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4.4 ローレンツ変換の数式による導出

次に、ローレンツ変換を計算のみにより求めよう。ローレンツ変換が満たすべき条件として、次の3つを取る(この条件は、前節でも利用している)。

1. 古い座標系での光円錐( (x-x_0)^2+(y-y_0)^2+(z-z_0)^2-c^2(t-t_0)^2=0 )は新しい座標系でも光円錐((x'-x'_0)^2+(y'-y'_0)^2+(z'-z'_0)^2 -c^2 (t'-t'_0)^2=0)へと移る(光速度不変の原理)。

2. この座標変換において特別な点はない(一様性)。

3. この座標変換において特別な方向はない(等方性)。

lcone.png

1.が主張しているのは、光速度不変の原理を満足せよ、ということである。ある時空点(t_0,x_0,y_0,z_0) (x'座標系では(t'_0,x'_0,y'_0,z'_0))から光が出て、時空点(t,x,y,z) (x'座標系では(t',x',y',z'))にたどりついたとする。時刻t(あるいは時刻t')には、その光はc(t-t_0) (あるいはc(t'-t'_0))広がっている。ゆえに(x-x_0)^2+(y-y_0)^2+(z-z_0)^2-c^2(t-t_0)^2=0が成立するならば、(x'-x'_0)^2+(y'-y'_0)^2+(z'-z'_0)^2 -c^2 (t'-t'_0)^2=0も成立せねばならない。光速度はどっちの座標系でもcだからである。くどいようだがもう一度書く。これは実験事実である。また、ここで光速度一定という現象に着目してはいるが、これは光を特別視しているわけではなく、マックスウェル方程式が生み出す物理現象の代表として光を使っているということに注意して欲しい。「光速度一定」は「どの座標系でも成立すべき物理法則」の代表なのである*1

2.が主張しているのは、この変換が一様であれ、ということである。

xxd.png

たとえばx'= ax^2のような変換をしたとすると、x=0付近と、そこから遠い場所では、xが変化した時のx'の変化量が違う。これはつまり、x座標系で測った1メートルが、x'座標系では場所によって10センチになったり3メートルになったりと、違う長さになるということである。しかし今考えているのは座標系の一様な運動であるから、こんなことは起こらないだろう(ある座標系での1メートルが別の座標系では等しく50センチになることはあり得るとしても!)。この条件を満たすためには、(x,y,z,ct)と(x',y',z',ct')が一次変換で結ばれなくてはならない。

3.が主張しているのは、たとえばこういうことである。x 軸の正方向へ速さvで運動している場合と、x軸の負方向へ速さvで運動している場合を比べたとする。この二つは、最初にx軸をどの方向にとったかというだけの違いであって、物理の本質的な部分は違わないはずである。

また、x座標方向へ移動する座標変換と、y方向へ移動する座標変換も、最初にx軸をどの向きにとったかというだけの違いであって、本質的違いはないはずである。

つまり、ある方向へ移動する座標系だけが特別扱いされるようなことはあってはならない。

以下で、これらの要請だけからガリレイ変換に替わる新しい座標変換を導く。

x'系の空間的原点x'=y'=z'=0が、x座標系で見ると速度vでx軸方向に移動していて、時刻t=0では原点が一致しているとする。このことから、x'=0 という式を解くと、x=\beta ctという答えが出るようになっていることがわかる。この条件はガリレイ変換x'=x-vtでも成立する。2.の条件があるので、

x'=A(x-\beta ct)

という形でなくてはならないことがわかる。y方向、z方向には座標軸は移動していない。つまりこの座標変換で、y=0である場所はy'=0である場所に移る。zに関しても同様なので、

y'=By,~~~z'=Bz

となるべきだろう。ここで、簡単のためにy軸やz軸の方向も変わらないとした。この二つの式の係数がどちらもBなのは、空間の対称性(y軸とz軸を取り替えても物理は変わらない)から判断した。

しかし、要請3.から、Bは1でなくてはならないことがわかる。Bが1でなかったとすると、この座標変換によってy軸やz軸方向の長さが伸びたり(B>1 の場合)、縮んだり(B<1の場合)することになる。運動方向を反転(v\to -v)したとしよう。この時の変換は元の変換の逆変換であろうから、y''={y\over B},~~~~z''={z\over B}という形になる。つまり+x方向ではB 倍になったとしたら、-x方向では{1\over B}倍でなくてはならない。B\ne 1だと、この現象は要請3.に反する。

時間座標に関しては、

ct'= C(ct-D x)

