-cone)と呼ばれる。光円錐の中に書かれている太線矢印はある粒子の軌跡を表している。

この現象を、左に走りながらみたらどうなるだろう。ナイーブに考えると*5、右側の図のようになると思われる。

lightcone2.png

しかし、光の速度は動きながらみても変わらないということが実験事実なので、光円錐の形は変化しないことになる。しかし、物体の運動に関しては変化している(これも実験事実!)。

ちなみに、光の速度は変化しないが、その様子(波長だとか振動数だとか)はいろいろと変わっている。どのように変化するのかについては今後の講義で話そう。とにかくここまでで感じて欲しいことは、「図Aを動きながら見たら図Bではなく図Cになるとしたら、図Aと図Cはどのような関係になっているのか」ということである。

「動きながら見るということは時々刻々位置が変化していく、ということだから、超平面の位置がこの図で見て水平方向にずれていくはずだ」という考え方(ガリレイ変換はまさにこういう変換なのである)をすると、どうしても結果は図Bになってしまう。図Aが図Cに変化するためには、この図の水平方向の動きだけではだめである。かならず「超平面を傾ける」というような操作が必要になる。実際にどんな操作なのかは以後の講義を聞いてのお楽しみであるが、このような操作がすなわち「4次元的に考える」ということなのである。

3.11 章末演習問題

[演習問題3-1]3.2節節の最後では、エーテル風の速度vがちょうどcの時に、止まっている電磁波がヘルツの方程式を満足することを確認した。速度がちょうどcでない場合、電場や磁場はどんな式になるか。そして、それはヘルツの方程式を満足しているか。}{}{}

[演習問題3-2]サールの思考実験で、コンデンサーが速さvで動いている時に発生する磁場によって働く極板の間に働く力が、極板が静止している時から働いていたクーロン力と比べると、{v^2\over c^2}という因子がかかるぐらい小さくなることを示せ。なお、計算は概算でよい(ちゃんと計算した場合の答はもっと複雑である)。

[演習問題3-3]

z軸と一致する無限に長い直線上に、線密度ρで静止した電荷が分布している。この時、z軸からrだけ離れた場所には、外向き(z軸から離れる向き)に、{\rho\over 2\pi \varepsilon_0 r}の電場が存在する。

これを速度\vec vで動きながら見たとしよう。どれだけの磁場が発生することになるか?

densenV.png

・(磁場のローレンツ変換の式)式を使って。

・どれだけの電流が流れているように観測されるかを考えて。

の2通りの方法で計算し、一致することを確認せよ。

なお、{v^2\over c^2}のオーダーは無視してよい(つまり後で出てくる正確なローレンツ変換の式は使わなくてもよい)。

[演習問題3-4]マイケルソン・モーレーの実験で、二つの腕の長さを変えたとしよう(東西はL、南北はL')。この時はエーテル風が吹いていない状態でも時間差がある。エーテル理論の立場に立ち(つまりガリレイ変換を用いて、光速は変化するという立場にたって)エーテル風が吹いていない場合の時間差と、エーテル風が吹いている場合の時間差を計算し、ローレンツ短縮が起こったとしても、この二つが違う値を持つことを確認せよ。

(註:このような実験は1932年にケネディとソーンダイクによって行われている。「エーテル風の分だけ光速が変化しているがローレンツ短縮が起こっているのでマイケルソン・モーレーの実験ではそれがわからない」という仮説が正しいなら、この時間差は測定できるはずであるが、できなかった。ということは、ローレンツ短縮だけでは実験結果を説明することはできないのである。この実験も含めてちゃんと説明できるのは次で説明するローレンツ変換である。)

来週(5/22)は開学記念日で休講です。次回は5/29になります。

学生の感想・コメントから

p34の21行目と22行目に同じ一文が繰り返されています。強調ですか?

単なるミスです。上の講義録では直しました。

ローレンツ短縮は面白い。(多数)

目で見えるともっと楽しいんでしょうが、光速の何10%で飛んでいくものなので、目視するのは難しいですね。

どんな波でも、波源が動いても波の速度は変わりませんか?(媒質・観測者は運動していないとする)

変わらないですね。波というのは、いったん波源を出てしまったら後は媒質の性質だけで全てが決まります。

光の速度が変わらないというのは納得できない。変わるんじゃないですか?(複数)

と言われても、納得できるかどうかが大事なのではなく、「実験で検証されているかどうか」が大事なんですよ。実験で「変わらない」と出た以上、それは認めないと。

アインシュタインも長さが縮むと言ったんですか?どこが違うんですか?

