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最初に先週の復習してたらその時点であまりに学生さんが疲れているので(どうしたいったい?)、ここで次の4.5節のような計算の話をしても寝てしまうだろうと思い、とりあえず4.5節は飛ばした。

4.5 行列およびテンソル式で書くローレンツ変換

ここまでで求めた座標変換は、行列で表現すると

\left(\begin{array}{c}ct'\\x'\\y'\\z'	\end{array}\right)=\left(\begin{array}{cccc}  \gamma& -\gamma\beta &0 &0 \\	-\gamma\beta&\gamma &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right) \left(\begin{array}{c}ct\\x\\y\\z	\end{array}\right)

である。例によって、\beta={v\over c},\gamma={1\over \sqrt{1-\beta^2}} という記号を使った。

これを、

\left(\begin{array}{cccc}       \alpha^0_{~0}&\alpha^0_{~1} &\alpha^0_{~2} & \alpha^0_{~3} \\       \alpha^1_{~0}&\alpha^1_{~1} &\alpha^1_{~2} & \alpha^1_{~3} \\       \alpha^2_{~0}&\alpha^2_{~1} &\alpha^2_{~2} & \alpha^2_{~3} \\       \alpha^3_{~0}&\alpha^3_{~1} &\alpha^3_{~2} & \alpha^3_{~3} \\				\end{array}\right)=\left(\begin{array}{cccc}  \gamma& -\gamma\beta &0 &0 \\	-\gamma\beta&\gamma &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)

(行列によるローレンツ変換)

とおいて、座標変換を

\left(\begin{array}{c} ct'\\x'\\y'\\z'       \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cccc}       \alpha^0_{~0}&\alpha^0_{~1} &\alpha^0_{~2} & \alpha^0_{~3} \\       \alpha^1_{~0}&\alpha^1_{~1} &\alpha^1_{~2} & \alpha^1_{~3} \\       \alpha^2_{~0}&\alpha^2_{~1} &\alpha^2_{~2} & \alpha^2_{~3} \\       \alpha^3_{~0}&\alpha^3_{~1} &\alpha^3_{~2} & \alpha^3_{~3} \\				\end{array}\right) \left(\begin{array}{c} ct\\x\\y\\z       \end{array}\right)

と書こう。\alpha^\mu_{~\nu}(\mu,\nuは0,1,2,3を取る)がどんなものか、我々はすでに知っているのだが、ここではまだ知らないとして、この行列の満たすべき条件を考えていこう。

上の式を短く書くならば、

(x')^\mu=\alpha^\mu_{~\nu}x^\nu

である(アインシュタインの規約を使って、右辺に書くべき\sum_{\nu=0}^3を省略した)。このように足し上げられている(つまりほんとうは\sum_\muがあるのに省略されている)添字は「つぶされている添字」と言ったり「ダミーの添字」と呼んだりする。

なぜ「ダミー」などと、一人前の添字扱いしてもらえないかというと、これは\alpha^\mu_0 x^0+\alpha^\mu_1 x^1+\alpha^\mu_2 x^2+\alpha^\mu_3 x^3と書くのが面倒なので\alpha^\mu_\nu x^\nuと書いているだけであって、νという添字はあってなきがごときものだからである。またこれを「つぶれている」と表現するにも理由があるが、それは後で述べる。

要請1.の条件は

\eta_{\mu\nu}x^\mu x^\nu=0の時、 \eta_{\mu\nu}(x')^\mu (x')^\nu= \eta_{\mu\nu}\alpha^\mu_{~\rho} x^{\rho} \alpha^\nu_{~\lambda}x^{\lambda}=0

と書くことができる。ただし、

\eta_{\mu\nu}=\left(\begin{array}{cccc}		-1&0 &0 &0 \\		     0 &1 &0 &0 \\		     0 &0 &1 & 0\\		     0 &0 &0 &1 \\		     \end{array}\right)

である。

ここで具体的な例について\eta_{\mu'\nu'}\alpha^{\mu'}_{~\mu}\alpha^{\nu'}_{~\mu} を計算してみよう。そのため、これを行列の計算に書き直す。2行2列の行列の計算が

\left(\begin{array}{cc}  A^1_{~1}& A^1_{~2} \\  A^2_{~1}& A^2_{~2} \\       \end{array}\right) \left(\begin{array}{cc}  B^1_{~1}& B^1_{~2} \\  B^2_{~1}& B^2_{~2} \\       \end{array}\right)= \left(\begin{array}{cc}  A^1_{~1}B^1_{~1}+ A^1_{~2}B^2_{~1}&  A^1_{~1}B^1_{~2}+ A^1_{~2}B^2_{~2}\\  A^2_{~1}B^1_{~1}+ A^2_{~2}B^2_{~1}&  A^2_{~1}B^1_{~2}+ A^2_{~2}B^2_{~2}       \end{array}\right)