と置ける。ここにy,zが入らないのは、この変換はyやzの正の方向がどちらかによらない形になるべきだからである。

以上の座標変換に対して、要請1.すなわち「x^2+y^2+z^2-c^2 t^2=0の時に(x')^2+(y')^2+(z')^2-c^2(t')^2=0になれ」(簡単のためx_0など、下付添字{}_0の着く量はすべて0であるとした)という条件が成立するためにはA,C,D,E,Fがどうならなくてはいけないかを考える。そのためにまず(x')^2+(y')^2+(z')^2-(ct')^2を計算しよう。

\begin{array}{rl} (x')^2+(y')^2+(z')^2-(ct')^2=&A^2(x-\beta ct)^2 + y^2 +z^2 -C^2(ct-D x)^2 \\=&(A^2-C^2 D^2)x^2+y^2 +z^2 +(A^2 \beta^2 - C^2)(ct)^2+2(-A^2\beta + C^2 D) xct \\ \end{array}

ここで、条件x^2+y^2+z^2-c^2t^2=0であることを思い起こす。よってここではx,y,zが独立な変数であって、ctはct=\pm\sqrt{x^2+y^2+z^2}であるとして扱う。すると最終的な式はx^2を含む項、y^2を含む項、z^2を含む項と、xctすなわちx\sqrt{x^2+y^2+z^2}を含む項になるだろう。 x,y,zは各々独立に動かせるから、各々の係数は零でないと困る。 まず、xctまたはx\sqrt{x^2+y^2+z^2}の係数に着目すると、A^2\beta = C^2Dがわかる。そこでD ={A^2\beta \over C^2}と代入して上の式をまとめ直すと、

\begin{array}{rl}0=&(A^2-{A^4 \beta ^2\over C^2})x^2+y^2 +z^2 +(A^2\beta^2 - C^2)(ct)^2\\0=&(A^2-{A^4 \beta^2\over  C^2})x^2+y^2 +z^2 +(A^2{\beta^2} - C^2)(x^2+y^2+z^2)\\0=&\left(A^2-{A^4 \beta^2\over C^2}+A^2{\beta^2} - C^2\right)x^2+\left(1+A^2{\beta^2} - C^2\right)y^2 +\left(1 +A^2{\beta^2} - C^2\right) z^2  \end{array}

ここでx^2の係数は0にならなくてはいけないが、

\begin{array}{rl}A^2-{A^4 \beta^2 C^2}+A^2{\beta^2} - C^2=  &0 \\A^2-C^2  - {A^2 \beta^2\over C^2}(A^2-C^2)=  &0 \\(A^2-C^2)\left(1 - {A^2 \beta^2\over  C^2}\right)=  &0 \\ \end{array}

となるから、A^2=C^2か、{A^2 \beta^2 \over C^2}=1かが成立せねばならない。しかし{A^2\beta^2 \over C^2}=1だと、y^2の前の係数が1になってしまい、けっして0にならない。そこで、C^2=A^2ということになる。これをもう一度上の式に代入すると、x^2の項は消え、y^2z^2の項の係数は $ 1

  1. C^2{\beta^2} - C^2 $となるので、
    1 = C^2\left(1-\beta^2\right)
    という式が成立する。Cは正の数であると考えられる*2ので、C={1\over\sqrt{1-\beta^2}}となる。座標変換は
    x'= {1\over\sqrt{1-\beta^2}}(x-\beta ct), y'= y, z'=z, ct'= {1\over \sqrt{1-\beta^2}}(ct-\beta x)
    である。例によって、\beta={v\over c},\gamma={1\over \sqrt{1-\beta^2}} という記号を使った。

これを、

\left(\begin{array}{cccc}       \alpha^0_{~0}&\alpha^0_{~1} &\alpha^0_{~2} & \alpha^0_{~3} \\       \alpha^1_{~0}&\alpha^1_{~1} &\alpha^1_{~2} & \alpha^1_{~3} \\       \alpha^2_{~0}&\alpha^2_{~1} &\alpha^2_{~2} & \alpha^2_{~3} \\       \alpha^3_{~0}&\alpha^3_{~1} &\alpha^3_{~2} & \alpha^3_{~3} \\				\end{array}\right)=\left(\begin{array}{cccc}  \gamma& -\gamma\beta &0 &0 \\	-\gamma\beta&\gamma &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)
(行列によるローレンツ変換) とおいて、座標変換を
\left(\begin{array}{c} ct'\\x'\\y'\\z'       \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cccc}       \alpha^0_{~0}&\alpha^0_{~1} &\alpha^0_{~2} & \alpha^0_{~3} \\       \alpha^1_{~0}&\alpha^1_{~1} &\alpha^1_{~2} & \alpha^1_{~3} \\       \alpha^2_{~0}&\alpha^2_{~1} &\alpha^2_{~2} & \alpha^2_{~3} \\       \alpha^3_{~0}&\alpha^3_{~1} &\alpha^3_{~2} & \alpha^3_{~3} \\				\end{array}\right) \left(\begin{array}{c} ct\\x\\y\\z       \end{array}\right)

