直交座標では${\partial V_x\over \partial x}+{\partial V_y\over \partial y}+{\partial V_z\over \partial z}$という形になったdivであるが、極座標など他の座標系ではそうではない。単純に
$$ {\rm div} \vec V={\partial V_r\over \partial r}+{\partial V_\theta\over \partial \theta}+{\partial V_\phi\over \partial \phi}$$
などとやってはいけない(そもそもこの式は次元すらあってない!)。
正しい極座標のdivを求めるために、左図のように微小体積を設定する。気をつけるべきは、この微小体積は直方体ではないということで、たとえば天井の面積が$(r+\Delta r)^2 \sin\theta \Delta \theta \Delta \phi$なのに対し、床の面積は$r^2 \sin\theta \Delta\theta\Delta\phi$なのである。この微小体積は、$\Delta r,r\Delta \theta, r\sin\theta \Delta \phi$という3辺の長さを持っていることにも注意しよう。ゆえに微小体積は$r^2 \sin\theta \Delta r \Delta \theta \Delta \phi$となる。
図の床にあたる部分は面積$r^2 \sin\theta \Delta \theta\Delta \phi$を持つ、一方 図の天井の部分は、$(r+\Delta r)^2 \sin\theta \Delta\theta \Delta \phi$という面積を持っていることに注意しよう(つまり、直方体の場合と違って、向かい合う面の面積は同じではないのである)。
【よくある質問】$(r+\Delta r)^2$と$r^2$の違いって、いつものように「微小量だから無視する」ってやっちゃだめなの?
だめです。なぜなら、今やろうとしている計算は「流れ出しを計算し、体積$r^2 \sin\theta\Delta r\Delta\theta \Delta\phi$ で割った後で$\Delta r \to0,\Delta\theta\to0,\Delta\phi\to0$の極限を取る」というもの。だから、$\Delta^3$までは残しておかないといけない。だから実は、$(r+\Delta r)^2 \sin\theta\Delta \theta \Delta\phi \simeq (r^2 +2r \Delta r) \sin\theta\Delta \theta \Delta\phi $とやるのはかまわない。そうやっても、最終結果には影響しない。
以上から、天井から抜け出るfluxは$(r+\Delta r)^2 V(r+\Delta r,\theta,\phi)\sin\theta \Delta \theta \Delta \phi$、床から抜け出るfluxは$-r^2 V(r,\theta,\phi)\sin\theta \Delta \theta \Delta \phi$ということになる(例によってマイナス符号は、$V_r>0$の時に入ってくる方向だからついている)。
よって、天井と床からの湧き出しは、 $$\begin{array}{rl}&(r+\Delta r)^2 V_r(r+\Delta r,\theta,\phi)\sin\theta \Delta \theta \Delta \phi-r^2 V_r(r,\theta,\phi)\sin\theta \Delta \theta \Delta \phi \\=&\left((r+\Delta r)^2 V_r(r+\Delta r,\theta,\phi)-r^2 V_r(r,\theta,\phi)\right)\sin\theta \Delta \theta \Delta \phi\end{array}$$ となる。
最後に体積$r^2 \sin\theta \Delta r \Delta \theta\Delta \phi$で割ることを考えると、divのうち、天井と床からくる部分は、 $$ {1\over r^2}{ (r+\Delta r)^2 V_r(r+\Delta r,\theta,\phi)-r^2 V_r(r,\theta,\phi)\over \Delta r}~~~~{\longrightarrow \atop {\Delta r\to0}}~~~~{1\over r^2}{\partial \over \partial r}\left( r^2 V_r(r,\theta,\phi)\right)$$ である。
この答はナイーブな予想の${\partial\over\partial r}V_r$とは違う。原因はもちろん、天井と床の面積の違いである。そのため、天井での流れ出しと床からの流れ込みは、$V_r$に$r^2$をかけた量に比例する。よってこの量$r^2 V_r$を微分しないと、正しい意味での湧き出しを計算していることにならないのである。
北の壁と南の壁も面積が違う。その違いは$\sin\theta$に比例しているので、南北の壁によるdivへの寄与は、 $$\begin{array}{rl}{1\over r^2 \sin\theta\Delta r\Delta \theta\Delta \phi }\left(r\sin(\theta+\Delta \theta)V_\theta(r,\theta+\Delta\theta,\phi)-r\sin\theta V_\theta(r,\theta,\phi)\right)\longrightarrow ~~~& {1\over r \sin\theta}{\partial\over \partial\theta}\left(\sin\theta V_\theta\right)\end{array}$$ となる。
