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前回の最後に書いたマッハのバケツの話、やらないつもりだったがやっぱり話した。

2.7 2次元の直線座標の間の変換

一つ次元をあげて、2次元空間の場合で考えてみる。2次元、3次元の場合の座標変換の考え方は、いずれ4次元時空での座標変換を考える時のガイドラインになるからである。

二つの空間座標をx,yとすると、x,yに対して別々の平行移動を行う座標変換

x'=x-a,~~~ y'=y-b

であるとか、それぞれ別の速度でガリレイ変換する座標変換

x'=x-v_x t,~~~ y'=y-v_y t

などがある。

rotation.png

しかしここまでは1次元の話を重ねているだけで面白味がない。2次元ならではの座標変換は、右の図のような、座標軸の回転である。

\begin{array}{rl}  x'=&\phantom{-}x\cos\theta + y\sin\theta \\  y'=&-x\sin\theta+ y\cos\theta \end{array}
(2次元回転)

[問い2-2]右の図に適当に補助線を引くことにより、(2次元回転)を図的に示せ。

(2次元回転)は、行列を使って

\left(\begin{array}{c}  x'\\y'       \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc}       \cos\theta&\sin\theta \\-\sin\theta&\cos\theta				\end{array}\right)\left(\begin{array}{c} x\\y      \end{array}\right)
(2次元回転行列) と書くこともできる。
gyoretsu.png

行列と列ベクトル*1の計算のルールは、左の図である。このルールを(2次元回転行列)に適用すれば、(2次元回転)が出てくる。

(x,y)=(1,0)という点と、(x,y)=(0,1)という点が(x',y')座標でみるとどう表せるかを考えよう。行列計算で書けば、

\begin{array}{rcl} \left(\begin{array}{c}  \cos\theta\\ -\sin\theta       \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc}       \cos\theta&\sin\theta \\-\sin\theta&\cos\theta				\end{array}\right)\left(\begin{array}{c} 1\\0      \end{array}\right)\\ \left(\begin{array}{c}  \sin\theta\\ \cos\theta       \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc}       \cos\theta&\sin\theta \\-\sin\theta&\cos\theta				\end{array}\right)\left(\begin{array}{c} 0\\1      \end{array}\right)\end{array}

となる。つまり行列

\left(\begin{array}{cc}       \cos\theta&\sin\theta \\-\sin\theta&\cos\theta				\end{array}\right)

\left(\begin{array}{c} 1\\0 \end{array}\right)を座標変換した結果の\left(\begin{array}{c}  \cos\theta\\ -\sin\theta       \end{array}\right)と、\left(\begin{array}{c} 0\\1  \end{array}\right)を座標変換した結果である\left(\begin{array}{c}  \sin\theta\\ \cos\theta       \end{array}\right)を横に並べて作った行列であると考えることができる。 \left(\begin{array}{c} 1\\0 \end{array}\right)\left(\begin{array}{c} 0\\1 \end{array}\right)は互いに直交し、それ自体の長さは1である。したがって、\left(\begin{array}{c}  \cos\theta\\ -\sin\theta       \end{array}\right)\left(\begin{array}{c}  \sin\theta\\ \cos\theta       \end{array}\right)も互いに直交して長さは1である。「長さが1である」という性質や「直交する」という性質はどの座標系で見ても((x,y)座標系でも(x',y')座標系でも)同じだからである。

rotation2.png

回転であるから当然であるが、この式は

(x')^2+(y')^2 = x^2+y^2
(距離の自乗)

を満足する。つまり、原点からの距離(上の式は距離の自乗)はこの変換で保存する。 これを行列で考えよう。まず、

\begin{array}{c}  ( x ~~~y )\\\phantom{(x,y)} \end{array}\left(\begin{array}{c} x\\y      \end{array}\right) = x^2+y^2

のように、行ベクトルと列ベクトルのかけ算という形で距離の自乗を表現する。列ベクトルの座標変換は(2次元回転行列)だったが、行ベクトルの座標変換は

\begin{array}{c}  ( x' ~~~y' )\\\phantom{(x,y)} \end{array}= \begin{array}{c}  ( x ~~~y )\\\phantom{(x,y)} \end{array}\left(\begin{array}{cc}\cos\theta & -\sin\theta \\\sin\theta & \cos\theta\\      \end{array}\right) = \begin{array}{c}  ( x\cos\theta + y\sin\theta ~~~-x\sin\theta + y\cos\theta )\\\phantom{(x,y)} \end{array}

