前回は4元速度を定義するところまでやった。今日はその続きから。
4元速度の第0成分であるを3次元速度を使って表そう。(相対論2009年度第11回#fournorm)より、
#jsmath(\begin{array}{rl}-c^2\left({dt\over d\tau} \right)^2 + \biggl(\underbrace{{dx^i\over dt}}_{=v^i}{dt\over d\tau}\biggr)^2=& -c^2 \\-\left({dt\over d\tau} \right)^2\left(c^2-|\vec v|^2\right) =& -c^2 \\{d(ct)\over d\tau}=& {c\over\sqrt{ 1-{|v|^2\over c^2}}} = c\gamma\end{array}) となって、ウラシマ効果の時間遅れの因子の逆数であるγにcをかけたものが出てくる(固有時τと座標時に光速度をかけたctの変化の割合を計算していることになる)。また、3次元速度と4次元速度の関係はとなることから、
となる。物体が静止している時、4元速度は(c,0,0,0)となる。そして、速度vがcに近づくにつれては無限大へと発散する。
4元速度をさらに固有時τで微分したものを4元加速度と言う。式で書けばとなる。4元加速度は、3次元の加速度とはだいぶ違う形になる。
4元加速度の性質として、4元速度と(4次元の意味で)直交する。なぜなら4元速度の自乗が一定であることから、
となるからである。この式はすぐ後で使う。
ここで、そもそも運動量やエネルギーというものが、ニュートン力学においてどのように導出されたものか、ということを思い出そう。まず運動方程式
から出発する。この両辺を時間で積分(区間は)すると、
という式が出る。これは、運動量の変化が力積である、という式である。
また、で積分すると、
#jsmath(\begin{array}{rl} \int_{x_i}^{x_f} m{d^2 x^i\over dt^2}dx^i&=\int_{x_i}^{x_f} f^i dx^i\\ m\int_{t_i}^{t_f} {d^2 x^i\over dt^2}{dx^i\over dt}dt&=\int_{x_i}^{x_f} f^i dx^i\\ m\int_{t_i}^{t_f} {d\over dt}\left({1\over2}\left({dx^i\over dt}\right)^2\right)dt&=\int_{x_i}^{x_f} f^i dx^i\\{1\over2}m\left({dx^i\over dt}\right)^2|_{t=t_f}-{1\over2}m\left({dx^i\over dt}\right)^2|_{t=t_i} &= \int_{x_i}^{x_f} f^i dx^i\end{array} ) という式が出る。は時刻での粒子の位置(も同様)である。つまり、エネルギーは仕事によって変化する量として定義されている。
4元速度に質量*1をかけたものを4元運動量と呼ぶ。
のようなベクトルで、これは3次元の運動量
と、
のような関係にある。ここで、4元運動量の第0成分にはどんな意味があるのかを知るために、この4元運動量の微分について考えてみる。
4元加速度と4元速度が直交するという式にmをかけると、を使って、
という式が出る。この式をさらに少し変形すると、
となる。つまり、との3次元的内積がの変化量となる。ニュートンの運動方程式と同じように、
仕事() = の変化()
という式になる。これはがエネルギーと解釈できることを示している。つまりエネルギーは「時間方向の運動量」なのである。量子力学でのような対応になっているのは、エネルギーが時間方向の運動量だからであるとも言える。Eだけ符号が違うのも、もちろんが時間的成分のみマイナスであることが関係がある。
4元運動量の自乗はであるから、とおくと、
という式が成立する。上の式から、運動量の大きさが増えるとエネルギーも増加する(自乗の差が一定値なのだから)。
がエネルギーと解釈されるべき量であることを、vがcより小さいという近似で確認しよう。
となって、定数項とβの4次以上の項を除けばなじみのある運動エネルギーの式が出てくる。なお、相対論で有名な公式*3であるはこの式のにしたものである(つまり、特別な状況での式であることは忘れてはならない)。
