今日はまず前回の復習をして、次に反変ベクトルのローレンツ変換則を説明した。
このように4元ベクトルどうしの「内積」を取る時にはという組み合わせがよく出てくるので、
という量を定義する。上付きの添字を持つベクトルを「反変ベクトル」、下付きの添字を持つベクトルを「共変ベクトル」という。の内容を考えれば、
ということである。つまり、
と
の違いは第0成分(時間成分)の符号だけである。このようにミンコフスキー空間の直線座標系では反変ベクトルと共変ベクトルの差は時間成分の符号だけで、大きな差はないが、曲線座標系などではそうではなくなるし、特に一般相対論では大きな差になる。この講義ではそこには触れない。
の逆行列を
と書くことにする。つまり、
(
はμ=νの時1でそれ以外0という記号)
ということである(注:と
の中身は同じ)。この時、
も成立する。つまり添字はηを使って上げたり下げたりできる。そういう意味でも、共変ベクトルと反変ベクトルは中身は同じであって、表現が違うだけである。
共変ベクトルのローレンツ変換は、
となるので、その変換行列はである。よくみるとこれは
の添字をηを使って上げたりさげたりしていることになるので、
と書く。この記号を使えば、共変ベクトルのローレンツ変換は&math(B'_\mu = \alpha_\mu^{~\nu}B_\nu); となる。
共変ベクトルも反変ベクトルも、「αの後ろの添字とベクトルの添字をそろえて和を取る。この添字は一方が上付きならもう一方は下付きである」と考えれば変換ルールを覚えやすい。
また、 &math(\eta_{\mu\nu}\alpha^\mu_{~\rho}\alpha^\nu_{~\lambda}=\eta_{\rho\lambda});から、
#math( \alpha^\mu_{~\rho}\alpha_\mu^{~\lambda}= \delta_\rho^\lambda)
ということもわかる。
座標と同じ変換をする方が「反」変で、少し違う変換をする方が「共」変なのは気持が悪いが、数学では微分演算子の方が基本的な量なので、こういう命名になっている。つまり微分演算子は共変ベクトルなのである。以下でそれを示そう。
まず、微分のchain ruleを使って計算すると、
のように微分演算子が変換することがわかる。
この辺の微分がちょっとたいへんだった模様。くどく説明したら時間が足りなくなった。。。
一方、ここで現れたという行列は、
&math( {\partial x^{\prime\mu}\over \partial x^\nu}=); &math( {\partial \left(\alpha^\mu_{~\rho}x^\rho\right)\over \partial x^\nu}=\alpha^\mu_{~\nu});
という行列の逆行列である。つまり、
あるいは &math( {\partial x^\nu\over \partial x^{\prime\mu}}\alpha^\mu_{~\rho}=\delta^\nu_{~\rho});
である。これと(ααδの式)を見比べると、
ということであるから、
#math( {\partial\over \partial x^{\prime\mu}}=\alpha_\mu^{~\nu}{\partial\over \partial x^\nu}) が成立するのである。これは微分演算子が共変ベクトルであるということを示している。
反変ベクトルと共変ベクトル
の内積のローレンツ変換は
である。つまり、反変(上付き)添字と共変(下付き)添字が足し上げられていると、ローレンツ変換した結果、それぞれのローレンツ変換が消し合って、まるで最初から添字がついていないかのごとく変換を受けない。つまり添字の意味がなくなっている。それゆえこのように添字が足し合わされている状況を「つぶれている」と称するのである。
なお、のように添字を複数個もち、上付き(反変)添字が&math(\alpha^\mu_{~\nu});で、下付き添字が
で変換されるような量を「テンソル」と言う。反変ベクトルは上付き添字が一つのテンソル、共変ベクトルは下付き添字が一つのテンソルである。
複数個の添字のあるテンソルは、その添字の一個一個にαがかかっていくように変換される。 例えば
&math( (D')^{\tau}_{\sigma\mu\nu}=);&math(\alpha^\tau_{~\tau'}\alpha_\sigma^{~\sigma'}\alpha_\mu^{~\mu'}\alpha_\nu^{~\nu'}D^{\tau'}_{\sigma'\mu'\nu'});
のように変換される。あるいは
は添字が二つあるテンソルの例でもある。
は座標変換で変化しないので、不変テンソルと呼ぶ*1。
&math(\delta^\mu_{~\nu});がローレンツ変換で不変であることを証明しよう。&math(x^\mu\to \alpha^\mu_{~\nu}x^\nu);と座標変換された時、&math(\delta^\mu_{~\nu});は
#math( \alpha^\mu_{~\rho}\alpha_\nu^{~\lambda}\delta^\rho_{~\lambda}= \alpha^\mu_{~\rho}\alpha_\nu^{~\rho})
(δααの式)