と書ける。(2次元回転行列)と場合とは行列の並び方が変わっているものになっていることに注意しよう(具体的に行列計算をしてみればこれで正しいことはすぐにわかる)。この、

A= \left(\begin{array}{rl}  a_{11}&a_{12} \\ a_{21} & a_{22}       \end{array}\right)\toA^t= \left(\begin{array}{rl}  a_{11}&a_{21} \\ a_{12} & a_{22}       \end{array}\right)

のような並び替えを「転置(transpose)」と呼び、行列Aの転置はA^tという記号で表す。転置はa_{ij}\to a_{ji}と書くこともできる。a_{ij}とは「i番目の行の、j番目の列の成分」であるから、iとjを入れ替えるということは行番号と列番号を取り替えることである。ゆえに、転置を「行と列を入れ替える」とも表現する。

この式を使って、(x')^2+(y')^2を計算すると、

\begin{array}{c}  ( x' ~~~y' )\\\phantom{(x,y)} \end{array}\left(\begin{array}{c}	     x'\\y'		  \end{array}\right)=\begin{array}{c}  ( x ~~~y )\\\phantom{(x,y)} \end{array}\left(\begin{array}{cc}\cos\theta & -\sin\theta \\\sin\theta & \cos\theta\\      \end{array}\right) \left(\begin{array}{cc}       \cos\theta&\sin\theta \\-\sin\theta&\cos\theta				\end{array}\right)\left(\begin{array}{c} x\\y      \end{array}\right)

となるが、

\left(\begin{array}{cc}\cos\theta & -\sin\theta \\\sin\theta & \cos\theta\\      \end{array}\right) \left(\begin{array}{cc}       \cos\theta&\sin\theta \\-\sin\theta&\cos\theta				\end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc}\cos^2\theta+\sin^2\theta  & \cos\theta\sin\theta-\sin\theta\cos\theta \\\sin\theta\cos\theta-\cos\theta\sin\theta & \sin^2\theta + \cos^2\theta       \end{array}\right) =\left(\begin{array}{cc}  1&0 \\0&1       \end{array}\right)
(直交の式)

となることを考えると、\begin{array}{c}  ( x' ~~~y' )\\\phantom{(x,y)} \end{array}\left(\begin{array}{c}	     x'\\y'		  \end{array}\right)=\begin{array}{c}  ( x ~~~y )\\\phantom{(x,y)} \end{array}\left(\begin{array}{c} x\\y      \end{array}\right)すなわち、(x')^2+(y')^2=x^2+y^2になることがわかる。このように必要な部分だけを計算できるのが行列計算のメリットの一つである。

(直交の式)が成立することは、直接的計算でももちろんわかるのだが、ベクトルの意味を考えればその意味が明白に理解できる。

matmul.png

↑クリックするとフルサイズで見ることができます。

上の図のように、行列のかけ算というのは結局、行ベクトルと列ベクトルの内積の計算を繰り返すものである。そして、\left(\begin{array}{cc}       \cos\theta&\sin\theta \\-\sin\theta&\cos\theta				\end{array}\right)が「互いに直交して長さが1であるような二つのベクトルを横に並べたもの」であり、\left(\begin{array}{cc}\cos\theta & -\sin\theta \\\sin\theta & \cos\theta\\ \end{array}\right)は同じベクトルを縦に二つ並べたものである。計算の結果1になるのは「自分自身との内積」すなわち「ベクトルの長さの自乗」を計算している部分で、0になる部分は「直交している」というところを計算している部分である。

今の一例に限らず、回転を表すような行列は「互いに直交して長さが1になるベクトルを並べたもの」という性質を持っていなくてはならない。

逆に、(距離の自乗)を満足するような座標変換が

\left(\begin{array}{c} x'\\y'       \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc} a_{11} & a_{12}\\	a_{21}&a_{22} \\       \end{array}\right)\left(\begin{array}{c} x\\y      \end{array}\right)
(行列の回転の式)