と書こう。\alpha^\mu_{~\nu}(\mu,\nuは0,1,2,3を取る)がどんなものか、我々はすでに知っているのだが、ここではまだ知らないとして、この行列の満たすべき条件を考えていこう。

上の式を短く書くならば、

(x')^\mu=\alpha^\mu_{~\nu}x^\nu

である(アインシュタインの規約を使って、右辺に書くべき\sum_{\nu=0}^3を省略した)。このように足し上げられている(つまりほんとうは\sum_\muがあるのに省略されている)添字は「つぶされている添字」と言ったり「ダミーの添字」と呼んだりする。

なぜ「ダミー」などと、一人前の添字扱いしてもらえないかというと、これは\alpha^\mu_0 x^0+\alpha^\mu_1 x^1+\alpha^\mu_2 x^2+\alpha^\mu_3 x^3と書くのが面倒なので\alpha^\mu_\nu x^\nuと書いているだけであって、νという添字はあってなきがごときものだからである。またこれを「つぶれている」と表現するにも理由があるが、それは後で述べる。

要請1.の条件は

\eta_{\mu\nu}x^\mu x^\nu=0の時、\eta_{\mu\nu}(x')^\mu (x')^\nu= \eta_{\mu\nu}\alpha^\mu_{~\rho} x^{\rho} \alpha^\nu_{~\lambda}x^{\lambda}=0

(光円錐条件)

と書くことができる。ただし、

\eta_{\mu\nu}=\left(\begin{array}{cccc}		-1&0 &0 &0 \\		     0 &1 &0 &0 \\		     0 &0 &1 & 0\\		     0 &0 &0 &1 \\		     \end{array}\right)) \left(\begin{array}{cc}  A^1_{~1}& A^1_{~2} \\  A^2_{~1}& A^2_{~2} \\       \end{array}\right) \left(\begin{array}{cc}  B^1_{~1}& B^1_{~2} \\  B^2_{~1}& B^2_{~2} \\       \end{array}\right)= \left(\begin{array}{cc}  A^1_{~1}B^1_{~1}+ A^1_{~2}B^2_{~1}&  A^1_{~1}B^1_{~2}+ A^1_{~2}B^2_{~2}\\  A^2_{~1}B^1_{~1}+ A^2_{~2}B^2_{~1}&  A^2_{~1}B^1_{~2}+ A^2_{~2}B^2_{~2}       \end{array}\right)

で表されることと、掛け算の結果を行列\left(\begin{array}{cc}  C^1_{~1}& C^1_{~2} \\  C^2_{~1}& C^2_{~2} \\       \end{array}\right)で表すならば、この式は

matrixm.png

のように書けることを使う。つまり「前の行列の後ろの添字(列の添字)と、後ろの行列の前の添字(行の添字)が同じもの同志を掛け算し、その和を取る」というのが行列の掛け算のルールである。説明は2行2列の行列で行ったが、これらの計算ルール自体は、4行4列の行列であっても同様に使える。

matrixa.png

ここで、\eta_{\mu'\nu'}\alpha^{\mu'}_{~\mu}\alpha^{\nu'}_{~\mu}の計算をする。掛け算のルールに合うようにするためには、1番左側にあるαの行列が転置されていること、掛け算の順番が\alpha^T,\eta,\alphaの順であることに注意せよ。具体的に求めた(行列によるローレンツ変換)をこの式に代入してみると、

\begin{array}{rl}&\left(\begin{array}{cccc}  \gamma& -\gamma\beta &0 &0 \\	-\gamma\beta&\gamma &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)\left(\begin{array}{cccc}		-1&0 &0 &0 \\		     0 &1 &0 &0 \\		     0 &0 &1 &0 \\		     0 &0 &0 &1 \\		     \end{array}\right)\left(\begin{array}{cccc}  \gamma& -\gamma\beta &0 &0 \\	-\gamma\beta&\gamma &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)\\=&\left(\begin{array}{cccc}  -\gamma& -\gamma\beta &0 &0 \\	\gamma\beta&\gamma &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)\left(\begin{array}{cccc}  \gamma& -\gamma\beta &0 &0 \\	-\gamma\beta&\gamma &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)\\=&\left(\begin{array}{cccc}  -\gamma^2(1-\beta^2)& 0 &0 &0 \\0&\gamma^2(1-\beta^2) &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cccc}  -1& 0 &0 &0 \\0&1 &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)\end{array}