北の壁と南の壁の面積の違いについては、地球儀を思い浮かべてみるとわかりやすい。同じ経度差がどれだけの距離になるかを考えてみると、赤道付近では長く、両極付近では短くなることがわかるだろう。メルカトル図法の世界地図は両極部分が実際の面積よりも引き延ばされて見えることを思い出そう。
最後に東西については、 $$\begin{array}{rl}{1\over r^2 \sin\theta\Delta r\Delta \theta\Delta \phi }\left(r\sin\theta V_\phi(r,\theta,\phi+\Delta \phi)-r\sin\theta V_\phi(r,\theta,\phi)\right)\longrightarrow ~~~& {1\over r \sin\theta}{\partial\over \partial\phi}V_\phi\end{array}$$ となる。まとめると、極座標でのdivの式は
$$ {\rm div} \vec V={1\over r^2}{\partial\over \partial r}\left(r^2 V_r\right)+{1\over r\sin\theta}{\partial \over \partial \theta}\left(\sin\theta V_\theta\right)+{1\over r\sin\theta}{\partial V_\phi\over \partial \phi}$$
である。
以下の2.4.4節は授業では話しませんでした。読んでおいてください。
divは、「ナブラ」と呼ばれる記号$\vec \nabla$を使って$ {\rm div} \vec V =\vec \nabla\cdot \vec V $ と書かれることもある。$\cdot$はベクトルの内積を示し、あたかもベクトル$\vec \nabla$とベクトル$\vec V$の内積であるかのごとき書き方になっている。
直交座標の場合、$\vec\nabla=\vec e_x {\partial \over \partial x}+\vec e_y {\partial \over \partial y}+\vec e_z {\partial \over \partial z} $となり、$\vec V=V_x\vec e_x +V_y\vec e_y +V_z\vec e_z$にかかると、$\vec e_i\cdot \vec e_j = \delta_{ij}$という関係*1により、 $$ \vec\nabla \cdot \vec V=\left(\vec e_x {\partial \over \partial x}+\vec e_y {\partial \over \partial y}+\vec e_z {\partial \over \partial z} \right)\cdot\left(V_x\vec e_x +V_y\vec e_y +V_z\vec e_z\right)={\partial V_x \over \partial x}+{\partial V_y \over \partial y}+{\partial V_z \over \partial z}$$
となり、これが${\rm div}\vec V$と同じであることがわかる。ここで、上の式では$\vec e_x\cdot \vec e_x=\vec e_y\cdot\vec e_y=\vec e_z\cdot\vec e_z=1$になった部分だけが生き残っていることに注意しよう(内積を取るという計算だから当然なのであるが)。
$\vec\nabla$の一般的定義は、任意の方向を向いた単位ベクトルを$\vec e$として、 $$\vec e\cdot \vec \nabla F(\vec x)= \lim_{h\to0}{F(\vec x +h\vec e)-F(\vec x)\over h}$$ である。つまり、ある任意の方向に距離hだけ移動した時の関数$F(\vec x)$の変化量と、移動距離hの割合を$h\to0$の極限で計算したものが、$\vec e\cdot\vec\nabla F(x)$になるというのが$\vec\nabla$の定義である。
そもそも、1次元での微分は $${d\over dx}F(x)= \lim_{h\to0}{F(x +h)-F(x)\over h}$$ であった。つまり位置座標xをhだけ変化させた時のF(x)の変化とhの割合である。2次元以上の空間では、位置座標$\vec x$をどちら向けに変化させた時の割合なのか、を示すため、微分がベクトルになってしまうわけである。直交座標の場合、$\vec e_x\cdot\vec\nabla F={\partial F\over \partial x}$、$\vec e_y\cdot \vec\nabla F={\partial F\over \partial y}$というふうに、$\vec e$が向いている方向によって、$\vec e\cdot \vec\nabla F$が${\partial \over \partial x}$になったり${\partial \over\partial y}$になったりする。つまり、 $$ \vec\nabla F=\vec e_x {\partial F\over \partial x}+\vec e_y {\partial F\over \partial y}+\vec e_z {\partial F\over \partial z} $$ ということになる。
この式からFを外して書いた物が
である。本来微分記号というのは後ろに何か関数があって意味があるので、この式はあくまで「記号」として解釈しておこう。
$\vec\nabla$などをつかって、微分をベクトルのように扱う理由は、微分というのは本来「ある場所と、その隣の場所との関数の差を調べる」ものであるが、2次元以上の空間では「隣の場所」というのがどっちの隣なのか(東隣か西隣か、あるいは北か南か、もしくは階上か階下か)によって微分の値も違うからである。
