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3.2 2次元以上の空間で考える電位

現実の空間は3次元だから、ここまでで述べた1次元的な考えだけでは足りない。そこでこの節では2次元以上の場合で位置エネルギーを定義する方法について考えた後、2次元以上の空間での電場と電位の関係を考えていこう。

3.2.1 2次元以上の空間における位置エネルギー

2次元以上で考える時には、力F(x)がベクトル$\vec F(x)$となり、(3次元であれば)$\left(F_x,F_y,F_z\right)$のように次元の数だけの成分を持つ。ゆえに、仕事の定義も、 $$ \int F_x dx+ \int F_y dy+ \int F_z dz= \int \vec F\cdot d\vec x$$ のように力$\vec F$と変位ベクトル$d\vec x$の内積の積分で定義される。

この力に対応するエネルギーU(x,y,z)が定義できたとするなら、 $$ F_x = -{\partial U\over \partial x}, F_y = -{\partial U\over \partial y}, F_z = -{\partial U\over \partial z}$$ のように力を表現することができる。これは1次元の時に$F=-{dU\over dx}$と考えたことの自然な拡張である。ただし、場合によってはこのように書けない場合もあり得る。ちゃんとエネルギーが定義できるための条件は後ではっきりさせるが、ここではとりあえず定義できる場合だけを考えるということで先へ進もう(後でちゃんと考察するので心配なく)。

これをまとめて、 $$ F_x \vec e_x+ F_y \vec e_y + F_z\vec e_z= -\vec e_x{\partial U\over \partial x}-\vec e_y{\partial U\over \partial y}-\vec e_z{\partial U\over \partial z}$$ と表現する。この式の右辺をよく見ると、ナブラ記号$\vec \nabla=\vec e_x{\partial\over \partial x}+\vec e_y{\partial \over \partial y}+\vec e_z{\partial \over \partial z}$を使って、$-\vec \nabla U$と表現できる。このように、関数$\Phi(\vec x)$が与えられた時に、ベクトル$\left({\partial \Phi\over \partial x},{\partial \Phi\over \partial y},{\partial \Phi\over \partial z}\right)$を作る演算を「グラディエント(gradient)」(日本語では「勾配」)と呼ぶ。記号gradを使って、


gradの定義 $$ {\rm grad} \Phi = \vec \nabla \Phi = \vec e_x{\partial \Phi\over \partial x}+\vec e_y{\partial \Phi\over \partial y}+\vec e_z{\partial \Phi\over \partial z} $$

と表現する。

gradもdivも(後から出てくるrotも)$\vec\nabla$という微分をかける演算であるが、その意味はそれぞれ違うので気をつけること。特に、divはベクトルにかけて結果はスカラーとなるが、gradはスカラーにかけて、結果がベクトルとなる。

gradの意味を補足しておく。 $\vec \nabla$による微分は $$ \vec e_{}\cdot ({\rm grad} \Phi)=\vec e\cdot \vec \nabla\Phi=\lim_{h\to0}{\Phi(\vec x+h\vec e_{})-\Phi(\vec x)\over h}$$ のように定義されている。つまり、ある場所$\vec x$での$\Phi$と、そこからhだけ離れた場所$\vec x+h\vec e_{}$での$\Phi$の差を計算して、それをhで割る。つまり、距離h移動した時に関数$\Phi$がどの程度変化したかの割合(勾配)を計算するものである。普通の微分に比べて大きく違うところは、単にx をh増やすのではなく、ある方向(その方向を指定するのに$\vec e_{}$が必要であった)にhだけ離れた場所との比較を行う。

gradPhi.png

図で書くと上の図のような感じである。つまり、${\rm grad}\Phi$はある微小移動ベクトル(矢印)を持ってきて、その根元と矢の先での$\Phi$の差を計算するという演算なのである(後でhで割るのは、単位長さあたりの変化量とするため)。

というわけで、gradはスカラーからベクトルを作る計算であるが、そうやってできたベクトル${\rm grad}\Phi$と単位ベクトル$\vec e_{}$と内積をとってやると、その$\vec e_{}$が向いている方向の$\Phi$の勾配を計算できるのである。