と書けていたとすると、二つの列ベクトル

\left(\begin{array}{c}  a_{11}\\a_{21}       \end{array}\right),\left(\begin{array}{c}  a_{12}\\a_{22}       \end{array}\right)

は、どちらも長さが1で、互いに直交しなくてはいけない。このような条件を満たしている行列を直交行列といい、Aが直交行列であれば、A^tAは単位行列となる*2

rotation3.png

直交行列であれ、というだけの条件では回転の行列になるとは限らない。たとえば、\left(\begin{array}{cc} 1&0\\0&-1\end{array}\right)は直交行列であるが、その物理的内容は回転ではなく、y軸の反転である。直交行列で、かつ行列式が1であるという条件を満たす場合、その行列は回転を表す。

たとえば行列\left(\begin{array}{cc}\cos\theta&\sin\theta \\ \sin\theta & -\cos\theta \end{array}\right)は行列式が-1である。この行列は\left(\begin{array}{cc}\cos\theta&-\sin\theta \\ \sin\theta & \cos\theta\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}1&0 \\0&-1 \end{array}\right)の積であるから、「y軸を反転した後でθだけ回転する」という座標変換を表す行列である。つまり、行列式が-1の場合は座標系の反転が入っている。

2.8 テンソルを使った表現

以上のような多次元の計算をする時、いちいちx=なんたら、y=かんたら、と式を並べるのは面倒なので、約束ごととして、x^1=x,x^2=yのようにxの肩に添字(「足」と呼ぶこともある)をつけて、x^i=なんたらかんたら(この「なんたらかんたら」にはiに依存する式が入る)と一つの式で表すことが多い。x^1は「xの1乗」と、x^2は「xの2乗」と間違えやすいので注意すること*3。この書き方を使うと、(行列の回転の式)は

\biggl\{\begin{array}{l}x^{\prime 1}=a_{11}x^1+a_{12}x^2 \\x^{\prime 2}=a_{21}x^1+a_{22}x^2 \\	\end{array}をまとめて、x^{\prime i} = \sum_{j=1}^2 a_{ij}x^j)

と書ける。これは単純に書き方を変えただけで、式自体は何も変わっていないのだが、こう書くことで変換のルールが明確になる場合が多い。

二つの行列の積

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は成分で書くと、

\begin{array}{c}a_{11}b_{11}+a_{12}b_{21}=c_{11}, \\a_{11}b_{12}+a_{12}b_{22}=c_{12}, \\a_{21}b_{11}+a_{22}b_{21}=c_{21}, \\a_{21}b_{12}+a_{22}b_{22}=c_{22} \\\end{array}~~\to~~ a_{i1}b_{1k}+a_{i2}b_{2k}=c_{ik}~~\to~~ \sum_{j=1}^2 a_{ij}b_{jk}= c_{ik}

と書ける。

matrixmul.png

この時、前の行列(a_{ij})の後ろの添字*4(この場合jのこと。列に対応)と後ろの行列(b_{jk})の前の添字(同じくjのこと。行に対応)が同じものにそろえられて足し算されていることに注意せよ。

行列で書いた時は、「AB\neq BAなので順番を変えてはいけない!」とルールがあるが、テンソルを使って書いた時、\sum_{j=1}^2 a_{ij}b_{jk}=\sum_{j=1}^2 b_{jk}a_{ij}である。行列の時の「掛け算の順序」という情報は「どっちの足が足し上げられているか」という点に込められている。a_{ij}とかb_{jk}とかは一つの成分であるから、順番はどうでもいい(この「順番を気にしなくてもよい」というのはテンソルのありがたいところ。その代わり、「添字のついている場所を勝手に変えてはいけない!」というルール(a_{ij}\neq a_{ji})があるので注意。

さてここで、A= \left(\begin{array}{rl}  a_{11}&a_{12} \\  a_{21}&a_{22} \\       \end{array}\right)が直交行列であるという条件(A^tA=I)をテンソルの表記で考えよう。

A^t= \left(\begin{array}{rl}  a_{11}&a_{21} \\  a_{12}&a_{22} \\       \end{array}\right)= \left(\begin{array}{rl}  (a^t)_{11}&(a^t)_{12} \\  (a^t)_{21}&(a^t)_{22} \\       \end{array}\right)

