第12回 目次に戻る

8.4 4元加速度、4元運動量と4元力

4元速度をさらに固有時τで微分したものを4元加速度と言う。式で書けばA^\mu={d^2 x^\mu\over d\tau^2}となる。4元加速度は、3次元の加速度a^i={dv^i\over dt}とはだいぶ違う形になる。

4元加速度の性質として、4元速度と(4次元の意味で)直交する。なぜなら4元速度の自乗が一定であることから、

\begin{array}{rl}  0=&{d\over d\tau}\left(\eta_{\mu\nu}{dx^\mu\over d\tau}{dx^\nu\over d\tau}\right) \\0=& 2\eta_{\mu\nu}{d^2 x^\mu\over d\tau^2}{dx^\nu\over d\tau} \end{array}

となるからである。この式はすぐ後で使う。

ここで、そもそも運動量やエネルギーというものが、ニュートン力学においてどのように導出されたものか、ということを思い出そう。まず運動方程式

m{d^2 x^i\over dt^2}=f^i

から出発する。この両辺を時間で積分(区間は[t_i,t_f])すると、

m{d x^i\over dt}|_{t=t_f}- m{d x^i\over dt}|_{t=t_i}=\int_{t_i}^{t_f} f^i dt

という式が出る。これは、運動量の変化が力積である、という式である。

また、x^iで積分すると、

\int_{x_i}^{x_f}  m{d^2 x^i\over dt^2}dx^i=\int_{x_i}^{x_f} f^i dx^i
m\int_{t_i}^{t_f} {d^2 x^i\over dt^2}{dx^i\over dt}dt=\int_{x_i}^{x_f} f^i dx^i
m\int_{t_i}^{t_f} {d\over dt}\left({1\over2}\left({dx^i\over dt}\right)^2\right)dt=\int_{x_i}^{x_f} f^i dx^i
{1\over2}m\left({dx^i\over dt}\right)^2|_{t=t_f}-{1\over2}m\left({dx^i\over dt}\right)^2|_{t=t_i} = \int_{x_i}^{x_f} f^i dx^i

という式が出る。x_iは時刻t_iでの粒子の位置(x_f,t_fも同様)である。つまり、エネルギーは仕事f_i dx^iによって変化する量として定義されている。

4元速度に質量*1をかけたものを4元運動量と呼ぶ。

P^\mu =\left( mc{dt\over d\tau},m{dx\over d\tau},m{dy\over d\tau},m{dz\over d\tau}\right)

のようなベクトルで、これは3次元の運動量

p^i=\left(m{dx\over dt},m{dy\over dt},m{dz\over dt}\right)

と、

P^\mu=\left( mc \gamma, \gamma p^1, \gamma p^2 , \gamma p^3\right)

のような関係にある。ここで、4元運動量の第0成分にはどんな意味があるのかを知るために、この4元運動量の微分dP^\muについて考えてみる。

4元加速度と4元速度が直交するという式にmをかけると、m{d^2 x^\mu\over d\tau^2}={d\over d\tau}\left(m{dx^\mu\over d\tau}\right)={dP^\mu\over d\tau}を使って、

\eta_{\mu\nu}{dP^\mu\over d\tau} {dx^\nu\over d\tau}=0

という式が出る。この式をさらに少し変形すると、

\begin{array}{rl}  \eta_{\mu\nu}dP^\mu dx^\nu&=0 \\-dP^0 d(ct) +  dP^i dx^i&=0\\  dP^i dx^i&=dP^0 d(ct) \\  {dP^i\over dt} dx^i&= c dP^0 \end{array}
(P^0の定義) となる。つまり、{dP^i\over dt}dx^iの3次元的内積がcP^0の変化量となる。ニュートンの運動方程式と同じように、
f^i = {dP^i \over dt}

のようにして力を定義*2するならば、(P^0の定義)はまさに

#math( 仕事(f^i dx^i) ~~=~~ cP^0の変化(cdP^0)) という式になる。これはcP^0がエネルギーと解釈できることを示している。つまりエネルギーは「時間方向の運動量\times c」なのである。量子力学でp=-i\hbar{\partial \over \partial x},E=i\hbar {\partial \over \partial t}のような対応になっているのは、エネルギーが時間方向の運動量だからであるとも言える。Eだけ符号が違うのも、もちろん\eta_{\mu\nu}が時間的成分のみマイナスであることが関係がある。

