手違いで章が2から3に変わってますが、内容は前回の続きです。
この節では、ビオ・サバールの法則を使って実際に電流のつくる磁界を計算してみよう。
半径Rの円形コイルに電流Iが流れている。この時に周りにできる磁束密度を計算しよう。
図のように、円の中心が原点であるとして、この点を基点として位置ベクトルを考える。まず、比較的計算が簡単な、円の中心軸上を計算してみよう。
$\vec x'$は原点から導線の上のどこか1点へと向かうベクトルである。$d\vec x'$というベクトルは$\vec x'$の変化量を表すベクトルであり、$\vec x'$が円の上を一周するうちに、やはり360度回転する。ここでは磁場を求める場所をz軸上にしたので、$\vec x= z\vec e_z$と書くことができる。$\vec x-\vec x'$は図のようなベクトルになり、$Id\vec x'$から$\vec x-\vec x'$へとネジを回した時にネジの進む向きは図のように斜め上の方向を向く($\vec x-\vec x'$とも、$Id\vec x'$とも垂直である。
円上を$\vec x'$を積分するうちに、この微小磁場もくるりと一回転することになる。もしz=0なら、磁束密度は常に上(+z方向)を向く。$z\neq0$ではそうはいかないが、磁束密度のz方向成分は常に同じ大きさである。またそれ以外の成分は一周積分するうちに対称性から0になると考えられる。
立体的に把握するのは難しいので、断面図で書いたものが左の図である。この図では電流は紙面表から裏へ向かい、$\vec x-\vec x'$と磁場が紙面に収めることができる方向になっている。
ここで、積分は半径Rの円を一周するように(図の角度φを0から2πまで)行われる。この間、$d\vec x'$は、大きさ$Rd\phi$で、円周方向を向いたベクトルとなる。
この場合、$d\vec x'$と$\vec x-\vec x'$は直交しているので、外積$d\vec x'\times(\vec x-\vec x')$の大きさは$d\vec x'$の大きさ$Rd\phi$と$\vec x-\vec x'$の大きさ$\sqrt{R^2+z^2}$の単なる掛け算になる。つまり、微小磁束密度は $$ {\mu_0 I R d\phi\over 4\pi(R^2+z^2)}$$ である。
三角形の相似を使ってこの磁束密度のz軸方向の成分を考えると、 $${R\over\sqrt{R^2+z^2}} {\mu_0IR d\phi\over 4\pi(R^2+z^2)}$$ となる。 後は積分して、 $$\int_0^{2\pi} d\phi{\mu_0I R^2\over 4\pi \left(z^2+R^2\right)^{3/2}} ={\mu_0I R^2\over 2\left(z^2+R^2\right)^{3/2}} $$ が求めたい磁場である。
今出てきた答えは遠方では$z^3$に反比例して弱くなる。基本法則であるビオ・サバールの法則では自乗に逆比例して弱くなるのに、円電流の場合で計算すると三乗に逆比例するのは、今考えている電流がループを描いていて、結果として「左向き電流の作る磁場と右向き電流の作るが打ち消し合う」という形で磁場が弱まるからである。図を見るとわかるように、逆行電流のつくる磁場はz=0付近ではほぼ同じ方向を向いて強め合うが、遠方では逆方向を向いて弱め合う。このために三乗逆比例するという答になるのである。
この例に限らず、電流の作る磁場は遠方では逆3乗で落ちることが多い。これに対し、電荷の作る電場は逆自乗である。同じような基本法則に従っている筈なのにこの差はなんだろう??と質問してみたが明確な答はなかったが、「電流が回路を作る」という点の違いには気づいてくれた人もいた。
電流による磁場が電荷による電場に比べて速く落ちる理由は、電流というのは電荷のように単独には存在できず、かならず「回路」という形で逆向き電流とセットで現れるからである。遠方から見ると、逆行電流の作る磁場は消し合ってしまって弱くなる。これが電荷との大きな違い。この「電流は必ず回路を作る」ということは即ち、「NとSが引き離せない」ということにつながるのである。これに対し、プラスのみ、マイナスのみでも存在できる電荷による電場は消し合うことがない(広がることによって逆自乗では落ちる)。
また、z=0においては $$ \vec B(\vec 0)={\mu_0 I \over2R}$$ という答になる。距離Rのところに直線電流が流れている場合よりπ倍強くなっているが、これは直線電流の場合より近い位置に電流がいることが効いている。
なお、以上を図形的でなく代数的に計算してしまうこともできる。ここで登場したベクトルを、円筒座標の基底を使って書き直すならば、$d\vec x'=Rd\phi \vec e_\phi$であり、かつ$\vec x-\vec x'=z\vec e_z-R\vec e_r$である。ただし、ここで書いた$\vec e_r,\vec e_\phi$の向く方向は、場所$\vec x'$において向く方向である*1。