となる。つまりこの場合、\eta_{\mu\nu}x^\mu x^\nu=0という条件は必要でなく、一般的に

\eta_{\mu\nu}= \eta_{\mu'\nu'}\alpha^{\mu'}_{~\mu}\alpha^{\nu'}_{~\nu}
(ローレンツ変換の係数の式) が成立していることがわかる。なお、x,y面内における回転を表す行列は
\left(\begin{array}{cccc}  1&0 &0 &0 \\	0&\cos\theta &\sin\theta &0 \\	0&-\sin\theta &\cos\theta &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)

であるが、これを\alpha^\mu_{~\nu}としても(ローレンツ変換の係数の式)が成立することは3次元部分に関しては\eta_{\mu\nu}は単位行列であることを考えれば自明だろう。具体的な計算式を書いておくと、

\left(\begin{array}{cccc}  1&0 &0 &0 \\	0&\cos\theta &-\sin\theta &0 \\	0&\sin\theta &\cos\theta &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right) \left(\begin{array}{cccc}  -1&0 &0 &0 \\	0&1 &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right) \left(\begin{array}{cccc}  1&0 &0 &0 \\	0&\cos\theta &\sin\theta &0 \\	0&-\sin\theta &\cos\theta &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right) = \left(\begin{array}{cccc}  -1&0 &0 &0 \\	0&1 &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)

である(最初の行列は\alpha^Tなので転置されていることに注意)。

他の一般の軸に関する回転や反転に関しても同様である。

(ローレンツ変換の係数の式)が成立する\alpha^\mu_{~\nu}で表される座標変換を広い意味でのローレンツ変換と呼ぶ。広い意味でのローレンツ変換には狭い意味でのローレンツ変換の他に、回転や反転、さらにその組み合わせが含まれる*3

この性質からローレンツ変換を複数個組み合わせた変換もやはりローレンツ変換であることがわかる。すなわち、二つのローレンツ変換が行列\alpha^\mu_{~\nu}(\alpha')^\mu_{~\nu}で表されているとすると、この二つの合成変換である$\alpha^{\mu}_{~\nu}( \alpha')^\nu_{~\rho}$もローレンツ変換である。それは具体的に計算すれば

\eta_{\mu\nu}\alpha^\mu_{~\rho}(\alpha')^\rho_{~\alpha}\alpha^\nu_{~\lambda}(\alpha')^\lambda_{~\beta}=  \eta_{\rho\lambda}(\alpha')^\rho_{~\alpha}(\alpha')^\lambda_{~\beta}=\eta_{\alpha\beta}

となることで証明できる。


この部分は授業では話さない可能性もあるが、その場合は読んでおいてください。

4.5 一般的方向へのローレンツ変換

ここで、x座標系から見るとx'座標系の原点が3次元速度\vec v=\left(v_x,v_y,v_z\right)を持つような座標変換がどのようなものかを求めておこう。このような座標変換は、

1. 3次元速度\left(v_x,v_y,v_z\right)\left(v,0,0\right)(ただし、v=\sqrt{(v_x)^2+(v_y)^2+(v_z)^2})に見えるような座標Xへの回転。

2. X座標から見て、原点が速さvでx方向へ移動しているような座標系X'へのローレンツ変換。

3. X'から、3次元速度\left(v,0,0\right)\left(v_x,v_y,v_z\right)に見えるような座標x'への(逆)回転。

という3つの変換の積で考えることができる。

この変換の一つの求め方は、行列を使うことである。X座標系でのX,Y,Z方向の単位ベクトルをそれぞれ\vec e_X,\vec e_Y,\vec e_Zとして、\vec e_Xのy成分を(\vec e_X)_yのように表すとすれば、最初の回転は

\left(\begin{array}{cccc}  -1&0 &0 &0 \\	0&(\vec e_X)_x &(\vec e_X)_y &(\vec e_X)_z \\	0&(\vec e_Y)_x &(\vec e_Y)_y &(\vec e_Y)_z \\	0&(\vec e_Z)_x &(\vec e_Z)_y &(\vec e_Z)_z \\       \end{array}\right)

と表せる。 逆回転を表す行列は

\left(\begin{array}{cccc}  -1&0 &0 &0 \\	0&(\vec e_X)_x &(\vec e_Y)_x &(\vec e_Z)_x \\	0&(\vec e_X)_y &(\vec e_Y)_y &(\vec e_Z)_y \\	0&(\vec e_X)_z &(\vec e_Y)_z &(\vec e_Z)_z \\       \end{array}\right)