で表されることと、掛け算の結果を行列\left(\begin{array}{cc} C^1_{~1}& C^1_{~2} \\ C^2_{~1}& C^2_{~2} \\ \end{array}\right)で表すならば、この式は

matrixm.png

のように書けることを使う。つまり「前の行列の後ろの添字(列の添字)と、後ろの行列の前の添字(行の添字)が同じもの同志を掛け算し、その和を取る」というのが行列の掛け算のルールである。説明は2行2列の行列で行ったが、これらの計算ルール自体は、4行4列の行列であっても同様に使える。

matrixa.png

ここで、\eta_{\mu'\nu'}\alpha^{\mu'}_{~\mu}\alpha^{\nu'}_{~\mu}の計算をする。掛け算のルールに合うようにするためには、1番左側にあるαの行列が転置されていること、掛け算の順番が\alpha^T,\eta,\alphaの順であることに注意せよ。具体的に求めた(行列によるローレンツ変換)をこの式に代入してみると、

\begin{array}{rl}&\left(\begin{array}{cccc}  \gamma& -\gamma\beta &0 &0 \\	-\gamma\beta&\gamma &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)\left(\begin{array}{cccc}		-1&0 &0 &0 \\		     0 &1 &0 &0 \\		     0 &0 &1 &0 \\		     0 &0 &0 &1 \\		     \end{array}\right)\left(\begin{array}{cccc}  \gamma& -\gamma\beta &0 &0 \\	-\gamma\beta&\gamma &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)\\=&\left(\begin{array}{cccc}  -\gamma& -\gamma\beta &0 &0 \\	\gamma\beta&\gamma &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)\left(\begin{array}{cccc}  \gamma& -\gamma\beta &0 &0 \\	-\gamma\beta&\gamma &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)\\=&\left(\begin{array}{cccc}  -\gamma^2(1-\beta^2)& 0 &0 &0 \\0&\gamma^2(1-\beta^2) &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cccc}  -1& 0 &0 &0 \\0&1 &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)\end{array}

となる。つまりこの場合、\eta_{\mu\nu}x^\mu x^\nu=0という条件は必要でなく、一般的に

\eta_{\mu\nu}= \eta_{\mu'\nu'}\alpha^{\mu'}_{~\mu}\alpha^{\nu'}_{~\nu}

(ηααの式)

が成立していることがわかる。なお、x,y面内における回転を表す行列は

\left(\begin{array}{cccc}  1&0 &0 &0 \\	0&\cos\theta &\sin\theta &0 \\	0&-\sin\theta &\cos\theta &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)

であるが、これを\alpha^\mu_{~\nu}としても(ηααの式)が成立することは3次元部分に関しては\eta_{\mu\nu}は単位行列であることを考えれば自明だろう。具体的な計算式を書いておくと、

\left(\begin{array}{cccc}  1&0 &0 &0 \\	0&\cos\theta &-\sin\theta &0 \\	0&\sin\theta &\cos\theta &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right) \left(\begin{array}{cccc}  -1&0 &0 &0 \\	0&1 &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right) \left(\begin{array}{cccc}  1&0 &0 &0 \\	0&\cos\theta &\sin\theta &0 \\	0&-\sin\theta &\cos\theta &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right) = \left(\begin{array}{cccc}  -1&0 &0 &0 \\	0&1 &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)

である(最初の行列は\alpha^Tなので転置されていることに注意)。

他の一般の軸に関する回転や反転に関しても同様である。

(ηααの式)が成立する\alpha^\mu_{~\nu}で表される座標変換を広い意味でのローレンツ変換と呼ぶ。広い意味でのローレンツ変換には狭い意味でのローレンツ変換の他に、回転や反転、さらにその組み合わせが含まれる*1

この性質からローレンツ変換を複数個組み合わせた変換もやはりローレンツ変換であることがわかる。すなわち、二つのローレンツ変換が行列\alpha^\mu_{~\nu}(\alpha')^\mu_{~\nu}で表されているとすると、この二つの合成変換である$\alpha^{\mu}_{~\nu}( \alpha')^\nu_{~\rho}$もローレンツ変換である。それは具体的に計算すれば

\eta_{\mu\nu}\alpha^\mu_{~\rho}(\alpha')^\rho_{~\alpha}\alpha^\nu_{~\lambda}(\alpha')^\lambda_{~\beta}=  \eta_{\rho\lambda}(\alpha')^\rho_{~\alpha}(\alpha')^\lambda_{~\beta}=\eta_{\alpha\beta}

となることで証明できる。


この部分は授業では話さない可能性もあるが、その場合は読んでおいてください。

4.6 一般的方向へのローレンツ変換

ここで、x座標系から見るとx'座標系の原点が3次元速度\vec v=\left(v_x,v_y,v_z\right)を持つような座標変換がどのようなものかを求めておこう。このような座標変換は、

  1. 3次元速度\left(v_x,v_y,v_z\right)\left(v,0,0\right)(ただし、v=\sqrt{(v_x)^2+(v_y)^2+(v_z)^2})に見えるような座標Xへの回転。
  2. X座標から見て、原点が速さvでx方向へ移動しているような座標系X'へのローレンツ変換。
  3. X'から、3次元速度\left(v,0,0\right)\left(v_x,v_y,v_z\right)に見えるような座標x'への(逆)回転。

という3つの変換の積で考えることができる。

この変換の一つの求め方は、行列を使うことである。X座標系でのX,Y,Z方向の単位ベクトルをそれぞれ\vec e_X,\vec e_Y,\vec e_Zとして、\vec e_Xのy成分を(\vec e_X)_yのように表すとすれば、最初の回転は

\left(\begin{array}{cccc}  -1&0 &0 &0 \\	0&(\vec e_X)_x &(\vec e_X)_y &(\vec e_X)_z \\	0&(\vec e_Y)_x &(\vec e_Y)_y &(\vec e_Y)_z \\	0&(\vec e_Z)_x &(\vec e_Z)_y &(\vec e_Z)_z \\       \end{array}\right)