ゆえに、 $$ Id\vec x'\times(\vec x-\vec x')=I Rd\phi \vec e_\phi\times(z\vec e_z-R\vec e_r)=IR(z\vec e_r+R\vec e_z)d\phi$$ となる*2。 ここで、$\vec e_r,\vec e_\phi,\vec e_z$の外積は $$ \vec e_r\times\vec e_\phi=\vec e_z,~~ \vec e_\phi\times\vec e_z=\vec e_r,~~ \vec e_z\times\vec e_r=\vec e_\phi$$ になるということを使った。
これから求めるべき磁束密度は $$ \vec B(z\vec e_z)={\mu_0\over4\pi}\int_0^{2\pi}d\phi{IR(z\vec e_r+R\vec e_z)\over\left(z^2+R^2\right)^{3/2}}$$ となる。 φを変化させても(積分路として導線上をくるりと回っても)変化しない量を外に出すと、 $$ \vec B(z\vec e_z)={\mu_0\over 4\pi}{IRz\over \left(z^2+R^2\right)^{3/2}}\int_0^{2\pi}d\phi \vec e_r+{\mu_0\over 4\pi}{IR^2\vec e_z\over \left(z^2+R^2\right)^{3/2}}\int_0^{2\pi}d\phi$$ となる。$\vec e_z$は変化しないが、$\vec e_r$は変化することに注意。$\int_0^{2\pi}d\phi \vec e_r=0$となるので、結局最終結果は $$ \vec B(z\vec e_z)={\mu_0\over 2}{IR^2\vec e_z\over \left(z^2+R^2\right)^{3/2}}$$ となる。
この節で$\vec e_r$と書いているベクトルを、次から$\vec e_\rho$と書いている。単純なミスです。同じだと思って読んでください。
次に、z軸上から離れた場所での磁場を計算してみる。z軸からx軸方向に距離$ x$だけ離れた場所を考えよう。y方向は考えない*3。
まず、図からわかるように、 $$\vec x=x\vec e_x+z\vec e_z$$ である。また、$\vec x'$は、原点から角度φの方向にR進むベクトルであるから、 $$\vec x'=R\cos\phi \vec e_x+R\sin\phi \vec e_y =R \vec e_\rho$$ である。$\vec e_\rho$は円筒座標でzから遠ざかる距離であるρが増加する方向を向いた単位ベクトルである。
$d\vec x'$はこれを微分して、 $$d\vec x'= Rd\phi\left(-\sin\phi\vec e_x + \cos\phi \vec e_y\right)=Rd\phi\vec e_\phi$$ となる。$\vec e_\phi$は円筒座標の角度方向を向いた単位ベクトルである。
一方、微少電流素辺から磁場を計算したい場所へと向かうベクトルは $$\vec x-\vec x'=z\vec e_z+x\vec e_x - R(\cos\phi\vec e_x+\sin\phi \vec e_y)$$ となり、これの長さ(距離)を計算すると $$ |\vec x-\vec x'|=\sqrt{z^2 + R^2 + x^2 -2R x\cos\phi}$$ となる。
この式は、z軸真上から見た図(↑の図)で余弦定理を使ってxy平面内での距離を考えた後、z方向にもzだけ離れているということを考えれば図形で出すこともできる。
以上を組み合わせて、ビオ・サバールの法則を使って磁場を計算する式は $$ \vec B(\vec x)={\mu_0I\over 4\pi}\int{Rd\phi \vec e_\phi \times \left(z\vec e_z+x\vec e_x - R\vec e_\rho\right)\over\left(z^2 + R^2 + x^2 -2R x\cos\phi\right)^{3/2}}$$ となる。ここで被積分関数の分子に現れている外積を計算しておくと、 $$ \vec e_\phi\times\vec e_z=\vec e_\rho,~~~\vec e_\phi\times\vec e_\rho=-\vec e_z$$ は定義にしたがい図を書いてみればわかる。$\vec e_\phi\times\vec e_x$は、$\vec e_\phi=-\sin\phi\vec e_x+\cos\phi\vec e_y$であって、$\vec e_x\times\vec e_x=0,\vec e_y\times\vec e_x=-\vec e_z$を使えば、 $$ \vec e_\phi\times\vec e_x=-\cos\phi\vec e_z$$ となる*4。これで、 $$ \vec B(\vec x)={\mu_0I\over 4\pi}\int{Rd\phi \left(z\vec e_\rho-x\cos\phi\vec e_z+R\vec e_z\right)\over\left(z^2 + R^2 + x^2 -2R x\cos\phi\right)^{3/2}}$$ を計算すればよいことがわかった。