である。これらの行列の積を作って、ローレンツ変換を求めることができるだろう。

以下ではもう少し楽な方法で考えることにする。 X=\vec e_X\cdot \vec x,Y=\vec e_Y\cdot\vec x,Z=\vec e_Z\cdot\vec xであって、

X'=\gamma(X-\beta ct),~~cT'=\gamma(cT-\beta X),~~ Y'=Y,~~Z'=Z

である。よってx\to x'の座標変換は

\vec e_X\cdot \vec x'=\gamma\left(\vec e_X\cdot \vec x-\beta ct\right),~~ct'=\gamma\left(ct-\beta \vec e_X\cdot \vec x\right),~~\vec e_Y\cdot\vec x'=\vec e_Y\cdot\vec x,~~\vec e_Z\cdot\vec x'=\vec e_Z\cdot\vec x

を満たすようなものになる。\vec x'は、x成分、y成分、z成分を足し合わせて

\vec x'=\gamma\left(\vec e_X\cdot \vec x-\beta ct\right)\vec e_X+\left(\vec e_Y\cdot\vec x\right)\vec e_Y+\left(\vec e_Z\cdot\vec x\right)\vec e_Z

となる。ここで、

\vec x=\left(\vec e_X\cdot \vec x\right)\vec e_X+\left(\vec e_Y\cdot\vec x\right)\vec e_Y+\left(\vec e_Z\cdot\vec x\right)\vec e_Z

という当たり前の式(この式は、ベクトルをX成分、Y成分、Z成分に分けてからもう一度足すと元に戻る、というだけのこと)を使うと、

\vec x'=\gamma\left(\vec e_X\cdot \vec x-\beta ct\right)\vec e_X+\vec x-\left(\vec e_X\cdot \vec x\right)\vec e_X=\left((\gamma-1)\vec e_X\cdot \vec x-\beta\gamma ct\right)\vec e_X+\vec x

と書ける。\vec e_Xは速度の方向を向いた単位ベクトルであるから{\vec \beta\over \beta}と書けるので、

\vec x'=\left({\gamma-1\over \beta^2}\vec \beta\cdot \vec x-\gamma ct\right)\vec \beta+\vec x

となる。

4.6 章末演習問題

[演習問題4-1] ミュー粒子と呼ばれる粒子は、2\times10^{-6}秒で崩壊してしまう。ウラシマ効果を考えないと、たとえ光の速さ(3\times10^8m/s)で走ったとしても、6\times 10^2mしか走れない。しかし、地上からの高度約10km=10^5mで発生したミュー粒子が、ちゃんと地上に到着する。これはミュー粒子が非常に速い速度で走っているおかげで時間の進み方が遅くなっているからであると考えることができる。

ミュー粒子の速度はいくら以上でなくてはいけないか、概算せよ。

これをミュー粒子の立場に立って(つまり、ミュー粒子と一緒に動く座標系で)考えるとどうなるだろうか。この立場では、ミュー粒子は静止している。彼(ミュー粒子)の立場では、動いているのは地球の方である。するとミュー粒子は2\times10^{-6}秒で崩壊してしまうはずである。ではなぜ、大気圏の下まで到着することができるのか??

[演習問題4-2]

surechigai.png

二台の電車AとBのすれちがいをある人(観測者O)が見ている。

Oから見ると、AとBはx軸の正方向と負方向にそれぞれ速さvで走ってくるように見える。電車の固有長さ(すなわち、電車が静止している系で測定した長さ)はともに2Lであるとする。観測者の座標系で時刻t=0において、x=0の場所でA、Bの中央が一致していたとする。これらの電車の運動を表すグラフを書け。ヒントとして、右にO,A,Bの動きだけを記したグラフを書いておく。

また、電車Aの中央に乗っている観測者をα、電車Bの中央に乗っている観測者をβとする。α、β、Oの3人の軌跡は、さっきのグラフの原点で重なる。この時空点(原点)において光が左右に発射されたとする。光の軌跡をグラフに書き込み、そのグラフを使ってαにとっての同時刻線、βにとっての同時刻線を作図せよ。

surechigaiG.png

αは「電車Bの方が電車Aより短い」と観測し、βは「電車Aの方が電車Bより短い」と観測する(互いに相手を「自分より短い」と判断する)。グラフに「αが原点にいる時に観測する電車A,Bの長さ」と「βが原点にいる時に観測する電車A,Bの長さ」を書き込み、互いに相手を短いと観測することを説明せよ。