であるから、A^tA=I

\sum_{j=1}^2 (a^t)_{ij}a_{jk}=\sum_{j=1}^2 a_{ji}a_{jk}=\delta_{ik}
(直交行列の式) と書ける。ただし、\delta_{ik}はi=kの時1、それ以外の時0ということを意味する記号で、クロネッカー・デルタと呼ばれる。つまりは単位行列をテンソルで表したものである。
matrixmul3.png

この最後の式では前の添字どうしが同じになっていることに注意しよう。だから、\sum_{j=1}^2 a_{ji}a_{jk}を見て、「行列Aと行列Aの掛け算」だと思ってはいけない。上で述べたように行列の掛け算ならば「前の行列の後ろの添え字と、後ろの行列の前の添え字をそろえる」というのがルールなので、AとAの掛け算ならば、\sum_{j=1}^2 a_{ij}a_{jk}なのである。\sum_{j=1}^2 a_{ji}a_{jk}は前の添字と前の添字をそろえている。これを「前の行列の後ろの添え字と、後ろの行列の前の添え字をそろえる」という状態にするにするためには、前の行列の添字を入れ替える(a_{ij}=(a^t)_{ji})必要がある。ゆえに、\sum_{j=1}^2 a_{ji}a_{jk}は「A^tとAの掛け算」と考えなくてはいけない。

以上のように、行列計算とテンソル計算の間の翻訳をする時には、添字の付き方に注意することが必要である。\sum_j a_{ij}b_{jk}のように「前のテンソルの後ろの添字と後ろのテンソルの前の添字で和が取られている」時、素直に行列のかけ算に書き直せる。それ以外の時は転置などをとることが必要である。

さらに書くときに楽をするために、「同じ添字が2回現れたら、その添字に関して和がとられているものとする」というルール*5を採用して、\sumを省略することがある。その場合、(行列の回転の式)はx^{\prime i} = a_{ij}x^j と書けるし、(直交行列の式)はa_{ji}a_{jk}=\delta_{ik} と書ける。

このように上や下に添字のついた量を「テンソル」*6と呼ぶ(テンソルの正しい定義は後で行う)。以後この講義ではこの書き方をすることも多い(しばらくは併記するようにする)。どの書き方もたいへん大事なので、どれも使えるようになって欲しい。たとえば、行列で書いて

\begin{array}{c}  ( x^1 ~~~x^2 )\\\phantom{(x,y)} \end{array}\left(\begin{array}{cc}a_{11} & a_{12} \\a_{21} & a_{22}      \end{array}\right)\left(\begin{array}{c} X^1\\X^2      \end{array}\right)

となる式は、テンソルで書くと、

\sum_{i,j} x^i a_{ij} X^j   または  x^i a_{ij} X^j

となる。ここでも添字のどことどこを揃えるかというルールがあるが、図で書いた時「揃える足をつないだ線が交差しないように」と覚えておくとよい。

matrixmul2.png

このような回転に関しても、運動方程式の形が変わらないことを確認しよう。

m{d^2 x\over dt^2}=F_x, m{d^2 y\over dt^2}= F_y

から、

\begin{array}{rl} m{d^2 x'\over dt^2}=& m{d^2 x\over dt^2}\cos \theta+ m{d^2 y\over dt^2}\sin \theta \\=& F_x \cos\theta + F_y \sin \theta\end{array}

同様に

m{d^2 y'\over dt^2}=-F_x \sin\theta+ F_y \cos \theta

となる。ゆえに、

\begin{array}{rl}  F_{x'}=& F_x \cos\theta + F_y \sin \theta\\F_{y'}=&-F_x \sin\theta+ F_y \cos \theta \end{array}

を「回転された力」と考えれば*7

m{d^2 x'\over dt^2}=F_{x'},  m{d^2 y'\over dt^2}=F_{y'}

が成立し、回転前と同じ運動方程式が成立している。

このことも、行列およびテンソルを使った書き方で示しておく。行列で表現すると

m{d^2 \over dt^2}\left(\begin{array}{c}   x\\y	\end{array}\right)=\left(\begin{array}{c}	F_x\\F_y				 \end{array}\right)~~~\to~~~ m{d^2 \over dt^2}\left(\begin{array}{cc} \cos\theta&\sin\theta \\-\sin\theta&\cos\theta      \end{array}\right)\left(\begin{array}{c}   x\\y	\end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc} \cos\theta&\sin\theta \\-\sin\theta&\cos\theta      \end{array}\right)\left(\begin{array}{c}	F_x\\F_y				 \end{array}\right)

