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先週が休みだったため、学生さんも「2週間前のことなんて忘れた」という顔をしているため、復習を長めにやった。しかしそれでも反応が鈍かったので、今日はあまり進んでない。

6.4 4元ベクトル

3次元のベクトル\vec V=(V_x,V_y,V_z)は座標変換の時に、座標\vec x=(x,y,z)と同じ行列で変換される。その時二つのベクトルの内積が不変量であった(内積のもともとの定義は二つのベクトルの長さと、その間の角のcosの積である。回転によって長さと角度は不変)。

同様に、4成分のベクトルV^\mu(\mu=0,1,2,3)を考える*1

座標がローレンツ変換(x^{\prime\mu}=\alpha^{\mu}_{~\nu}x^\nu)された時、このベクトルはV^{\prime\mu}=\alpha^{\mu}_{~\nu}V^\nuと同様のローレンツ変換を受けるとしよう。一例をあげると、

\begin{array}{rlcrl}  ct'=&\gamma(ct-\beta x) & &V^{\prime0}= &\gamma(V^0-\beta V^1) \\  x'=&\gamma(x-\beta ct) & &V^{\prime1}= &\gamma(V^1-\beta V^0) \\  y'=&y & &V^{\prime2}= &V^2 \\  z'=&z & &V^{\prime3}= &V^3 \\ \end{array} この時、 \alpha^\mu_{~\nu}=\left(\begin{array}{cccc}	     \gamma&-\beta\gamma &0 &0 \\		   -\beta\gamma&\gamma &0 &0 \\		   0&0 &1 &0 \\		   0&0 &0 &1 \\		  \end{array}\right)

このような変換にしたがうベクトルを4元ベクトルと言う。後で出てくる4元速度、4元加速度、4元力などは全て4元ベクトルである。二つの4元ベクトルV^\mu,W^\muを考える。では、このようなベクトルによって作られる、座標変換(この場合ローレンツ変換)の不変量はどのようなものだろう。

この二つのベクトルの内積を3次元でと同じようにV^0W^0 + V^1W^1+V^2W^2+V^3W^3と定義したとすると、これはローレンツ変換で保存しない。保存するのは、

\eta_{\mu\nu}V^\mu W^\nu=-V^0W^0 + V^1W^1+V^2W^2+V^3W^3

である。これを4次元的な内積と考えよう。4次元の内積がローレンツ変換で保存することは、

\eta_{\mu\nu}V^{\prime\mu} W^{\prime\nu}= \eta_{\mu\nu}\alpha^\mu_{~\rho}V^{\rho} \alpha^\nu_{~\lambda}W^{\lambda}=\underbrace{ \eta_{\mu\nu}\alpha^\mu_{~\rho}\alpha^\nu_{~\lambda}}_{=\eta_{\rho\lambda}}V^{\rho} W^{\lambda}=\eta_{\rho\lambda}V^\rho W^\lambda

からわかるし、そもそもVと同じ変換をするxで作られた\eta_{\mu\nu}x^\mu x^\nuが不変量であったことからもわかる。

このように4元ベクトルどうしの「内積」を取る時には\eta_{\mu\nu}W^\nuという組み合わせがよく出てくるので、

W_\mu = \eta_{\mu\nu}W^\nu

という量を定義する(ここから、上付きの添字を持つベクトルV^\muと下付きの添字を持つベクトルV_\muを区別するので注意!)。上付きの添字を持つベクトルを「反変ベクトル」、下付きの添字を持つベクトルを「共変ベクトル」という。\eta_{\mu\nu}の内容を考えれば、W_0=-W^0, W_1 = W^1, W_2=W^2,W_3=W^3ということである。つまり、W^\muW_\muの違いは第0成分(時間成分)の符号だけである。このようにミンコフスキー空間の直線座標系では反変ベクトルと共変ベクトルの差は時間成分の符号だけで、大きな差はないが、曲線座標系などではそうではなくなるし、特に一般相対論では大きな差になる。この講義ではそこには触れない。

\eta_{\mu\nu}の逆行列を\eta^{\mu\nu}と書くことにする。つまり、

\eta_{\mu\nu}\eta^{\nu\rho}=\delta_\mu^{\nu}   (\delta_\mu^\nu はμ=νの時1でそれ以外0という記号)

ということである(注:\eta_{\mu\nu}\eta^{\mu\nu}の中身は同じ)。この時、#mimetex( W^\mu = \eta^{\mu\nu}W_\nu ); も成立する。つまり添字はηを使って上げたり下げたりできる。そういう意味でも、共変ベクトルと反変ベクトルは中身は同じであって、表現が違うだけである。

共変ベクトルのローレンツ変換は、

W'_\mu = \eta_{\mu\nu} W^{\prime \nu} = \eta_{\mu\nu} \alpha^{\nu}_{~\rho}W^\rho = \eta_{\mu\nu} \alpha^{\nu}_{~\rho}\eta^{\rho\lambda} W_\lambda