極座標ではどうかというと、$\vec e$がr方向に向いている時すなわち、$\vec e_r\cdot\vec\nabla F(\vec x)$は${\partial F\over \partial r}$でよいが、θ方向を向いている時すなわち$\vec e_\theta\cdot \vec\nabla F(\vec x)$は${1\over r}{\partial \over \partial \theta}$でなくてはいけない。なぜなら、θ方向に距離h進むと、θは${h\over r}$だけ増加するからである。つまり、 $$ \vec e_\theta\cdot \vec\nabla F(r,\theta,\phi)=\lim_{h\to0}{F(r,\theta+{h\over r},\phi)-F(r,\theta,\phi)\over h}$$
同様に、φ方向に距離h進むとφは${h\over r\sin\theta}$だけ増加するので、$\vec e_\phi\cdot \vec \nabla F={1\over r\sin\theta}{\partial F\over \partial \phi}$である。この3つをまとめると、 $$ \vec\nabla F=\vec e_r {\partial F\over \partial r}+\vec e_\theta {1\over r}{\partial F\over \partial \theta}+\vec e_\phi{1\over r\sin\theta} {\partial F\over \partial \phi} ~~ \to ~~ \vec\nabla=\vec e_r {\partial \over \partial r}+\vec e_\theta {1\over r}{\partial \over \partial \theta}+\vec e_\phi{1\over r\sin\theta} {\partial \over \partial \phi} $$ となる。この式から逆に$\vec e_r\cdot\vec\nabla={\partial \over \partial r},\vec e_\theta\cdot\vec\nabla={1\over r}{\partial \over \partial \theta},\vec e_\phi\cdot\vec\nabla={1\over r\sin\theta}{\partial \over \partial \phi}$となることはすぐに確認できる。
ここでよくある間違いを指摘しておこう。極座標で表したベクトル場を$\vec V=V_r\vec e_r +V_\theta\vec e_\theta +V_\phi\vec e_\phi$と書いた時、非常によくある間違いは、
とやってしまうことである。なんとなく、上の式は正しそうに見えるが、実はまずい。なぜなら、$\vec e_r,\vec e_\theta,\vec e_\phi$はどれも定ベクトルではない。つまり「右の括弧内の$\vec e$も微分される」のである。
なお、実際に微分してみると、 $$\begin{array}{rlrlrl} {\partial \over \partial r}\vec e_r&=0, &{\partial \over \partial r}\vec e_\theta &=0, &{\partial \over \partial r}\vec e_\phi &=0, \\ {\partial \over \partial \theta}\vec e_r&=\vec e_\theta, &{\partial \over \partial \theta}\vec e_\theta &=-\vec e_r, &{\partial \over \partial \theta}\vec e_\phi &=0, \\ {\partial \over \partial \phi}\vec e_r&=\sin\theta \vec e_\phi, &{\partial \over \partial \phi}\vec e_\theta &=\cos\theta\vec e_\phi, &{\partial \over \partial \phi}\vec e_\phi &=-\sin\theta \vec e_r -\cos\theta\vec e_\theta \\\end{array}$$
となる。この公式を使って正しい計算を行うと、 $$ \begin{array}{rl} \vec \nabla\cdot \vec V =&\left(\vec e_r {\partial \over \partial r}+\vec e_\theta {1\over r}{\partial \over \partial \theta}+\vec e_\phi{1\over r\sin\theta} {\partial \over \partial \phi} \right)\cdot\left(V_r\vec e_r +V_\theta\vec e_\theta +V_\phi\vec e_\phi\right)\\=& {\partial V_r\over \partial r} +{1\over r}{\partial V_\theta\over \partial \theta} +{1\over r\sin\theta}{\partial V_\phi\over \partial \phi}\\&+{1\over r}\vec e_\theta \cdot \left(V_r\underbrace{{\partial \vec e_r\over \partial \theta} }_{=\vec e_\theta}+V_\theta\underbrace{{\partial \vec e_\theta\over \partial \theta}}_{=-\vec e_r} \right)+{1\over r\sin\theta}\vec e_\phi \cdot \left(V_r\underbrace{{\partial \vec e_r\over \partial \phi} }_{=\sin\theta\vec e_\phi}+V_\theta\underbrace{{\partial \vec e_\theta\over \partial \phi}}_{=\cos\theta\vec e_\phi}+V_\phi\underbrace{{\partial \vec e_\phi\over \partial \phi}}_{-\sin\theta\vec e_r -\cos\theta \vec e_\theta} \right)\\=& {\partial V_r\over \partial r} +{1\over r}{\partial V_\theta\over \partial \theta} +{1\over r\sin\theta}{\partial V_\phi\over \partial \phi}+{2\over r}V_r+{\cos\theta\over r\sin\theta}V_\theta \end{array}$$ となる。これは(正しい極座標のdiv)に等しい。
このように極座標などの曲線座標を使った$\vec \nabla$の計算では、$\vec e$が定ベクトルではないということを忘れると計算を間違えることがよくあるので気をつけよう。
さて、極座標のdivの便利さを実感しておこう。極座標のdivの式(正しい極座標のdiv)の$\vec V$に点電荷の場合の電場$\vec E= {Q\over 4\pi \varepsilon_0 r^2}\vec e_r$を代入すると0になる。この場合は$V_r$のみが$ {Q\over 4\pi \varepsilon_0 r^2}$という値を持ち、divを取る時には$r^2 V_r$としてから微分するので定数の微分になり0となる。
また逆に、「球対称な電荷分布がある時、電荷の外側ではどんな電場ができるか?」という問題を解く時、${\rm div} \vec E=0$を手がかりにして解いていくこともできる。この場合、球対称性から$E_\theta$や$E_\phi$は存在しないので、${\rm div}\vec E=0$は
$${1\over r^2}{\partial \over \partial r}\left(r^2 E_r\right)=0$$ $${\partial \over \partial r}\left(r^2 E_r\right)=0$$ $$r^2 E_r=C$$ $$E_r={C\over r^2}$$ となって、逆自乗の法則が導けることになる(Cは積分定数であって、他の条件から決めねばならない)。電荷が存在する場合は、${\rm div} \vec E={\rho\over \varepsilon_0}$を出発点として計算すればよい。例えば一様に帯電した球の場合なら、ρは定数なので、 $${1\over r^2}{\partial \over \partial r}\left(r^2 E_r\right)={\rho\over \varepsilon_0}$$ $${\partial \over \partial r}\left(r^2 E_r\right)={\rho\over \varepsilon_0}r^2$$ $$r^2 E_r={\rho\over 3\varepsilon_0}r^3 + C'$$ $$E_r={\rho\over 3\varepsilon_0}r + {C'\over r^2}$$ となる。ここで積分定数C'は実は0である。なぜなら、そうでなかったらr=0 で$E_r$が発散してしまうからである。
【よくある質問】逆自乗則の式$E_r={Q\over 4\pi \varepsilon_0 r^2}$の場合だって発散しているけど気にしなかったではないですか
逆自乗の式はあくまで「電荷の存在しない範囲」で成立した式なので、電荷がいる場所は適用範囲外。適用範囲外で発散しても、「当局は一切関知しない」であって、問題はない。上の式の場合、原点も適用範囲内なので、そこで発散されてはやっぱり困る。
積分定数Cの方は、球の表面(r=Rとしよう)で外部の解$E={C\over r^2}$と内部の解$E={\rho\over 3\varepsilon_0}r $が接続されるようにすればよいから、 $$ {C\over R^2}={\rho\over 3\varepsilon_0}R \to C={\rho\over 3\varepsilon_0}R^3$$ となる。一様な電荷分布を仮定したから、${4\pi\over 3}R^3 \rho =Q$とすれば、外部での解は $$ E={\rho R^3 \over 3\varepsilon_0 r^2}={{4\pi \over 3}\rho R^3 \over 4\pi \varepsilon_0 r^2}={Q\over 4\pi \varepsilon_0 r^2}$$ というおなじみの形になる。
こうして、一様帯電した球の内部での電場を求めることができる(前にやったよりもこっちの方が簡単である)。
もう一度まとめておくと、
$$ {\rm div} \vec E={\rho\over \varepsilon_0}$$
という1本の式で、ここまでの物理法則を表してしまうことができる。クーロンの法則もガウスの法則も、全てこの式で表現しつくされているのである。
この式は物質中では少しだけ変更される。その変更された方程式が、後で電磁気学の基本法則であるマックスウェル方程式の一つとなるのである。
[演習問題2-1] 円筒座標系$(r,\phi,z)$では、divは
という形を取る。なぜこうなるのか、図解して説明せよ。
[演習問題2-2]球対称な電荷分布があり、電場を測定したところ、どの場所でも電場はr 方向(原点から離れる方向)を向いて、その電場の強さは$kr^n$と距離のn乗に比例していた。電荷はどのように分布していたのか?
