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4.3 x-ctグラフで見るローレンツ変換

前章の電車の問題で、同時刻線が傾くということを確認した。ここで、どれくらい座標系が傾かなくてはいけないかを作図で示してみよう。

lorentzgraph1.png

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上の図の(x',t')座標系は電車の静止系である。電車が速度vで動いているように見える座標系(x,t)座標系での物理現象を描くと、次のようになる。

lorentzgraph2.png

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x'=0の線、すなわちt'軸が電車の後端の軌跡に重なるようにグラフを書いた。このx'=0の線上では、x=vtが成立する((x,t)座標系では電車が速度vで走っている)ことに注意しよう。

電車の先端と後端から光が出てPに到達したわけだが、先端から光が出たその瞬間の時空点をQとした。電車の静止系で見ると、先端と後端から光が出た瞬間(Q とO)は同時刻である。ここで、Q\toPと来た光がそのまま突き抜けて、後端に達した時空点をRとする。また、O\toPと来た光がそのまま突き抜けて、先端に達した時空点をSとする。ORとQSは、どちらも同じ電車の一部の運動を表しているので、平行線である。また、OQとRSは、どちらも電車にとっての「同時刻」線であり、電車は一様な運動をしているのだから、平行線である。よってOQSRは平行四辺形なのだが、ここでP点でのOSとQRの交わりを考える。この二つの線分はどちらも45度の斜め線であるから、直交している。対角線が直交する平行四辺形は菱形である。このことは、このグラフ上におけるx'軸とx 軸の角度が、ct'軸とct軸の角度と等しいことを意味する。つまり、この図はx\leftrightarrow ctという取り替え(図で言うと、45度線を対称軸とした折り返し)で対称である。

ct'軸状ではx-vt=0が成立するのだから、

x-{v\over c}(ct)=0 \leftrightarrow ct -{v\over c}x =0

という対称変換をほどこすことで、x'軸の上ではct -{v\over c}x =0が成立していることがわかる。

hanten.png

対称変換がわかりにくい人は、こう考えよう。(x,ct)座標系で見ると、ct'軸の傾きは{c\over v}である(つまり、ct'軸上でx方向にv進むと、ct軸方向にc進む)。式で書けば、ct'軸は

ct={c\over v}x   書き直せば   x={v\over c}ct

なのである。 一方、x'軸とx軸の傾きは、ct'軸とct軸の傾きと同じ角度であることを考えると、x'軸は(x,ct)座標では{v\over c}の傾きを持つ。そう考えると、x'軸は

ct={v\over c}x

となる。

x'=0がx-{v\over c}ct=0に対応し、ct'=0がct-{v\over c}x=0に対応する ということから、

x'= A\left(x-{v\over c} ct\right)
(ローレンツ変換途中式1)
ct'= B\left(ct-{v\over c}x\right)
(ローレンツ変換途中式2)

となることがわかる。

goban.png

ここで、この座標変換が一次変換に限るということを説明しておく。(x,ct)座標系は図のような碁盤の目で表すことができるだろう。これに対して傾いている(x',ct')座標系は、やはり傾いた平行四辺形で作られた碁盤の目で表すことができる。(x',ct')座標系での碁盤の1マスを塗りつぶして表した。(x,ct)の関係と(x',ct')の関係が1次式でなかったら(たとえば2次式だったりすると)、(x',ct')座標系で見た時の碁盤の1マスの大きさが、(x,ct)座標系で見ると一様でない、ということになってしまう。つまりx'座標系での1メートルが、場所によって違う長さでx座標系に翻訳されてしまう。しかし、今考えている座標変換では、x'座標系のどの場所も同じような比率でx座標系と関連づけられているはずである。つまり図で書いたように、違う場所での「(x',ct')座標系での1マス」はx座標系で見て同じ大きさ、同じ形のマスになるはずである(これが一様だということ)。そうなるためには、(x,ct)と(x',ct')の関係は1次式でなくてはならない。

さらに、どちらの座標系でも光速がcであるということからA=Bであることがわかる。なぜならば、x座標系で原点から右へ進む光の光線上では、x=ctが成立する。この式が成立する時、x'座標系ではx'=ct' が成立しなくてはおかしい(光速度不変)。(ローレンツ変換途中式1)と(ローレンツ変換途中式2)に、x=ctとx'=ct'を使うと、

\begin{array}{rcl} A\left(ct-{v\over c} ct\right)&=& B\left(ct-{v\over c}ct\right)\end{array}

となる。つまり、A=Bでなくてはならない。ここまでの結果は、

x'= A\left(x-{v\over c} ct\right)
ct'= A\left(ct-{v\over c}x\right)

である。相対論以前の`常識'に従えば、A=1と言いたいところである(A=1ならば、x'の式に関してはガリレイ変換と一致することになる)。しかし、そうはいかない。このAの値を決めるにはいろいろな方法がある。

ローレンツ短縮から

(x,t)座標系で測定した長さが、(x',t')系で測定したものの\sqrt{1-{v^2\over c^2}}倍になるようにする。

たとえば、x'=0の線(電車の後端)とx'=Lの線(電車の先端)を考える。(x',t')座標系ではこの間の距離はLである。(x,t)座標系ではどうなるかを考えよう。x'=0の線はx=vtであった。x'=Lの線はというと、