と書かれる。角度θが時間tによっていなければ、この二つの式は等しい。また、a_{11}=a_{22}=\cos\theta,a_{12}=-a_{21}=\sin\thetaとしてa_{ij}を使って表すならば、運動方程式は

m {d^2 x^i\over dt^2} = F^i~~~\to~~~ m a_{ij} {d^2 x^j \over dt^2} = a_{ij}F^j

と変わる、ということになる。a_{ij}が時間によらなければ、この二つは等しい。

回転の場合、運動方程式の全体の形は変わらないが、個々の成分の値は変わる(x成分がF_xからF_x\cos\theta+F_y\sin\thetaになるように)。このような場合は「不変(invariant)」とは言わず「共変(covariant)」という言い方をする。ニュートンの運動方程式は回転に対して共変である。

行列表示あるいはテンソル表示では、「変換」を表す部分が行列だったりa_{ij}だったりして、式の中で一カ所に集まって表現されている。そのため、何かの「変換」を行うことで新しい座標系での運動方程式が出ている(しかも、その「変換」は左辺も右辺も同様に行われる)ということがわかりやすいかと思う*8

この章では力学を見直した後、数学的準備をしたので、いよいよ次の章から相対論へとつながる物理、すなわち電磁気学の相対性を考えていこう。

2.8 章末演習問題

[演習問題2-1] 質量m_1,m_2,\cdotsを持つ質点の系で、運動エネルギー保存則

{1\over2}m_1 |\vec v_1|^2+{1\over2}m_2 |\vec v_2|^2+\cdots={1\over2}M_1 |\vec V_1|^2+{1\over2}M_2 |\vec V_2|^2+\cdots

が成立していたとしよう(ある時刻に、質量m_iを持つ物体が\vec v_iの速度を持っており、一定時間たった後には質量M_iで速度が\vec V_iになったとする)。この保存則をガリレイ変換する。「どんなふうにガリレイ変換しても、その座標系において運動エネルギー保存則が成立する」という条件を課すと、いかなる物理法則が導かれるか?

ヒント:ガリレイ変換すれば全ての速度が\vec v \to \vec v -\vec v_0と変わる(\vec v_0は座標系間の速度)。任意の\vec v_0に対してエネルギー保存則が成り立つ条件を考えよ。

[演習問題2-2]直交行列の行列式は1か-1か、どちらかであることを以下を使って示せ。

  1. 二つの行列(A,B)の積(AB)の行列式(\det (AB))は、それぞれの行列式の積(\det A\det B)である。
  2. 転置しても行列式は変わらない(\det A = \det (A^t))。

[演習問題2-3]2×2の直交行列Aの行列式\det Aには、どのような幾何学的意味があるか。その意味を考えて、\det Aが1または-1であることの意味を説明せよ。

ヒント:行列式\det A = a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}は、ベクトル \left(\begin{array}{c}a_{11}\\a_{21}\end{array}\right)\left(\begin{array}{c}a_{12}\\a_{22}\end{array}\right)の何???

[演習問題2-4]直交行列と直交行列の積は直交行列である。これを行列で表現すれば、

A^t=A^{-1},B^t=B^{-1}ならば、(AB)^t=(AB)^{-1}すなわち、(AB)^t AB=Iとなる。テンソル表記を使ってこれを表現し証明せよ。

月曜日が祝日になることが多いため、4月30日(水曜日)には月曜日の授業をします。よって次の相対論の授業は4月30日になります。注意しましょう。

学生の感想・コメントから

ニュートンのバケツの話、宇宙全体が回ってもバケツには力が働かないと思うのですが。

その素朴な考え方こそがマッハが廃した「先入観」という奴です。宇宙全体を回す実験を誰もしてないのに、どうしてそんなことがわかるんですか??

宇宙全体が回るなら、宇宙全体の物質が遠心力を受けるはずなので、同じ現象にはならないのではないですか?