と表せる。 逆回転を表す行列は

\left(\begin{array}{cccc}  -1&0 &0 &0 \\	0&(\vec e_X)_x &(\vec e_Y)_x &(\vec e_Z)_x \\	0&(\vec e_X)_y &(\vec e_Y)_y &(\vec e_Z)_y \\	0&(\vec e_X)_z &(\vec e_Y)_z &(\vec e_Z)_z \\       \end{array}\right)

である。これらの行列の積を作って、ローレンツ変換を求めることができるだろう。

以下ではもう少し楽な方法で考えることにする。 X=\vec e_X\cdot \vec x,Y=\vec e_Y\cdot\vec x,Z=\vec e_Z\cdot\vec xであって、

X'=\gamma(X-\beta ct),~~cT'=\gamma(cT-\beta X),~~ Y'=Y,~~Z'=Z

である。よってx\to x'の座標変換は

\vec e_X\cdot \vec x'=\gamma\left(\vec e_X\cdot \vec x-\beta ct\right),~~ct'=\gamma\left(ct-\beta \vec e_X\cdot \vec x\right),~~\vec e_Y\cdot\vec x'=\vec e_Y\cdot\vec x,~~\vec e_Z\cdot\vec x'=\vec e_Z\cdot\vec x

を満たすようなものになる。\vec x'は、x成分、y成分、z成分を足し合わせて

\vec x'=\gamma\left(\vec e_X\cdot \vec x-\beta ct\right)\vec e_X+\left(\vec e_Y\cdot\vec x\right)\vec e_Y+\left(\vec e_Z\cdot\vec x\right)\vec e_Z

となる。ここで、

\vec x=\left(\vec e_X\cdot \vec x\right)\vec e_X+\left(\vec e_Y\cdot\vec x\right)\vec e_Y+\left(\vec e_Z\cdot\vec x\right)\vec e_Z

という当たり前の式(この式は、ベクトルをX成分、Y成分、Z成分に分けてからもう一度足すと元に戻る、というだけのこと)を使うと、

\vec x'=\gamma\left(\vec e_X\cdot \vec x-\beta ct\right)\vec e_X+\vec x-\left(\vec e_X\cdot \vec x\right)\vec e_X=\left((\gamma-1)\vec e_X\cdot \vec x-\beta\gamma ct\right)\vec e_X+\vec x

と書ける。\vec e_Xは速度の方向を向いた単位ベクトルであるから{\vec \beta\over \beta}と書けるので、

\vec x'=\left({\gamma-1\over \beta^2}\vec \beta\cdot \vec x-\gamma ct\right)\vec \beta+\vec x

となる。

4.7 章末演習問題

[演習問題4-1] ミュー粒子と呼ばれる粒子は、2\times10^{-6}秒で崩壊してしまう。ウラシマ効果を考えないと、たとえ光の速さ(3\times10^8m/s)で走ったとしても、6\times 10^2mしか走れない。しかし、地上からの高度約10km=10^4mで発生したミュー粒子が、ちゃんと地上に到着する。これはミュー粒子が非常に速い速度で走っているおかげで時間の進み方が遅くなっているからであると考えることができる。

テキストでは10kmが10^5mになってましたが、もちろん間違いです。訂正しておいてください。

ミュー粒子の速度はいくら以上でなくてはいけないか、概算せよ。

これをミュー粒子の立場に立って(つまり、ミュー粒子と一緒に動く座標系で)考えるとどうなるだろうか。この立場では、ミュー粒子は静止している。彼(ミュー粒子)の立場では、動いているのは地球の方である。するとミュー粒子は2\times10^{-6}秒で崩壊してしまうはずである。ではなぜ、大気圏の下まで到着することができるのか??

この問題は授業中に話した。つまりはμ粒子から見ると、亜光速で走ってくる地球やその大気圏は、ローレンツ短縮でぎゅーーーーっと縮んでしまっている、ということである。

[演習問題4-2]

surechigai.png

二台の電車AとBのすれちがいをある人(観測者O)が見ている。

Oから見ると、AとBはx軸の正方向と負方向にそれぞれ速さvで走ってくるように見える。電車の固有長さ(すなわち、電車が静止している系で測定した長さ)はともに2Lであるとする。観測者の座標系で時刻t=0において、x=0の場所でA、Bの中央が一致していたとする。これらの電車の運動を表すグラフを書け。ヒントとして、右にO,A,Bの動きだけを記したグラフを書いておく。

また、電車Aの中央に乗っている観測者をα、電車Bの中央に乗っている観測者をβとする。α、β、Oの3人の軌跡は、さっきのグラフの原点で重なる。この時空点(原点)において光が左右に発射されたとする。光の軌跡をグラフに書き込み、そのグラフを使ってαにとっての同時刻線、βにとっての同時刻線を作図せよ。

surechigaiG.png

αは「電車Bの方が電車Aより短い」と観測し、βは「電車Aの方が電車Bより短い」と観測する(互いに相手を「自分より短い」と判断する)。グラフに「αが原点にいる時に観測する電車A,Bの長さ」と「βが原点にいる時に観測する電車A,Bの長さ」を書き込み、互いに相手を短いと観測することを説明せよ。

[演習問題4-3]行列を使った座標変換の練習をしよう。

translation.png

我々は、x方向に速度vで動いている場合のローレンツ変換の行列

\left(\begin{array}{c} ct'\\x'\\y'\\z'      \end{array}\right)= \left(\begin{array}{cccc}  \gamma& -\gamma\beta &0 &0 \\	-\gamma\beta&\gamma &0 &0 \\	0&0 &1 &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)\left(\begin{array}{c} ct\\x\\y\\z      \end{array}\right)