A(x-vt)=L   すなわち、  x={L\over A}+vt

である。(x,t)座標系で電車の長さを測ると、

(先端の位置)-(後端の位置)={L\over A}+vt -vt = {L\over A}

である。電車がローレンツ短縮すべきだと考えると、{1\over A}=\sqrt{1-{v^2\over c^2}}、つまり、

A={1\over\sqrt{1-{v^2/c^2}}}

となるのであった。

ウラシマ効果から (x,t)座標系で測定した時間が、(x',t')系で測定したものの\sqrt{1-{v^2\over c^2}}倍になるようにする。

たとえば、t'=0という時刻と、t'=Tという時刻を考える。(x',t')座標系ではこの間の時間はTである。(x,t)座標系ではどうなるかを考えよう。t'=0の線はt={v\over c^2}xであった。t'=Tの線はというと、

A\left(t-{v\over c^2}x\right)=T すなわち、 x={T\over A}+{v\over c^2}t

である。よって(x,t)座標系での時間差は

{T\over A}+{v\over c^2}x -{v\over c^2}x = {T\over A}

である。ウラシマ効果を考えると{T\over A}=\sqrt{1-{v^2\over c^2}}なので、

A={1\over\sqrt{1-{v^2/c^2}}}

となるのであった。

速度-vの変換が逆変換となること

もう一つの方法は、「速度vのローレンツ変換をした後、速度-vのローレンツ変換をしたら、元に戻るはず」ということ、そして「速度vのローレンツ変換と、速度-vのローレンツ変換で、Aの値は同じはず」ということを使う。なぜAが同じになるべきかというと、速度がvであるか-vであるかというのは座標系の正の方向をどちらにとうかという「人間の都合」で来まったものである。一方、Aの値は(上二つからもわかるように)二つの座標系のスケールの伸び縮みを表す値なので、どちらに動いても同じであるべきである(ある方向へ動いた時のスケールの伸びが、それと逆方向では違うとすると、宇宙には特定の方向があることになってしまう)。

すると、逆変換は(v\to -vと置き換えて)

x=A\left(x'+{v\over c}ct'\right),~~~ct=A\left(ct'+{v\over c}x'\right)

ということなので、これに変換式を代入すると、

x=A\left(A(x-vt)+{v\over c}A\left(ct-{v\over c}x\right)\right)=A\left(1-{v^2\over c^2}\right)x

となって(ctに関する式も同様)、A={1\over\sqrt{1-{v^2/c^2}}}となる。

以上から、ローレンツ変換とは、

x'={1\over\sqrt{1-{v^2/c^2}}}(x-vt),~~~ t'={1\over\sqrt{1-{v^2/ c^2}}}\left(t-{v\over c^2}t\right)

という座標変換であることがわかる。なお、よく出てくる因子{1\over\sqrt{1-{v^2/ c^2}}}をγと書き、{v\over c}=\betaと書くことが多い。この文字を使うと、ローレンツ変換は

x'=\gamma(x-\beta ct),~~~ ct'=\gamma(ct-\beta x)

という形にまとまる。この形はx\leftrightarrow ctという取り替えに関して対称な形になっている。

学生の感想・コメントから

c={1\over\sqrt{\varepsilon_0\mu_0}}をローレンツ変換の式に代入すると何か意味のある式になりますか?

うーん、ややこしくなるだけで新しい意味は出てこないかな。

↓こうなったらタイムスリップですか?

timeslip.png

そうなったらそうでしょうけど、そんな座標変換はローレンツ変換じゃないですね。

浦島は玉手箱を開くと年をとりましたが、それもウラシマ効果で説明できますか?

さすがにそれは無理です。

運動エネルギーとか質量とかには上限はないんですか?

このあたりは後でゆっくりやりますが、光速で運動する場合の運動エネルギーは∞になります。上限はありません。

電子一個なら光速度に近い速度まで加速できるのは、質量が小さいからですか?

そうです。

ローレンツ短縮で光を考えるとv=cなので長さ0になって、光の波長は0になってしまいますか?だとするとv=fλから、光の速度も0になって、何かおかしいと思うんですが。

まず、ローレンツ変換やローレンツ短縮の式のvは「観測者の速度」ですから、光の速度を代入するのは間違いです。また、波長というのは、光の山と光の山の間の距離で、それは光が静止する座標系で測るものではありません。

全く同じ時間を刻んでいる時計があって、一方を運動させると2つの時計に時間のずれが生じるのですか?

生じます。それは実験事実です。

今わかっている物理も実はある限定的な場合のみに成立するもので、もっと一般的な式があるかもしれないと考えると、きりがありませんね。

そうですね。でもそれが科学というものです。

座標系が傾くというのは線形代数っぽい。光速度になると座標系がぺしゃんこになるというのは、Kerの話では?

ですね。ローレンツ変換の式でv=cにしてしまうと、x'とct'が独立でなくなります。

量子力学ではガリレイ変換とローレンツ変換のどちらを使うんですか?

シュレーディンガー方程式を使う時は、非相対論的量子力学というやつなので、ガリレイ変換を使います。相対論的量子力学というのもあって、クライン・ゴルドン方程式とかディラック方程式とかを使います。その場合はローレンツ変換を使います。

物理は実験が大事ということをいってましたが、実験が行えないような大きなスケールや小さなスケールの場合はどうしますか?

がんばってそういう実験ができるようにするか、他の実験方法を考えます。物理学者もいろいろ工夫するのです。


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Last-modified: 2024-01-12 (金) 19:41:44