つまり静止している物体もだけのエネルギーを持っているということを表している。しかし、通常の力学ではエネルギーの原点には意味がない。取り出すことのできるエネルギーは結局はエネルギーの差であり、の最小値はなのだから、このはこの一個の粒子の運動を考えている限りにおいては取り出すことのできないエネルギーということになる。この「静止エネルギー」の意味は、単にエネルギーの原点がずれているだけにすぎないのである。しかしこのがないとが4元ベクトルでなくなってしまうので、4元運動量として意味があるためにはを消してしまうことはできない。
相対論的力学ではエネルギーと運動量は「4元運動量の時間成分と空間成分」という意味を持ってきたため、(そういうつながりのなかったニュートン力学とは違って)、エネルギーの原点を勝手に選ぶことができなくなったわけである。
この時点ではは、実用的な見地からは深い意味はない。しかし、複数の物体が合体したり、あるいは逆に物体が分裂したりする現象を考えると、この式に含まれる深い意味が明らかになる。これについては後で話そう*4。
なお、ここで定義した力は、その定義(t微分を使ったところ)からして4元ベクトルになっていない。4元ベクトルになる力を
で定義すると、という関係が成立する。このτは、今力が及ぼされている物体の固有時であるから、その物体が速度を持っているならば、
である。
を「4元力」または「ミンコフスキーの力」と呼ぶ。
4元力は4元ベクトルであるから、その変換性は他の4元ベクトルと同様で、x方向に速度βで移動する座標系へ変換した時、
となる。という式が成立している(uは今考えている粒子の速度である)ことを考えると、の方の変換も計算できる。ただしその時は、x座標系とx'座標系では、物体の速度も速度の合成則に従って変換することに注意しよう。したがっての変換はに比べると複雑なものになってしまう。
よく相対論の本では「運動すると物体の質量が増大する」という意味のことが書 いてある。この講義ではここまで一貫して質量mを定数として扱ってきた。で はこのmは増大するのだろうか?
もちろん、しない。では「運動すると物体の質量が増大する」とはどういう意味 なのか。ここで「そもそも質量の定義とは何か?」ということに立ち戻る必要が ある。 ニュートン力学における質量は運動方程式
によって規定されている。相対論的力学でも、力としての方(4元力 ではなく)を使えば、ニュートンの運動方程式と同じ形の、
であるが、運動量はこの場合4元運動量であって、3次元運動量と は少し違う。具体的には
となるわけであるが、この運動量のどこまでを「質量」と考え、どこまでを「速度」と考えるかには、
#jsmath(\underbrace{m}_{静止質量}\underbrace{v^i\over\sqrt{1-\left({v\over c}\right)^2}}_{4元速度の空間成分}=\underbrace{m\over\sqrt{1-\left({v\over c}\right)^2}}_{相対論的質量}\underbrace{v^i}_{3次元速度}) のような二つの流儀がある。なお、どちらかと言うと単に「質量」という時にはm、すなわち運動しているかいないかに関係なく同じ値をとるものを指す方が普通である。
どちらの流儀で考えるにせよ、ある力をdt秒間加えた時、がだけ増大するのは同じである。 なお、実際にを時間で微分したとすると、
となる。つまり、力の方向と加速度の方向は必ずしも一致しない。速度と加速度が直交しているような場合は第2項が消えるので非常に簡単になる。
磁場中を走る荷電粒子の場合、ローレンツ力*5を受けて円運動するが、加速度は速度と垂直(中心向き)にとなるので、
となって、半径がとなる。非相対論的な計算では分母のは表れない。実験によって支持されるのはもちろん相対論的な計算であり、荷電粒子を磁場中で加速する(サイクロトロンなど)実験装置ではこのいわゆる「質量増大」の効果を考えて設計せねばならない。
逆に、運動方向と加速度が同じ方向を向いていると、また話が少し変わる。この場合、ももx成分だけが零でないとすると、
となり、この場合はむしろ質量がに増えていることになる。こちらを「縦質量」、さっきのを「横質量」として区別する場合もある。縦質量の方が横質量より大きいのは、横方向に押す場合はvの大きさは変化しない(つまり運動量の分母は変化しない)が、縦方向に押すとvの大きさを変える(運動量の分母も変える)のに余分な力が必要になるからである。このように、「質量が増大する」という考え方は、「質量」と「速度」の両方が時間的に変化すると考える分だけ、計算がかえって複雑になる場合もあり、あまり推奨されない。質量は常にmで一定だと考えて、運動量の式には分母にがあるのだとした方が簡便である。どちらの流儀でも、「相対論では運動量がmvではなくになる」ということを把握しておけば問題はない。mの部分を「質量」と呼ぶか、の部分を「質量」と呼ぶかは定義の問題である。ただし、上に述べたようにを「質量(または相対論的質量)」と呼ぶ流儀はかえってややこしくなることも多いので、最近はあまり使われていないので、使わないようにした方がよさそうである。