こうして出てきた式を吟味しておく。まず磁場の向きはρ方向とz方向であり、φ方向はない。問題が軸対称であることを考えると、これでよさそうである。
答を見ると、$R= x\cos\phi$の時、磁場のz成分は0になる。これは図を見ても納得できるはずである。この時、電流と$\vec x-\vec x'$のxy方向の成分が一直線になるのである。
後は積分をすればいいのだが、実はこの積分はそう簡単ではない。そこで、以下ではRが、z,xに比べて小さいという近似のもとで計算することにする。つまり、この円電流の円の半径が、今測定しようとしている距離に比べて十分小さい場合を考えるわけである。コイルに近いところは考えないことにする。
Rを小さいとして、 $$\begin{array}{rl} {1 \over \left(z^2 + R^2 + x^2 -2R x\cos\phi \right)^{3/2}}=& {1 \over \left(z^2 + R^2 + x^2 -2R x\cos\phi \right)^{3/2}}|_{R=0}\\&+ R {\partial\over \partial R}\left( {1\over \left(z^2 + R^2 + x^2 -2R x\cos\phi \right)^{3/2}}\right)|_{R=0}+\cdots\\= &{\frac {1}{\left({{z}^{2}+{ x}^{2}}\right)^{3/2}}} +{3 x R \cos\phi\over \left( {z}^{2}+{ x} ^{2} \right) ^{{\frac {5}{2}}}}+\cdots\end{array}$$ と展開して考えよう。
で、円電流をRが小さいとして展開するとそれは磁気双極子の形に一致する・・というところはまた来週。
今日は先生がよく回っていて楽しかったです。
極座標や円筒座標が出てくる時はよくやります。
最近涼しいのでよく眠くなります。先生学生の時眠い時はどうしてましたか?
つまらない講義の時は寝てました。今も会議の時にはよく寝てます。つまらない話の時は寝てしまうのです。
最後の積分がでてきた時には「ダメだ」と思いましたが、人間にはできないんだと聞いて安心しました。
直接積分して関数を求めることはできませんが、例えば級数展開して積分したりとか、いろいろ「なんとかする」方法はあるのです。
最後に出てきた積分ってできたらノーベル賞もんですか。
ノーベル賞は無理。どんな答がでるのかはもうわかっているし。
プリントが第2章から第3章に突然なってますが。
なってますね。。。しょうがないので、第0章が実は第1章で、第1章が実は第2章だったということにしておいてください。
テーラー展開で表せるのを今になって知りました。
今までテーラー展開って何のためにあると思ってたんですか(^_^;)?こういう時に使うものです。
電場は電位を微分して求めることができましたが、磁場ではできないんですか?
できますが、電場よりは少しややこしいです。でも実は、ビオ・サバールの法則よりは計算が楽になると思います。
微分はわりと簡単なのに、積分はいつでも難しいと思います。
そうですね。積分は不可能な場合もあるので。
z軸上とそれ以外では計算の難しさが大きく違う。
対称性があると計算は楽なのです。
いろんな方向の単位ベクトルが出てきてややこしい。
ややこしいけど、いろいろ使った方が最終的には計算は楽になるのです。
円電流の磁場の2通りの計算ですが、図を書いてやった方が理解しやすいなと思いました。
人それぞれですね。「うだうだ図書くより計算した方が速い」という人もいます。
今日の2枚目の図の電流は○に×じゃなく○に●では?
そうですね。上の図ではもう直しました。
導線をねじってみたらどんな電流が流れてどんな磁場ができるんでしょうか。
単にねじるだけなら、導線の中を通る電流はまっすぐに流れるので大きな差はないでしょう。導線自体がコイル状になったら、それはやっぱりコイルのような磁場でしょうし。
アンペールの法則の積分形をやらなかったんですが、自分で勉強しろということですか?
式では出してないけど「電流I[A]の周りを回るように磁極m[Wb]を周回させると、磁場は一周の間にちょうどmI[J]の仕事をする。」というのは積分形そのまんまですよ。
計算できそうもないとわかったらRをゼロにしちゃってもいいものなんでしょうか。
実際にやる時は、Rをゼロにするかしないかでどの程度答に差が出るか、ということをちゃんと考えて「この程度しかずれないなら、まあいいか」と判断できたらゼロにします。つまりは「ここまでの精度で計算したい」という要求と「ここまでの精度なら計算できる」という可能性が妥協するポイントを探すわけです。