と座標変換される。この式を(ααδの式)の左辺と見比べるとよく似ている。違いは(ααδの式)では前の添字がダミーになっていて、(δααの式)では後ろの添字がダミーになっていることである。ここで、行列A(その成分は&math(A_\rho^{~\mu}=\alpha^\mu_{~\rho});)と行列B(その成分は&math(B_\mu^{~\lambda}=\alpha_{\mu}^{~\lambda});)を考えると、(ααδの式)の左辺すなわち&math( \alpha^\mu_{~\rho}\alpha_\mu^{~\lambda});は行列の積ABの成分と見ることができる。一方、(δααの式)すなわち&math( \alpha^\mu_{~\rho}\alpha_\nu^{~\rho});は行列BAの
成分とみることができる。AB=I(単位行列)であるから、BA=Iとなり、
#math( \alpha^\mu_{~\rho}\alpha_\nu^{~\lambda}\delta^\rho_{~\lambda}=\delta^\mu_{~\nu}) が証明される。
なお、このことからも、は共変ベクトルでなくてはならないことがわかる。なぜなら、
という式が成立している。
が反変ベクトルなのだから、それとかけて&math(\delta_\mu^{~\nu});というテンソルになる
は共変ベクトルである。
[演習問題7-1]
&math(\alpha^\mu_{~\nu}=);
の時、
[演習問題7-2]
&math(\alpha^\mu_{~\nu}=);の時、前問同様の計算を行え。
すでに述べたように、物理においては「座標系によらない量」がたいへん大事である。また、「座標系によらず成立する式」も同様に大事である。逆に言えば「特定の座標系でしか計算できない量」や「特定の座標系でしか成立しない式」には意味がない。
ある物理量が「ローレンツ変換に対して不変である」ということは、ある座標系での量が、別の座標系での同じ地点での量
と
という関係を持つ、つまり座標系を変えても同じ値であることを言う。このような性質を持つ量をスカラーあるいは「ローレンツ・スカラー」と呼ぶ*2。
不変性と同時に重要な概念が「共変性」である。ある方程式が共変であるとは、たとえば、あるいは
のように、方程式の両辺がローレンツ変換に対して同じ変換をすることを言う。たとえば
をローレンツ変換すると、
#math( \alpha^\mu_{~\nu}A^\nu= \alpha^\mu_{~\nu}B^\nu)
のように、左辺と右辺が同じ変換をして、結局はという、同じ形の式になる。この場合「この方程式は共変である」と言う。
たとえば、という形の方程式は共変である。座標変換すると、
#math( \alpha^\mu_{~\nu}E^\nu=\alpha^{\mu}_{~\rho}\alpha^\nu_{~\lambda}F^{\rho\lambda}\alpha_{\nu}^{~\sigma}G_\sigma) となるが、すでに述べたように、 &math(\alpha^\nu_{~\lambda}\alpha_{\nu}^{~\sigma}=\delta_\lambda^{~\sigma});と いう関係があるので、
#math( \alpha^\mu_{~\nu}E^\nu=\alpha^{\mu}_{~\rho}F^{\rho\lambda}G_\lambda) となる(「つぶれている」添字であるμに関しては変換を受けない、と考えても良い)。
結局、左辺と右辺で共変ベクトル(下付き)や反変ベクトル(上付き)の添字が同じ形になっていれば、両辺が同じ変換をするので方程式は共変となる。
たとえば
のような式には共変性がない。たまたまある座標系で成立していたとしても、ローレンツ変換したら成立しなくなってしまう。
物理法則は座標系によらず成立すべきであるから、当然ながらその物理法則は共変な式で書かれていなくてはならない。物理法則をテンソルで書く利点は、この共変性が明白になるということである。テンソルで共変に書かれた方程式(つまり左辺と右辺で添字の形があっている方程式)は、ある座標系で成立するならば別の座標系でも成立する。これが、相対論的に考える時にテンソルを使う大きな利点である。
実はニュートンの運動方程式はその意味では物理法則失格である。この方程式は3次元ベクトルで書かれており、4次元的な意味ではまったく共変ではない。
以下で、ニュートン力学をローレンツ変換にたいして共変になるように書き直す。これによって、力学はまったく新しいものに生まれ変わることになる。
ここまでの流れを整理しよう。
ガリレイ変換 | ローレンツ変換 | 実験的検証 | |
ニュートン力学(非相対論的) | ○ | × | 19世紀まで○ |
ヘルツの方程式(非相対論的) | ○ | × | × |
マックスウェル方程式(相対論的) | × | ○ | ○ |
相対論的力学? | × | ○ | ○ |
相対性原理(絶対空間は存在しないということ)を一つの原理として考えてきた。そして、電磁気の基本法則であるマックスウェル方程式が相対性原理を満たしていないように見える(ガリレイ変換で不変でない)ことから、マックスウェル方程式を破棄するか、ガリレイ変換を破棄するかの二者択一を迫られることになった。マイケルソン・モーレーをはじめとする実験事実から、破棄されるべきなのはガリレイ変換であり、ローレンツ変換へと修正すべきであることがわかった。また、時間と空間を別物と考えるのではなく、合わせて4次元の時空を考えて、その4次元を混ぜ合わせるような変換としてローレンツ変換を捉えればよいことがわかった。