ここで、が有限で時間経過も有限である限り、は有限の値を取ることに注意しよう。速度を増やしていくと、v=cとなったところでは無限大となる。ゆえに、有限の力で有限の時間加速している限り、光速に達することはない。このことは光速cが物体の限界速度であることを示している。
ニュートン力学においては、運動量の保存則がどのように導かれたかを思い出そう。質量のN個の物体がそれぞれの運動量をもち、i番目の物体からj番目の物体へは力が働くとすると、
である。これをiで足し上げると、
となる。
作用・反作用の法則により、(i番目がj番目に及ぼす力は、j番目がi番目に及ぼす力と同じ大きさで逆向き)である。の和を取る段階でかならずとの両方の和が表れるので、この二つが消し合うことにより、
となる。すなわち、運動量の和は保存する。
相対論的力学においてもが成立しているので、について作用・反作用の法則が成立していれば、同様にの和が保存する。ここで、保存則がではなくであることに注意せよ。固有時τ は粒子一個一個について独立に定義されているものだから、複数の粒子の運動量の固有時微分を足すことには意味がない。作用・反作用の法則が成立するのも、に対してではなくに対してである。
なお、相対論では運動量とエネルギーは同じ4元運動量の空間成分と時間成分という形にまとまっているので、運動量だけが保存してエネルギーが保存しないとか、あるいはこの逆のことなどはあり得ない。違う座標系に移れば時間成分と空間成分は入り交じる(たとえば、というふうに)ので、全ての座標系で運動量保存則が成立するためには、エネルギーも保存していてくれないと困るのである。これは相対性原理からの帰結である。ニュートン力学では「摩擦があるからエネルギーが保存しない」という状況が許されたが、相対論的力学では摩擦によって失われたエネルギーもちゃんと勘定して保存する形になっていなくてはいけない。
上では作用・反作用の法則が成立ということを仮定したが、相対論の場合にはこの仮定にも注意が必要である。なぜなら、相対論では空間的に離れた場所での同時刻には意味がない。上の図では、離れた物体との間で力が「同時に」働いているかのごとく書いているが、実際にはそんなことは起きない(そもそも、力も光速より速く伝わるはずがない!)。したがって厳密には、作用・反作用の法則を単純に適用してよいのは、物体と物体が接触して(同一時空点に存在して)力を及ぼす場合である。クーロン力を「二つの電荷の押し合い(引き合い)」と考える場合、作用反作用の法則が成立しているとは限らない。ただし、クーロン力を「電荷と、その場所の電磁場との相互作用による力」と考えるならば、ちゃんと作用・反作用が成立するのだが、その場合は「電磁場の持つ運動量」を計算してやらなくてはいけない。
まずは物体が接触して衝突するという単純な問題の場合で相対論的な場合と非相対論的な場合にどのような差があるかを確認しておこう。
静止している質量mの物体に、同じ質量の物体が運動量を持って衝突したとする。結果として二つの物体の運動量がになったとすると、
という式が成立する(運動量保存)。この式はが三角形を形作ることを示している。一方、非相対論的な計算では、エネルギーの保存則が
すなわち
となる。これからで作った三角形がピタゴラスの定理を満たすこと、すなわちこれが直角三角形となって、と が垂直であることがわかる。これはビリヤードの玉などでも確認できる現象である。
相対論的な計算では、エネルギー保存則は
となるので、もはやとは直角ではなくなる。細かい計算は省略するが、角度θは90度より小さくなる。この現象は霧箱の中にβ線を入射させて、電子と衝突させるなどの実験で実際に起こることが確認されており、相対論的力学が正しいことの証拠の一つとなっている。
最初に注意しておくが、この節で扱う質量は、静止質量である。
すなわち、エネルギーE、運動量pとした時、
で定義されるところの質量(つまり速度や座標系によらずに定義される質量)である。物体が静止している場合はp=0となってとなる。エネルギーの負符号は許さない。許してしまうとエネルギーはpが大きくなることによっていくらでも(まで)小さくなれる。「物体はエネルギーの低い方に行きたがる」という原則からすると全ての物体がみなへと落ち込みたがって具合いが悪い。エネルギーには底がないといけないのである(図参照)。