演習問題4-2を宿題とします。前野の部屋まで来て黒板で説明すること。説明は、グラフをちゃんと書いて示してくれればいいです。〆切は6月16日。

[演習問題4-3]行列を使った座標変換の練習をしよう。

translation.png

我々は、x方向に速度vで動いている場合のローレンツ変換の行列

\left(\begin{array}{c} ct'\\x'\\y'\\z'      \end{array}\right)= \left(\begin{array}{cccc}  \gamma& -\gamma\beta &0 &0 \\	-\gamma\beta&\gamma &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)\left(\begin{array}{c} ct\\x\\y\\z      \end{array}\right)

を知っている。また、z軸周りに角度θだけ座標軸を傾ける座標変換の行列

\left(\begin{array}{c} ct''\\x''\\y''\\z''      \end{array}\right)=  \left(\begin{array}{cccc}  1&0 &0 &0 \\	0&\cos\theta &\sin\theta &0 \\	0&-\sin\theta &\cos\theta &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)\left(\begin{array}{c} ct\\x\\y\\z      \end{array}\right)

も知っている。

この二つをうまく組み合わせて、「x軸からy軸方向に角度θだけ傾いた方向へ速度vで動いている観測者が静止するような座標系への座標変換」を作れ。ただし、二つの座標系の空間成分の空間的方向は一致するものとする。

translation2.png

ヒント:まず、右の図のvの方向がx軸になるように座標回転した後、そのx方向に速度vのboost(狭義のローレンツ変換)をする。その後で、x軸の方向が元と同じ方向を向くように座標回転して戻す。

第5章 ローレンツ変換と物理現象

5.1 (新しい意味の)ローレンツ短縮

tanshuku.png

ローレンツがad hocに導いたローレンツ短縮と似た現象が、この座標変換でも導かれることを示そう。今、一つの棒をx-t座標系で見て静止するように置いたとする。棒の長さをLとして、一方の端をx=0、もう一方の端をx=Lに置いたとする。時間tが経過してもこのxの値は変化しない。では、これをx' 座標系で見るとどうか。棒の一方の端の時空座標を(x_1,t_1)または(x'_1,t'_1)で、もう一方の端の時空座標を(x_2,t_2)または(x'_2,t'_2)で表すとすれば、

\begin{array}{rcl}(x_1,ct_1)=(0,ct)&\leftrightarrow& (x'_1,ct'_1)=(-\gamma\beta ct,\gamma ct)\\(x_2,ct_2)=(L,ct)&\leftrightarrow& (x'_2,ct'_2)=(\gamma(L-\beta ct),\gamma (ct-\beta L))\end{array}

となる。

tanshuku2.png

ここでx'座標系で棒の長さを測るとしよう。「x'座標系での棒の長さ」はt'_1=t'_2にした時のx'_2-x'_1で計算される。上の表の(x'_1,t'_1)(x'_2,t'_2)では、t'_1\ne t'_2なので、t_2の方の時間をt\to t+{\beta\over c}Lとずらして、

(x_2,t_2)=(L,t+{\beta\over c}L)\leftrightarrow (x'_2,t'_2)=(\gamma(L-\beta ct-\beta^2 L),\gamma ct)

とすれば、t'_1=t'_2になる。この時のx'_2-x'_1を計算すると、

x'_2 - x'_1 = \gamma(L-\beta^2L)=L{1-\beta^2 \over\sqrt{1-\beta^2}}=L{\sqrt{1-\beta^2}}

となり、x系での長さLに比べ、\sqrt{1-\beta^2}倍になっている(縮んでいる)ことがわかる。

この式は形としてはローレンツがマイケルソン・モーレーの実験結果を説明するために導入した短縮と同じである。逆に言うと「ローレンツ短縮が起こるべし」という要請から、係数Aを決めることも可能であったことになる。しかし、今求めた新しい意味のローレンツ短縮と、古い意味のローレンツ短縮は根本的に意味が違う。まず、ローレンツはエーテルとの相対運動が理由で機械的に短縮が起こると考えたが、ここでの短縮は座標変換によって生じたものであって、力が働いて起こる短縮とは全く意味が違う。また、図で説明してあるように、座標系が違うことによって「同時刻で空間的に離れた2点」という2点の定義の仕方そのものが変わってくる。ガリレイ変換ではこんなことは生じない。古い意味のローレンツ短縮はガリレイ変換を使った物理の中で考えられたものだから、同様に「座標系が違えば同時刻が違う」ということを考慮せずに単に短縮すると仮定している。

何よりここで導かれた短縮は光速度不変の原理と特殊相対性原理から自動的に導出されたもので、筋道だった説明が与えられていることが大きな違いである。

5.2 速度の合成則

denshagosei.png

今、速度vで走っている電車の中で、(電車の中から見て)速度uでボールを 投げたとしよう(この人を以下「Aさん」と呼ぶ)。これを電車外にいる人(以 下「Bさん」)が見るとどれだけの速度に見えるだろう???