を知っている。また、z軸周りに角度θだけ座標軸を傾ける座標変換の行列

\left(\begin{array}{c} ct''\\x''\\y''\\z''      \end{array}\right)=  \left(\begin{array}{cccc}  1&0 &0 &0 \\	0&\cos\theta &\sin\theta &0 \\	0&-\sin\theta &\cos\theta &0 \\	0&0 &0 &1 \\       \end{array}\right)\left(\begin{array}{c} ct\\x\\y\\z      \end{array}\right)

も知っている。

この二つをうまく組み合わせて、「x軸からy軸方向に角度θだけ傾いた方向へ速度vで動いている観測者が静止するような座標系への座標変換」を作れ。ただし、二つの座標系の空間成分の空間的方向は一致するものとする。

translation2.png

ヒント:まず、右の図のvの方向がx軸になるように座標回転した後、そのx方向に速度vのboost(狭義のローレンツ変換)をする。その後で、x軸の方向が元と同じ方向を向くように座標回転して戻す。

第5章 ローレンツ変換と物理現象

以下のローレンツ短縮についての話は、前にしてしまっていたので、今日は飛ばした。

5.1 (新しい意味の)ローレンツ短縮

tanshuku.png

ローレンツがad hocに導いたローレンツ短縮と似た現象が、この座標変換でも導かれることを示そう。今、一つの棒をx-t座標系で見て静止するように置いたとする。棒の長さをLとして、一方の端をx=0、もう一方の端をx=Lに置いたとする。時間tが経過してもこのxの値は変化しない。では、これをx' 座標系で見るとどうか。棒の一方の端の時空座標を(x_1,t_1)または(x'_1,t'_1)で、もう一方の端の時空座標を(x_2,t_2)または(x'_2,t'_2)で表すとすれば、

\begin{array}{rcl}(x_1,ct_1)=(0,ct)&\leftrightarrow& (x'_1,ct'_1)=(-\gamma\beta ct,\gamma ct)\\(x_2,ct_2)=(L,ct)&\leftrightarrow& (x'_2,ct'_2)=(\gamma(L-\beta ct),\gamma (ct-\beta L))\end{array}

となる。

tanshuku2.png

ここでx'座標系で棒の長さを測るとしよう。「x'座標系での棒の長さ」はt'_1=t'_2にした時のx'_2-x'_1で計算される。上の表の(x'_1,t'_1)(x'_2,t'_2)では、t'_1\ne t'_2なので、t_2の方の時間をt\to t+{\beta\over c}Lとずらして、

(x_2,t_2)=(L,t+{\beta\over c}L)\leftrightarrow (x'_2,t'_2)=(\gamma(L-\beta ct-\beta^2 L),\gamma ct)

とすれば、t'_1=t'_2になる。この時のx'_2-x'_1を計算すると、

x'_2 - x'_1 = \gamma(L-\beta^2L)=L{1-\beta^2 \over\sqrt{1-\beta^2}}=L{\sqrt{1-\beta^2}}

となり、x系での長さLに比べ、\sqrt{1-\beta^2}倍になっている(縮んでいる)ことがわかる。

この式は形としてはローレンツがマイケルソン・モーレーの実験結果を説明するために導入した短縮と同じである。逆に言うと「ローレンツ短縮が起こるべし」という要請から、係数Aを決めることも可能であったことになる。しかし、今求めた新しい意味のローレンツ短縮と、古い意味のローレンツ短縮は根本的に意味が違う。まず、ローレンツはエーテルとの相対運動が理由で機械的に短縮が起こると考えたが、ここでの短縮は座標変換によって生じたものであって、力が働いて起こる短縮とは全く意味が違う。また、図で説明してあるように、座標系が違うことによって「同時刻で空間的に離れた2点」という2点の定義の仕方そのものが変わってくる。ガリレイ変換ではこんなことは生じない。古い意味のローレンツ短縮はガリレイ変換を使った物理の中で考えられたものだから、同様に「座標系が違えば同時刻が違う」ということを考慮せずに単に短縮すると仮定している。

何よりここで導かれた短縮は光速度不変の原理と特殊相対性原理から自動的に導出されたもので、筋道だった説明が与えられていることが大きな違いである。

5.2 速度の合成則

denshagosei.png

今、速度vで走っている電車の中で、(電車の中から見て)速度uでボールを 投げたとしよう(この人を以下「Aさん」と呼ぶ)。これを電車外にいる人(以 下「Bさん」)が見るとどれだけの速度に見えるだろう???

ガリレイ変換的な`常識'からすると、「u+vの速度に見える」ということにな るだろう。しかし、その常識はもはや通用しない。たとえばAさんがボールでは なく光を発射したとすると、その光はAさんからみて速度cで進むが、Bさんか ら見ても速度cで進む。ガリレイ的常識には相容れないが、 光速度不変の原理という「実験事実」の示すところで ある。ということは、「u+vの速度に見える」という`常識'も、もはや危ない。

u+v.png

そこで、以下で相対論的に速度の合成を考えていくことにしよう。手がかりとす るのはもちろん、ローレンツ変換

x'={1\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}\left(x-{v\over c}ct\right)

ct'={1\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}\left(ct'-{v\over c}x\right)

である。

二つの座標系(x,ct)座標と(x',ct')座標を考える。x'座標系の原点はx座標系で見ると速度vで運動している。(x',ct')座標系で速度uを持っている物体の速度は、(x,t)座標系ではいくらに見えるだろうか。つまり「速度vで動く電車の中で速度uで走る人は、外から見るといくらの速度に見えるか」という問題を考えよう。ガリレイ変換的``常識''ではこれはu+vとなる。