すでに述べたように、エネルギーは「運動量の時間成分」であり、物体が静止している場合でもだけあることになる。cが[m/s]であるから、これは非常に大きなエネルギーである(1gの質量は、[J]、すなわち90兆ジュールのエネルギーに対応することになる)。
しかし、たとえエネルギーが だといっても、これよりも低いエネルギーの状態がないのなら、これには意味がない。エネルギーを取り出すには、状態をエネルギーのより低い状態に「落す」ことによってその差をもらいうける必要があるが、このエネルギーは最小値がであるから、このエネルギーを取り出す方法がない。取り出せないエネルギーはいくら大きくとも意味がない。
質量を持った物体と質量を持った物体が反応してその総質量を変えるような過程があれば、この質量の差が物理現象にエネルギーの差として表れてくる。そこで以下で、そのような過程を相対論的に考えると(すなわち、ローレンツ不変性を要求していくと)どのような結果が得られるかを考察しよう。
今、質量mの二つの物体が逆向きの速度とを持って正面衝突して合体したとしよう。単純に考えると質量2mの静止した物体が残る、と言いたいところだが、はたしてこんな現象は相対論的に正しいだろうか。
#ref(): File not found: "mass.png" at page "相対論2007年度第13回"
これらの物体の4元運動量を考えると、保存則の成立から
衝突前:(mcγ,mvγ,0,0)と(mcγ,-mvγ,0,0)
であるから、
衝突後:(2mcγ,0,0)
となることになる。は1より大きいから、衝突後の質量は2mより大きくなっていることになる。
こうなることが相対論的に考えれば必然であることを確認しよう。相対性原理により、同じ現象を、速度を持って運動している観測者が見たとしても同じことが結論できねばならない。この時、速度の合成則を使わねばならないので、速度で動きながら速度の物体を見た時の速度は、2vではなく、であることに注意せよ。この速度に対応するγは、
となることに注意して、二つの座標系で運動量とエネルギーを計算してみる。
もう一方はもちろん静止して見えるので、
衝突前:
のような運動量を持っていることになる。この二つの和を取って、
衝突後:
となる。
と書くと、
という形になり、質量Mの粒子が速度vで動いている時の式となる。
以上からわかることは、二つの粒子が合体するという過程で、エネルギー保存、運動量保存を満足させたなら、必然的に質量は保存しないということである。
で、この物理的意味をもう少し・・・というところで時間が来たので、後は来週。
だんだんといわゆる「相対論」でよく知られている話が出てきて、うれしくなりました。
「出てきて」だけでなく「理解して」うれしがってください。
一般相対論で光は質量があるから重力に引かれて曲がると聞いたんですけど、特殊相対論では光の質量は0と考えるべきなんですか?
うーん、それは違うな。一般相対論でも光の質量は0です。むしろ「質量が0であっても、重力がある場所では曲がる」と考えるべき。
質量まで変化するとはびっくりした。
質量とはどういうものなのか、をじっくり考えると、その意味もわかってきます。それについては来週以降にまた。
ドラゴンボールの精神と時の部屋では、部屋に入ると固有時が1年でも座標時が1日となる。精神と時の部屋では速度が遅い?
特殊相対論的には、止まっている物体が一番固有時が大きいので、それよりも大きくなることは有り得ないですね。一般相対論なら、重力ポテンシャルで時間が変わります。しかしこれも通常の物質なら物質に近づくと時間が遅くなる。速くするのはかなり難しい。
ニュートンさんも、量子の世界の法則には気付かなかったんかぁ〜
それは無理というものでしょう。
運動エネルギーが質量に変わったというのがとても不思議です。エネルギーが物体になったということですよね?
「運動エネルギーが質量に変わった」はいいけど、「エネルギーが物体になった」と考えるのは間違いです。エネルギーも質量も、物体の持つ属性、性質の一つです。また、エネルギーは保存してますから、エネルギーが何かになったわけではなく「運動エネルギーが大きくて質量の小さい物体が、運動エネルギーが小さくて質量の大きな物体に変わった」というだけです。
これほど不思議な現象に関係する「光」ですが、ここまでくると、光は普通の物質ではないんですか?
「普通の物質」って何?という問題になっちゃうけど。相対論で不思議なのは、光というよりは電磁場(あるいは、マックスウェル方程式)ですね。