物理的に許されるnの範囲を考察せよ。
[演習問題2-3]$\vec E = x\vec e_x -y \vec e_y $という電場は${\rm div}\vec E=0$を満たすので、真空中で電荷もない場所の静電場の方程式の解である。
(註:この問題ではz方向は無視して考えよう)
[演習問題2-4]
図のように、一様に帯電した円筒があり、円筒の内径は$r_1$、外径は$r_2$であり、内部には体積電荷密度ρで電荷が一様に分布している。図は有限長さで切られているが、実際には無限に長い円筒であるとしよう。円筒の中心であるz軸からr離れた場所での電場を求めよ。
[演習問題2-5](極座標基底ベクトルの微分)を証明せよ。
ヒント:方法は二つある。
[演習問題2-6]円筒座標に関して、(極座標基底ベクトルの微分)同様の式を証明せよ。
発表課題です!2章の演習問題のうちどれか1問を前野の部屋(理307)の黒板で説明すること。〆切は6月29日です!〆切間際は混み合うので、なるべく早めに来ましょう。
この章では、電場を記述するもう一つの便利な方法、電位の考え方について述べる。電場が「単位電荷あたりの力」で定義されていたように、電位は「単位電荷あたりの位置エネルギー」で定義される量である。電位の定義に入る前にまず、力とエネルギーの関係を復習した後、静電気力による位置エネルギーを考えることにしよう。
そもそも位置エネルギーとは何か?---もう一度考えておこう。まずは1次元的な運動を考える。質量mの物体がある直線上を運動していて、その位置xに依存する力F(x)を受けているとする。運動方程式は$ m{d^2 x\over dt^2}=F(x)$である。この式の両辺をxで積分する。今物体はある時刻$t_1$に位置$x_1$にいて、それから後のある時刻$t_2$に$x_2$にいたとする。積分は$x_1$から$x_2$まで、その物体の運動にそって行う*2。 $$ m\int_{x_1}^{x_2} {d^2 x\over dt^2}dx =\int_{x_1}^{x_2} F(x)dx$$ 右辺はF(x)がちゃんとわかっていれば、後は積分するだけである。左辺はそのままでは積分にくいが、以下のようにやるとできる。まず、$dx\to {dx\over dt}dt$と置き換える。つまり、積分をxでなくtで行うことにする。すると積分の書き換えで${dx\over dt}$が現れる。さらに $$ {d\over dt}\left(\left({dx\over dt}\right)^2\right)= 2{d^2 x\over dt^2}{dx\over dt}$$ であることを使うと、 $${1\over2} m\int_{t_1}^{t_2} {d\over dt}\left(\left({dx\over dt}\right)^2\right)dt =\int F(x)dx$$ となる。左辺の積分範囲は$t_1$から$t_2$までになる。積分の結果は $$ {1\over2}m\left({dx\over dt}\right)^2|_{t=t_2}-{1\over2}m\left({dx\over dt}\right)^2|_{t=t_1}=\int_{x_1}^{x_2}F(x)dx=\int F(x)dx|_{x=x_2} - \int F(x)dx |_{x=x_1}$$ となる。左辺に場所$x_1$、時刻$t_1$での値が来て、右辺には場所$x_2$、時刻$t_2$での値が来るように書き直すと、 $$ {1\over2}m\left({dx\over dt}\right)^2|_{t=t_1}-\int F(x)dx |_{x=x_1}={1\over2}m\left({dx\over dt}\right)^2|_{t=t_2}- \int F(x)dx |_{x=x_2}$$ と変わる。$\int F(x')dx' |_{x}=-U(x)$と置くと、 $$ {1\over2}m\left({dx\over dt}\right)^2|_{t=t_1}+U(x_1)={1\over2}m\left({dx\over dt}\right)^2|_{t=t_0}+U(x_0)$$ となる。この式を見ると、左辺は時刻$t_1$、場所$x_1$での値であり、右辺は時刻$t_0$、場所$x_0$での値である。つまり、${1\over2}m\left({dx\over dt}\right)^2+U$という量は物体の運動する間、どの時刻どの場所でも同じ値を保つ。${1\over2}m\left({dx\over dt}\right)^2$を「運動エネルギー」、U(x)を「位置エネルギー」と呼んで、「運動エネルギーと位置エネルギーの和は保存する」という法則(力学的エネルギー保存の法則)が導かれたわけである。位置エネルギーU(x)と力F(x)の関係は
$ U(x)=-\int F(x)dx$ または $F(x)=-{d\over dx}U(x)$
である。
微分や積分を使ったら難しい話になるので、もっとあまり使わないようにする方法はないのでしょうか?