(x',ct')座標系で見て速度uで動く物体の軌跡は、x'=ut'で表される。この式を(x,ct)座標系で表せば、x=Vtだったとする。座標変換してみると、

\begin{array}{rl}  x'=&ut' \\ \gamma(x-vt)=&u\gamma(t-{v\over c^2}x) \\ x-vt=&ut-{uv\over c^2}x \\ x+{uv\over c^2}x =&ut+vt\\  x=&{u+v\over 1+{uv\over c^2}}t \\ \end{array}

となる。つまり、(x,ct)座標系でのこの物体の速度Vは

V={u+v\over 1+{uv\over c^2}}

(速度の合成則)

に見える。

ここで注意すべきことは、|u|<c,|v|<cならば\left|{u+v\over 1+{uv\over c^2}}\right|もcより小さくなるということである。

このことを証明するために、\left|{u+v\over 1+{uv\over c^2}}\right|を自乗してc^2をひいてみると、

{ (u+v)^2\over \left(1+{uv\over c^2}\right)^2}-c^2={ (u+v)^2 -c^2\left(1+{uv\over c^2}\right)^2 \over \left(1+{uv\over c^2}\right)^2}={ u^2+v^2+2uv -c^2\left(1+2{uv\over c^2}+{u^2v^2\over c^4}\right) \over \left(1+{uv\over c^2}\right)^2}

となるが、この式の分子は

u^2+v^2+2uv -c^2\left(1+2{uv\over c^2}+{u^2v^2\over c^4}\right)= u^2 v^2 -c^2 - {u^2v^2\over c^2}=-{(c^2-v^2)(c^2-u^2)\over c^2}

と因数分解できて、|u|<c,|v|<cならばこれは負である。つまり、\left|{u+v\over 1+{uv\over c^2}}\right|^2<c^2となって、この合成速度の絶対値はcより必ず小さい。

たとえば、光速の50%、すなわち0.5cで動く巨大ロケットの中で、0.5cで動く小型ロケットを作って飛ばしたとしよう。すると外から見ると光速になるかというと、そうはいかない。速度の合成則に代入すると、{0.5+0.5\over 1+0.5\times0.5}={1\over 1.25}=0.8となって、0.8cの速度に見えることになる。

そうなってしまう理由は、一つにはウラシマ効果。外部から見ると、内部の小型ロケットはスローモーションで動く。また、ローレンツ短縮によって巨大ロケットは縦方向に縮んでいるから、小型ロケットの進む距離も短くなってしまう。

つまり、光速以下の速度をいかに足し算していっても、光速度cを超えることはない。これは実は、「いかに物体を加速しても光速を越えることはない」という事実を保証している。加速とはすなわち速度が変化することであるが、ある時点で物体がどのような速度を持っているとしても(相対的に考えれば)、その物体がその瞬間において静止しているような慣性系を持ってくることができる。加速するということは、慣性系において物体の速度が変化することを意味する。直前で物体が静止しているような座標系(x'-系)で考えると、物体の速度は連続的に変化するはずなので、いきなり光速を越えることはあり得ない。別の座標系で見れば、物体の速度はx'-系で測った速度に、x'系の原点の速度を加算したものになるが、この時の速度の加算は上の式で与えられるのだから、加速した物体の速度はけっして光速を越えられない。

後で述べるが、光速度を超えないということは相対論的因果律が満たされるために重要であるから、これが保証されることは喜ばしいことなのである(そもそも、ローレンツ変換の公式でv>cだとγが虚数になって困る)。

また、u=cの場合(電車内で光を発射した場合)について計算すると、

V={c+v\over 1+{cv\over c^2}}={c+v\over 1+{v\over c}}={c+v\over{c+v\over  c} }=c

となり、電車外で見ても光速度はcであるということになる(そうなるように 作ったローレンツ変換から導いた式なのだから当然ではあるが)。

今、人類が作れる最高速度ってどれくらいですか?

物体の速度という意味では、秒速数十キロまでですね。惑星探査のロケットでもそれくらいです。電子一個とか陽子一個とかでよければ、光速の99.99999999%とかまで加速することはできてますよ。LHCとかの粒子加速器です。

なお、上の計算は二つの速度がどちらもx方向を向いている時の計算であるが、たとえばx'系での速度が(u_x,u_y,u_z)であるような時は、y'=u_y t'という式が成立しているので、

\begin{array}{rl}y'=&u_y t'\\  y=&u_y \gamma\left(t-{v\over c^2}x\right)\\y =&u_y \gamma\left(t-{v\over c^2}{u_x+v\over 1+{u_xv\over c^2}}t\right) =u_y \gamma\left(1-{v\over c^2}{u_x+v\over 1+{u_xv\over c^2}}\right)t \\ y =&u_y \gamma\left({1+{u_xv\over c^2}-{u_xv\over c^2}-{v^2\over c^2}\over 1+{u_xv\over c^2}}\right)t =u_y {1\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}\left({1-{v^2\over c^2}\over 1+{u_xv\over c^2}}\right)t =u_y{\sqrt{1-{v^2\over c^2}}\over 1+{u_xv\over c^2}} t \\ \end{array}