ローレンツは力学的に「押されて縮む」というような現象だと思っていたみたいです(しかし、実験装置の材質を変えても結果は変わらなかった)。アインシュタインの考え方は座標変換そのものが縮む理由です。

のびるってのもありませんでした?

後で2台のロケットのパラドックスってのがあるんですが、それかな?

ローレンツ短縮は確率解釈よりも気持ち悪い。

うーん、どっちもどっちで気持ち悪い。

GPSの仕組みですが、衛星に位置は常に地球からみて同じなんですか?

いいえ、動いてますが、それを計算に入れて自分の位置を割り出すようにしてます。

昔の人が光の速度を測定していたと言いますが、どんなふうに測定していたんですか?

いろいろ方法があります。学生実験でもやりませんでしたか??

理論の裏付けは実験が不可欠だと言いますが、この点でアインシュタインは実験的考えも天才的なものがあったのですか?

アインシュタインが相対論を作った時は、実験的なことよりも「マックスウェル方程式はどんな座標系でも成立するはずだ」という理論的な要請の方を主に考えていたようです。

光の話は実感しにくい感じがします。日常生活でエーテルがないと分かることはみつかっていますか?

マックスウェル方程式が成立すること、つまり電気現象がマックスウェル方程式どうりに動くこと、これがエーテルがないことの一番の証明だと思います。後で実例を示します。

私もローレンツ短縮しているんでしょうか?(複数)

あなたも、あなたに対して動いている人から見れば、ローレンツ短縮していますよ。

マイケルソン・モーレーの実験は真空中でやったのですか?

空気中でも、真空中でもやってます。

次の授業で全てがわかるんでしょうか? まだ分かってないこともあるんでしょうか?

物理の謎がつきることはないと思います。特殊相対性理論がどんなものか、というのは来週と再来週でだいたいわかるでしょう。

マイケルソンさんの実験の物が縮むという言い訳はありなんですか?

まず一つ指摘しておくと、物が縮むという話をしたのはマイケルソンさん本人じゃなくて、ローレンツとフィッツジェラルドです。マイケルソンは結果を報告したのみ。現代から見てこの考え方はOKなのか、というと、ダメです。ローレンツ短縮では現象を説明しきれません。物理学者の態度として、これでいいのか、という意味なら、当時の考え方としてはOKでしょう。何度も言ってますが、物理は実験が一番大事。実験に合うように筋道の通った説明ができるのなら、それが一番です。

光は何に対しても不変の存在なのですか?

どんな運動をしながら見ても光速が変わらないという意味なら、そうです。でも例えば振動数がドップラー効果で変わったりはするので、完全に不変というわけではないでしょう。

次回が楽しみです。

お楽しみに。再来週ですが。


*1 広い意味でのローレンツ力は電場の力と磁場の力の和&mimetex(q\left(\vec E+\vec v\times \vec B\right
*2 現在ならもっと直接的でシンプルな実験が可能だという意味では、マイケルソン・モーレーの実験を使って光速度不変を説明するという方法は、``古臭いやりかた''なのかもしれない。このテキストでは歴史的重要性を尊重して古臭いやりかたを踏襲する。
*3 「その場しのぎ」という意味の言葉。科学でなにかの現象を説明するために急ごしらえで作った説などを「ad hoc仮説」などと言う。
*4 むしろ、マイケルソン・モーレーの実験器具は干渉を用いて精密に距離を測定する方法として使われることも多い。光速が一定であることを逆手にとって利用して、距離をはかる手段に使うのである。重力波の観測機器にも使われている。
*5 「ナイーブ(naive)」という言葉は日本語だと良い意味にとられるが、英語では「だまされやすいばか」という意味にとられることが多い。特に物理で「ナイーブに考えると」という言葉は「間抜けが考えると」に近い。

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Last-modified: 2024-01-12 (金) 19:41:36