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前回は、

\begin{array}{rl} x'=&A\left(x-{v\over c} ct\right)=0\\ ct'=&B\left(ct-{v\over c}x\right)\end{array}

という式を出したところまでだったので、復習しつつこの続きから始めた。

goban.png

ここで、この座標変換が一次変換に限るということを説明しておく。 (x,ct)座標系は図のような碁盤の目で表すことができるだろう。これに対して傾いている(x',ct')座標系は、やはり傾いた平行四辺形で作られた碁盤の目で表すことができる。(x',ct')座標系での碁盤の1マスを塗りつぶして表した。 (x,ct)の関係と(x',ct')の関係が1次式でなかったら(たとえば2次式だったりすると)、(x',ct')座標系で見た時の碁盤の1マスの大きさが、(x,ct)座標系で見ると一様でない、ということになってしまう。つまりx'座標系での1メートルが、場所によって違う長さでx座標系に翻訳されてしまう。しかし、今考えている座標変換では、x'座標系のどの場所も同じような比率でx座標系と関連づけられているはずである。つまり図で書いたように、違う場所での「(x',ct')座標系での1マス」はx座標系で見て同じ大きさ、同じ形のマスになるはずである(これが一様だということ)。そうなるためには、(x,ct)と(x',ct')の関係は1次式でなくてはならない。

さらに、どちらの座標系でも光速がcであるということからA=Bであることがわかる。なぜならば、x座標系で原点から右へ進む光の光線上では、x=ctが成立する。この式が成立する時、x'座標系ではx'=ct' が成立しなくてはおかしい(光速度不変)。最初に書いた二つの式に、x=ctとx'=ct'を使うと、

\begin{array}{rcl} A\left(ct-{v\over c} ct\right)&=& B\left(ct-{v\over c}ct\right)\end{array}

となる。つまり、A=Bでなくてはならない。ここまでの結果は、

x'= A\left(x-{v\over c} ct\right)

ct'= A\left(ct-{v\over c}x\right)

である。相対論以前の`常識'に従えば、A=1と言いたいところである(A=1ならば、x'の式に関してはガリレイ変換と一致することになる)。しかし、そうはいかない。このAの値を決めるにはいろいろな方法がある。

ローレンツ短縮から:(x,t)座標系で測定した長さが、(x',t')系で測定したものの\sqrt{1-{v^2\over c^2}}倍になるようにする。

たとえば、x'=0の線(電車の後端)とx'=Lの線(電車の先端)を考える。(x',t')座標系ではこの間の距離はLである。(x,t)座標系ではどうなるかを考えよう。x'=0の線はx=vtであった。x'=Lの線はというと、

A(x-vt)=L  すなわち、  x={L\over A}+vt

である。(x,t)座標系で電車の長さを測ると、

(先端の位置)-(後端の位置)={L\over A}+vt -vt = {L\over A}

である。電車がローレンツ短縮すべきだと考えると、{1\over A}=\sqrt{1-{v^2\over c^2}}、つまり、

A={1\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}

となるのであった。

v=cになったら物体の長さ0ですか?

0です。もしv=cになったらね。でも、なれないんですよ。後でちゃんとやりますが、ここまでの話でわかったようにガリレイ変換は間違っているので、ガリレイ変換に即しているニュートン力学も間違いです。で、新しい相対論的力学を作ると、物体のエネルギーは{mc^2\over\sqrt{1-v^2/c^2}}という式になり、v=cで無限大になっちゃいます。エネルギー無限大にはできないので、物体は光速に達しません。

ウラシマ効果から: (x,t)座標系で測定した時間が、(x',t')系で測定したものの\sqrt{1-{v^2\over c^2}}倍になるようにする。

たとえば、t'=0という時刻と、t'=Tという時刻を考える。(x',t')座標系ではこの間の時間はTである。(x,t)座標系ではどうなるかを考えよう。t'=0の線はt={v\over c^2}xであった。t'=Tの線はというと、