となり、y方向の速度はu_y {\sqrt{1-{v^2\over c^2}}\over 1+{u_xv\over c^2}}ということがわかる。z方向も同様に、u_z {\sqrt{1-{v^2\over c^2}}\over 1+{u_xv\over c^2}}とわかる。y,z座標は変化しないが、時間座標が変化しているので、y,z方向の速度が変化する。これもガリレイ変換の場合とは大きく違う。

5.3 フィゾーの実験の解釈

3.5節で、フィゾーによる「エーテルの引き摺り」実験を紹介した。屈折率nの媒質が速さvで運動している場合、その媒質中の光速(媒質が運動していなければ{c\over n})が

{c\over n}+\left(1-{1\over n^2}\right)v

に変化するということであった。これを媒質中のエーテルは媒質の1-{1\over n^2}の速度で動いていると考えるとすると、たいへんおかしなことになる。nは振動数によって違うから、各々の振動数ごとに違う速度でエーテルが動いていることになってしまうのである。

相対論的な考え方では、この問題がどのように解決するかを見ておこう。まず、媒質と一緒に運動する座標系で考えると、この光の速度は{c\over n}である(念のため注意。この座標系でも、真空中の光の速度はcのままである)。ではこの速度を、媒質が運動している座標系で見るとどう見えるだろうか?---上の公式(速度の合成則)を、vが小さいと近似して展開すると、

{u+v\over 1+{uv\over c^2}}=(u+v)\times\left(1-{uv\over c^2}+\cdots\right)=u+v-{u^2 v\over c^2}+\cdots=u+\left(1-{u^2 \over c^2}\right)v+\cdots

となる*2。今考えている場合はu={c\over n}なので、この式は

{c\over n}+\left(1-{1\over n^2}\right)v

となり、フィゾーの実験結果と近似の範囲内で一致する。この計算では「エーテルの運動」などというものを考える必要は全くなく、「媒質の静止系では光速は{c\over n}だ。他の座標系でどうなるか知りたければ、単にローレンツ変換すればよい(速度の合成則を使って計算すればよい)」ということになる。振動数ごとに違う速度で走るエーテルなどという不自然なものは必要ない。

5.4 相対論的因果律

因果律とは「原因は結果に先行する」という原則であり、物理のというより、何らかの現象を考えるすべての学問において鉄則と言ってよいだろう。ガリレイ変換的な世界における因果律は

&jsmath(t_{原因}<t_{結果});

と表すことができる。&jsmath(t_{原因});は原因となる事象が起こる時刻で、&jsmath(t_{結果});は結果となる事象が起こる時刻である。相対論的に考える時は、条件がもっときつくなる。なぜなら、同時の相対性のおかげで、「ある座標系では&jsmath( t_{原因}<t_{結果});だが、別の座標系では&jsmath(t'_{原因}>t'_{結果});」ということが起こってしまう可能性がある。そこで相対論的因果律は、

lcone2.png

いかなる座標系で表現しても &jsmath(t_{原因}<t_{結果});

と表現される。結局、「結果」となる事象は「原因」から見て、未来に向いた光円錐の内側になくてはいけないことになる(逆に「原因」は「結果から見て過去に向いた光円錐の内側にある)。

「現在」であるある点から見て、未来向きの光円錐の内側(側面を含む)を「因果的未来」と呼ぶ。「現在」で起こることの影響は、因果的未来にのみ及ぶ。また、「現在」に影響を及ぼしているのは過去向き光円錐の内側(「因果的過去」と呼ぶ)のみである。「因果的未来」でも「因果的過去」でもない領域は、現在とは因果関係がない(現在の場所にいる粒子の未来においては影響を及ぼす可能性がある)。

相対論的因果律がほんとうに満たされているかどうかはわからないが、既知の(相対論的に正しい)物理法則はこれを満たしているように見える。 上で速度の合成則から、「いくら速度を足していってもcを超えない」ことがわかっている。これはつまり、「どんなにがんばって加速しても光速以上には加速できない」ということである。物理法則は因果律を破れないように作られているらしい。


この部分は授業では話さない可能性もあるが、その場合は読んでおいてください。

superluminal.png

もし超光速で移動することが可能であったならば、それはタイムマシンがあるのと同じことになる。なぜなら、ある座標系において超光速で移動することは、別の座標系から見ると「未来から過去へ」という移動を行っていることになるからである。右の図のPからQへという移動は、座標系Bで見れば「過去から未来へ」という運動だが、座標系Aで見れば「未来から過去へ」という運動になる。

もし、「座標系Aで見て超光速で動ける物体」と「座標系Bで見て超光速で動ける物体」が二つ用意できれば、その二つの組み合わせによって「未来から過去へ」という移動が可能になる。図のP→Q→P'という運動を見てみよう。P→Qは座標系Bでの超光速、Q→P'は座標系Aでの超光速移動である。そしてP→P'という移動は、場所は移動せず時間だけを遡っていることになる*3

このような因果律を破る現象が存在しているとするとSFなどで有名な「自分が生まれる前に戻って自分の親を殺したらどうなるのか?」というパラドックスが発生することになる。親が死んだので自分が生まれないとすると、生まれない自分はタイムマシンで元に戻ることはない。ということは親は死ぬことなく、自分は生まれる。生まれた自分は親をタイムマシンで殺しに行く。すると自分は生まれない…と論理が堂々巡りし、結局何が起こるのか、さっぱりわからなくなるのである。これを物理の言葉で述べると「与えられた初期条件に対して適切な解が存在しない」ということになる。因果律が破れているということは「初期条件」では決まらない要素(未来から来た自分)が問題に入ってくるということなので、こういう困ったことになる。困ったことになるのは嫌なので、因果律は破れないようになっていると思いたいところである。