となるので、その変換行列は\eta_{\mu\nu} \alpha^{\nu}_{~\rho}\eta^{\rho\lambda}である。よくみるとこれは\alpha^\nu_{~\rho}の添字をηを使って上げたりさげたりしていることになるので、

\eta_{\mu\nu} \alpha^{\nu}_{~\rho}\eta^{\rho\lambda} = \alpha_\mu^{~\lambda}

と書く。この記号を使えば、共変ベクトルのローレンツ変換はB'_\mu = \alpha_\mu^{~\nu}B_\nu となる。

共変ベクトルも反変ベクトルも、「αの後ろの添字とベクトルの添字をそろえて和を取る。この添字は一方が上付きならもう一方は下付きである」と考えれば変換ルールを覚えやすい。

また、 \eta_{\mu\nu}\alpha^\mu_{~\rho}\alpha^\nu_{~\lambda}=\eta_{\rho\lambda}から、

\alpha^\mu_{~\rho}\alpha_\mu^{~\lambda}= \delta_\rho^\lambda
(ααδの式)

ということもわかる。これは、行列\alpha^\mu_{~\rho}の転置と行列\alpha_\mu^{~\lambda}が互いの逆行列であることを意味する。

座標と同じ変換をする方が「反」変で、少し違う変換をする方が「共」変なのは気持が悪いが、数学では微分演算子の方が基本的な量なので、こういう命名になっている。つまり微分演算子{\partial \over \partial x^\mu}は共変ベクトルなのである。以下でそれを示そう。

まず、微分のchain ruleを使って計算すると、

{\partial\over \partial x^{\prime\mu}}={\partial x^\nu\over \partial x^{\prime\mu}}{\partial\over \partial x^\nu}

のように微分演算子が変換することがわかる。一方、ここで現れた{\partial x^\nu\over \partial x^{\prime\mu}}という行列は、

{\partial x^{\prime\mu}\over \partial x^\nu}= {\partial \left(\alpha^\mu_{~\rho}x^\rho\right)\over \partial x^\nu}=\alpha^\mu_{~\nu}

という行列の逆行列である。つまり、

{\partial x^\nu\over \partial x^{\prime\mu}} {\partial x^{\prime\mu}\over \partial x^\rho}=\delta^\nu_{~\rho} あるいは {\partial x^\nu\over \partial x^{\prime\mu}}\alpha^\mu_{~\rho}=\delta^\nu_{~\rho}

である。これと(ααδの式)を見比べると、 {\partial x^\nu\over \partial x^{\prime\mu}}=\alpha_\mu^{~\nu}ということであるから、

{\partial\over \partial x^{\prime\mu}}=\alpha_\mu^{~\nu}{\partial\over \partial x^\nu}

が成立するのである。これは微分演算子が共変ベクトルであるということを示している。

反変ベクトルA^\muと共変ベクトルB_\muの内積のローレンツ変換は

(A')^\mu(B')_\mu = A^\nu \underbrace{\alpha^\mu_{~\nu} \alpha_\mu^{~\rho}}_{=\delta_{\nu}^\rho}B_\rho =A^\mu B_\mu

である。つまり、反変(上付き)添字と共変(下付き)添字が足し上げられていると、ローレンツ変換した結果、それぞれのローレンツ変換が消し合って、まるで最初から添字がついていないかのごとく変換を受けない。つまり添字の意味がなくなっている。それゆえこのように添字が足し合わされている状況を「つぶれている」と称するのである。

なお、C_{\mu\nu},A^{\rho\lambda\tau},D^\tau_{~\sigma\mu\nu}のように添字を複数個もち、上付き(反変)添字が\alpha^\mu_{~\nu}で、下付き添字が\alpha_\mu^{~\nu}で変換されるような量を「テンソル」と言う*2。反変ベクトルは上付き添字が一つのテンソル、共変ベクトルは下付き添字が一つのテンソルである(スカラーは添字のないテンソル)。

複数個の添字のあるテンソルは、その添字の一個一個にαがかかっていくように変換される。 例えば

(D')^{\tau}_{\sigma\mu\nu}= \alpha^\tau_{~\tau'}\alpha_\sigma^{~\sigma'}\alpha_\mu^{~\mu'}\alpha_\nu^{~\nu'}D^{\tau'}_{\sigma'\mu'\nu'}

のように変換される。\eta_{\mu\nu},\eta^{\mu\nu}あるいは\delta^\mu_{~\nu}は添字が二つあるテンソルの例でもある。\eta_{\mu\nu},\eta^{\mu\nu},\delta^\mu_{~\nu}は座標変換で変化しないので、不変テンソルと呼ぶ*3);がある。}。

\delta^\mu_{~\nu}がローレンツ変換で不変であることを証明しよう。x^\mu\to \alpha^\mu_{~\nu}x^\nuと座標変換された時、\delta^\mu_{~\nu}

\alpha^\mu_{~\rho}\alpha_\nu^{~\lambda}\delta^\rho_{~\lambda}= \alpha^\mu_{~\rho}\alpha_\nu^{~\rho}
(δααの式)