3.2.2 電位と電場の関係

以上述べてきたように、位置エネルギーの定義が可能な場合、位置エネルギーの勾配の逆符号がその物体に働く力となる。つまり、$\vec F = -{\rm grad} U$である。単位電荷あたりの力を電場と定義し、単位電荷あたりの位置エネルギーを電位と定義したのだから、上の力とエネルギーの関係を単位電荷あたりに直すと「電位の勾配の逆符号が電場である」ということになる。つまり、

plusPotential.png

電場と電位の関係 $$ \vec E= -\vec\nabla V$$

となる。

2次元の場合で、Vと$\vec E$を図で表現しておこう。

+電荷のあるところが電位が高くなっている、という様子を右の図で表現した。図の上はもちろん空間のz軸ではなく、架空の高さであるところのV軸である。+電荷のあるところは、ゴム膜が「上」にひっぱられるようになって電位が高くなる。

gradの意味するところは、名前の通り「山の勾配」である。Vを山の高さと見た時に、gradによって計算できるのは、その方向に移動した時に「山の高さ」Vがどんな割合で増加するかである。ベクトル${\rm grad} V$の向きは勾配がもっとも急な方向を意味する。その大きさはもちろん、そちらへの勾配である。右の図は$-{\rm grad} V$を表す。マイナス符号が着くことで「すべり落ちる方向」を向いたベクトルとなる。電荷に近づくほど、勾配も急になるので、電荷に近づくほど電場が強い。

Vplusplus.png

左図は、二つの等しい+電荷の作る電位の様子を等高線で表したものである。いきなり3次元的に考えるのは難しいので、まず左の図をよく見て、等電位線(面)のイメージをつかんでもらいたい。+電荷のあるところが「山」になり、そこから滑り降りる方向に電場ができている、というイメージである。

このように、電位という「架空の高さ」に対応する等高線を「等電位線」と呼ぶ。なお、3次元的に考える時は等電位な場所は線ではなく面状になるので「等電位面」と呼ぶことが多い。

Vplusminus.png

矢印は電場を示している。電場の向きは常に等電位面に垂直である。矢印は、山(+電荷のあるところ)から転げ落ちる方向に向いている。

左図は、絶対値が等しい正負の電荷がある場合の等電位面の様子である。こちらの場合は+電荷を「山」、−電荷を「谷」と考えて、山から下りて谷へ落ちる方向へと電場ができる。上の図でもそうであったが、等電位面の間隔が狭い場所(混み合っている場所)は電場が強い(等高線だと思えば、間隔が狭いということは急な坂=大きい勾配)ことがわかるだろう。

ここでもしこの電荷の間の距離を縮めたとすると、電荷と電荷の間にある電場は強くなるが、それは山と谷が近づくことでより斜面が急になるからである。一方、遠方での電場はむしろ弱まるが、それは山と谷が重なり合うことで、遠方では二つの効果が消し合ってしまうからだと考えられる。

Vcondenser.png

電気力線と等電位面を両方書くと、この二つは常に垂直に交わる(電場ベクトルは等電位面の法線ベクトルになる)。左の図はコンデンサの場合の電気力線と等電位面を描いたものである。コンデンサの場合、電場は極板間に集中し、少しだけ外に漏れるという形になる。電位を見ても、外では変化(傾きもしくは勾配)が小さくなっていることに注意しよう。見てわかるように、電気力線が混雑しているところでは、等電位面も混雑する。どちらも「電場が強い」ということを表現しているわけである。

ここで、電荷を配置して電気力線と等電位面を書くアプレットで遊びつつ、電位についていろいろ教えた。

まず、+電荷をリング状に配置したらどうなるかというと、

pudding.png

こうなります。リングの部分の電荷が電位を持ち上げるんだけど、全体が丸く持ち上がるから、中央部には勾配がなくなって、電場もない。電位は高いけど電場がないということになります。立体的に書いたら、プリンみたいな図になります。

pudding2.png

その真ん中にもう一個電荷を置いたらどうなりますか。

こうなります。

pudding3.png

これまで平たかったところに、また小さな山ができるってことです。横から見た図を描くと、

pudding4.png

となります。

その高さはプリンみたいな山がある時とない時で同じですか?