そこでもう一度元にもどって考えると、そもそも相対性原理が考えられたのは、ニュートン力学はガリレイ変換で不変であったからである。しかし電磁気に対する考察からガリレイ変換はローレンツ変換へと修正されたのだから、今度はニュートン力学をローレンツ変換で不変になるように作り直さなくてはいけない。この章で考えるのはローレンツ変換で不変になるように作り直された新しい力学、すなわち相対論的力学である。
そこで、どのようにして相対論的力学を作るか、その概要を述べる。ニュートン力学の基本である運動方程式は
という形をしている。は運動量で、具体的には
である。ニュートン力学では、ある時刻tにおいて、物体の位置
を時間の関数として与え、時間がたつにつれてこれらがどのように変化していくかを運動方程式を使って追い掛ける。ニュートン力学では時間というものが特別なパラメータとなっている。しかし、時間というものを特別視していては、相対論的に不変な方程式にはならない。運動のパラメータとしては座標時間tを使うのではなく、固有時τを使うべきである。τは「その物体が静止している座標系で測った時間」という定義になっているので、物体を決めれば一意的に決まり、ローレンツ変換しても変わらない。以下で、
という方針で相対論的力学を作っていこう。
固有時τと座標時tの微分は物体が静止している時には等しい()ので、このようにして作られた相対論的力学は、物体が静止している状況ではニュートン力学と同じ答を出す。あるいは、「物体の速度が光速cに比べ十分小さい状況ではニュートン力学に近似できる」と言ってもよい。それゆえ、ニュートン力学は破棄されるわけではなく、相対論的力学の近似として生き残る*3。
まず、ニュートン力学における3次元速度を
に置き換える。固有時τはローレンツ変換で変化しないため、
が&math(\alpha^\mu_{~\nu}x^\nu);とローレンツ変換される時、&math(V^\mu \to \alpha^\mu_{~\nu}V^\nu);とローレンツ変換される。すなわち
は4元ベクトルであり、「4元速度」と呼ばれる。
物体の4元速度の自乗を計算すると、
(4元速度の自乗)=(空間的速度の自乗)-(時間的速度の自乗)
という形になっているので、空間的方向の速度が速くなると時間的方向の速度も速くならなくてはいけない。
「時間方向の速度」というのは変な表現だが、今考えている「速度」というのは「単位固有時あたりの変化」という意味であるから、「τ(固有時) が1変化する間にt(座標時)はどれだけ変化するか」ということである。動いているとこれが速くなる。というのはどういうことかというと、「小さいτの変化に対し、tが大きく変化する」逆に言えば「tが大きく変化しているのにτがあまり変化しない」ということである。つまり、「時間方向の速度が速くなる」というのは、「運動物体の時間は遅れる」ということの別の表現だということになる。
4元速度の第0成分であるを3次元速度
を使って表そう。(4元速度の自乗)より、
&math(-c^2\left({dt\over d\tau} \right)^2 + \biggl(\underbrace{{dx^i\over dt}}_{=v^i}{dt\over d\tau}\biggr)^2= -c^2 );
&math(-\left({dt\over d\tau} \right)^2\left(c^2-|\vec v|^2\right) = -c^2);
&math({d(ct)\over d\tau}= {c\over\sqrt{ 1-{|v|^2\over c^2}}} = c\gamma);
となって、ウラシyマ効果の時間遅れの因子の逆数であるγにcをかけたものが出てくる(固有時τと座標時に光速度をかけたctの変化の割合を計算していることになる)。また、3次元速度
と4次元速度
の関係は
となることから、
となる。物体が静止している時、4元速度は(c,0,0,0)となる。そして、速度vがcに近づくにつれては無限大へと発散する。
vがcに近づくとVが∞になる、と言うことは実は、がんばって速度を増やそうとしても、cに達するには無限のエネルギーが必要になる、ということに関連している。それはなぜかというと、、、というところでまた来週
計算がめんどくさい(多数)
言うの飽きてきたけど、「この程度でめんどくさいって言ってたら、物理はできん」
テンソル計算になれなくては!(これも多数)
これからびしばし使います。
添字の上付き、下付きで混乱した(これまた多数)
うーん、このあたりは、いろいろ計算してルールに慣れてこないと、よさがわからないんですよねぇ。
共変ベクトルが何の役に立つのか、まだわからない。
やっていくうちに「便利なものを作ってくれたなぁ」という気分になってきます。特に一般相対論まで勉強すると。
4次元で見ると物体は常に光速ということですが、もし時間が止まると、この世の全ての物体はctと逆向きに凄い力を受ける???
まず「もし時間が止まると」という仮定が無茶だからなぁ(^_^;)。何が起こるか予想するのは難しい。
共変ベクトルの定義は&math(V_\mu=\eta_{\mu\nu}V^\nu);ってのでいいんですか?
それでもいいし、ローレンツ変換した時に&math(V_\mu \to \alpha_\mu^{~\nu}V_\nu);と変換されるもの、という考え方でもいいよ。
次から面白いという話なので、期待します。
いよいよ、とかが出てきます。