と座標変換される。この式を(ααδの式)の左辺と見比べるとよく似ている。違いは(ααδの式)では前の添字がダミーになっていて、(δααの式)では後ろの添字がダミーになっていることである。ここで、行列{\bf A}(その成分はA_\rho^{~\mu}=\alpha^\mu_{~\rho})と行列{\bf B}(その成分はB_\mu^{~\lambda}=\alpha_{\mu}^{~\lambda})を考えると、(ααδの式)の左辺 すなわち\alpha^\mu_{~\rho}\alpha_\mu^{~\lambda}は行列の積{\bf AB}(\rho,\lambda)成分と見ることができる。一方、(δααの式)すなわち\alpha^\mu_{~\rho}\alpha_\nu^{~\rho}は行列''BA''(\mu,\nu)成分とみることができる。{\bf AB}=I(単位行列)であるから、{\bf BA}=Iとなり、

\alpha^\mu_{~\rho}\alpha_\nu^{~\lambda}\delta^\rho_{~\lambda}=\delta^\mu_{~\nu}

が証明される。

なお、このことからも、{\partial\over \partial x^\mu}は共変ベクトルでなくてはならないことがわかる。なぜなら、 {\partial \over \partial x^\mu} x^\nu=\delta_\mu^\nuという式が成立している。 x^\nuが反変ベクトルなのだから、それとかけて\delta_\mu^{~\nu}というテンソルになる{\partial\over \partial x^\mu}は共変ベクトルである。

6.5 章末演習問題

[演習問題6-1] \alpha^\mu_{~\nu}=\left(\begin{array}{cccc} \gamma&-\beta\gamma &0 &0 \\ -\beta\gamma&\gamma &0 &0 \\ 0&0 &1 &0 \\ 0&0 &0 &1 \\  \end{array}\right)の時、

  1. \alpha_\mu^{~\nu}を求めよ。
  1. \alpha^\mu_{~\rho}\alpha_\mu^{~\lambda}= \delta_\rho^\lambdaを確認せよ。
  1. これによって微分演算子\partial_\mu=\left({\partial \over \partial (ct)},{\partial\over \partial x},{\partial \over \partial y},{\partial \over \partial z}\right)はどのように変換されるか。
  2. 変換の後も{\partial_\mu}x^\nu=\delta^\nu_{~\mu}が成立していることを確認せよ。

[演習問題6-2] \alpha^\mu_{~\nu}=\left(\begin{array}{cccc} 1&0 &0 &0 \\ 0&\cos\theta &\sin\theta &0 \\ 0&-\sin\theta &\cos\theta &0 \\ 0&0 &0 &1 \\  \end{array}\right)の時、前問同様の計算を行え。

学生の感想・コメントから

テンソルに慣れてないから全然わからない(という感想いくつか)。

うーん、これまでの授業でもだいぶ使ってきて、そろそろ慣れているかと思ったんですが。わからないなら質問と、自分で計算してみることをやってください。

文字がたくさんでてきて難しかった(という関数もいくつか)。

この程度で「文字がたくさん」じゃあ、この先困りますよ。この程度の文字の数は「ふつ〜」です。

&mimtex(a^\mu_{~\rho}b^\rho_{~\lambda});のアインシュタインの規約を使わない書き方を教えてください。

単に&mimtex(\sum_{\rho=0}^3 a^\mu_{~\rho}b^\rho_{~\lambda});とするだけです。

光子は減速できませんよね?

真空中なら、できません。物質中だと光速より遅くなります。

演算子の方が基本的な量ってどういう状態なのでしょう?

共変ベクトルすなわち微分演算子の方が数学では基本だ、と言う話ですか? あれはベクトルを表現する時の基底ベクトルとして何を使うか、というだけの問題なので、物理的には微分演算子を基底にしようが座標を基底にしようがどっちでもよいのです。

章末問題はあと何回やりますか?

決めてません。

物理をやっているというよりは数学みたいでしたが、今日はみんな数学の話ですか?

そうですね。この後相対論的力学のところまで話すつもりでしたが、皆さんの反応があまりに鈍いのでペース落としました。次からは力学の話になります。

ブラックホールは質量∞なんですか?

いいえ、違います。質量は有限ですよ。

そして速度を持てるんですか? 加速度は?

もちろん速度も加速度も持てますよ。


*1 少し前から使っているが、i,j,k,\cdotsなどのアルファベットは1,2,3(3次元空間)の添字として、\mu,\nu,\rho,\cdotsなどのギリシャ文字は0,1,2,3(4次元時空)の添字として使う、というのが相対論の本でよく使われる約束である。
*2 「この量はテンソルである」という時、その添字がちゃんとローレンツ変換によって変換されるということが重要である。
*3 この他に不変テンソルとしては、完全反対称テンソル&mimetex(\epsilon^{\mu\nu\rho\lambda

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Last-modified: 2024-01-12 (金) 19:41:52