あなたは何のために大学で勉強しているんでしょう?? 微分・積分を使わずに電磁気をやることはできますが、そうするとそれは「現実的な問題を計算するには使えない、利用範囲の狭い電磁気学」になります。役に立たないことを習いたいか、役に立つことを習いたいか、そこを考えてみてください。難しい計算をする力をつけることは将来役に立ちます。大学はその力をつけるためにあるところです。
$E_\theta$ってイメージすると、
こんな感じですか?
うん、それに近い。第3回に$\vec e_\theta$の図がありますが、こんな感じで、しかも場所によって大きさが違います($\vec e_\theta$はどこでも長さ1)。 やばい、いろんなこと忘れすぎ(似たようなの多数)
力学のエネルギーまで忘れている人もいたようで(^_^;)。でも今度こそちゃんと覚えましょうね。
やっぱり電磁気より力学の方が面白いと復習していて思いました。
うーん、どっちも面白いんだけどなぁ。
極座標の${\rm div}\vec E$の計算で、向かい合う面は面積が違うのに、表面積×高さでやって大丈夫なんですか?
大丈夫です。ああいう計算をやる時は、自分が微小量の何時までを計算しているのか、を見極めることが大事です。あの計算の場合、最後に体積$r^2\sin\theta \Delta r\Delta \theta\Delta \phi$で割るわけですが、この段階ですでに微小量の3乗になってます。天井と床の面積の違いは、微小量Δの4乗になってしまうのです。
1回目の課題があることを知りませんでした。2回目の発表と一緒にやっていいでしょうか。
もちろんいいので、必ずやってください。
極座標のdivで、θ微分で、sinθで割るのはともかく、rでも割るのはなぜですか?
最後に体積で割るという計算をやるとああなります。なぜああなるのかは、この場合の微分というのは&math({電場の変化\over 距離});という割り算(で、距離を0にする極限をとったもの)なのだ、と考えてみるとわかります。Δθは距離ではありません。距離になるのはrΔθです。だから、&math({電場の変化\over r\Delta\theta});という計算をやるので、rで割ることが必要です。Δφの方も同様で、距離になるのはr sinθΔφなので、r sinθで割る必要があります。 $E_z(x,y,z+\Delta z)-E_z(x,y,z)$≒${\partial E_z\over\partial z}\Delta z$とやってましたが、これはΔzがあまりに小さいので、limを無視しているのでしょうか。
この場合の≒は、Δzの2次以上は無視しますよ、という意味です。
まだエネルギーがわかってない気がする(多数)。
うーん、力学の先生が聞いたら嘆くぞ。来週、電位の話をみっちりやるので、その中で理解していきましょう。
極座標のdivでいろんなもので割るところが納得できない。こんなもんだと思えばいいんですか?
一度、ちゃんと計算をおっかけてみてください。自分でやれば納得できると思います。
${1\over2}mv^2| _{t=t_1}$の縦棒の意味はなんですか?
$t=t_1$になっている時の値だよ、という限定を意味します。
$F(x)=-{d\over dx}U(x)$のように、マイナス符号をつけて定義するのはなぜですか?
移項した後で、${1\over2}mv^2+U(x)=$一定、という形になるようにです。
divを計算する時、直交座標と極座標はどっちが楽ですか?
それは場合によるので、「こっちが楽」とは決まりません(もしどんな状況でも一方が楽なのなら、そっちだけを教えます)。
2.4.5節で、$E_\theta,E_\phi=0$となるのはなぜですか?
問題が球対称だからです。だから電場は常にr方向を向きます。
円筒座標のイメージがわきません。
こんな感じです。
zは高さ、rはz軸からの距離、φは中心軸から見た角度。