それも先入観です。「遠心力は他の物質との相対運動によって生じる。よって宇宙全部がいっせいに回ったら遠心力はない」という可能性もあるわけです。

時速100キロで走る車の上から後ろに時速100キロでボールを投げるとぽとりと落ちるという話がありましたが、カーブを投げるとどうなるんですか?

カーブが曲がるのは、空気中をボールが進むからです。自然に落下するような遅い速度ではカーブを曲げる力はほとんど働かないので、その場に落ちます。

地上50メートルから落ちても大丈夫な方法を思いつきました。台の上に乗って飛び降りて、着地と同時に飛び上がって速度を相対的に0にするのです。

もし相対的に速度を0にできるなら大丈夫ですが、それはつまり、50メートル落下してきて獲得した速度をいっきに0にできるだけの力を足が出せる、ということです。もし人間の足がそんなに強靱なら、台に乗って落ちなくても普通に着地すれば助かります。実際にそんな加速ができたとしたら、その加速した時に足が折れます。

回転系ではガリレイ変換はなぜ使えないんですか?

回転系は等速直線運動してないので、そもそも式が違うし、そういう座標系に乗ったとすると遠心力というみかけの力が発生します。

ガリレイ変換などの座標変換を複数回行っても物理法則は変わらないのですか?

変わりません。一個一個の変換で変わらないのですから。

テンソルって座標変換にしか使わないんですか?

いえいえ。連続体の応力とか、物理のいろんなところで現れますよ。

スカラー、ベクトル、テンソルときて、その次はありますか?

次というよりはスカラーとベクトルの真ん中に、スピノルってのがあります。

なんとなく計算していた行列にこういう意味があると言われると理解が深まった気がしました。

どんな計算にもそれぞれ意味があるので、その意味を考えながら計算しなくては。

「同じ添字が2回現れたら和を取る」ということですが、a_{12}b_{21}となっていたら、この2で和を取るんですか??

この場合の「添字」というのはiとかjとかの文字(アルファベット)のことです。

Σを「サメンション」と言ってましたが、「シグマ」とは別ですか?

同じです。ギリシャ文字としては「シグマ」ですが、「足し算している」という意味を表す呼び方だと「サメンション」です。

線形代数の勉強し直さなくては(とっても多数)

こういう時で使うために勉強してたはずなんですが(^_^;)

数学ではテンソルを使わないのですか?

もちろん数学でも使いまくります。

100万回言われていることかもしれませんが、テンソルの「足」ってネーミングは飾りだからですか?

そんなこと言われたのは初めてです(^_^;)。それにテンソルの足は飾りじゃありません。えらい人でなくてもわかります。


*1 縦に並んでいるのを「列ベクトル」、横に並んでいるのを「行ベクトル」と呼ぶ。「行」と「列」という漢字には横線2本、縦線2本がそれぞれ含まれているので「縦線が含まれている『列』が縦のベクトル」と覚えておくとよい。
*2 以上で述べたように、行列計算は「座標変換」という幾何学的操作を記述するのに非常に便利な数学ツールである。単に「なんだかめんどくさい計算だな」などと思ってはいけない。むしろめんどくさい計算をいかに楽をしてやるか、そのための道具である。
*3 添字は肩でなく下につけてx_1,x_2とする場合もある(この場合を「下付き添字」などと言う)。上付き添字と下付き添字は厳密には意味が違う。その差はこの講義の後半で出現する予定。実は厳密に考えると、(行列の回転の式)はx^i=a^{i}_{\phantom{i}j}x^jのように書かなくてはいけない。今考えている2次元や3次元で直交座標を使っている場合ではそこまで厳密にしなくても支障無い。
*4 テンソルの添字のことを「足」と表現することもよくある。
*5 始めたのはアインシュタインなので、「アインシュタインの規約」と呼ぶ。アインシュタイン本人は「私の数学への最大の貢献」と冗談混じりに自画自賛している。
*6 足の数をテンソルの階数と言う。ベクトルは足が一個ついているので「一階のテンソル」と言う。a_{ij}は二階のテンソル。
*7 これは座標というベクトルと力というベクトルが同じ形の変換をしなさい、ということなので、reasonableである。
*8 なお、実際には我々の空間は3次元であるので、3次元で計算すべきだが、それはここまでの考え方を素直に拡張すればよいだけであるので省略する。

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Last-modified: 2024-01-12 (金) 19:41:50