4元運動量の自乗は\eta_{\mu\nu}P^\mu P^\nu=- m^2 \eta_{\mu\nu}V^\mu V^\nu= -m^2c^2であるから、P^0={E\over c}とおくと、

-m^2 c^2 = -\left({E\over c}\right)^2 + |P^i|^2

という式が成立する。上の式から、運動量の大きさが増えるとエネルギーも増加する(自乗の差が一定値なのだから)。

cP^0がエネルギーと解釈されるべき量であることを、vがcより小さいという近似で確認しよう。

\begin{array}{rl} cP^0=c m c\gamma =& mc^2 {1\over \sqrt{1-\beta^2}}=mc^2\left(1+{1\over2}\beta^2+\cdots\right)= mc^2 + {1\over2}mv^2+ \cdots\\\end{array}

となって、定数項mc^2とβの4次以上の項を除けばなじみのある運動エネルギーの式{1\over2}mv^2が出てくる。なお、相対論で有名な公式*3であるE=mc^2はこの式の\beta=0にしたものである(つまり、特別な状況での式であることは忘れてはならない)。

つまり静止している物体もmc^2だけのエネルギーを持っているということを表している。しかし、通常の力学ではエネルギーの原点には意味がない。取り出すことのできるエネルギーは結局はエネルギーの差であり、cP^0の最小値はmc^2なのだから、このmc^2はこの一個の粒子の運動を考えている限りにおいては取り出すことのできないエネルギーということになる。この「静止エネルギー」mc^2の意味は、単にエネルギーの原点がずれているだけにすぎないのである。しかしこのmc^2がないとP^\muが4元ベクトルでなくなってしまうので、4元運動量として意味があるためにはmc^2を消してしまうことはできない。

この時点ではmc^2は、実用的な見地からは深い意味はない。しかし、複数の物体が合体したり、あるいは逆に物体が分裂したりする現象を考えると、この式に含まれる深い意味が明らかになる。これについては後で話そう*4

なお、ここで定義した力f^i={dP^i\over dt}は、その定義(t微分を使ったところ)からして4元ベクトルになっていない。4元ベクトルになる力F^\mu

{dP^\mu\over d\tau}=F^\mu

で定義すると、F^\mu= {dt\over d\tau}f^\muという関係が成立する。このτは、今力が及ぼされている物体の固有時であるから、その物体が速度u^iを持っているならば、

{dt\over d\tau} ={1\over \sqrt{1-{u^2/c^2}}}

である。

F^\muを「4元力」または「ミンコフスキーの力」と呼ぶ。

4元力は4元ベクトルであるから、その変換性は他の4元ベクトルと同様で、x方向に速度βで移動する座標系へ変換した時、

F^{\prime1}=\gamma(F^1-\beta F^0),~~~~ F^{\prime0}=\gamma(F^0-\beta F^1),~~~~F^{\prime2}=F^2,~~~~F^{\prime3}=F^3

となる。f^\mu=\sqrt{1-\left(u/c\right)^2}F^\muという式が成立している(uは今考えている粒子の速度である)ことを考えると、f^\muの方の変換も計算できる。ただしその時は、x座標系とx'座標系では、物体の速度u^iも速度の合成則に従って変換することに注意しよう。したがってf^\muの変換はF^\muに比べると複雑なものになってしまう。

8.5 質量の増大?

よく相対論の本では「運動すると物体の質量が増大する」という意味のことが書 いてある。この講義ではここまで一貫して質量mを定数として扱ってきた。で はこのmは増大するのだろうか?

もちろん、しない。では「運動すると物体の質量が増大する」とはどういう意味 なのか。ここで「そもそも質量の定義とは何か?」ということに立ち戻る必要が ある。 ニュートン力学における質量は運動方程式

f^i = m{d^2 x^i  \over dt^2} もしくは f^i = {dp^i\over dt}

によって規定されている。相対論的力学でも、力としてf^\muの方(4元力F^\muではなく)を使えば、ニュートンの運動方程式と同じ形の、

f^\mu = {d P^\mu\over dt}

であるが、運動量P^\muはこの場合4元運動量であって、3次元運動量p^iとは少し違う。具体的には

&math( P^i = m{dx^i\over d\tau}= {mv\over\sqrt{1-\left({v\over c}\right)^2}}=); &math(\underbrace{m}_{静止質量}\underbrace{v^i\over\sqrt{1-\left({v\over c}\right)^2}}_{4元速度の空間成分}); &math(=\underbrace{m\over\sqrt{1-\left({v\over c}\right)^2}}_{相対論的質量}\underbrace{v^i}_{3次元速度});