ガリレイ変換的な`常識'からすると、「u+vの速度に見える」ということにな るだろう。しかし、その常識はもはや通用しない。たとえばAさんがボールでは なく光を発射したとすると、その光はAさんからみて速度cで進むが、Bさんか ら見ても速度cで進む。ガリレイ的常識には相容れないが、 光速度不変の原理という「実験事実」の示すところで ある。ということは、「u+vの速度に見える」という`常識'も、もはや危ない。

u+v.png

そこで、以下で相対論的に速度の合成を考えていくことにしよう。手がかりとす るのはもちろん、ローレンツ変換

x'={1\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}\left(x-{v\over c}ct\right)
(ローレンツ変換xの式)
ct'={1\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}\left(ct'-{v\over c}x\right)
(ローレンツ変換ctの式) である。

二つの座標系(x,ct)座標と(x',ct')座標を考える。x'座標系の原点はx座標系で見ると速度vで運動している。(x',ct')座標系で速度uを持っている物体の速度は、(x,t)座標系ではいくらに見えるだろうか。つまり「速度vで動く電車の中で速度uで走る人は、外から見るといくらの速度に見えるか」という問題を考えよう。ガリレイ変換的``常識''ではこれはu+vとなる。

(x',ct')座標系で見て速度uで動く物体の軌跡は、x'=ut'で表される。この式を(x,ct)座標系で表せば、x=Vtだったとする。座標変換してみると、

\begin{array}{rl}  x'=&ut' \\ \gamma(x-vt)=&u\gamma(t-{v\over c^2}x) \\ x-vt=&ut-{uv\over c^2}x \\ x+{uv\over c^2}x =&ut+vt\\  x=&{u+v\over 1+{uv\over c^2}}t \\ \end{array}

となる。つまり、(x,ct)座標系でのこの物体の速度Vは

V={u+v\over 1+{uv\over c^2}}
(速度の合成則) に見える。

ここで注意すべきことは、|u|<c,|v|<cならば\left|{u+v\over 1+{uv\over c^2}}\right|もcより小さくなるということである。

このことを証明するために、\left|{u+v\over 1+{uv\over c^2}}\right|を自乗してc^2をひいてみると、

{ (u+v)^2\over \left(1+{uv\over c^2}\right)^2}-c^2={ (u+v)^2 -c^2\left(1+{uv\over c^2}\right)^2 \over \left(1+{uv\over c^2}\right)^2}={ u^2+v^2+2uv -c^2\left(1+2{uv\over c^2}+{u^2v^2\over c^4}\right) \over \left(1+{uv\over c^2}\right)^2}

となるが、この式の分子は

u^2+v^2+2uv -c^2\left(1+2{uv\over c^2}+{u^2v^2\over c^4}\right)= u^2 v^2 -c^2 - {u^2v^2\over c^2}=-{(c^2-v^2)(c^2-u^2)\over c^2}

と因数分解できて、|u|<c,|v|<cならばこれは負である。つまり、\left|{u+v\over 1+{uv\over c^2}}\right|^2<c^2となって、この合成速度の絶対値はcより必ず小さい。

つまり、光速以下の速度をいかに足し算していっても、光速度cを超えることはない。これは実は、「いかに物体を加速しても光速を越えることはない」という事実を保証している。加速とはすなわち速度が変化することであるが、ある時点で物体がどのような速度を持っているとしても(相対的に考えれば)、その物体がその瞬間において静止しているような慣性系を持ってくることができる。加速するということは、慣性系において物体の速度が変化することを意味する。直前で物体が静止しているような座標系(x'-系)で考えると、物体の速度は連続的に変化するはずなので、いきなり光速を越えることはあり得ない。別の座標系で見れば、物体の速度はx'-系で測った速度に、x'系の原点の速度を加算したものになるが、この時の速度の加算は上の式で与えられるのだから、加速した物体の速度はけっして光速を越えられない。

後で述べるが、光速度を超えないということは相対論的因果律が満たされるために重要であるから、これが保証されることは喜ばしいことなのである(そもそも、ローレンツ変換の公式でv>cだとγが虚数になって困る)。