A\left(t-{v\over c^2}x\right)=T  すなわち、 x={T\over A}+{v\over c^2}t

である。よって(x,t)座標系での時間差は

{T\over A}+{v\over c^2}x -{v\over c^2}x = {T\over A}

である。ウラシマ効果を考えると{T\over A}=\sqrt{1-{v^2\over c^2}}なので、

A={1\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}

となるのであった。

速度-vの変換が逆変換となること:

もう一つの方法は、「速度vのローレンツ変換をした後、速度-vのローレンツ変換をしたら、元に戻るはず」ということ、そして「速度vのローレンツ変換と、速度-vのローレンツ変換で、Aの値は同じはず」ということを使う。なぜAが同じになるべきかというと、速度がvであるか-vであるかというのは座標系の正の方向をどちらにとうかという「人間の都合」で来まったものである。一方、Aの値は(上二つからもわかるように)二つの座標系のスケールの伸び縮みを表す値なので、どちらに動いても同じであるべきである(ある方向へ動いた時のスケールの伸びが、それと逆方向では違うとすると、宇宙には特定の方向があることになってしまう)。

すると、逆変換は(v\to -vと置き換えて)

x=A\left(x'+{v\over c}ct'\right),~~~ct=A\left(ct'+{v\over c}x'\right)

ということなので、これに変換式を代入すると、

x=A\left(A(x-vt)+{v\over c}A\left(ct-{v\over c}x\right)\right)=A\left(1-{v^2\over c^2}\right)x

となって(ctに関する式も同様)、A={1\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}となる。

以上から、ローレンツ変換とは、

x'={1\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}(x-vt),~~~ t'={1\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}\left(t-{v\over c^2}t\right)

という座標変換であることがわかる。なお、よく出てくる因子{1\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}をγと書き、{v\over c}=\betaと書くことが多い。この文字を使うと、ローレンツ変換は

x'=\gamma(x-\beta ct),~~~ ct'=\gamma(ct-\beta x)

という形にまとまる。この形はx\leftrightarrow ctという取り替えに関して対称な形になっている。

以下の4.4節は細かい説明はしません。

4.4 ローレンツ変換の数式による導出

次に、ローレンツ変換を計算のみにより求めよう。ローレンツ変換が満たすべき条件として、次の3つを取る(この条件は、前節でも利用している)。

  1. 古い座標系での光円錐( (x-x_0)^2+(y-y_0)^2+(z-z_0)^2-c^2(t-t_0)^2=0 )は新しい座標系でも光円錐((x'-x'_0)^2+(y'-y'_0)^2+(z'-z'_0)^2 -c^2 (t'-t'_0)^2=0)へと移る(光速度不変の原理)。
  2. この座標変換において特別な点はない(一様性)。
  3. この座標変換において特別な方向はない(等方性)。
lcone.png

1.が主張しているのは、光速度不変の原理を満足せよ、ということである。ある時空点(t_0,x_0,y_0,z_0) (x'座標系では(t'_0,x'_0,y'_0,z'_0))から光が出て、時空点(t,x,y,z) (x'座標系では(t',x',y',z'))にたどりついたとする。時刻t(あるいは時刻t')には、その光はc(t-t_0) (あるいはc(t'-t'_0))広がっている。ゆえに(x-x_0)^2+(y-y_0)^2+(z-z_0)^2-c^2(t-t_0)^2=0が成立するならば、(x'-x'_0)^2+(y'-y'_0)^2+(z'-z'_0)^2 -c^2 (t'-t'_0)^2=0も成立せねばならない。光速度はどっちの座標系でもcだからである。くどいようだがもう一度書く。\large これは実験事実である。また、ここで光速度一定という現象に着目してはいるが、これは光を特別視しているわけではなく、マックスウェル方程式が生み出す物理現象の代表として光を使っているということに注意して欲しい。「光速度一定」は「どの座標系でも成立すべき物理法則」の代表なのである*1

2.が主張しているのは、この変換が一様であれ、ということである。

xxd.png

たとえばx'= ax^2のような変換をしたとすると、x=0付近と、そこから遠い場所では、xが変化した時のx'の変化量が違う。これはつまり、x座標系で測った1メートルが、x'座標系では場所によって10センチになったり3メートルになったりと、違う長さになるということである。しかし今考えているのは座標系の一様な運動であるから、こんなことは起こらないだろう(ある座標系での1メートルが別の座標系では等しく50センチになることはあり得るとしても!)。この条件を満たすためには、(x,y,z,ct)と(x',y',z',ct')が一次変換で結ばれなくてはならない。