となるわけであるが、この運動量のどこまでを「質量」と考え、どこまでを「速度」と考えるかには、上の二つのような流儀がある。なお、どちらかと言うと単に「質量」という時にはm、すなわち運動しているかいないかに関係なく同じ値をとるものを指す方が普通である。

どちらの流儀で考えるにせよ、ある力f^iをdt秒間加えた時、{mv^i\over\sqrt{1-\left({v/c}\right)^2}}f^i dtだけ増大するのは同じである。 なお、実際にP^iを時間で微分したとすると、

\begin{array}{rl}  {dP^i\over dt}=&{d\over dt}\left({m v^i\over \sqrt{1-\left({v^2/c^2}\right)}}\right) \\=&{m {dv^i\over dt}\over \sqrt{1-\left({v^2/c^2}\right)}}+{m v^iv^j {dv^j\over dt}\over c^2\left({1-\left({v^2/ c^2}\right)}\right)^{3/2}}  \end{array}

となる。つまり、力f^iの方向と加速度{dv^i\over dt}の方向は必ずしも一致しない。速度v^iと加速度{dv^i\over dt}が直交しているような場合は第2項が消えるので非常に簡単になる。

qvB.png

磁場中を走る荷電粒子の場合、ローレンツ力q\vec v\times \vec B*5を受けて円運動するが、加速度は速度と垂直(中心向き)に{v^2\over r}となるので、

qvB = {m\over\sqrt{1-{v^2/c^2}}}{v^2\over r}

となって、半径がr={mv\over qB\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}となる。非相対論的な計算では分母の\sqrt{1-{v^2\over c^2}}は表れない。実験によって支持されるのはもちろん相対論的な計算であり、荷電粒子を磁場中で加速する(サイクロトロンなど)実験装置ではこのいわゆる「質量増大」の効果を考えて設計せねばならない。

逆に、運動方向と加速度が同じ方向を向いていると、また話が少し変わる。この場合、v^i{dv^i\over dt}もx成分だけが零でないとすると、

{dP^1\over dt} ={m {dv\over dt}\over \sqrt{1-\left({v^2/ c^2}\right)}} +{m v^2 {dv\over dt} \over c^2 \left( {1-\left({v^2/c^2}\right)}\right)^{3/2}}
={m {dv\over dt}\left(1-{v^2/c^2}\right)\over \left(1-\left({v^2/ c^2}\right)\right)^{3/2}} +{m v^2 {dv\over dt} \over c^2 \left( {1-\left({v^2/c^2}\right)}\right)^{3/2}}
={ m \over  \left( {1-\left({v^2/c^2}\right)}\right)^{3/2}}{dv\over dt}

となり、この場合はむしろ質量が{m\over\left(1-{v^2/c^2}\right)^{3/2}}に増えていることになる。こちらを「縦質量」、さっきの{m\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}を「横質量」として区別する場合もある。縦質量の方が横質量より大きいのは、横方向に押す場合はvの大きさは変化しない(つまり運動量の分母は変化しない)が、縦方向に押すとvの大きさを変える(運動量の分母も変える)のに余分な力が必要になるからである。このように、「質量が増大する」という考え方は、「質量」と「速度」の両方が時間的に変化すると考える分だけ、計算がかえって複雑になる場合もあり、あまり推奨されない。質量は常にmで一定だと考えて、運動量の式には分母に\sqrt{1-{v^2\over c^2}}があるのだとした方が簡便である。どちらの流儀でも、「相対論では運動量がmvではなくmv\gammaになる」ということを把握しておけば問題はない。mの部分を「質量」と呼ぶか、m\gammaの部分を「質量」と呼ぶかは定義の問題である。ただし、上に述べたように\mu\gammaを「質量(または相対論的質量)」と呼ぶ流儀はかえってややこしくなることも多いので、最近はあまり使われていないので、使わないようにした方がよさそうである。

ここで、f^\muが有限で時間経過も有限である限り、P^\muは有限の値を取ることに注意しよう。速度を増やしていくと、v=cとなったところでP^\muは無限大となる。ゆえに、有限の力で有限の時間加速している限り、光速に達することはない。このことは光速cが物体の限界速度であることを示している。

この後、エネルギー保存則と運動量保存則という2つの法則が、相対論では「4元運動量の保存則」として一つにまたとまる、というところまで話をした。さらに話は続くが、以降は来週。

学生の感想・コメントから

いまいち4次元の話がつかめません。

うーん、あと一週というところまできてそれだと、もうこの授業の目標は達成できそうにないですね(;_;)。

親殺しのパラドックスが解決できません。

全然相対論の話じゃないですね。

相対論的質量って、実際の実験ではどうなのですか?