また、u=cの場合(電車内で光を発射した場合)について計算すると、

V={c+v\over 1+{cv\over c^2}}={c+v\over 1+{v\over c}}={c+v\over{c+v\over  c} }=c

となり、電車外で見ても光速度はcであるということになる(そうなるように 作ったローレンツ変換から導いた式なのだから当然ではあるが)。

なお、上の計算は二つの速度がどちらもx方向を向いている時の計算であるが、たとえばx'系での速度が(u_x,u_y,u_z)であるような時は、y'=u_y t'という式が成立しているので、

\begin{array}{rl}y'=&u_y t'\\  y=&u_y \gamma\left(t-{v\over c^2}x\right)\\y =&u_y \gamma\left(t-{v\over c^2}{u_x+v\over 1+{u_xv\over c^2}}t\right) =u_y \gamma\left(1-{v\over c^2}{u_x+v\over 1+{u_xv\over c^2}}\right)t \\ y =&u_y \gamma\left({1+{u_xv\over c^2}-{u_xv\over c^2}-{v^2\over c^2}\over 1+{u_xv\over c^2}}\right)t =u_y {1\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}\left({1-{v^2\over c^2}\over 1+{u_xv\over c^2}}\right)t =u_y{\sqrt{1-{v^2\over c^2}}\over 1+{u_xv\over c^2}} t \\ \end{array}

となり、y方向の速度はu_y {\sqrt{1-{v^2\over c^2}}\over 1+{u_xv\over c^2}}ということがわかる。z方向も同様に、u_z {\sqrt{1-{v^2\over c^2}}\over 1+{u_xv\over c^2}}とわかる。y,z座標は変化しないが、時間座標が変化しているので、y,z方向の速度が変化する。これもガリレイ変換の場合とは大きく違う。

学生の感想・コメントから

くだらないことを聞きますが「ワープ」というのものは存在しないと思いますか? 

それはの一般相対論の方の質問になるなぁ。一般相対論では空間を曲げる方法があると言われているので。でもいわゆる「ワープ」つまり超光速を実現するような空間の曲げ方をするためには、マイナスのエネルギーを持った物質とか、変なものが必要になることがわかっているので、実現は難しいと言われてます。

今日は計算が多くてたいへんだった(多数)。

テンソル演算とか、慣れてないのもやったからなぁ。またいずれゆっくりやりましょう。

これから古典力学を考える時はローレンツ変換を使った方がいいんですか?

光速の何10%なんて話じゃないのなら、相対論使わなくても大丈夫です。

光速度が誰から見ても変わらないことが分かってきた(複数)。

だんだん、ローレンツ変換になれてきましたね。

今一番早い物体は、光速の何パーセントですか?

粒子一個でよければ、\gamma={1\over\sqrt{1-v^2/c^2}}が約10^6になるところまで粒子加速器を使って電子を加速できます。ということは、v/cが1より0.5\times 10^{-12}ぐらい小さい、ということ。99.99999999995%ぐらいですね。

質量が負の物体があれば光速は越えられますか?

うーん、マイナスでも速度の加法則は同じだから、だめっぽいですね。

テンソルはどんなことを意味しているのでしょう??

ここまでは意味というより、計算の便法ですよ。なぜこういうものを使うかについては、また今度じっくり話します。

速度の足し算が成立しないなんて感覚に合わない(複数)

まぁ、相対論が感覚に合わないのはいつものことなので(^_^;)。毎度の同じ答えをしてますが、我々の感覚というのは結局、光速度より遙かに遅い速度でしか動いたことがない生物の「偏見」なんですよ。

慣れてくると行列やテンソルの方が楽になるんですか?(複数)

はい。特に複雑な計算になるとテンソルは楽です。

相対論って量子力学とつながりますか?

3年の間はやらないけど、現代物理は「相対論的量子力学」が基礎の一つです。

速度の加法則の式も、実験をしてその結果で初めて証明されたことになるんですか?

うーん、ローレンツ変換の正しさはもう証明されている、と思えば「ローレンツ変換が正しいんだからこの式も正しい」と考えてもいいかもしれません。


*1 こうやって作ったローレンツ変換がマックスウェル方程式を不変に保つかどうかはちゃんとチェックする必要がある。答を先に書いておくと、電場や磁場のローレンツ変換をちゃんと定義すれば不変になっている。
*2 C<0だと、t'が増加した時にtが減少する(時間の流れが逆転!?)ことになる。
*3 狭い意味でのローレンツ変換はboostと呼ばれることもある

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Last-modified: 2024-01-12 (金) 19:41:35