上の図で「プリンなしで小山」とある方の図と比較してください。つまり電荷があると、電位がその分だけ持ち上げられる。プリン山ができていてもう一個電荷がくると、さらにその電荷のつくる電位の分だけ足し算されるというわけです。

電荷を置く順番で違いはありますか?

ありません。厳密に言うと電場や電位が伝わるのは光の速さでなので、ものすごく素早く置く場合には多少差があるかもしれませんが、落ち着いて平衡に達してしまえば同じ。

では、逆に山を崩しましょう。さっきのから3つぐらいの電荷を外すと、

pudding5.png

という感じになって電荷のない部分が下り坂になる形で山が崩れます。

電荷が☆になったらどうなりますか?

はいはいじゃあやりましょう。

hoshi.png

こんな感じです。とがった部分があったりして電荷分布が均一でないので、☆の内部には電場があります。

star.png

これは横から見た図では上のような感じ。電荷密度が高いところは電位が相対的に高くなるわけです。もっとも、とげの部分が電位が高くなるのは、点を打つ時に角にたくさん点を打ったからです。

まぁ、後は♪でもハートマークでも、自分で好きな図形描いてやってみてください。

学生の感想・コメントより

力学と違って電荷qに符号があるので、ポテンシャルが高いイコールエネルギーが高いとはならないわけですね。ちょっとややこしかったです。

電気にプラスマイナス2種類ある以上、仕方ないですね。

電位は位置エネルギーのそっくりさんだと思っていいのですか。

電荷をかけること、その電荷にはプラスマイナスがあることだけを忘れないようにしておけば、それでいいです。

$\int F_x dx +\int F_y dy+\int F_z dz=\int\vec F\cdot d\vec x$となるのが理解できなかった。

それは数式が、という意味ですか?だったら単に内積の定義です。なぜ仕事を内積で定義するのか、という意味でしたら、これまた「仕事はそういう定義です」としか言いようがないかも。そう定義することで、エネルギー保存則などをちゃんと導けるのです。

置いている電荷を+、−に交互に変化させると波ができますか? 電磁波ができると思いますが、電位が波として伝わるところがイメージしにくいです。

これは、電磁誘導とかをやって、時間的に変動する電磁場の式を出してからでないとわかりにくいですね。でもちゃんと電位も波として伝わりますよ。

電荷は電位がある一定の値を超えた時に現れる粒子であるという考え方はどうでしょう?

うーん、それは本末転倒というか、電位と電荷は不可分なものです。電荷(粒子)なしにで電位が上がるというのは考えにくい。

こんな絵も描いてみたかった(といういろんな絵のコメントあり)

さすがに授業中にやっていられないので、このページで遊んでね。

☆で内側に電場ができるのはなぜですか?

対称性が悪いからです。完全に対称ならできない。

☆のとがった部分が電位が高くなる理由は?

その部分は電荷が集中しているように点を描いたからです。電荷があるところは電位が相対的に高くなる。

$F=-{dU\over dx}$を導出するのにバネを書いていましたが、$E=-{dV\over dx}$を導出するにはバネは関係ないので、対応が納得いきません。

バネでもなんでも、位置エネルギーがある力ならなんでも$F=-{dU\over dx}$は使えます。それに、何回か後で教えますが、電場の持つエネルギーってバネに似ているんですよ。

先生はレポートの発表の時、気分がいい時はたくさんつっこみを入れ、悪い時はあまりつっこみを入れないという噂がありますが、実際どうですか?

気分が悪いというより、疲れ切っているとさすがにつっこみも入れずらいかもしれません。つっこみをよく入れるのは、

の場合です。前者ではわかってないことをわからせるため、後者ではより深いところまで説明するためです。

$\vec E=-\vec\nabla V$の式は、電場ベクトルの向きが$-\vec\nabla$、電場ベクトルの大きさがVだという解釈でいいんですか?

だめです。${\partial V\over\partial x}$で一つの量であって、${\partial \over\partial x}$とVに分けてはいけないのと同じで、$\vec E=-\vec\nabla V$も分けられません。


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Last-modified: 2024-01-12 (金) 19:41:34