先週「相対論的因果律」が超光速移動があると破れてしまう、という話をしたが、理解が不十分な感じだったので、超光速移動がある時にタイムマシンができてしまう例を示すプログラムを見せた。
以下は先週の続きから。
この「4次元的距離」という考え方をすると、ローレンツ短縮やウラシマ効果を別な形で理解することができる。ローレンツ短縮は、「動いている棒は長さが縮む」という現象である。右の図は、棒が静止している座標系で、棒の先端と後端の軌跡を示した。図の水平矢印は、棒と同じ動きをしている人が観測する「棒の長さ」である。
次に、棒に対して動いている人を考える。同時の相対性により、この観測者の同時刻は傾いている。この人が棒の長さを測る時には、自分にとっての同時刻を基準に測るであろうから、「棒の長さ」は図の斜め矢印であると認識する。
水平矢印と斜め矢印は、グラフ上の見た目では斜めの方が長く見えるが、4次元的長さの自乗の定義がであることを思い出すと、水平矢印の長さXに対し、斜め矢印は長さがとなる(普通のピタゴラスの定理とはの前の符号が変わっていることに注意)。
ウラシマ効果は、動いている方が経過する時間が短いという効果であるが、それは図の斜め線の方が垂直な線より短いということで理解できる。
グラフを見ると斜め線の方が長く見えるが、今長さの定義が4次元的距離で定義されていることに気をつけなくてはいけない。そのため、真っ直ぐな線の4次元的距離の自乗はであり、斜め線の4次元的距離の自乗は となる。「距離の自乗」がマイナスになるのは「自乗」という言葉の本来の意味からすると奇妙であるが、今「距離の自乗」はと定義されているのでこれでよい。本来の意味とは違う使い方をしていることになるが、物理専用の用語なのだと思って納得して欲しい。
マイナスになるのが気になるのであれば、「時間的な距離を測る時には距離の自乗はと定義する」と決めておいてもよい。
粒子の軌跡(4次元時空中の曲線になる)を「世界線」と呼ぶ。世界線の長さを上で定義したdsを使って測定する。dsはローレンツ変換によって不変な量である。適当なローレンツ変換をしても値は変らないのだから、計算しやすい座標系で計算すればよいことになる。そこで今考えている粒子がちょうど静止しているような座標系を採用したとする。その座標系を(T,X,Y,Z)とすると、明らかに粒子の運動した線に沿っていけばdX=dY=dZ=0 であるから、
となる。つまり、dsはその物体が静止している座標系で測った時間経過に比例する。比例定数はicである(iがついてしまうのは、をspacelike conventionで定義したためである)。と書くと、このτがまさに、その物体が静止している座標系で測った時間である。つまり、この物体が持っている時計の刻む時間であると考えて良い。そこでτを固有時と呼ぶ。
となる*1。固有時τに対し、座標系に対して静止している人にとっての時間tは「座標時」と呼ばれる。この式の両辺をで割って平方根を取ると、
となる。つまり、固有時の増加は座標時の増加の倍である。
固有時は、各物体ごとに違う進み方をする。上の式からわかるように、寄り道をするとが多くなり、結果として固有時の進みは遅れる(ウラシマ効果)。双子のパラドックスの計算なども、運動している物体の固有時が短くなる、と考えれば簡単である。
我々の知っている粒子の世界線はtime-likeであるかnull-likeであるか、どちらかである。世界線がspace-likeだということは超光速で運動している粒子であるということで、そんなものは見つかっていない。もし見つかったら、そのような粒子は見る人の立場によっては未来から過去に向かって走ることになるので、因果律に抵触することになるだろう。
世界線がnull-likeになると、固有時の変化は0になってしまう。よって光のように光速で動くものに対しては固有時が定義できない(あるいは定義してもそれは変化しない)。
半径R、角速度ωで等速円運動している物体がある。座標時では1周にだけ時間がかかるが、固有時ではどれだけの時間になるか?
次の節で4次元時空内でのベクトルを考える。ローレンツ変換は4次元時空間での「回転のようなもの」と解釈できるので、4次元に行く前に3次元空間における回転を復習しておく。
3次元の座標を回転させる座標変換は、
のように行列で書ける。
これをテンソルで書けば)となる。Aには具体的には例えばのような行列が入る。
このように座標系が回転した時、3次元空間のベクトルは、
(テンソルで書けば ) のように、同じ行列を使って回転される。そして、二つのベクトルがあった時、その内積は保存する。そのことは、行列の性質
からわかる。この式をテンソルで書けばである。この式の左辺の掛け算は、の前の足どうしが同じ添字で足し上げられていることに注意。つまり行列の掛け算ルールに即するためには前の方を転置せねばならない(上の行列での表現もそうなっている)。
また、回転の行列ならばこのような性質を持っていることは、ベクトルをこの行列で回転させるととなることからわかる。
と置いてみると、である。これはすなわち、(行列Aの性質)が成立するということなのである。
が成立することは内積が回転という座標変換で不変であることと、が座標変換を行う前はであったことを考えれば当然である。
授業の最初の未来から過去へ移動する場合の説明で、先に移動先が出て、後で移動前のが消えてましたが、瞬間移動してないのに異動先に自分がいるんですか?
いえ、あれは瞬間移動してます。実験装置の座標系で瞬間移動しているので、別の座標系でみると「未来→過去」という移動をしていることになるのです。
いつかタイムマシンを発明してほしいものだなぁ。
君ががんばれ。
の表記で、空間的、ヌル的、時間的とあってどれも意味的には同じで使う人の流儀によるのなら、まぎらわしいので統一して欲しいです。
違う違う。が空間的な時に正になるか、空間的な時に負になるかは流儀によって違いますが、「時間成分より空間成分が大きい時は空間的」という物理の部分は流儀にはよりません。まぁ、が正の時に空間的なのか時間的なのかが流儀によるのは面倒ですが、統一するためには世界中の(相対論をやっている)物理学者のうち半分を説得しなくちゃいけません。
4次元での三平方の定理が、ローレンツ短縮を説明するためのこじつけにしか見えないんですけど!
こじつけってのは言葉が悪いなぁ。ああいうふうに符号がひっくり返った三平方の定理になる理由は(何度も言っているけど)物理では不変量が大事だからです。「何が不変量なのか?」を理論的・実験的に見極めたからこそああやっているわけです。
相対論2008年度第7回の最初で「ct'軸の傾きはである」とありますがなぜですか?
その先に(つまり、ct'軸上でx方向にv進むと、ct軸方向にc進む)と書いてありますね。ct'軸は、x-ct座標系でみると時間tでvtだけ進む人にとっての座標系だからです。
物理において、座標変換すると変わってしまう量はあるんですか?
そりゃもちろんあります。ただし、方程式の左辺と右辺が連動して変わる場合があって、その結果方程式はちゃんと成立していたりします。
幾何学と物理が合わないのが相対論の難しいところだと思いました。
実際のところ、相対論のためには「目に見えるとおりでない幾何学」を使っていかなくてはいけないのです。
4次元的な長さは、ついつい間違いそうだ。
慣れるまではなかなか難しいですね。
行列苦手です(複数)
うーん、こういう人多いなぁ。でも行列を使うことで計算が劇的に簡単になることはよくあるんですよ。最初我慢して使っていけば、便利さがわかってくると思います。
線形代数の勉強しないと・・・(これも多数)
しておいた方がいいですよ。量子力学でも役立ちます。
初めて行列を分かりやすく感じました!
もともと、計算を簡単にするために考え出されたものなんですけどね(^_^;)。どうもみんな難しく考えすぎているような気がします。