ここで超光速の移動手段の例としてどこでもドアが存在していた場合、どのようにタイムマシンができるか、をMickelson-Morleyの実験(どこでもドア付き)のプログラムと、青い門と黒い門でできたタイムマシンのアニメーションを使って説明した。

以下の5.5節は飛ばしました。

5.5 ドップラー効果

ドップラー効果については音の方が有名である。まず音の場合のドップラ─効果がどのような現象であるかを思い出す。そこでまず気をつけて欲しいのは、「ドップラ─効果」と呼ばれている現象は実は二つの現象を合わせたものだということである。それは

snddoppler.png
  1. 音源が移動していることによって、波長が変化し、結果として振動数が変化する。
  2. 観測者が移動していることによって、見掛けの音速が変化し、結果として振動数が変化する。

振動数fは波長λと音速Vによって、f={V\over \lambda}と書かれる。1.は、この式の分母の変化である。図で書けば右のようになる。これは音源が動きながら音を出している様子である。音源が動いても、まわりの空気(音の媒質)はいっしょに動いているわけではないので、音を出した場所を中心として球状に(図では円状になっている)広がる。音が広がるまでの間に音源が移動しているので、前方では波がつまり(波長が短くなり)、後方では波が広がる(波長が長くなる)。

これに対して2.は、f={V\over \lambda}の分子の方の変化である。同じ波長の波が来たとしても、自分が波に立ち向かっていくならば、1秒間に遭遇する波の数が増える。逆に波から遠ざかるならば、波の数が減る。

しかしこのような説明を聞いた後で、「さて光の場合のドップラー効果はどうなるのか」と考えると、ちょっと不思議なことに気づくだろう。音の場合、観測者の運動によって音速が変る(2.の場合)。だから音の振動数が変化するわけである。しかし光の場合、そんなことは起きない(光速度不変の原理!)。では光の場合、「観測者が運動している場合のドップラー効果」は存在しないのか。もちろんそんなことはない。以下で、まず図を書いて考えてみよう。

doppler.png

上左の図は、静止した波源から波(光もしくは音)が出ている状況の時空図である。波は上下左右前後に(図では例によって空間軸を一つ省略している)均等に広がっていく。それゆえ、異った時刻に発生した波の波面は同心球(図では同心円)を描く。

これを動きながらみたらどのように見えるかを表したのが上中、上右の図であり、それぞれ光の場合と音の場合である。光の場合、光速度不変により、光円錐は傾かない。しかし、波源(光源)が刻一刻動いているので、今度は同心球とはならず、進行方向の前では波がつまり、後ろでは波が広がる。

音の場合はどうかというと、波源(音源)の動きと同じ速さで空気も動いているので、音の球はいわば、風に流される状態になる。ゆえに「音円錐*4」は風で流される分、傾く。音源と媒質が同じ速度で動いているので、波面は球状に広がりながら流されていき、同心球はたもたれる。つまりこの場合、波長は変化しない。しかし前方では波がそれだけ速くなっており、同じ波長でも速さが速い分振動数が多くなっている*5

doppler2.png

今考えた二つ(上中、上右図)は同じ現象を動きながら見た場合であった。そのため、音の場合、音源と同じ速度で媒質(空気)が動いていた。では空気の中を音源が動くとどうなるかを書いたのが右の図である。この場合、音円錐は傾かないが音源の動きのせいで波面が同心球にならない。つまりこの場合、波長が変化することで振動数が変化している(音速は変化していない)。

波の振動数νは波長λと波の伝わる速さvで表すと\nu={v\over \lambda}であるが、音の場合、波源が動いたならばλが変化し、観測者が動いたら音速vが変化する。光の場合、速さvは変化しないので、変化は全て波長の変化に帰着される。しかし、その波長が変化する理由は実は二つある。一つは図に現れている、波と波の間隔がつまるという現象である。もう一つ、いわゆるウラシマ効果によって、波源(光源)が波を出してから次に波を出すまでの間隔がのびる。この二つの効果によって光の波長が変化し、ゆえに振動数が変化するのである。このように、光速度不変(cは観測者の速度によって変化しない)であっても、振動数や波長は観測者の速度によって変化しうる。

では、どのように光のドップラー効果が起こるかを、ローレンツ変換の式を使って計算してみよう。光の振動数(ただし、音源が静止している場合に出す光の振動数)を\nu_0とする。光源の静止系(x'系とする。)では、「山」を出してから次に「山」を出すまでの時間は{1\over \nu_0}であるから、光の「山」が出た時空点を(x',y',z',ct')=(0,0,0,{nc\over \nu_0})(nは整数)と考えることができる。これをローレンツ変換すると、(x,y,z,ct)=(\gamma\beta{nc\over \nu_0},0,0, \gamma {nc\over \nu_0} )となる。つまりこれが光源が動いている座標系において光の「山」が出た時空点である。

doppler3.png

もっとも簡単な場合として、光源の進んでいく先にあたる場所(x,y,z)=(L,0,0)(Lは大きく、まだ光源はここまで達していないと考える)でこの光を観測したとすると、光は出てからL-\gamma\beta {nc\over \nu_0} の距離だけ走ってこの場所に到達することになる。その時刻は

#jsmath(\underbrace{ \gamma {n\over \nu_0}}_{山が出た時刻} + \underbrace{{L-\gamma\beta{nc\over \nu_0}\over c}}_{光が到着するのにかかる時間}= {L\over c} + \gamma(1-\beta){n\over \nu_0}) である。nが1違うと、この時刻は