3.が主張しているのは、たとえばこういうことである。x 軸の正方向へ速さvで運動している場合と、x軸の負方向へ速さvで運動している場合を比べたとする。この二つは、最初にx軸をどの方向にとったかというだけの違いであって、物理の本質的な部分は違わないはずである。

また、x座標方向へ移動する座標変換と、y方向へ移動する座標変換も、最初にx軸をどの向きにとったかというだけの違いであって、本質的違いはないはずである。

つまり、ある方向へ移動する座標系だけが特別扱いされるようなことはあってはならない。

以下で、これらの要請だけからガリレイ変換に替わる新しい座標変換を導く。

x'系の空間的原点x'=y'=z'=0が、x座標系で見ると速度vでx軸方向に移動していて、時刻t=0では原点が一致しているとする。このことから、x'=0 という式を解くと、x=\beta ctという答えが出るようになっていることがわかる。この条件はガリレイ変換x'=x-vtでも成立する。2.の条件があるので、

x'=A(x-\beta ct)

という形でなくてはならないことがわかる。y方向、z方向には座標軸は移動していない。つまりこの座標変換で、y=0である場所はy'=0である場所に移る。zに関しても同様なので、

y'=By,~~~z'=Bz

となるべきだろう。ここで、簡単のためにy軸やz軸の方向も変わらないとした。この二つの式の係数がどちらもBなのは、空間の対称性(y軸とz軸を取り替えても物理は変わらない)から判断した。

しかし、要請3.から、Bは1でなくてはならないことがわかる。Bが1でなかったとすると、この座標変換によってy軸やz軸方向の長さが伸びたり(B>1 の場合)、縮んだり(B<1の場合)することになる。運動方向を反転(v\to -v)したとしよう。この時の変換は元の変換の逆変換であろうから、y''={y\over B},~~~~z''={z\over B}という形になる。つまり+x方向ではB 倍になったとしたら、-x方向では{1\over B}倍でなくてはならない。B\ne 1だと、この現象は要請3.に反する。

時間座標に関しては、

ct'= C(ct-D x)

と置ける。ここにy,zが入らないのは、この変換はyやzの正の方向がどちらかによらない形になるべきだからである。

以上の座標変換に対して、要請1.すなわち「x^2+y^2+z^2-c^2 t^2=0の時に(x')^2+(y')^2+(z')^2-c^2(t')^2=0になれ」(簡単のためx_0など、下付添字{}_0の着く量はすべて0であるとした)という条件が成立するためにはA,C,D,E,Fがどうならなくてはいけないかを考える。そのためにまず(x')^2+(y')^2+(z')^2-(ct')^2を計算しよう。

\begin{array}{rl} (x')^2+(y')^2+(z')^2-(ct')^2=&A^2(x-\beta ct)^2 + y^2 +z^2 -C^2(ct-D x)^2 \\=&(A^2-C^2 D^2)x^2+y^2 +z^2 +(A^2 \beta^2 - C^2)(ct)^2+2(-A^2\beta + C^2 D) xct \\ \end{array}

ここで、条件x^2+y^2+z^2-c^2t^2=0であることを思い起こす。よってここではx,y,zが独立な変数であって、ctはct=\pm\sqrt{x^2+y^2+z^2}であるとして扱う。すると最終的な式はx^2を含む項、y^2を含む項、z^2を含む項と、xctすなわちx\sqrt{x^2+y^2+z^2}を含む項になるだろう。 x,y,zは各々独立に動かせるから、各々の係数は零でないと困る。 まず、xctまたはx\sqrt{x^2+y^2+z^2}の係数に着目すると、A^2\beta = C^2Dがわかる。そこでD ={A^2\beta \over C^2}と代入して上の式をまとめ直すと、

\begin{array}{rl}0=&(A^2-{A^4 \beta ^2\over C^2})x^2+y^2 +z^2 +(A^2\beta^2 - C^2)(ct)^2\\0=&(A^2-{A^4 \beta^2\over  C^2})x^2+y^2 +z^2 +(A^2{\beta^2} - C^2)(x^2+y^2+z^2)\\0=&\left(A^2-{A^4 \beta^2\over C^2}+A^2{\beta^2} - C^2\right)x^2+\left(1+A^2{\beta^2} - C^2\right)y^2 +\left(1 +A^2{\beta^2} - C^2\right) z^2  \end{array}