テキストには書いてあったんですが、ちゃんと話せませんでしたが、もちろん実験では相対論的質量がちゃんと増大すること(物体が加速しにくくなること)が確認されてます。

相対論的質量はなぜ使えなくなったんですか?

使えないことはないですよ。使う人が減っているだけ。なぜ減っているかというと、相対論的質量を使ったせいでかえって説明がややこしくなることがよくあるからです。

今日の話を聞いて光速を越えるのはムリそうだとわかった(多数)

やっと説明までいけましたね。

cP^0=mc^2+{1\over2}mv^2という式は、どんな物体でも言えることなんですか? 全ての物体がmc^2のエネルギーを持っているのですか?

はい、そうです。

何か反応が起こるとエネルギーが取り出せるということでしたが、核分裂の他には?

取り出すエネルギーが大きいのは核融合、それから対消滅。エネルギーが小さくてもいいなら、他のどんなエネルギーでも、c^2で割った分だけのエネルギーを持ちます。たとえばバネのエネルギーとか、静電エネルギーとかも。

mc^2というエネルギーは地球もしくは銀河系が持っているのですか?

一個一個の物体が持ってます。地球は地球の質量の分だけ、銀河系は銀河系の質量の分だけ持っています。

「4元」と「4次元」は違うの?

厳密に使い分けているわけでもないです。

相対論は日常ではどこで使うの?

精密な時間測定が必要になるような時ですね(GPSとか)。あと、簡単な電磁気現象にも効いてきます。

宇宙だと与えた速度の分だけ速くなれるから無限の運動量にはなれませんか?

与えた運動量の部だけ運動量は増えます。しかし有限の運動量しか与えてないのなら無限の運動量はやっぱりむりです。

特殊相対性理論は力が働かない系(ニュートン力学で言う慣性系)に対してしか成立しないと思っていたので面食らった。

「座標系が慣性系でなくてはいけない」というのと「物体に力が働かない」というのは全然別ですよ。慣性系の中で、物体に力が働いている問題を解くことはニュートン力学でも相対論でもできる。

{1\over\sqrt{1-\beta^2}}=1+{1\over2}\beta^2 + \cdotsはマクローリン展開ですよね。

そうです。

エネルギー保存則と運動量保存則が一つにまとまるのはすごいと思った(多数)

実はニュートン力学でも、エネルギー保存則とガリレイ変換から運動量保存則を出すことはできます。{1\over2}mv^2+{1\over2}MV^2 = {1\over2}m(v')^2 + {1\over2}M(V')^2というエネルギー保存の式で、ガリレイ変換して速度を全部v\to v+wのように置き換えてからwの1次式を取り出すと、mv+MV=mv'+MV'という式が作れてしまう。


*1 相対論では質量という言葉にいろんな定義があるのだが、少なくともこのテキストに関しては、「質量」とは「静止質量」のことである。他の質量の定義は後で述べるが、基本的な量は「静止質量」であり、これはローレンツ変換によって変化しない、定数である。
*2 この「力」f^iは4元ベクトルではないことに注意。
*3 意味はわからなくてもこの式だけは知っている、という人も多いので、もしかすると、物理の公式の中で一番有名かもしれない。
*4 いいかげんな相対論の本を読むと、この部分の説明だけでE=mc^2の説明が終わってしまっていたりする。だが、E=mc^2という式のほんとうのすごさは、後で説明する「どんなエネルギーも質量と関係する」というところにあるのである。ここまでの話では、単に運動エネルギーの原点をずらしただけに過ぎないから、面白いところはまだ全然話してない。
*5 ここでは説明しないが、qvBで表されるのがfなのかFなのかは、電磁場をローレンツ変換した時どうなるべきかということから決まる。

添付ファイル: fileqvB.png 487件 [詳細]

トップ   編集 凍結 差分 履歴 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2024-01-12 (金) 19:41:34