\gamma(1-\beta){1\over \nu_0}

だけ違う。ゆえに、振動数は

\nu=\nu_0 {1\over \gamma(1-\beta)}=\nu_0{\sqrt{1-\beta^2}\over 1-\beta}=\nu_0 \sqrt{{1+\beta\over 1-\beta}}

と変化していることになる。より一般的に、(L\cos\theta,L\sin\theta,0)に来た光の振動数を考えよう。この場所に「山」がやってくる時刻はLが大きいとして近似すると、

\begin{array}{rl}  \gamma {n\over \nu_0}+{1\over c}\sqrt{\left(L\cos\theta-\gamma\beta{nc\over \nu_0}\right)^2 +\left(L\sin\theta\right)^2}\simeq&  \gamma {n\over \nu_0}+{1\over c}\sqrt{L^2 -2L\cos\theta \gamma\beta{nc\over \nu_0} }\\\simeq&  \gamma {n\over \nu_0}+{1\over c}\left(L -\cos\theta \gamma\beta{nc\over \nu_0} \right)\end{array}

となる。nが1変化するとこの時刻は${\gamma(1-\beta\cos\theta)\over \nu_0}$変化するので、振動数は

\nu=\nu_0 {\sqrt{1-\beta^2}\over 1-\beta\cos\theta}

となる。

(ガリレイ変換を使った場合の)音のドップラー効果との顕著な違いは、進行方向に対して真横の方向へ進む光(上の式で\cos\theta=0に対応する)にも振動数変化があらわれることである。これはウラシマ効果によるもので、音ではそのような結果は出ない。これを「横ドップラー効果」と呼ぶ。銀河のいくつかはその中心核から「宇宙ジェット」と呼ばれる亜光速のガス流を出しているが、そのガスが出す光が横ドップラー効果を起していることが確認されている。

学生の感想・コメントから

物理学者はローレンツ変換の式を用いるとき、頭の中で物理的状況をイメージしているの?

物理屋は、どんな時も物理的状況をイメージできなくては。

人工衛星が地球の周りを100万年回ったら時間はずれますか?

1億分の1ぐらいしかずれないので、1億年回って、やっと1年分ずれます。

どこでもドアとタイムマシンは無理でも、タケコプターは作って欲しい。

タケコプターなら、物理法則に反しないようにできるかもしれませんね。もっともあれが反重力装置なんだとすると実現は難しい。

アインシュタインさんはタイムマシンはできると思ってたのですか?

できないと思っていたでしょう、おそらく。たいていの人はできないと思っています。

どこでもドアがあったとして、まわして時間をずらすってどうやるんですか?

ただ回せばいいのです(片っ方だけを回すのは難しいかもしれませんが、それができるとして)。回せば、ウラシマ効果が起こるので、自然と時間がずれます。

0.5cのロケットの中で0.5cのロケットを飛ばしても光速以上にならないことはわかりましたが、その中でさらに0.5cのロケットを飛ばしたら???

その場合は、0.8cと0.5cの合成です。{0.8+0.5\over 1+0.8\times0.5}={1.3\over1.4}\simeq 0.928となって、やっぱり光速以下です。

野球漫画でよくあるボールが2つに分身したということはありえないですよね? あとボールが消えて打者の手前で出てくると言うこともボールが光速以上で走っていると考えられるのでありえないですよね?

どっちもありえないでしょう(^_^;)。でもボールが消えて見えるためには、人間の目の反応速度より速く動けばいいので、光速以上まではいらないと思う。

重力も時間と空間を縮めるという話を聞いたので、何か関係あるのかと思った。

もちろん関係大有りです。重力は一般相対論の方でやります。

ちゃんと話聞いているつもりなんだけど、授業受けるたびにタイムマシンができるような気がします。

じゃあ作ってね。楽しみにしているから。

電子を光速の99.9999999%で動かすことができるとは驚いた。

そうやって加速することで、我々のまだ知らない物理を見つけることができるかもしれない、と思われています。

時間が一緒であるどこでもドアA,Bがあって、物体がAに入ってBから出てくる。そしてまたAに入るということが繰り返されれば、永久機関になりますか?

なりますね。もっとも、永久機関というのはエネルギーを取り出すものでないといけないので、AとBでAの方が高いところにあるとかしないとだめでしょう。そういう意味でも、どこでもドアってのは物理法則を破ります。

タイムマシンができなくて残念(多数)

まぁ、簡単にはできませんよ。

光学の講義で、物体が光速に近づくと質量が∞になると聞いたのですが本当ですか?この講義のもう少し先でやるんですかね?

それは「相対論的質量」というやつで、確かに∞になります。後でやりますからお楽しみに。


*1 狭い意味でのローレンツ変換はboostと呼ばれることもある
*2 {1\over 1+x}=1-x+x^2-x^3+\cdots。これは初項1、公比-xの等比級数の和の公式である。
*3 このあたりを解説した読み物としては「タイムマシンの話」(都筑卓司・講談社)などがある。
*4 実際にこんな言葉はない
*5 以上の音に対する計算では、座標変換にガリレイ変換を使っている。ほんとうはここもローレンツ変換を使うべきなのだが、音のようなせいぜい数百m/sの話をしている時には、ローレンツ変換とガリレイ変換の差は非常に小さく、わざわざ計算が面倒なローレンツ変換を使う意味はあまりない。

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Last-modified: 2024-01-12 (金) 19:41:39