ここでx^2の係数は0にならなくてはいけないが、

\begin{array}{rl}A^2-{A^4 \beta^2 C^2}+A^2{\beta^2} - C^2=  &0 \\A^2-C^2  - {A^2 \beta^2\over C^2}(A^2-C^2)=  &0 \\(A^2-C^2)\left(1 - {A^2 \beta^2\over  C^2}\right)=  &0 \\ \end{array}

となるから、A^2=C^2か、{A^2 \beta^2 \over C^2}=1かが成立せねばならない。しかし{A^2\beta^2 \over C^2}=1だと、y^2の前の係数が1になってしまい、けっして0にならない。そこで、C^2=A^2ということになる。これをもう一度上の式に代入すると、x^2の項は消え、y^2z^2の項の係数は

1 +C^2{\beta^2} - C^2

となるので、

1 = C^2\left(1-\beta^2\right)

という式が成立する。Cは正の数であると考えられる*2ので、C={1\over\sqrt{1-\beta^2}}となる。座標変換は

x'= {1\over\sqrt{1-\beta^2}}(x-\beta ct), y'= y, z'=z, ct'= {1\over \sqrt{1-\beta^2}}(ct-\beta x)

とまとめられる。当然ながら、図から求めたものと一致する。あらためて指摘しておくと、係数{1\over\sqrt{1-\beta^2}}は、xやtのスケールの変化(ローレンツ短縮やウラシマ効果)を表している。また、ct'の式にct-\beta xが現れることは、tの同時刻とt'の同時刻が場所によって変化すること(t=一定とt'=一定がグラフ上で平行線ではない)を示しているのである。

なお、ここまでの計算では簡単のために運動方向をx方向に限ったし、y,z座標に関しても同じ方向を向いているとした。一般的には運動方向が任意の方向を向いたものや、これに座標軸の回転が組み合わさったものが出てくる可能性がある。

学生の感想・コメントから

ニュートン力学は、今使っても大丈夫なんですか?

\sqrt{1-v^2/c^2}が1と近似できる範囲なら、使っても問題ありません。

グラフで違いに逆関数にある現象は実際にはどういう関係にあるんでしょうか。たとえば今日やったx軸とct軸はグラフ上ではx=ctに関して逆関数になってますが。

逆関数というよりは「x=ctに関して対称な関係にある」ということになります。それは何か「相対論では空間と時間の区別があいまいである」ということを示していますが、さてそれ以上の意味を見つけるのは難しい。。

時間のずれが生じた後、戻すことはできるのか?

遅れるのは動いた方なので、一方が止まったままだとすると、無理です。

いろいろな物事にはズレがあると思っていましたが、時間にはズレがないと思ってました。時間もスペースシャトルの中と外では男と女みたいなものなんですね。

うーん、男女間のズレの方が圧倒的に大きいけど(^_^;)。

突然ローレンツ短縮が出てきて何だったか思い出せなくてパニックになった。

ついこないだやったばっかりではありませんか。

違う答を両方とも正しいと考えるのは難しい(複数)

でもそれが「相対的」ということなのであります。

互いに時間が遅れるというのは、グラフでは納得したが感覚としてわからない(これも複数)

感覚で感じるのは難しいですねぇ。我々普段経験できないので。


*1 こうやって作ったローレンツ変換がマックスウェル方程式を不変に保つかどうかはちゃんとチェックする必要がある。答を先に書いておくと、電場や磁場のローレンツ変換をちゃんと定義すれば不変になっている。
*2 C<0だと、t'が増加した時にtが減少する(時間の流れが逆転!?)ことになる。

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Last-modified: 2024-01-12 (金) 19:41:37